48 / 78
第五章 リリスの心
第四十八話 お姉様の訪問(シェイラ視点)
しおりを挟む
お姉様がやって来る。その知らせを受けた時、私は歓喜に包まれた。あの日、魔の森で別れて以降、一度も会いに来ることのなかったお姉様に会えるという事実は、私にとってはとんでもなく重大なことだったのだ。
「あぁ、お姉様とのお茶会もできるかしら? いいえ、『できるのか?』ではなく『できる』にしなくてはなりませんね。ここは、アルムを脅してでも成し遂げてみせますっ」
この国に来た当初は、相手が国王ということで丁寧に接し続けていた私だったが、今では多少の我が儘を言えるくらいになっている。それもこれも、お姉様のおかげだと思いながら、私は侍女のベラにアルムへの伝言を託し、お茶会の準備を進める。
明日には、お姉様に会える。それが楽しみで仕方ない私は、その日は、幸せに満ちた眠りに落ちるのだった。
お姉様がこの国にお越しになる当日。私は、応接室で、今か今かとソワソワしていた。ちなみに、私の隣には、アルムがソワソワとしている。アルムもきっと、お姉様に会うのが楽しみなのであろう。
「『絶対者』様がお越しになりました」
「っ、通せ」
竜人の男の報告に、アルムは緊張した面持ちでそう告げる。すると、ローブ姿で顔を覆い隠しているお姉様と、ルティアスが入ってきた。
「久しぶり、というほどの時間も経っていないか。元気にしていたか? アルム?」
「っ、うん、元気にしてたよぉ」
お姉様を前にした瞬間、アルムはニコニコとした表情で間延びした口調で話す。
「初めまして、『絶対者』様」
「貴女がシェイラ嬢か。この度は、私の我が儘を受け入れてくれたこと、感謝する」
今回の訪問の設定としては、『絶対者』が旅をしている中、私に関しての情報を手に入れ、その件に関して直接私と話をしたいから訪問したということになっている。
もちろん、この城の中には、私と『絶対者』が姉妹だということを知っている者も居るが、私の現在の立場は微妙なものであるため、建前を用意しておくにこしたことはない。
「こちらへどうぞ。お茶の準備を整えておりますので」
「あぁ、できれば二人で話をしたいのだが、それは可能か?」
「それならぁ、ボクがちゃんとした場所を用意してるから、問題ないよぉ」
『絶対者』は、その口調から男だと見られているため、未婚の女性が男性と二人っきりになれないということを考えると、少し難しい問題ではあったが、そこはアルムが何とかしてくれたらしい。
アルムの働きに感謝しながら、私は『絶対者』のエスコートで確保してあった部屋へと入り……すぐに、『絶対者』へと抱きつく。
「お姉様、お会いしたかったです」
「えぇ、遅くなってごめんなさい」
声も口調も、私が知るお姉様のものに戻って、お姉様は周りを確認した後、おもむろにフードを取る。
「今日は、突然来てしまってごめんなさい」
「いいえっ、お姉様に会えるのであれば、私はいつでも構いませんっ」
「ふふっ、そう言ってもらえると助かりますわ」
上品に笑うお姉様の姿に、笑顔をまだ見慣れていない私はドキドキしてしまう。レイリン王国で、徹底的に無表情を貫いていたお姉様も格好良かったが、今の微笑みを浮かべるお姉様は可愛くて素敵だ。
(この変化をもたらしたのが、あの男だということだけは気に入りませんが……お姉様が幸せなら、その方が良いです)
きっと、お姉様がこんな表情を出せるようになったのは、あのルティアスという魔族の男のおかげだろう。お姉様があんな男に盗られるのは嫌だが、お姉様もルティアスに惚れているようだし、もう仕方ないと諦めるほかないだろう。
テーブルを囲んで席に着き、用意されていたティーポットに茶葉を入れたりして準備すると、お茶をカップに注いでお姉様に手渡す。すると、お姉様は珍しいものを見るような目で私を見つめ、嬉しそうに受け取ってくれる。
貴族令嬢は、自分でお茶を入れたりなどしない。しかし、この国ではそういうことはなく、貴族令嬢でもお茶を入れることはあるらしく、私も今は、それを教えてもらっている途中なのだ。
「その、あまり上手に淹れられてないかもしれませんが……」
「いいえ、シェイラが淹れてくれたのなら、美味しいに決まってますわ」
そう言って、お姉様はゆっくりとカップを傾けてお茶を飲む。
「ふふっ、やっぱり、美味しいですわ」
「っ、ありがとうございます」
微笑むお姉様を前に、私は舞い上がりそうになりながらも、身内だから評価が甘いのだということを忘れない。まだ、私のお茶は及第点をもらえていないのだから。
「それで、今日はどうしましたか? 何か話があると伺いましたが?」
本当なら、まだまだ雑談に興じていたいところではあったものの、一応、用事がある旨を聞いてはいる。だから、単刀直入にお姉様へと尋ねると、お姉様はその綺麗な眉をハの字にして、戸惑うように口を開く。
「その……今回はシェイラに相談がありますの」
「相談、ですか?」
思いがけない言葉に、私は一瞬固まり、次の瞬間には、その言葉が意味することを理解して嬉しさに包まれる。
「何なりとご相談くださいっ!」
「え、えぇ」
迫る勢いで答えれば、お姉様は驚いたようにうなずく。
今まで一度も頼ってきたことのなかったお姉様に頼られた私は、その幸せをしっかりと噛み締めながら、お姉様の言葉を待つのだった。
「あぁ、お姉様とのお茶会もできるかしら? いいえ、『できるのか?』ではなく『できる』にしなくてはなりませんね。ここは、アルムを脅してでも成し遂げてみせますっ」
この国に来た当初は、相手が国王ということで丁寧に接し続けていた私だったが、今では多少の我が儘を言えるくらいになっている。それもこれも、お姉様のおかげだと思いながら、私は侍女のベラにアルムへの伝言を託し、お茶会の準備を進める。
明日には、お姉様に会える。それが楽しみで仕方ない私は、その日は、幸せに満ちた眠りに落ちるのだった。
お姉様がこの国にお越しになる当日。私は、応接室で、今か今かとソワソワしていた。ちなみに、私の隣には、アルムがソワソワとしている。アルムもきっと、お姉様に会うのが楽しみなのであろう。
「『絶対者』様がお越しになりました」
「っ、通せ」
竜人の男の報告に、アルムは緊張した面持ちでそう告げる。すると、ローブ姿で顔を覆い隠しているお姉様と、ルティアスが入ってきた。
「久しぶり、というほどの時間も経っていないか。元気にしていたか? アルム?」
「っ、うん、元気にしてたよぉ」
お姉様を前にした瞬間、アルムはニコニコとした表情で間延びした口調で話す。
「初めまして、『絶対者』様」
「貴女がシェイラ嬢か。この度は、私の我が儘を受け入れてくれたこと、感謝する」
今回の訪問の設定としては、『絶対者』が旅をしている中、私に関しての情報を手に入れ、その件に関して直接私と話をしたいから訪問したということになっている。
もちろん、この城の中には、私と『絶対者』が姉妹だということを知っている者も居るが、私の現在の立場は微妙なものであるため、建前を用意しておくにこしたことはない。
「こちらへどうぞ。お茶の準備を整えておりますので」
「あぁ、できれば二人で話をしたいのだが、それは可能か?」
「それならぁ、ボクがちゃんとした場所を用意してるから、問題ないよぉ」
『絶対者』は、その口調から男だと見られているため、未婚の女性が男性と二人っきりになれないということを考えると、少し難しい問題ではあったが、そこはアルムが何とかしてくれたらしい。
アルムの働きに感謝しながら、私は『絶対者』のエスコートで確保してあった部屋へと入り……すぐに、『絶対者』へと抱きつく。
「お姉様、お会いしたかったです」
「えぇ、遅くなってごめんなさい」
声も口調も、私が知るお姉様のものに戻って、お姉様は周りを確認した後、おもむろにフードを取る。
「今日は、突然来てしまってごめんなさい」
「いいえっ、お姉様に会えるのであれば、私はいつでも構いませんっ」
「ふふっ、そう言ってもらえると助かりますわ」
上品に笑うお姉様の姿に、笑顔をまだ見慣れていない私はドキドキしてしまう。レイリン王国で、徹底的に無表情を貫いていたお姉様も格好良かったが、今の微笑みを浮かべるお姉様は可愛くて素敵だ。
(この変化をもたらしたのが、あの男だということだけは気に入りませんが……お姉様が幸せなら、その方が良いです)
きっと、お姉様がこんな表情を出せるようになったのは、あのルティアスという魔族の男のおかげだろう。お姉様があんな男に盗られるのは嫌だが、お姉様もルティアスに惚れているようだし、もう仕方ないと諦めるほかないだろう。
テーブルを囲んで席に着き、用意されていたティーポットに茶葉を入れたりして準備すると、お茶をカップに注いでお姉様に手渡す。すると、お姉様は珍しいものを見るような目で私を見つめ、嬉しそうに受け取ってくれる。
貴族令嬢は、自分でお茶を入れたりなどしない。しかし、この国ではそういうことはなく、貴族令嬢でもお茶を入れることはあるらしく、私も今は、それを教えてもらっている途中なのだ。
「その、あまり上手に淹れられてないかもしれませんが……」
「いいえ、シェイラが淹れてくれたのなら、美味しいに決まってますわ」
そう言って、お姉様はゆっくりとカップを傾けてお茶を飲む。
「ふふっ、やっぱり、美味しいですわ」
「っ、ありがとうございます」
微笑むお姉様を前に、私は舞い上がりそうになりながらも、身内だから評価が甘いのだということを忘れない。まだ、私のお茶は及第点をもらえていないのだから。
「それで、今日はどうしましたか? 何か話があると伺いましたが?」
本当なら、まだまだ雑談に興じていたいところではあったものの、一応、用事がある旨を聞いてはいる。だから、単刀直入にお姉様へと尋ねると、お姉様はその綺麗な眉をハの字にして、戸惑うように口を開く。
「その……今回はシェイラに相談がありますの」
「相談、ですか?」
思いがけない言葉に、私は一瞬固まり、次の瞬間には、その言葉が意味することを理解して嬉しさに包まれる。
「何なりとご相談くださいっ!」
「え、えぇ」
迫る勢いで答えれば、お姉様は驚いたようにうなずく。
今まで一度も頼ってきたことのなかったお姉様に頼られた私は、その幸せをしっかりと噛み締めながら、お姉様の言葉を待つのだった。
43
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
本編完結済み。
続きのお話を、掲載中です。
続きのお話も、完結しました。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる