完結■罪滅ぼしをエンジョイする陽キャ

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 おれはらしくもなくパニックになりかけていた。
 最も見たくなかった光景がそこにあるからだ。
 何で奈留なるくんがカネコさんと一緒に居るんだ?
 まさかカネコさんを最近見かけなかったのはおれから搾り取るのは効率悪いと思って奈留くんを探し出したからだったりするのか?
 いやそれにしては二人とも態度が変だ。カネコさんは何だか腰が低いし、奈留くんはいつもより偉そう。
 一も二もなく助けなければと焦っていた心が若干冷静さを取り戻す。
 考えろ。もう間違えるな。奈留くんの思考を想像しろ。
 一度大きく深呼吸して前の席に並んで座る二人を視界に入れた。

 いつもと異なる格好をしてるってことは、周囲に普段の姿を隠したいのだろう。多分。おれは奈留くんの制服姿と緩い部屋着姿しか見たことがない。お出かけ着セットするとアレになるって言われたらもう知らん。その可能性は一旦捨てる。
 そしてさっき確かにおれに気付いた上で、カネコさんの行動を遮るように割って入り、おれをスルーした。
 つまり奈留くんが今おれにして欲しいことがあるとすれば、他人のフリをしろって感じじゃないだろうか。
 すっごい嫌だけど。
 だっておれはそいつに関わって欲しくない。何か意図があって近づいてるにしても、偶然だったとしても。
 でも奈留くんがしたいことがあるなら、おれはその障害になりたくない。下手に突っ込んで邪魔になったら目も当てられない。
 落ち着け。感情に振り回されちゃダメだ。
 さっきとは逆に俯いて二人を視界から外す。おれに見えるのはバスの座面と大人しくしている自分の膝だけになった。
 おれはいつだったか奈留くんの家で読んだ少女漫画を思い出した。
 あの主人公の気持ちが前より少しわかる気がした。
 カネコさんに嫉妬してるわけじゃないけど、相手のことがわからなくなる瞬間って不安になるものなんだなって。
 その日の仕事は楽しくなかった。生まれて初めてそう感じた。
 恋って変なのって思った。



 始業式の翌日、奈留くんに訊いてみることにした。
 奈留くんは休み時間中は寝てるから昼休みに突撃するしかないんだけど、最近は食堂に来てない。話すならチャイムがなってすぐ奈留くんを追いかけるしかない。

「あの、奈……留目とどめ、ちょっといい?」

 パンを持って校舎外に出ようとしていた奈留くんをようやく引き止める。走りは遅いくせに歩くの早いんだから意味わからん。
 奈留くんは嫌そうに眉を顰めた。やばい結構胃にくるなこれ。これ以上嫌われたくない。

「……何」
「えっと、冬休みに留目がカネ……えっと、前ゲーセン近くで揉めたおっさんと一緒に居るの見かけたんだけどさ」
「知らない、人違いじゃないの」
「……え、」

 人違いだったのか?
 でも、何かよく分からない自信があるのだが、あれは奈留くん以外ありえないって思っちゃっているんだよな。
 奈留くんって双子のお兄さんとかいるのかな? あの家はそんな雰囲気じゃなかったけど。
 それか、本格的に、関わって欲しくなくて嘘を言っているか。

 おれは自分が思ってるよりショックだったみたいだ。その場で立ち尽くして奈留くんがいつの間にか居なくなっていることにも気付かなかった。
 何がこんなにしんどいのかすら分からない。奈留くんに明確な拒絶をされたかもしれない事だろうか? 自分に奈留くんを助ける権利が無い事かな。
 なんか、なんかダメだ。息苦しい。

「クロー」

 その場でしゃがむのは嫌だったから壁に頭を預けていると、背後から声がかかる。おれを変なアクセントで呼ぶのはにれしかいない。
 何でここにと言いかけてやめた。大方奈留くんを追いかけるおれを追いかけたんだろう。傍から見たら面白い構図だな。

「平気? 立ちくらみ?」
「立ちくらんでない。気にすんな」
「気にするに決まってるだろ好きなんだから」
「無理ですごめんなさい」
「ねええ駄目とか嫌とか言われるよりキツイんだけど!」

 楡がこんな調子でちょっとだけ良かったと思ってしまった。少し持ち直した。
 そうだな、おれはファンでいるって決めたんだ。
 奈留くんの活動の妨げにならないでいられるならそれでいい。

「ありがと楡、元気は出た」
「惚れ直した?」
「まず惚れてないですごめんなさい」
「クソが」

 昔から思ってたけどこいつ開き直ったらマジ無敵だな。



 次にカネコさんと会ったのは何とまあ卒業式も間近の2月上旬だった。その間おれは随分と平和な日々を過ごしていたことになる。
 呼び出されて戦々恐々としていたおれは男の姿を見てびっくりした。カネコさんは以前と違って何だか草臥れている。ハードなバイト先に当たりまくったのかな。
 なんて呑気な想像をしてたけど実際は違った。彼は茶封筒を俺に寄越してきたのだ。

「これ今までの金。画像も連絡先も消した……悪かったよ、もう関わらねえ」
「…………はぇ?」

 予想外すぎて間抜けな声が出た。
 え、何事? 奇跡?
 カネコさんは言うだけ言ってとぼとぼと帰っていく。
 呆然とその姿を見送った。
 カネコさんに何が起きたんだ? どうしておれにこんな都合のいいことが、急に起きるんだ?
 そこまで考えて、ひとつ、可能性に気付いた。

 奈留くんかもしれない。
 奈留くんが、おれを助けてくれたのか?

 茶封筒を皺が寄るほど握り締める。
 これから仕事なのに頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 どうしようもなく奈留くんが好きだって、そればかりが頭を巡っていた。
 もうだめだ。多分一生忘れられない。
 おれはきっと死ぬまで奈留くんを好きなままだ。





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