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第五章 リリスの心
第四十九話 お姉様の相談(シェイラ視点)
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お姉様の相談事とは何だろうかと、少しドキドキしながら、私は耳を傾ける。しかし、そのまさかの内容に、私は顔を引きつらせないようにするだけで精一杯となった。
「その、ルティアスのことですけれど……」
その前置きを聞いた時点で、嫌な予感はしていたのだ。
「わたくし、ルティアスがあまりに積極的で、少し困ってますの」
「せ、積極的、とは? 具体的に、どういうことなのでしょうか?」
(まさか、もうあの男に手をつけられた!?)
引きつりそうになる表情筋を必死に戒めて、私は勇気を出してといかける。すると、お姉様はあろうことか、ポンッと顔を赤くする。
「そ、そのっ、ええっと、ですわねっ! ……こ、ことあるごとに、食事を、食べさせてきたり、だとか、抱き締めて、きたり、だとか……」
最後の方は小さくなっていてあまり聞き取れなかったものの、どうやら最も危惧していた事態は避けられているようだった。
「お姉様なら、そんなもの、無視してしまえば良いのではないですか?」
少しだけ落ち着きを取り戻した私は、できないだろうと分かっていながらもそんな提案をしてみる。すると……。
「そ、それが……ルティアスと一緒に居ると、こう、何というか、とてもドキドキしますの。でも、それは嫌な感じのものではなくて、何だか嬉しいとすら思えて……わたくし、何かの病気なのでしょうか?」
(……まさか、お姉様、自分の気持ちに気づいてらっしゃらない?)
まさか、そこまで鈍感であるはずがないと思いながら、私は恐る恐る問いかけてみる。
「お姉様、お姉様は、その気持ちが世間一般で何と呼ばれるものか、ご存知ですか?」
「この、気持ち、ですか? 『嬉しい』ではないのですか? あぁ、『親愛』というのもありそうですわね」
(本当に気づいてないっ!?)
至極真面目に答えるお姉様を前に、そこまで分かっていて、なぜ恋愛感情だと分からないのかが分からず、少しだけ混乱する。
「……お姉様って、小説の類いは嗜んでおられませんでしたか?」
「小説ならば、多少は読んでいますわよ?」
「……ちなみに、ジャンルは?」
「推理ものや歴史もの、冒険ものですわね」
見事に『恋愛もの』というジャンルが抜けているという事実に、私は喜んで良いのか、嘆けば良いのか分からなくなる。
「そ、それで、お姉様は、どうしたいのですか?」
とりあえず、話を進めなければという使命感だけで、私はその先を促す。
「その、とにかく、恥ずかしかったりドキドキしたりというのがなくなれば、もっと普通にルティアスと接することができると思うのです」
(それは、無理ですよ。お姉様……)
自分の気持ちを全く自覚していないお姉様は、小さく拳を握って、やる気に満ち溢れているものの、どう考えても無謀でしかない。
(そんなところも可愛いのですが……今回ばかりは、頭が痛いです)
さて、どうしたものかとしばらく考えて、お姉様のすがるような視線を受け続けた私は、一つの考えを捻り出す。
「ルティアスを嫌ってしまえば、そのドキドキも、恥ずかしさもなくなると思いますよ」
「ルティアスを、嫌う……?」
全く思ってもみなかった提案なのか、お姉様は小首を傾げてみせる。
(か、可愛いっ! じゃなくてっ!)
「ルティアスの嫌なところを挙げていけば、自然と嫌えるのではないですか?」
「ルティアスの、嫌なところ……」
お姉様は戸惑いながらも、とりあえずは考えてくれるようで、必死にウンウンと唸って……その後、なぜか涙目になる。
「全く思い浮かびませんわ」
「……全く?」
「はい、全く。良いところは色々と思い浮かぶのですが……」
予想外に惚れ込んでいる様子に、私はショックを受けつつも、何か一つくらいあるだろうと反論してみる。
「ほ、ほら、イビキがうるさいとか、だらしないとか、気が利かないとかっ」
「イビキは、確認したことがありませんわね。だらしがないのは、むしろわたくしの方ですわ。気が利かないなんてこともありえませんし……むしろ、家事を進んで手伝ってくれて助かってますし……」
お姉様からもたらされる信じられない言葉の数々に、私は敗色が濃厚なのを見てとりながらも、どうにかもがく。
「神経質とか、口うるさいとか、鬱陶しいとかっ」
「どれも当てはまりませんわね……」
(いえ、聞く限りでは、お姉様への愛情表現は鬱陶しいはずなのですが!?)
その後も、思い付く限りの欠点となり得そうな事柄を挙げていくものの、返ってくる言葉はルティアスを褒め称えるものばかり。私の敗北は、ここに決定した。
「……お姉様は、まず、自分の気持ちの正体を知ることから始めたら良いのだと思います。それと、どうして先に進めないのかも考えてみるべきですね」
「自分の気持ち……先に進めない理由……」
自分の中に刻み込むように呟くお姉様を見て、私は内心うなだれる。
(恐らくお姉様は、抑圧され過ぎていて、自分の気持ちに気づけない上、行動の制御までしてしまっているのですよね)
話を聞いていて分かってきたのは、思った以上に、シャルティー公爵家の環境がお姉様に影響を与えているという事実。お姉様は自分の魅力を全く理解できていない上、自分を卑下している部分すらあるということ。それを確認した私は、敵に塩を送ることになるのを理解しながら、そんな助言をする。
「分かりましたわ。どうにか、向き合ってみますわ。ありがとう。シェイラ」
満面の笑みを浮かべるお姉様を前に、私は完全に降参するのだった。
「その、ルティアスのことですけれど……」
その前置きを聞いた時点で、嫌な予感はしていたのだ。
「わたくし、ルティアスがあまりに積極的で、少し困ってますの」
「せ、積極的、とは? 具体的に、どういうことなのでしょうか?」
(まさか、もうあの男に手をつけられた!?)
引きつりそうになる表情筋を必死に戒めて、私は勇気を出してといかける。すると、お姉様はあろうことか、ポンッと顔を赤くする。
「そ、そのっ、ええっと、ですわねっ! ……こ、ことあるごとに、食事を、食べさせてきたり、だとか、抱き締めて、きたり、だとか……」
最後の方は小さくなっていてあまり聞き取れなかったものの、どうやら最も危惧していた事態は避けられているようだった。
「お姉様なら、そんなもの、無視してしまえば良いのではないですか?」
少しだけ落ち着きを取り戻した私は、できないだろうと分かっていながらもそんな提案をしてみる。すると……。
「そ、それが……ルティアスと一緒に居ると、こう、何というか、とてもドキドキしますの。でも、それは嫌な感じのものではなくて、何だか嬉しいとすら思えて……わたくし、何かの病気なのでしょうか?」
(……まさか、お姉様、自分の気持ちに気づいてらっしゃらない?)
まさか、そこまで鈍感であるはずがないと思いながら、私は恐る恐る問いかけてみる。
「お姉様、お姉様は、その気持ちが世間一般で何と呼ばれるものか、ご存知ですか?」
「この、気持ち、ですか? 『嬉しい』ではないのですか? あぁ、『親愛』というのもありそうですわね」
(本当に気づいてないっ!?)
至極真面目に答えるお姉様を前に、そこまで分かっていて、なぜ恋愛感情だと分からないのかが分からず、少しだけ混乱する。
「……お姉様って、小説の類いは嗜んでおられませんでしたか?」
「小説ならば、多少は読んでいますわよ?」
「……ちなみに、ジャンルは?」
「推理ものや歴史もの、冒険ものですわね」
見事に『恋愛もの』というジャンルが抜けているという事実に、私は喜んで良いのか、嘆けば良いのか分からなくなる。
「そ、それで、お姉様は、どうしたいのですか?」
とりあえず、話を進めなければという使命感だけで、私はその先を促す。
「その、とにかく、恥ずかしかったりドキドキしたりというのがなくなれば、もっと普通にルティアスと接することができると思うのです」
(それは、無理ですよ。お姉様……)
自分の気持ちを全く自覚していないお姉様は、小さく拳を握って、やる気に満ち溢れているものの、どう考えても無謀でしかない。
(そんなところも可愛いのですが……今回ばかりは、頭が痛いです)
さて、どうしたものかとしばらく考えて、お姉様のすがるような視線を受け続けた私は、一つの考えを捻り出す。
「ルティアスを嫌ってしまえば、そのドキドキも、恥ずかしさもなくなると思いますよ」
「ルティアスを、嫌う……?」
全く思ってもみなかった提案なのか、お姉様は小首を傾げてみせる。
(か、可愛いっ! じゃなくてっ!)
「ルティアスの嫌なところを挙げていけば、自然と嫌えるのではないですか?」
「ルティアスの、嫌なところ……」
お姉様は戸惑いながらも、とりあえずは考えてくれるようで、必死にウンウンと唸って……その後、なぜか涙目になる。
「全く思い浮かびませんわ」
「……全く?」
「はい、全く。良いところは色々と思い浮かぶのですが……」
予想外に惚れ込んでいる様子に、私はショックを受けつつも、何か一つくらいあるだろうと反論してみる。
「ほ、ほら、イビキがうるさいとか、だらしないとか、気が利かないとかっ」
「イビキは、確認したことがありませんわね。だらしがないのは、むしろわたくしの方ですわ。気が利かないなんてこともありえませんし……むしろ、家事を進んで手伝ってくれて助かってますし……」
お姉様からもたらされる信じられない言葉の数々に、私は敗色が濃厚なのを見てとりながらも、どうにかもがく。
「神経質とか、口うるさいとか、鬱陶しいとかっ」
「どれも当てはまりませんわね……」
(いえ、聞く限りでは、お姉様への愛情表現は鬱陶しいはずなのですが!?)
その後も、思い付く限りの欠点となり得そうな事柄を挙げていくものの、返ってくる言葉はルティアスを褒め称えるものばかり。私の敗北は、ここに決定した。
「……お姉様は、まず、自分の気持ちの正体を知ることから始めたら良いのだと思います。それと、どうして先に進めないのかも考えてみるべきですね」
「自分の気持ち……先に進めない理由……」
自分の中に刻み込むように呟くお姉様を見て、私は内心うなだれる。
(恐らくお姉様は、抑圧され過ぎていて、自分の気持ちに気づけない上、行動の制御までしてしまっているのですよね)
話を聞いていて分かってきたのは、思った以上に、シャルティー公爵家の環境がお姉様に影響を与えているという事実。お姉様は自分の魅力を全く理解できていない上、自分を卑下している部分すらあるということ。それを確認した私は、敵に塩を送ることになるのを理解しながら、そんな助言をする。
「分かりましたわ。どうにか、向き合ってみますわ。ありがとう。シェイラ」
満面の笑みを浮かべるお姉様を前に、私は完全に降参するのだった。
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