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第六章 エルフ王国編
第257話 結婚式 表
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色とりどりのステンドグラスから、陽光が差し込む。
石造りの壁が空気を冷やして、気持ちを研ぎ澄ませていく。
時折聞こえるハープの音色が、耳に優しくて。
エルフィニア大聖堂。
とある勘違いのせいで、大暴れしてしまった場所。
今、俺はこの大聖堂に主役として立っていた。
大聖堂の一番奥。
階段を登った先にある聖壇。
ステンドグラスの真下に、俺は立っている。
白いタキシード姿で。
片手で白い手袋を握りながら、花嫁が来るのを待っていた。
目の前では、やたら徳の高そうなエルフの僧侶が瞑想でもしているのか、目をつむって佇んでいた。
エルフなのに深い皺に覆われたジジイだった。
千歳くらいだっていう噂のエスメラルダさんがプリップリなのを見ると、このジジイは何歳なんだろう、と少し気になった。
まあジジイなのでどうでもいいのだが。
聖壇から見下ろすと、大勢の参列者達。
皆、入り口の方を向いて、花嫁の入場を待っていた。
その数、数百人。
といっても、ほとんどが新婦側の客で、俺の客、すなわち新郎側に立っているのはセレナ、カレリアさん、フィリス、エレインだけだった。
4人ともドレスアップしていて美人度マシマシなのだが、新郎側4人て……。
普通、こういうのってバランスを取って同数にするんじゃなかったっけ。
新郎側4人、新婦側数百人って、どんだけ新郎友達いないんだよっていうね。
まあ友達いないんだけどさ。
なんかルーナに負けた気がして腑に落ちない。
しかもルーナ側の参列者って王様を始め、国の重鎮がズラリらしい。
新婦がVIPすぎて胃が痛いです。
つうかルーナ何してんだろう。
早く来いよ。
数百人の前に立ってんの緊張すんだよ。
具体的には歯が乾く。
あと玉が縮む。
――ガタン。
その時、大聖堂の巨大な扉が音を立てた。
やっと来たか――。
「アサギリっっ!! やっぱり私は認めん!!! 貴様のようなチンパンと私の可愛いルーナちゃんがけ、けっけけけけけっっっこんなんて!? ああっ!! 何をする貴様ら!? 私はエリシフォン家当主だぞ!?」
「ご当主ご乱心!!!!」
――ガコン。
「…………」
再び閉まった扉に、この場にいる数百人が閉口していた。
なにいまの。
一瞬ルーナパパが見えた気がしたが、瞬く間に衛兵さんたちに取り囲まれて消えていった。
今日は、いつもの数倍の警備体制を敷いてるらしい。
つい先日、誰かに結婚式を妨害されたからだとか(てへ☆)。
まったくルーナは何やってんだ。
あいつが遅いせいで変なのが湧いたじゃねえか。
――ガタン。
と、思っていたらやっと来たらしい。
まったく待たせやがっ――。
「おらああああああ、討ち入りじゃああい!!! てめえの男はてめえで奪う。それが極妻品質!!! あ、ああっ!? 何をしますの!? わたくしはこの国のプリンセスですわよ!?」
「姫様ご乱心!!!!」
――ガコン。
「…………」
再び閉まった扉に、全員閉口である。
え、まじでなんなの今の。
なんか見知らぬ女の人が扉を蹴破って入ってきたけど。
当然のように衛兵さんに取り囲まれて消えた。
どんだけ乱入者いるんだよ。
場末のゲーセンの格ゲーかよ。
変なの湧きすぎだろう。
やべえ国である。
――ガコン。
三度目の扉が開く音。
その場にいる者は、期待せずに扉を見ただろう。
俺もまったく期待をしていなかった。
今度はなんだよ。
ザンギエフでも乱入してきたのかよ、と。
軽い気持ちで扉に目を向けて。
「…………」
その場の全員が、度肝を抜かれた。
大聖堂に足を踏み入れたのは、美の化身だった。
純白の衣を纏った女神。
彼女が一歩進むと、冗談のように窓から陽光の階が差し込んだ。
美神の誕生を祝福するように。
後光が差しているのかと錯覚するほどの輝きを放つ純白のウェディングドレス。
天使の羽根に包まれているかの様に、幾重にも高そうな生地が折り重なっている。
それぞれの生地には、悪目立ちしない程度にささやかな金糸の刺繍が施され、複雑な文様のレースがふんだんにあしらわれている。
きらきらと見るものの目を眩ませるのは、宝石が散りばめられているからか。
極上のウェディングドレスだった。
こないだ誤解してしまった花嫁さんとか、昨日見たアーニャのドレスとは何段階もレベルが違う。
こんなのは日本にいた時も見たことがなかった。
しかも。
「…………まじかよ」
思わずそんな声を漏らしてしまう。
そのドレスを纏った人物は、少しもドレスに負けてはいなかった。
極上のドレスに包まれるように、覗いた胸元は、艷やかで、滑らかで、透き通るような白い肌。
どんな高級素材を使っても再現できないであろう、磨き上げられた至高の美肌。
ほっそりとした肩から首筋にかけてのラインが究極の芸術美を描き、淡く化粧の施された美顔は、輝くような艶を放つ。
そっと伏せられた目元には、深い海を思わせるブルーのアイライン。
長く艷やかなまつ毛は、花が咲いたようにくるりと上向きカーブ。
陽光が形になったかのような黄金の髪は、極上のドレス以上の、唯一無二のアクセサリーとなって、彼女の魅力を際立たせていた。
そして、ふわりと垂れ下がった純白のヴェール。
まだ誰のものでもない証のヴェール。
豪奢さと、初々しさが絶妙なバランスで、彼女を完成させていた。
入場してきたルーナを、その場の全員が、この世のものではない奇跡を目の当たりにしたように、固唾を飲んで、見つめたのだった。
かこ、かこ、と。
ルーナが一歩進む度に、ああ、とか、おお、とか参列者たちの感嘆の声が漏れた。
かくいう俺も、心臓がバクバクだった。
近づいてくるルーナに片時も目が離せない。
瞬きすらできない。
ルーナが美しすぎて。
いや、もともと美人だとは思っていた。
でも今日は本気出しすぎだろう。
美しすぎて人外かと疑うとか。
生まれて初めての経験だった。
ていうか、これほんとにルーナだろうか??
美人だけど、バカでエロいルーナ。
愛すべき俺のエルフ。
どちらかというと皆にほんわかと迎えられているルーナは、こんな……美しさだけで人を圧倒するような女じゃなかったはずだ。
「(ゴクッ)」
近づいてくるルーナに思わず喉が鳴る。
そして、ルーナと思しき女が俺の隣に立った。
長大なスカートが階段に垂れ下がって覆い、散りばめられた宝石がきらきらと眩い。
そんな美神が、俺を仰ぎ見る。
純白のヴェールの奥で。
細められた目は、潤んでいて。
どんな宝石よりも美しくて。
「……コウ」
熱く、想いの籠もった呟きに、目から大粒の涙が溢れる。
その表情は、ルーナ本人だと納得させるには十分だった。
どんなに美しく着飾っていても。
中身はいつも一緒にいた愛おしい女で。
つうか。
「何泣いてんだよ」
なんか顔が熱くて、ぶっきらぼうに言ってしまう。
「幸せすぎて」
ポロポロと涙を零すルーナ。
その姿に、胸から熱いものがこみ上げてくる。
変な女である。
俺なんかと結婚して、幸せすぎて泣くとか。
変な女である。
「…………」
不意に目頭がカーっと熱くなった。
俺をクズではないと、言い放った女。
誰かに愛される、というか認められる事が、こんなに嬉しいなんて。
「ルーナ……」
今すぐルーナを抱きしめたくて、手を伸ばす。
「オホン」
その時、前に立っていた老人が咳をした。
そうだった。
結婚式の最中だった。
ルーナと二人で慌てて佇まいを正す。
抱きしめるのは、式が終わるまでお預けである。
俺たちは、おそらく神父さん的な存在であろう老人の言葉を待った。
「ソレデハ、誓イノ言葉ウォ――」
「…………」
神父さんはカタコトだった。
いや、そういうもんだけど。
あれ? あれれ?
異世界でもそういうもんなの??
ウォて。
なんかカタコトで神父さんが喋っているが全く頭に入ってこなかった。
違和感と胡散臭さがすごすぎて。
「ナンジ、新郎アサギリコ」
アサギリコて。
アサギリ・コウって言いたいんだろうか。
そんな歯磨き粉みたいに言われても。
「アナタヴァ、ココニール新婦ルシィアルィーニャヴォ――」
もう何いってんだかわかんねーよ!!!
ヴァとかヴォとか。
せっかく感動してたのに、なんで急に芸人が出てきたんだよ!?
「……? コウ? どうかしたのか?」
ルーナに肘で突かれる。
いつの間にか、俺の返事待ちフェーズになっていたらしい。
何言ってるか全然わかんないせいで気づかなかった。
場の空気は、返事をしない俺に微妙なものになっている。
なんか釈然としない。
「……こいつがカタコトなせいで雰囲気ぶち壊しなんだけど」
なので思わず言ってしまった。
「コ、コウ!? 稀少なエルダーエルフ様に向かって、こいつとか言っちゃダメじゃないか!」
エルダーエルフ様だったらしい。
エルフとは別種族なんだろうか?
どうりでジジイなわけだ。
「じゃあ普通のエルフでいいからチェンジさせろよ」
「コ、コウ!? なんでそんなわがままゆーの!?」
いや、わがままじゃねえから。
「…………」
そんな時、エルダーエルフ様が俺を見つめているのに気づいた。
ものすごく悲しそうな目で。
なんだろう。
罪悪感がこみ上げてくる。
カタコトなだけで、エルダーエルフ様が悪いわけではない気もしてきた。
いかんいかん、ついつい悪意を疑ってしまう。
なんか馬鹿にされている気がしてね。
アレだろうか。
都会のど真ん中に違和感バリバリの教会をおっ立てて、キリスト教徒でもないのに宗教観鬼マシの儀式に参加させられて、どっから連れてきたんだか謎の外人に誓いの言葉を言わされる儀式を目の当たりにしてきたストレスのせいだろうか。
しかも参列者は強制的に3万円以上取られるんだぜ。
そんな元いた世界の謎儀式のストレスを、無関係なエルダーエルフ様にぶつけるのは良くない。
とりあえず、謝ろうと口を開いた時。
「スキヤキ、ゲイシャ、ハラキリ」
エルダーエルフ様がそれっぽいセリフを口にしたのでプツンと来た。
「てめえ、やっぱ馬鹿にしてんだろ!?」
「わああああっ!? 聖なる言葉を言ってくださったエルダーエルフ様を叩いちゃダメじゃないかー!」
そんなふざけた聖なる言葉ある??
どこの世界でも結婚式なんてクソだと思いました。
「オ・モ・テ・ナ・シ!」
「クソ外人てめえっ!!」
「た、ただ聖なる五文字を言ってくださっただけじゃないか!」
なんでも聖なるをつければいいと思ってないだろうか。
そんなこんなで、俺達の結婚式はドタバタと進行していった。
色々とイラッとすることもあったけど、結婚式を挙げたというのはなかなかに感慨深かった。
惜しむらくは、俺の両親がこの場にいなかったことである。
二人がいたら、喜んでくれただろうか。
「あっ、コウ……んっ……ちゅば、れろ、んんっ……」
結婚式のハイライト。
誓いのキスを決めるシーンで、5分以上もルーナとベロチューをしながら、俺はそんな事を考えてしんみりとしたのだった。
石造りの壁が空気を冷やして、気持ちを研ぎ澄ませていく。
時折聞こえるハープの音色が、耳に優しくて。
エルフィニア大聖堂。
とある勘違いのせいで、大暴れしてしまった場所。
今、俺はこの大聖堂に主役として立っていた。
大聖堂の一番奥。
階段を登った先にある聖壇。
ステンドグラスの真下に、俺は立っている。
白いタキシード姿で。
片手で白い手袋を握りながら、花嫁が来るのを待っていた。
目の前では、やたら徳の高そうなエルフの僧侶が瞑想でもしているのか、目をつむって佇んでいた。
エルフなのに深い皺に覆われたジジイだった。
千歳くらいだっていう噂のエスメラルダさんがプリップリなのを見ると、このジジイは何歳なんだろう、と少し気になった。
まあジジイなのでどうでもいいのだが。
聖壇から見下ろすと、大勢の参列者達。
皆、入り口の方を向いて、花嫁の入場を待っていた。
その数、数百人。
といっても、ほとんどが新婦側の客で、俺の客、すなわち新郎側に立っているのはセレナ、カレリアさん、フィリス、エレインだけだった。
4人ともドレスアップしていて美人度マシマシなのだが、新郎側4人て……。
普通、こういうのってバランスを取って同数にするんじゃなかったっけ。
新郎側4人、新婦側数百人って、どんだけ新郎友達いないんだよっていうね。
まあ友達いないんだけどさ。
なんかルーナに負けた気がして腑に落ちない。
しかもルーナ側の参列者って王様を始め、国の重鎮がズラリらしい。
新婦がVIPすぎて胃が痛いです。
つうかルーナ何してんだろう。
早く来いよ。
数百人の前に立ってんの緊張すんだよ。
具体的には歯が乾く。
あと玉が縮む。
――ガタン。
その時、大聖堂の巨大な扉が音を立てた。
やっと来たか――。
「アサギリっっ!! やっぱり私は認めん!!! 貴様のようなチンパンと私の可愛いルーナちゃんがけ、けっけけけけけっっっこんなんて!? ああっ!! 何をする貴様ら!? 私はエリシフォン家当主だぞ!?」
「ご当主ご乱心!!!!」
――ガコン。
「…………」
再び閉まった扉に、この場にいる数百人が閉口していた。
なにいまの。
一瞬ルーナパパが見えた気がしたが、瞬く間に衛兵さんたちに取り囲まれて消えていった。
今日は、いつもの数倍の警備体制を敷いてるらしい。
つい先日、誰かに結婚式を妨害されたからだとか(てへ☆)。
まったくルーナは何やってんだ。
あいつが遅いせいで変なのが湧いたじゃねえか。
――ガタン。
と、思っていたらやっと来たらしい。
まったく待たせやがっ――。
「おらああああああ、討ち入りじゃああい!!! てめえの男はてめえで奪う。それが極妻品質!!! あ、ああっ!? 何をしますの!? わたくしはこの国のプリンセスですわよ!?」
「姫様ご乱心!!!!」
――ガコン。
「…………」
再び閉まった扉に、全員閉口である。
え、まじでなんなの今の。
なんか見知らぬ女の人が扉を蹴破って入ってきたけど。
当然のように衛兵さんに取り囲まれて消えた。
どんだけ乱入者いるんだよ。
場末のゲーセンの格ゲーかよ。
変なの湧きすぎだろう。
やべえ国である。
――ガコン。
三度目の扉が開く音。
その場にいる者は、期待せずに扉を見ただろう。
俺もまったく期待をしていなかった。
今度はなんだよ。
ザンギエフでも乱入してきたのかよ、と。
軽い気持ちで扉に目を向けて。
「…………」
その場の全員が、度肝を抜かれた。
大聖堂に足を踏み入れたのは、美の化身だった。
純白の衣を纏った女神。
彼女が一歩進むと、冗談のように窓から陽光の階が差し込んだ。
美神の誕生を祝福するように。
後光が差しているのかと錯覚するほどの輝きを放つ純白のウェディングドレス。
天使の羽根に包まれているかの様に、幾重にも高そうな生地が折り重なっている。
それぞれの生地には、悪目立ちしない程度にささやかな金糸の刺繍が施され、複雑な文様のレースがふんだんにあしらわれている。
きらきらと見るものの目を眩ませるのは、宝石が散りばめられているからか。
極上のウェディングドレスだった。
こないだ誤解してしまった花嫁さんとか、昨日見たアーニャのドレスとは何段階もレベルが違う。
こんなのは日本にいた時も見たことがなかった。
しかも。
「…………まじかよ」
思わずそんな声を漏らしてしまう。
そのドレスを纏った人物は、少しもドレスに負けてはいなかった。
極上のドレスに包まれるように、覗いた胸元は、艷やかで、滑らかで、透き通るような白い肌。
どんな高級素材を使っても再現できないであろう、磨き上げられた至高の美肌。
ほっそりとした肩から首筋にかけてのラインが究極の芸術美を描き、淡く化粧の施された美顔は、輝くような艶を放つ。
そっと伏せられた目元には、深い海を思わせるブルーのアイライン。
長く艷やかなまつ毛は、花が咲いたようにくるりと上向きカーブ。
陽光が形になったかのような黄金の髪は、極上のドレス以上の、唯一無二のアクセサリーとなって、彼女の魅力を際立たせていた。
そして、ふわりと垂れ下がった純白のヴェール。
まだ誰のものでもない証のヴェール。
豪奢さと、初々しさが絶妙なバランスで、彼女を完成させていた。
入場してきたルーナを、その場の全員が、この世のものではない奇跡を目の当たりにしたように、固唾を飲んで、見つめたのだった。
かこ、かこ、と。
ルーナが一歩進む度に、ああ、とか、おお、とか参列者たちの感嘆の声が漏れた。
かくいう俺も、心臓がバクバクだった。
近づいてくるルーナに片時も目が離せない。
瞬きすらできない。
ルーナが美しすぎて。
いや、もともと美人だとは思っていた。
でも今日は本気出しすぎだろう。
美しすぎて人外かと疑うとか。
生まれて初めての経験だった。
ていうか、これほんとにルーナだろうか??
美人だけど、バカでエロいルーナ。
愛すべき俺のエルフ。
どちらかというと皆にほんわかと迎えられているルーナは、こんな……美しさだけで人を圧倒するような女じゃなかったはずだ。
「(ゴクッ)」
近づいてくるルーナに思わず喉が鳴る。
そして、ルーナと思しき女が俺の隣に立った。
長大なスカートが階段に垂れ下がって覆い、散りばめられた宝石がきらきらと眩い。
そんな美神が、俺を仰ぎ見る。
純白のヴェールの奥で。
細められた目は、潤んでいて。
どんな宝石よりも美しくて。
「……コウ」
熱く、想いの籠もった呟きに、目から大粒の涙が溢れる。
その表情は、ルーナ本人だと納得させるには十分だった。
どんなに美しく着飾っていても。
中身はいつも一緒にいた愛おしい女で。
つうか。
「何泣いてんだよ」
なんか顔が熱くて、ぶっきらぼうに言ってしまう。
「幸せすぎて」
ポロポロと涙を零すルーナ。
その姿に、胸から熱いものがこみ上げてくる。
変な女である。
俺なんかと結婚して、幸せすぎて泣くとか。
変な女である。
「…………」
不意に目頭がカーっと熱くなった。
俺をクズではないと、言い放った女。
誰かに愛される、というか認められる事が、こんなに嬉しいなんて。
「ルーナ……」
今すぐルーナを抱きしめたくて、手を伸ばす。
「オホン」
その時、前に立っていた老人が咳をした。
そうだった。
結婚式の最中だった。
ルーナと二人で慌てて佇まいを正す。
抱きしめるのは、式が終わるまでお預けである。
俺たちは、おそらく神父さん的な存在であろう老人の言葉を待った。
「ソレデハ、誓イノ言葉ウォ――」
「…………」
神父さんはカタコトだった。
いや、そういうもんだけど。
あれ? あれれ?
異世界でもそういうもんなの??
ウォて。
なんかカタコトで神父さんが喋っているが全く頭に入ってこなかった。
違和感と胡散臭さがすごすぎて。
「ナンジ、新郎アサギリコ」
アサギリコて。
アサギリ・コウって言いたいんだろうか。
そんな歯磨き粉みたいに言われても。
「アナタヴァ、ココニール新婦ルシィアルィーニャヴォ――」
もう何いってんだかわかんねーよ!!!
ヴァとかヴォとか。
せっかく感動してたのに、なんで急に芸人が出てきたんだよ!?
「……? コウ? どうかしたのか?」
ルーナに肘で突かれる。
いつの間にか、俺の返事待ちフェーズになっていたらしい。
何言ってるか全然わかんないせいで気づかなかった。
場の空気は、返事をしない俺に微妙なものになっている。
なんか釈然としない。
「……こいつがカタコトなせいで雰囲気ぶち壊しなんだけど」
なので思わず言ってしまった。
「コ、コウ!? 稀少なエルダーエルフ様に向かって、こいつとか言っちゃダメじゃないか!」
エルダーエルフ様だったらしい。
エルフとは別種族なんだろうか?
どうりでジジイなわけだ。
「じゃあ普通のエルフでいいからチェンジさせろよ」
「コ、コウ!? なんでそんなわがままゆーの!?」
いや、わがままじゃねえから。
「…………」
そんな時、エルダーエルフ様が俺を見つめているのに気づいた。
ものすごく悲しそうな目で。
なんだろう。
罪悪感がこみ上げてくる。
カタコトなだけで、エルダーエルフ様が悪いわけではない気もしてきた。
いかんいかん、ついつい悪意を疑ってしまう。
なんか馬鹿にされている気がしてね。
アレだろうか。
都会のど真ん中に違和感バリバリの教会をおっ立てて、キリスト教徒でもないのに宗教観鬼マシの儀式に参加させられて、どっから連れてきたんだか謎の外人に誓いの言葉を言わされる儀式を目の当たりにしてきたストレスのせいだろうか。
しかも参列者は強制的に3万円以上取られるんだぜ。
そんな元いた世界の謎儀式のストレスを、無関係なエルダーエルフ様にぶつけるのは良くない。
とりあえず、謝ろうと口を開いた時。
「スキヤキ、ゲイシャ、ハラキリ」
エルダーエルフ様がそれっぽいセリフを口にしたのでプツンと来た。
「てめえ、やっぱ馬鹿にしてんだろ!?」
「わああああっ!? 聖なる言葉を言ってくださったエルダーエルフ様を叩いちゃダメじゃないかー!」
そんなふざけた聖なる言葉ある??
どこの世界でも結婚式なんてクソだと思いました。
「オ・モ・テ・ナ・シ!」
「クソ外人てめえっ!!」
「た、ただ聖なる五文字を言ってくださっただけじゃないか!」
なんでも聖なるをつければいいと思ってないだろうか。
そんなこんなで、俺達の結婚式はドタバタと進行していった。
色々とイラッとすることもあったけど、結婚式を挙げたというのはなかなかに感慨深かった。
惜しむらくは、俺の両親がこの場にいなかったことである。
二人がいたら、喜んでくれただろうか。
「あっ、コウ……んっ……ちゅば、れろ、んんっ……」
結婚式のハイライト。
誓いのキスを決めるシーンで、5分以上もルーナとベロチューをしながら、俺はそんな事を考えてしんみりとしたのだった。
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