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しおりを挟むもうあと半月やそこらで卒業となり、欠席する生徒もちらほら増えてきた。
何なら休んで免許取りに行ってる奴まで居るらしい。フリーダムかよ。
ここ最近の楡の態度を見て、吾妻と木ノ重は楡への認識を少し改めたらしい。
おかしかった言動は子供じみた嫉妬心から来るものだったとわかって呆れやら情けないやらで怒りが薄れたそうだ。わかるわかる。性格きっつい割になんか憎めないんだよなあ楡って。
楡は相変わらず隙あらば引っ付いてこようとするのでその度に躱している。悪いけど恋心ってそんなたくさん持てねえんだよ。一個で手一杯だ。
おれが今学校で何をしてるかというと、何故か木ノ重の部室ロッカーの片付けを手伝いしているのだった。
おれは金無いし進学しないんだよね。バイト先のひとつで正社員にならないかって言ってもらえて、春からそっちで働く予定だ。進学のしがらみがない分今木ノ重のパシリしてるわけですが。
「木ノ重ぇ、なんか臭い布出てきたんだけど」
「臭いなら捨ててー!」
「ちょっとキノコ生えてるこれ! ひええきたねえ!」
「えっマジで見たい見たい!」
「喜んでんじゃねえよ!」
恐らくユニフォームの成れの果てと思われる布から白いキノコが生えている。おれはビビり散らかして思いっ切り尻もちを着いた。瞬間、ズボンのポケットにしまっていた紙が落ちる。
「クロやん何か落としたぞ」
「あ、ありがと……こら勝手に見るな!」
拾って中身を見ようとした木ノ重から紙をひったくる。こういうデリカシーのないことサラッとしやがるから木ノ重はたまに怖いのだ。
「いいじゃん見して~、ラブレター?」
「お前はそればっかだねえ、今は鎌谷さんだっけ」
「へっへっへ……卒業式に告ったらロマンチックかな」
「問題は時期じゃないと思うよおれは」
木ノ重は近頃おれを通じて話すようになった鎌谷さんにうっかり惚れたみたいだ。望み薄じゃないかなあ。あの子恋愛するより推しの部屋の観葉植物になりたいって言ってたし。意味はよくわかんないけど。
上手いこと話を逸らしたおれは、再びポケットにしまった紙をそっと指の腹で撫でた。朝下駄箱に入っていたこの紙の中にはあまり綺麗じゃない文字が書かれている。
「16時 屋上」とだけ書かれた見覚えのあり過ぎる字を見た瞬間は膝から崩れ落ちそうになった。
何を言われるんだろう。
おれも言いたいことがあるんだ。
手が完全に止まったおれを木ノ重が揺さぶって現実に戻してくれた。早く片付け終わらせよう。
指定時間の15分前には屋上に着いてしまった。逸り過ぎ。
冷えきった風に鳥肌を立たせながら最初に何て声かけようか考えていると、階段に繋がるドアがキィと古めかしい音を立てた。
「早くない?」
久々に聴いた奈留くんの声は、以前より随分聞き取りやすくなった。
普通に話してくれてる。嬉しい。
「と、留目もちょっと早いよ」
対するおれは普通に噛んだ。恥ずかしい。
前までどんな風に喋ってたかわからなくなってる。
奈留くんはおれの態度に目を細めて少し俯いた。や、やっぱ変かな。何か緊張してるんだよ今。
「もうカツアゲされてない?」
「あっ、そ、それ! カネコさん金返してくれて画像も消したって!」
「そう」
「留目がしてくれたん……?」
「………………」
「もしそうだったら、あのさ、お礼が言いたくて、あの、ありがとな」
「……別に、ケジメつけたかっただけだから」
やっぱり奈留くんが何かしてくれたんだ。胸が苦しくなる。嬉しい。好き。
同時に自分で解決できなかったことに羞恥と悔しさと申し訳なさを感じた。奈留くんを守りたかったのに、結果おれが守られただけだったなあ。情けない。
「聞いて」
思ったより近くで声が聞こえて、一人で見悶えてたおれはハッと顔を上げた。
すぐ目の前で奈留くんがおれを見下ろしている。
眼鏡が反射してて表情はよく見えない。ただその近さが本当に久々で心臓がドコドコ鳴ってる。
奈留くんはおれに左手を差し出して、ゆっくり口を開いた。
「清白九郎、アンタが好きです。付き合って下さい」
おれは一瞬完全に呼吸の仕方を忘れた。瞬きも忘れた。
奈留くんの言ったことを頭の中で反芻して、ノロノロと視線を彷徨わせる。
左手は差し出されたままだ。
その手のひらに、黒い線を見つけた。
おれの時より酷い、ヨレヨレの字で、たったの一行。
『ことわらないで』
喉が震えた。
自信なさそうな小さいその文字列が、視覚からじわりと心に入っていく感じがする。
冷えた指先を握り込んで、どこか所在なさげに揺れる奈留くんの目をしっかり見て。
緊張で引き攣って声が掠れないよう気を付けながら、あの日奈留くんがくれた言葉をそのまま返した。
「……良いよ!」
次の瞬間には、おれは奈留くんの腕の中にいた。
2月の風でブルブルしてた身体が奈留くんの体温で暖かくなる。
目頭まで熱くなってきてギュッと目を瞑る。ああ、くそ。どんなに悲しくても泣かないのが自慢だったのに。
おれも抱き返していいのかな。恐る恐る背に腕を回したら、おれをホールドする奈留くんの力が更に強まった。
「今度は本当に絶対だから」
どこか拗ねたみたいな声色の奈留くんに、自然と笑みがこぼれる。
絶対ってアレかな、懐かしいな。
「おれも言っていい?」
「……何を」
「今度は絶対別れてやらない」
とうとう奈留くんから嗚咽がこぼれ始めた。
見た目に反して案外すぐ泣くとこも好きだよ。
「死ぬまで俺のものでいて……」
「おれでいいなら」
「清、……九郎がいい……」
こうしておれの初めての片想いは終わった。
二度目の交際は死ぬまで続くらしい。
おれはヨボヨボのじいちゃんになった奈留くんとおれが二人でコタツに入ってお茶を啜る未来を想像した。
そうなるといいなと思った。
「あ、なあなあクリスマスできなかったから今からスケベな事する?」
「アンタほんっと空気読まないな……!」
スケベなことは帰ってからした。
今まで言えなかった奈留くんの好きなとこ全部伝えた。
奈留くんは顔を真っ赤にして最終的に「やめて、もういい、やめっ、やめろォ!」とキレていた。
そういうとこも好き。
奈留くん大好き。
まだ照れくさくて言えないけど、いつか「愛してる」って言えるようになるのが、おれの今の目標。
終わり
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