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第五章 リリスの心
第五十五話 兄さん(ルティアス視点)
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今、僕とリリスさんはヴァイラン魔国に居る。それというのも、リリスさんについての情報を集めようと決心したところで、魔の森に居るままでは何もならないと考えたからだ。だから、僕は実家に戻って、実家の諜報員に色々と調べさせるつもりで、この国に戻って来たのだ。
「今は、パッチワークはないのですわね」
「うん、あれは生誕祭の時期だけのものだからね」
ちなみに、ヴァイラン魔国へは、リリスさんの転移で一瞬にして訪れることができた。リリスさん曰く、『また来ると分かっているのに、座標を覚えておかないなどというミスはしませんわよ』とのこと。その言葉に、ちゃんと、僕とまたヴァイラン魔国に来るという約束を覚えていてくれたのだと胸が熱くなった。
「では、わたくしは街を散策していますわね」
「うん、用事が終わったら、リリスさんの魔力を辿って合流するよ」
「分かりましたわ」
リリスさんには、表向き、少なくなってきた食材があるから、買い出しに行きたいと伝えてある。実際、いくつかの食材が不足しているため、それも間違いではなかった。そして、そのついでに、仕事関係の用事を済ませてくるとも伝えてある。そのため、それなりに時間がかかったとしても、リリスさんは気にしないだろう。
リリスさんは、改めてヴァイラン魔国を散策したいと言ってきたので、残念ながらここで別れることとなる。リリスさんが人混みに紛れるのを見送った僕は、後ろを振り返って実家がある方角へと歩き始める。
「まずは、兄さんに連絡をつけるべきだよね」
僕の兄さんは、このヴァイラン魔国の諜報員として働いている。今、どこの国の情報を集めているのかは知らないが、きっと、兄さんならば僕の知らない情報を知っているはずだ。
「お帰りなさいませ。ルティアス坊っちゃん」
「うん、ただいま。兄さんは今居るかな?」
執事に出迎えられた僕は、あまりこの家に居る可能性はないだろうと思いながらも、兄さんの所在を聞いてみる。
「えぇ、ちょうど昨夜、お帰りになりました。なんでも、ルティアス坊っちゃんに話したいことがあるそうですよ?」
「そっか、兄さんは部屋?」
「はい。そのはずです」
思いがけず、兄さんが家に居ることを知って、幸先が良いと思いつつも兄さんの自室へと向かう。
「兄さん。ルティアスです。ただいま帰りました」
「っ、ルティアス!? あぁ、久しぶりですねっ!」
少し扉から離れて待つと、その扉は大きく開き、青い髪と青い瞳、白い角を持つ魔族、ラディス兄さんが現れる。
「久しぶりだね。兄さん」
「えぇ、確かに久しぶりです。聞きましたよ? 片翼が見つかったのだと」
「うん、そのことで相談があるんだけど……」
「まぁ、立ち話もなんですし、お入りなさい」
「あっ、うん」
優しく微笑む兄さんに促されて、僕は部屋の中へと入る。その部屋は、クリーム色を基調とした部屋で、何とも暖かそうで居心地が良い。本棚が大量にあるところは相変わらずで、そこに安心しながら、猫足の椅子に勧められるがままに腰かける。
「さて、ルティアスがここに来たのは、リリス・シャルティー嬢のことを知りたいからですか?」
「っ、何でそれをっ!?」
「舐めてもらっちゃ困ります。私は、夢をコントロールできるのですよ? ルティアスの夢に入り込んで、彼女の名前を知ることくらい造作もありません」
そう言われて、僕は兄さんの特殊な能力を思い出す。兄さんは、自分が知っている相手の夢に入り込み、相手から情報を得る達人だった。それゆえに、兄さんは諜報員としてとても優秀な立ち位置にあるのだ。
「私がついこの間まで潜入していたのは、レイリン王国だと言えば、どういうことかくらい分かるでしょう?」
つまりは、この兄さんは、僕の夢の中から勝手にリリスさんの情報を引き出して、レイリン王国へと調査に赴いていたというわけだ。
(兄さんの能力は、相手に記憶させないこともできるから恐ろしいんだよな)
僕は、兄さんにコントロールされた夢を見た記憶が全くない。それはつまり、兄さんが僕の夢の中に入った後、それを隠すために夢の記憶を消したということなのだろう。
「……一応、お礼を言っておくべき、かな?」
「一応と言わず、盛大に言ってもらえると嬉しいのですが?」
「一応だからっ、一応っ!」
クスクスと笑う兄さんを前に、からかわれた僕はすっかりふてくされる。しかし、とにもかくにも優先すべきはリリスさんの情報だ。
「それで、その情報はただでもらえるの?」
「そうですね。今回、私の能力の劣化版を持った相手と対峙することになり、非常にややこしい事態にもなって……私は、随分と傷心しているのです」
いかにも心を痛めてますといった具合に胸に手を当てる兄さん。僕は、嫌な予感がしながらも、とりあえず話を聞く。
「それで? 対価は?」
「唯一傷を癒してくれる、私のヒイナへの贈り物を選ぶのを手伝ってもらいたい」
この兄さんは、美形だし、物腰も柔らかだし、頭も良いしで、欠点など一つもないように思えるのだが……一つだけ、大きすぎる欠点があった。
「一応、こんな仮面とか、オブジェは買ってきたのですが、どれが良さそうですかね?」
並べられたのは、どこか呪いを持っていそうな禍々しい品々。仮面は目元だけを隠すものだが、全体的に黒く、どこか笑っているような泣いているような造りになっていて、何とも不気味だ。オブジェは、もはや何のオブジェなのか分からないようなものばかりで、しかも、何となくおどろおどろしいものばかりなため、評価は最悪だ。自身の片翼のための贈り物(予定)を前に、本気で悩む兄さんを見て、僕は頭を抱える。
「全部却下! 街に行って選ぶよっ!」
そう、兄さんは、贈り物のセンスが皆無なのだ。だから、兄さんの片翼であるヒイナさんへの贈り物は、必ず僕が選んでいる。
「えっ? ですが、これはお土産で「そんなものあげても、ヒイナさんに引かれるだけだよっ」ヒイナに、引かれる……それは、ダメです」
青ざめる兄さんを見て、僕はどうにかしてまともな贈り物を選ばなければならないという使命感に燃える。今までは、僕自身に片翼が居なかったから分からなかったが、今なら、贈り物にはどれだけ命をかけるものなのかも理解できる。
「では、情報と引き換えに、贈り物選びを手伝ってもらえますか?」
「うん、一緒に最高の贈り物を選ぼう!」
「はい、よろしくお願いします」
そうして、僕は兄さんから情報を得る約束を取りつけるのだった。
「今は、パッチワークはないのですわね」
「うん、あれは生誕祭の時期だけのものだからね」
ちなみに、ヴァイラン魔国へは、リリスさんの転移で一瞬にして訪れることができた。リリスさん曰く、『また来ると分かっているのに、座標を覚えておかないなどというミスはしませんわよ』とのこと。その言葉に、ちゃんと、僕とまたヴァイラン魔国に来るという約束を覚えていてくれたのだと胸が熱くなった。
「では、わたくしは街を散策していますわね」
「うん、用事が終わったら、リリスさんの魔力を辿って合流するよ」
「分かりましたわ」
リリスさんには、表向き、少なくなってきた食材があるから、買い出しに行きたいと伝えてある。実際、いくつかの食材が不足しているため、それも間違いではなかった。そして、そのついでに、仕事関係の用事を済ませてくるとも伝えてある。そのため、それなりに時間がかかったとしても、リリスさんは気にしないだろう。
リリスさんは、改めてヴァイラン魔国を散策したいと言ってきたので、残念ながらここで別れることとなる。リリスさんが人混みに紛れるのを見送った僕は、後ろを振り返って実家がある方角へと歩き始める。
「まずは、兄さんに連絡をつけるべきだよね」
僕の兄さんは、このヴァイラン魔国の諜報員として働いている。今、どこの国の情報を集めているのかは知らないが、きっと、兄さんならば僕の知らない情報を知っているはずだ。
「お帰りなさいませ。ルティアス坊っちゃん」
「うん、ただいま。兄さんは今居るかな?」
執事に出迎えられた僕は、あまりこの家に居る可能性はないだろうと思いながらも、兄さんの所在を聞いてみる。
「えぇ、ちょうど昨夜、お帰りになりました。なんでも、ルティアス坊っちゃんに話したいことがあるそうですよ?」
「そっか、兄さんは部屋?」
「はい。そのはずです」
思いがけず、兄さんが家に居ることを知って、幸先が良いと思いつつも兄さんの自室へと向かう。
「兄さん。ルティアスです。ただいま帰りました」
「っ、ルティアス!? あぁ、久しぶりですねっ!」
少し扉から離れて待つと、その扉は大きく開き、青い髪と青い瞳、白い角を持つ魔族、ラディス兄さんが現れる。
「久しぶりだね。兄さん」
「えぇ、確かに久しぶりです。聞きましたよ? 片翼が見つかったのだと」
「うん、そのことで相談があるんだけど……」
「まぁ、立ち話もなんですし、お入りなさい」
「あっ、うん」
優しく微笑む兄さんに促されて、僕は部屋の中へと入る。その部屋は、クリーム色を基調とした部屋で、何とも暖かそうで居心地が良い。本棚が大量にあるところは相変わらずで、そこに安心しながら、猫足の椅子に勧められるがままに腰かける。
「さて、ルティアスがここに来たのは、リリス・シャルティー嬢のことを知りたいからですか?」
「っ、何でそれをっ!?」
「舐めてもらっちゃ困ります。私は、夢をコントロールできるのですよ? ルティアスの夢に入り込んで、彼女の名前を知ることくらい造作もありません」
そう言われて、僕は兄さんの特殊な能力を思い出す。兄さんは、自分が知っている相手の夢に入り込み、相手から情報を得る達人だった。それゆえに、兄さんは諜報員としてとても優秀な立ち位置にあるのだ。
「私がついこの間まで潜入していたのは、レイリン王国だと言えば、どういうことかくらい分かるでしょう?」
つまりは、この兄さんは、僕の夢の中から勝手にリリスさんの情報を引き出して、レイリン王国へと調査に赴いていたというわけだ。
(兄さんの能力は、相手に記憶させないこともできるから恐ろしいんだよな)
僕は、兄さんにコントロールされた夢を見た記憶が全くない。それはつまり、兄さんが僕の夢の中に入った後、それを隠すために夢の記憶を消したということなのだろう。
「……一応、お礼を言っておくべき、かな?」
「一応と言わず、盛大に言ってもらえると嬉しいのですが?」
「一応だからっ、一応っ!」
クスクスと笑う兄さんを前に、からかわれた僕はすっかりふてくされる。しかし、とにもかくにも優先すべきはリリスさんの情報だ。
「それで、その情報はただでもらえるの?」
「そうですね。今回、私の能力の劣化版を持った相手と対峙することになり、非常にややこしい事態にもなって……私は、随分と傷心しているのです」
いかにも心を痛めてますといった具合に胸に手を当てる兄さん。僕は、嫌な予感がしながらも、とりあえず話を聞く。
「それで? 対価は?」
「唯一傷を癒してくれる、私のヒイナへの贈り物を選ぶのを手伝ってもらいたい」
この兄さんは、美形だし、物腰も柔らかだし、頭も良いしで、欠点など一つもないように思えるのだが……一つだけ、大きすぎる欠点があった。
「一応、こんな仮面とか、オブジェは買ってきたのですが、どれが良さそうですかね?」
並べられたのは、どこか呪いを持っていそうな禍々しい品々。仮面は目元だけを隠すものだが、全体的に黒く、どこか笑っているような泣いているような造りになっていて、何とも不気味だ。オブジェは、もはや何のオブジェなのか分からないようなものばかりで、しかも、何となくおどろおどろしいものばかりなため、評価は最悪だ。自身の片翼のための贈り物(予定)を前に、本気で悩む兄さんを見て、僕は頭を抱える。
「全部却下! 街に行って選ぶよっ!」
そう、兄さんは、贈り物のセンスが皆無なのだ。だから、兄さんの片翼であるヒイナさんへの贈り物は、必ず僕が選んでいる。
「えっ? ですが、これはお土産で「そんなものあげても、ヒイナさんに引かれるだけだよっ」ヒイナに、引かれる……それは、ダメです」
青ざめる兄さんを見て、僕はどうにかしてまともな贈り物を選ばなければならないという使命感に燃える。今までは、僕自身に片翼が居なかったから分からなかったが、今なら、贈り物にはどれだけ命をかけるものなのかも理解できる。
「では、情報と引き換えに、贈り物選びを手伝ってもらえますか?」
「うん、一緒に最高の贈り物を選ぼう!」
「はい、よろしくお願いします」
そうして、僕は兄さんから情報を得る約束を取りつけるのだった。
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