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第一章 アルトルム王国の病
第五十七話 サリアーシャ
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「げほっ、ごほっごほっ」
空が白み始めたばかりの早朝。その姫は、ベッドの中で何度も何度も咳き込み、辛そうに瞳を潤ませる。そして、うわ言のように、『父上、父上』と呟く。母を亡くしたばかりの姫には、父親こそが最大の頼れる相手であった。しかし……。
『お前の父親はろくでなしだ』
『お前は捨てられる運命なんだ』
『可哀想に、可哀想に』
『ほら、ナイフをあげるよ』
『復讐しなきゃなぁ』
正体不明の声は言う。姫の父親は、姫を助けてくれないのだと。その声に、姫の瞳はどんどん虚ろなものへと変化する。心が、どす黒く染まっていく。
「ふくしゅ、う……復讐……」
『そうそう、いい子だ』
部屋の外には警護の騎士が待機しているのに、姫の異常を察知することはない。
『ほぉら、ナイフだ。これで、ちゃあんと刺すんだ』
「ごほっ、父上……復讐」
枕元に武骨なナイフが置かれ、少しだけその重みにベッドが沈みこむ。何の特徴もないナイフ。殺傷能力を備えた、重いナイフ。ギラリと鈍く光るそれを視界の端で捉えた姫は、そのナイフへと手を添えようとする。しかし……。
「にゃあっ(そこまでなのだっ)」
突如として聞こえた猫の声に、姫はビクリと動きを止める。そして、その隙にナイフが一瞬にして消えてしまう。
『えっ、猫!? っ、ナイフがっ』
この場に居るはずのない猫の声に、姿の見えない声の主は戸惑うが、すぐにナイフが消えたことに気づいたらしく焦った声に変わる。
「ふふっ、さっさと地に伏せてください」
そして、鈴のように可愛らしい女性の声が響いたかと思えば、何も居ないはずの場所で何かが倒れる音がした。
『ぐあっ、何で、俺の場所が』
「けほっ、えっ? えっ? ごほっごほっ」
事態を飲み込めない姫は困惑するが、次の瞬間バチっという音とともに何かが居るらしい場所に稲妻が走り、一人の黒ずくめの男の姿があらわになる。その男は、後ろ手に何者かに縛り上げられているかのような格好で、地に伏せていた。
あまりにも早すぎる展開に、姫がぼんやりとしていると、次はバンっと大きな音を立てて、扉が開かれる。
「サリアっ! 無事かっ!?」
「げほっ、ち、父上?」
その扉の先に居たのは、現アルトルム王国国王、セルバス・フォン・アルトルム。サリアーシャの父親と、数名の護衛騎士達だった。
「この男を捕らえよっ」
「「「はっ」」」
「くっ、こうなればっ、むぐっ!?」
血走った目をした黒ずくめの男は、護衛騎士達によって猿轡をはめられ、連行されていく。恐らく、これから男は拷問にかけられることになるだろう。
「父、上……?」
わけの分からない状況にひたすら困惑する姫は、すがるように父を呼ぶ。そして……。
「サリア、怪我はないか? どこか痛いところはっ? あぁっ、薬を持ってきたから、病に関してはもう大丈夫だからなっ」
心配そうに、自身を見つめる父親に、姫はそれまでの不安や不信が吹き飛ぶのを感じる。
「ち、ち、うえ……はい、はいっ、サリアは、無事です」
「良かった……本当に、良かったっ」
抱き締められる温もりに、姫はツっと涙を流す。
「にゃ(これで一件落着なのだ)」
そうして、姫は……アルトルム王国第一王女、サリアーシャ・フォン・アルトルムは救われたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっと、やっと、ここまできた。
もうそろそろ、『アルトルム王国の病』の章は終わりになります。
多分……後、二話か三話くらいですかね。
それでは、また!
空が白み始めたばかりの早朝。その姫は、ベッドの中で何度も何度も咳き込み、辛そうに瞳を潤ませる。そして、うわ言のように、『父上、父上』と呟く。母を亡くしたばかりの姫には、父親こそが最大の頼れる相手であった。しかし……。
『お前の父親はろくでなしだ』
『お前は捨てられる運命なんだ』
『可哀想に、可哀想に』
『ほら、ナイフをあげるよ』
『復讐しなきゃなぁ』
正体不明の声は言う。姫の父親は、姫を助けてくれないのだと。その声に、姫の瞳はどんどん虚ろなものへと変化する。心が、どす黒く染まっていく。
「ふくしゅ、う……復讐……」
『そうそう、いい子だ』
部屋の外には警護の騎士が待機しているのに、姫の異常を察知することはない。
『ほぉら、ナイフだ。これで、ちゃあんと刺すんだ』
「ごほっ、父上……復讐」
枕元に武骨なナイフが置かれ、少しだけその重みにベッドが沈みこむ。何の特徴もないナイフ。殺傷能力を備えた、重いナイフ。ギラリと鈍く光るそれを視界の端で捉えた姫は、そのナイフへと手を添えようとする。しかし……。
「にゃあっ(そこまでなのだっ)」
突如として聞こえた猫の声に、姫はビクリと動きを止める。そして、その隙にナイフが一瞬にして消えてしまう。
『えっ、猫!? っ、ナイフがっ』
この場に居るはずのない猫の声に、姿の見えない声の主は戸惑うが、すぐにナイフが消えたことに気づいたらしく焦った声に変わる。
「ふふっ、さっさと地に伏せてください」
そして、鈴のように可愛らしい女性の声が響いたかと思えば、何も居ないはずの場所で何かが倒れる音がした。
『ぐあっ、何で、俺の場所が』
「けほっ、えっ? えっ? ごほっごほっ」
事態を飲み込めない姫は困惑するが、次の瞬間バチっという音とともに何かが居るらしい場所に稲妻が走り、一人の黒ずくめの男の姿があらわになる。その男は、後ろ手に何者かに縛り上げられているかのような格好で、地に伏せていた。
あまりにも早すぎる展開に、姫がぼんやりとしていると、次はバンっと大きな音を立てて、扉が開かれる。
「サリアっ! 無事かっ!?」
「げほっ、ち、父上?」
その扉の先に居たのは、現アルトルム王国国王、セルバス・フォン・アルトルム。サリアーシャの父親と、数名の護衛騎士達だった。
「この男を捕らえよっ」
「「「はっ」」」
「くっ、こうなればっ、むぐっ!?」
血走った目をした黒ずくめの男は、護衛騎士達によって猿轡をはめられ、連行されていく。恐らく、これから男は拷問にかけられることになるだろう。
「父、上……?」
わけの分からない状況にひたすら困惑する姫は、すがるように父を呼ぶ。そして……。
「サリア、怪我はないか? どこか痛いところはっ? あぁっ、薬を持ってきたから、病に関してはもう大丈夫だからなっ」
心配そうに、自身を見つめる父親に、姫はそれまでの不安や不信が吹き飛ぶのを感じる。
「ち、ち、うえ……はい、はいっ、サリアは、無事です」
「良かった……本当に、良かったっ」
抱き締められる温もりに、姫はツっと涙を流す。
「にゃ(これで一件落着なのだ)」
そうして、姫は……アルトルム王国第一王女、サリアーシャ・フォン・アルトルムは救われたのだった。
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やっと、やっと、ここまできた。
もうそろそろ、『アルトルム王国の病』の章は終わりになります。
多分……後、二話か三話くらいですかね。
それでは、また!
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