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貴族はみんな噂好き
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「それでね結局ウィリアム殿下はそのまま戻って来なかったのよ! もう本当に大騒ぎ! 中にはショックを受けて泣き出す子までいたんだから」
舞踏会の翌日。
やけに興奮した様子でグレタとジャネットが訪ねてきた。
「大ニュースがあるのよ」という二人をアフタヌーンティーに誘い、客間に通すと、二人はお茶などそっちのけで話しはじめた。
伝えられたのはウィリアム殿下のこと。
――昨夜の舞踏会の途中、ウィリアム殿下は深刻な様子である女性を追いかけていき、皆の前から姿を消してしまった。一目惚れの相手か、それとも留学前から密かに心を通わせていた恋人がいたのか。舞踏会の主役である王子様の恋なのだから、ホール内は大いに湧いた。
そんな話を聞いた瞬間、私は思いっきりスコーンを喉に詰まらせて咳き込んだ。
だって……ええ!?
なんでそんな誤解が生じているの……?
「リディア? どうしたの? 真っ赤な顔でむせたりして」
「……」
紅茶を飲んで、なんとか呼吸を整える。
「ごめんなさい。あんまりびっくりして……」
一目ぼれか、恋人かって……。
思わず頭を抱え込みたくなった。
私のせいでウィリアム殿下にそんな噂が起きてしまったなんて……。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。一度たった噂がなかなか消えないことは、身を持って知っている。
「リディア、本当にどうしたのよ? ひどい顔色よ?」
「あ! ……ま、まさかリディア……ウィリアム殿下のファンだったの?」
「え!?」
「そうだったのリディア……! なによ、もう。そんな話一度もしてくれなかったじゃない」
「仕方ないわよグレタ。リディアには婚約者がいたのだから。アイザックはとても嫉妬深かったし。他の男性に憧れているなんて知られたら大変だったわよ。というかあの男、そうやってリディアを束縛しまくっていたくせに、自分はちゃっかり他の女とくっついてしまうなんて、思い出してまた腹が立ってきたわ!」
アイザックという言葉が出るだけで、また胃の辺りがキリッと痛んだ。でも今はそれどころじゃない。
「実はねふたりとも……」
誤解を解くために昨日あった出来事を説明する。
グレタとジャネットは目を真ん丸にして私の話を聞いていたけれど、途中からうっとりとした表情でお互いの手を握り合った。
「素敵……。ウィリアム殿下って本当に王子様の中の王子様って感じね……」
「まるで物語の中の出会いみたい……!」
「ねえリディア。あなたはその出会いに、運命を感じなかったの?」
予想外の質問をジャネットから投げかけられ、すごく驚いた。
運命って……。
「まさか……。ウィリアム殿下は誰にでも優しい人だって、あなたたちもよく知っているでしょう? それにジャネットが言っていたんじゃない。殿下に優しくされて勘違いをしてしまう令嬢もいるのだって」
「まあ確かに言ったけれど……」
あれが特別な出会いだったと思えるほど自惚れられない。ウィリアム殿下に優しくされてうれしかったけれど、それはそれだ。勘違いをして舞い上がって恋に落ちたりしたら、ひどく傷つくことになるのが見えている。何よりいまの私には異性を特別に思うほどの心の余裕などなかった。
「とにかくウィリアム殿下にまつわる噂話は、まったくの勘違いなの。そんなでたらめな噂が広まっているなんて、殿下に申し訳ないわ……。いったいどうしたら撤回できるのかしら……」
「うーん……。一度立ってしまった噂を消すのはなかなか難しそうね……。殿下が否定すれば収まるかもしれないけれど……」
ジャネットの言葉にグレタもうんうんと頷く。
「幸い相手がリディアだってことは知られていないし、知らんぷりをしているほうがいいんじゃないかな?」
「そうね……」
恋人や一目惚れの相手と勘違いされているのが、よりによってゴシップのほとぼりも冷めていない私なんて。万が一知れ渡ってしまったときのことを想像しただけで、肝が冷えた。ハンカチを返すためにお会いするときも、これ以上ご迷惑をかけないよう気をつけなくちゃ……。
舞踏会の翌日。
やけに興奮した様子でグレタとジャネットが訪ねてきた。
「大ニュースがあるのよ」という二人をアフタヌーンティーに誘い、客間に通すと、二人はお茶などそっちのけで話しはじめた。
伝えられたのはウィリアム殿下のこと。
――昨夜の舞踏会の途中、ウィリアム殿下は深刻な様子である女性を追いかけていき、皆の前から姿を消してしまった。一目惚れの相手か、それとも留学前から密かに心を通わせていた恋人がいたのか。舞踏会の主役である王子様の恋なのだから、ホール内は大いに湧いた。
そんな話を聞いた瞬間、私は思いっきりスコーンを喉に詰まらせて咳き込んだ。
だって……ええ!?
なんでそんな誤解が生じているの……?
「リディア? どうしたの? 真っ赤な顔でむせたりして」
「……」
紅茶を飲んで、なんとか呼吸を整える。
「ごめんなさい。あんまりびっくりして……」
一目ぼれか、恋人かって……。
思わず頭を抱え込みたくなった。
私のせいでウィリアム殿下にそんな噂が起きてしまったなんて……。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。一度たった噂がなかなか消えないことは、身を持って知っている。
「リディア、本当にどうしたのよ? ひどい顔色よ?」
「あ! ……ま、まさかリディア……ウィリアム殿下のファンだったの?」
「え!?」
「そうだったのリディア……! なによ、もう。そんな話一度もしてくれなかったじゃない」
「仕方ないわよグレタ。リディアには婚約者がいたのだから。アイザックはとても嫉妬深かったし。他の男性に憧れているなんて知られたら大変だったわよ。というかあの男、そうやってリディアを束縛しまくっていたくせに、自分はちゃっかり他の女とくっついてしまうなんて、思い出してまた腹が立ってきたわ!」
アイザックという言葉が出るだけで、また胃の辺りがキリッと痛んだ。でも今はそれどころじゃない。
「実はねふたりとも……」
誤解を解くために昨日あった出来事を説明する。
グレタとジャネットは目を真ん丸にして私の話を聞いていたけれど、途中からうっとりとした表情でお互いの手を握り合った。
「素敵……。ウィリアム殿下って本当に王子様の中の王子様って感じね……」
「まるで物語の中の出会いみたい……!」
「ねえリディア。あなたはその出会いに、運命を感じなかったの?」
予想外の質問をジャネットから投げかけられ、すごく驚いた。
運命って……。
「まさか……。ウィリアム殿下は誰にでも優しい人だって、あなたたちもよく知っているでしょう? それにジャネットが言っていたんじゃない。殿下に優しくされて勘違いをしてしまう令嬢もいるのだって」
「まあ確かに言ったけれど……」
あれが特別な出会いだったと思えるほど自惚れられない。ウィリアム殿下に優しくされてうれしかったけれど、それはそれだ。勘違いをして舞い上がって恋に落ちたりしたら、ひどく傷つくことになるのが見えている。何よりいまの私には異性を特別に思うほどの心の余裕などなかった。
「とにかくウィリアム殿下にまつわる噂話は、まったくの勘違いなの。そんなでたらめな噂が広まっているなんて、殿下に申し訳ないわ……。いったいどうしたら撤回できるのかしら……」
「うーん……。一度立ってしまった噂を消すのはなかなか難しそうね……。殿下が否定すれば収まるかもしれないけれど……」
ジャネットの言葉にグレタもうんうんと頷く。
「幸い相手がリディアだってことは知られていないし、知らんぷりをしているほうがいいんじゃないかな?」
「そうね……」
恋人や一目惚れの相手と勘違いされているのが、よりによってゴシップのほとぼりも冷めていない私なんて。万が一知れ渡ってしまったときのことを想像しただけで、肝が冷えた。ハンカチを返すためにお会いするときも、これ以上ご迷惑をかけないよう気をつけなくちゃ……。
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