9 / 10
初めてもらった花束
しおりを挟む
甘い匂いの正体は、カーネーションだった。
ウィリアム殿下は手にしていた花束を私に差し出すと、にっこりと微笑んだ。
「お見舞いです。受け取ってください」
薄桃色のカーネーションとカスミソウで作られた花束は、とても愛らしくて頬が自然と弛んだ。
「まあ……! ありがとうございます。とても素敵なカーネーションですね」
うれしくって花束の中に顔を近づけ、甘い匂いを吸い込む。
実を言うと父親以外の異性から花束をもらうのは初めてだ。
まさか初めての花束が王子様からの贈り物なんて……。
こんな経験、もう一生できないだろう。今日のことは特別な思い出として大事に覚えていたいとまで思った。重いし大げさだし怖いと感じられたら落ち込むので、もちろん自分の心の中で思うだけに留めておいた。
「急に訪ねてきた失礼を許してくれますか? いただいた手紙に体調を崩されたと書いてあったので……」
心配そうに顔を覗き込まれて、緊張と動揺でドキドキしてしまう。
ウィリアム陛下の甘い顔立ちは、心臓に悪い。
あんまり視線を合わせていられなくて、すごく挙動不審になる。
(ドキドキしている場合じゃないでしょう……)
お見舞いにいらしてくれたお礼と、心配をかけた謝罪を伝えなければ。私は焦りながら、殿下に向かって頭を下げた。
「ウィリアム殿下。ハンカチをお返しできなかった理由をお伝えしたくて、あのような手紙を出させていただいたのですが。かえってお気遣いいただくことになってしまって……。本当に申し訳ありません」
「謝らないでください。私が望んでしていることなのですから。それで、お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫です……! もともとただの胃痛でしたので……あっ!」
慌てて自分の口に手を当てる。心配をかけたくなくて、たいしたことがないと伝えたのだけれど、そんなたいしたことのない理由でバラ園鑑賞会を欠席したのかという話になる。
「すみません……。そうではなくて……。バラ園鑑賞会の日は激痛で意識が混濁するほどだったのですが……」
「そんなにひどかったのですか……。かわいそうに」
ウィリアム殿下が眉根を寄せて呟く。
(私の馬鹿……! こんな顔をさせたかったわけじゃないのに……)
「違うんです……いえ違くなくて……ああ、もう……」
立ち振る舞いの下手な自分に心底がっかりする。融通が利かなくて、ちっともスマートじゃない。そのせいで向き合っている相手に負担をかけてしまう自分が嫌いだ。
私が自己嫌悪を感じながら顔を上げると、ウィリアム殿下は優しく目を細めてクスクス笑い声をこぼした。
「リディア嬢、そんなに気を遣わないで。どうか思ったままを口にしてください。私もそのほうがうれしいので」
「殿下……」
本当にそれでいいのだろうか?
戸惑ったまま見上げると、安心させるように頷き返してくれた。
「舞踏会の夜にも思いましたが、貴女は優しい女性ですね。私がどう感じるかをまず先に考えてくれているでしょう?」
「え!? 優しいだなんて……」
びっくりして、慌てて両手を振る。ウィリアム殿下のように完璧な優しさを持った相手にそんな言葉をかけてもらうなんて。恐れ多いにもほどだ。
今だってウィリアム殿下は私がオロオロしているのを感じ取り、安心させてくれようとした。私の失敗している気遣いなんて、まったく足元にも及ばない。
「それに貴女はとても誠実な方なのですね。あの手紙をくれたこともそうですし、言葉の端々から貴女の人柄の良さを感じます」
馬鹿真面目で融通が利かないだけなのに、私の欠点を美点のようにウィリアム殿下は言ってくれた。
「どうしてそんなに褒めてくださるんですか……。恥ずかしいです……」
「ふふ、本当だ。頬が赤くなってしまいましたね」
頬だけでなく顔中が、熱くなるのを感じる。恥ずかしさのあまり、ウィリアム殿下から視線を逸らすと……。
「……!」
そこには乙女のように頬を赤らめた父親が、気まずそうにモジモジしている姿があった。
あああ……!! 忘れてた……!
ひどいことに父の存在を完全に失念していた。
父親の前でとても恥ずかしいやりとりを繰り広げてしまった気がする。
ウィリアム殿下は手にしていた花束を私に差し出すと、にっこりと微笑んだ。
「お見舞いです。受け取ってください」
薄桃色のカーネーションとカスミソウで作られた花束は、とても愛らしくて頬が自然と弛んだ。
「まあ……! ありがとうございます。とても素敵なカーネーションですね」
うれしくって花束の中に顔を近づけ、甘い匂いを吸い込む。
実を言うと父親以外の異性から花束をもらうのは初めてだ。
まさか初めての花束が王子様からの贈り物なんて……。
こんな経験、もう一生できないだろう。今日のことは特別な思い出として大事に覚えていたいとまで思った。重いし大げさだし怖いと感じられたら落ち込むので、もちろん自分の心の中で思うだけに留めておいた。
「急に訪ねてきた失礼を許してくれますか? いただいた手紙に体調を崩されたと書いてあったので……」
心配そうに顔を覗き込まれて、緊張と動揺でドキドキしてしまう。
ウィリアム陛下の甘い顔立ちは、心臓に悪い。
あんまり視線を合わせていられなくて、すごく挙動不審になる。
(ドキドキしている場合じゃないでしょう……)
お見舞いにいらしてくれたお礼と、心配をかけた謝罪を伝えなければ。私は焦りながら、殿下に向かって頭を下げた。
「ウィリアム殿下。ハンカチをお返しできなかった理由をお伝えしたくて、あのような手紙を出させていただいたのですが。かえってお気遣いいただくことになってしまって……。本当に申し訳ありません」
「謝らないでください。私が望んでしていることなのですから。それで、お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫です……! もともとただの胃痛でしたので……あっ!」
慌てて自分の口に手を当てる。心配をかけたくなくて、たいしたことがないと伝えたのだけれど、そんなたいしたことのない理由でバラ園鑑賞会を欠席したのかという話になる。
「すみません……。そうではなくて……。バラ園鑑賞会の日は激痛で意識が混濁するほどだったのですが……」
「そんなにひどかったのですか……。かわいそうに」
ウィリアム殿下が眉根を寄せて呟く。
(私の馬鹿……! こんな顔をさせたかったわけじゃないのに……)
「違うんです……いえ違くなくて……ああ、もう……」
立ち振る舞いの下手な自分に心底がっかりする。融通が利かなくて、ちっともスマートじゃない。そのせいで向き合っている相手に負担をかけてしまう自分が嫌いだ。
私が自己嫌悪を感じながら顔を上げると、ウィリアム殿下は優しく目を細めてクスクス笑い声をこぼした。
「リディア嬢、そんなに気を遣わないで。どうか思ったままを口にしてください。私もそのほうがうれしいので」
「殿下……」
本当にそれでいいのだろうか?
戸惑ったまま見上げると、安心させるように頷き返してくれた。
「舞踏会の夜にも思いましたが、貴女は優しい女性ですね。私がどう感じるかをまず先に考えてくれているでしょう?」
「え!? 優しいだなんて……」
びっくりして、慌てて両手を振る。ウィリアム殿下のように完璧な優しさを持った相手にそんな言葉をかけてもらうなんて。恐れ多いにもほどだ。
今だってウィリアム殿下は私がオロオロしているのを感じ取り、安心させてくれようとした。私の失敗している気遣いなんて、まったく足元にも及ばない。
「それに貴女はとても誠実な方なのですね。あの手紙をくれたこともそうですし、言葉の端々から貴女の人柄の良さを感じます」
馬鹿真面目で融通が利かないだけなのに、私の欠点を美点のようにウィリアム殿下は言ってくれた。
「どうしてそんなに褒めてくださるんですか……。恥ずかしいです……」
「ふふ、本当だ。頬が赤くなってしまいましたね」
頬だけでなく顔中が、熱くなるのを感じる。恥ずかしさのあまり、ウィリアム殿下から視線を逸らすと……。
「……!」
そこには乙女のように頬を赤らめた父親が、気まずそうにモジモジしている姿があった。
あああ……!! 忘れてた……!
ひどいことに父の存在を完全に失念していた。
父親の前でとても恥ずかしいやりとりを繰り広げてしまった気がする。
4
あなたにおすすめの小説
初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。
甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」
「はぁぁぁぁ!!??」
親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。
そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね……
って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!!
お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!!
え?結納金貰っちゃった?
それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。
※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。
急募 ガチムチ婚約者 ※但し45歳以上に限る
甘寧
恋愛
婚約適齢期を過ぎても婚約者が見つからないミーリアム・シュツェル。
こうなったらと、あちらこちらの掲示板に婚約者を募集する貼り紙を出した。
家柄、学歴、年収すべて不問!!
※但し45歳以上に限る
こんな紙切れ一枚で集まるとは期待していなかったが、釣れたのは大物だった。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる