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しおりを挟むおれにとってセンセーショナル過ぎる諸々の初体験を浴びた火曜日から一週間が経ち、奈留くんとおれの関係には大きな変化が訪れていた。
まず奈留くんの毒舌が著しく減った。「アンタ」じゃなく「清白」と呼んでくれるようになったのだ。
キューちゃんでもいいよ? と言ったけど嫌通り越して無理と言われてしまったのですごすごと引き下がった。
それから本当にニュース記事の感想を送ってくれるようになった。
最初のうちは政治家の愚痴や芸能人への悪口、アニメやゲームの展開への批判だった。
おれはその辺何も詳しくねえからつい『それどんな役やってる人?』とか『その作品聞いたことないや、知るなら原作がいいかな?』とか聞いてるうちに好きなドラマの傾向や面白かった映画の話に流れていって、昨日はとうとう『たまたま見つけて癒された動物の動画』なんてハートフルなもんが送られてきた。『ドヤ顔でマヌケやらかしてる所が誰かさんにそっくり』らしい。
放課後は毎日奈留くんの家にお邪魔している。
アニメは全部観終わって、奈留くんはおれが大興奮で感想を言いまくる様を一頻り聞くと、「劇場版もあるけど」といくつかのブルーレイを取り出した。たまに見当違いの感想を言ってキレられることもありつつ、それすら楽しくなってしまっているのだ。
今日も奈留くんの家で宿題をしつつ漫画を読ませて貰っている。
奈留くんの部屋には浴びるほど漫画があって、この部屋に住んだら一生娯楽に困らないだろうといつも感動する。
「このキャラやべえかっけえ」やら「いや待って嘘裏切られたんだけど!」やら好き勝手喋りながら夢中で漫画を楽しむおれをすぐ隣で奈留くんが眺めている。たまにツッコミも入れてくれたりする。
おれはこの時間が大好きになった。
「……ねえ、清白」
そして一番変わったのがこれだ。
傍で座っていた奈留くんが緩慢な動作で眼鏡を外す。それが合図。
おれは読んでた漫画に指を挟んで閉じ、奈留くんの方に向き直る。
彼の左手が背中をなぞり、肩へ回って、おれを身体ごと引き寄せる。
眼鏡のない奈留くんの瞳の中には、困り眉の情けないおれが映っている。おれはそれを遮るように瞼を閉じて、そうすると唇に少しだけ湿った感触が降りてくるのだ。
奈留くんはすっかりキス魔になってしまったのである。
一日一回なんて可愛らしいもんじゃない。家にいる間はしょっちゅうだ。
もしやおれは健全な青少年の性癖を歪めてしまったのか……!? と戦慄したものだけど、まあおれも全然嫌じゃないどころかいくらでもウェルカム程度に思ってしまっているので、特に拒否していない。
仕方ないだろ、おれだって育ち盛りの思春期男子だぞ。スケベに興味津々で何が悪い。
何となく漫画の続きを読む気分じゃなくなって、奈留くんの鎖骨あたりに頭を擦り付ける。
そう言えば勝手に触ってもお咎め無しになったのも変化のひとつだ。
「いちいち聞かれるの鬱陶しい」という身も蓋もない理由だったが、奈留くんがおれにどんどん気を許してくれてるみたいで嬉しかった。
念の為「じゃあ触るのダメな時は手を挙げてくださーい」って言ったら「歯医者か」と苦笑された。好き。
こうしておれらは当初の想定より随分恋人らしい雰囲気になったという訳だ。
そうだ、おれを周囲に軽蔑させるという奈留くんの目論見(推定)は、概ね50%ほど成功していた。
おれが奈留くんにベッタリというのは360度どこから見ても明白だったからね。
元々結構喋っていたクラスメイトが急に俺を避けるようになっちゃったのは寂しい。ただちょっと絡み方が苦手だなーって思っていた奴も勝手に離れていったので、その辺はラッキー。
あと特に交流のなかった大人しい系の男子や、妙に爛々とした目の眼鏡女子達に話しかけられることが少し増えた。オススメの漫画を教えてくれたり、普段奈留くんと何してるのか聞かれたりする。
結果プラマイゼロって感じだった。
問題は楡だ。あいつの言動はどんどん酷くなって、もうそれおれ相手じゃなかったらイジメだからね? ってレベルになっていた。
最初は注意してくれていた吾妻や木ノ重も、少しずつ楡と距離を置き始めている。そこそこ長い付き合いの友達が孤立していくのを見るのは、おれ自身が貶されるより嫌な気分になった。
恥を忍んで奈留くんに相談したところ、予想通りバッサリした答えが返ってきた。
「思いつきで始めた遊びで友達取られて拗ねてるんじゃないの、自業自得」
「おっしゃる通りっす……」
「軽い気持ちで他人を陥れようとするからそうなるんだよ、放っておけば」
ぐうの音も出ねえおれであった。
奈留くんにはおれら四人でやらかした罰ゲームの経緯を全て吐いていた。
「吾妻と木ノ重は反省してて、奈留くんに謝りたいって言ってるけど」と打診したが、返答は否だった。許されない方がちゃんと自分のした事を考える機会になるんだって。確かにそうかも。
おれの事を奈留くんが許してくれるかどうかは分からないけど、何となく、この関係が終わった時がおれにとって一番の罰になるだろうな、と思っている。
奈留くんはおれにとって、誰よりも大事な人になっていた。
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