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第八章 異世界の中の異世界とか、本当に勘弁してほしいです
8.アレクシスの話①
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「われの持つものは甚大なる魔力のみで、それ以外はこの身ひとつでありました。親や兄弟なるものがいるかはわかりません。気づいたときには一人で路の上にいました。スヌキシュから遠く離れた寒い土地です。幼い私はある冬、石畳の道の上で凍えながら、誰に教えられずとも、自然と熱を守る魔法を使うことができていました。道行く人々は驚きながら、その魔法を売ってほしいとねだりました。おかげでその頃には、われの魔法は他の人間にはない特殊なものだと気づけていたのです。魔法を扱うことで口に糊しておりました。ひとつの町に長くいると、われを悪用しようとする人間もまたいたものでしたので、転々と場所を変え名を変え移り住んできました」
アレクシスはフローリングの床の上で、私は天井のシーリングライトのそばで、それぞれ体育すわりをしている。彼女は床を見ていて、私は彼女を見ている。
「多くの人は魔力を魔法に編みかえることに手間取るらしいのですが、幸いわれはそれが得手でありました。ひとつ例えてみましょう。毛糸玉を魔力とし、それを使って衣服を編み上げることが魔法で、それを着ることを魔法を使う、というように。われは尽きぬ毛糸玉を保有しているし、手引書を見ずとも複雑なタペストリまで編み上げることができるというわけです。おわかりか?」
たまや拓斗が魔法についてときどき話してくれていたので、なんとかぼんやりと想像することはできる。音楽センスのある人が、何を教わらなくても作曲できて楽器を使えちゃうようなものかな。
「ですから生きていくには困りません。金銭を得て書物を購い、より高度な魔法へ近づく修練をしたりもできました。どの土地に住んでもしばらくすると、どこかの国の大使だとかいう者どもが訪れては熱心にわれを連れていこうとしたが、すべて断りました。スヌキシュではそういう組織だった目的をもつ者はわれの家へ近づけないとする魔法も編み上げることができましたので、生活はいよいよ落ち着いたものです」
確かにククルージャで私みたいな奴隷がアレクシスの噂を聞けるくらいだ。そうとう有名で力のある魔女なんだろう。だとしたら各国のお偉いさん方が手に入れたがるのも納得ですわ。
そういう輩が近づけない魔法っていうのはさすがだなあと思う。きっと複雑な魔法なのだろう。私はエクセルのif関数を思い出した。複雑な状況に対して反応するようにするには、それに見合った複雑な式が必要なのだ。
「気づけば弟子もできていました。この弟子らはそれぞれわれに膝を折る理由は違えど、下種な目的は持っていなく、純粋に魔法を極めたいという誠実さがありました。時おり訪れる客、店番や家事をする弟子たち、魔法に没頭できる日々。悪くないものでありました」
私は目を閉じて想像してみた。砂に覆われる小さな村、魔法を求めてぽつりぽつりと訪れる家。たまや拓斗が働く中、あの薄暗いレンガの部屋で書物を読むアレクシス。穏やかな日常。
「だが、われは満たされなかった」
そこまで話して、彼女は頭痛をこらえるように額を手で覆った。
「われの中には空洞があったのです。いつのころからそれがあったのか、覚えてはおりません。胃の奥あたりにあるような、空腹にも似たそれの正体をわれはずっと探し続けました。美味なものを食してもいくら睡眠をとっても高度な魔法を編み出せても魔法を客から感謝されても、そんなものは無価値でありました。そこにぽっかりと空間があるように、ときどき軋むように痛み、震えるように響いては、われに空洞があることを知らしめてくる。わかりますか」
その問いかけは問いかけではなかった。アレクシスは自分で、それが誰にも理解されないものだと知っている。そういう口調だった。
そしてやっぱり、私にはわからないのだ。
「そしてわれはある日その空洞の名を知ったのです」
「空洞の名前」
そう、とアレクシスは痺れをこらえるようにゆっくりとうなずく。
「ある書物の中に。われは書物を買いに出かけることはなく、一定の金を書物家に払い続けているので、書物家はわれのためにさまざまな種類と分野の書物を選び届けに来るのです。とはいえだいたいは魔術書、科学書、歴史書や占星術書などでした。しかしある日届けられた書物の山のなか、珍しいものがありました。きっと書物家が何かと取り違えたのでしょう。普段はまず目にしない、物語が紛れこんでいました。何の知恵にもならないので、普段であれば手に取らず、次回に返品をしたでしょう。でもその日は雨だったんです」
私は戸惑った。雨?
「あ、雨って、あの雨のこと? 空から水が降る」
そう、とうなずいて、アレクシスは神経質そうに眉を動かした。そんなことをいちいち聞くなという煩わしさが見て取れた。私はちょっと肩をすくめて悪びれるふりをした。あんたの話は、ときどき突拍子もないんですよと言いたくもなったけど、我慢する。
「スヌキシュでは珍しいことだもんね。それで?」
「そう、珍しいことなのです。あんた、わかっていませんね? 本当に珍しいんですから」
私はうなずいて話を促す。不思議なところで意固地になるふしもあるな、この魔女。
「……そのようにして、非常に珍しいことが起こったものですから、普段ならばしないのですが、われは気まぐれにその物語を手に取ったわけです」
ちょっと早口になった口調に、私は合点がいく。物語を読んだのは珍しいことが起こったせいで、読みたかったわけではないと強調したかったのだ。
なんか、ふだんビジネス書とかIT関連本ばっか読む人が、漫画を買うの恥ずかしいみたいな照れ隠し?
「雨が降ったからね」
「そう、雨が降ったから」
私はちょっと呆れながら合いの手を入れれば、すかさず乗っかってくる。気になるなら気になるでいいのに。へんなプライドもあるのかな。
「……そしてそれを読んでわれは震えました。ある冒険小説でありました」
「冒険小説?」
それはずいぶん場違いなものに思えた。トム・ソーヤとか、宝島とか、小学校高学年向けの青い文庫本を思い出させるカテゴリーだ。
「家族も兄弟もわからない。恋人など簡単に失われる。だが友人は違う。われが求めていたのは、損なわれることのない友情であったのですよ」
そう言って恋に敗れた乙女のように魔女は笑った。
※
「友人」
思わず脱力したふうに呟いてしまった私を、彼女は気分を害したように鋭い視線で見た。
言葉にこそしなかったが、それを渇望するというのを理解できない私の感情を、彼女は余すことなく汲み取ったのだ。私はしまったと思ったけど時はすでに遅く、アレクシスは不愉快そうに眉を寄せた。それでも話を最後まで続けようと思ったのか、先を話してくれた。
「強く憧れました。いや、憧れなどという言葉ではとうてい表せられない。一種の飢餓のようなものだったのです。われは現実で人間と関わりを持ったことはあまりなかったから、そのから人間どうしの機微を学びました。そして書物家に、届ける書物の中に物語も混ぜるよう言いつけました。われは雨が降るたびに、一冊読むことにしたのです。そしていろいろな物語を読んでわかったことには、人が何に固執するか、その対象というのは実に人それぞれだということです。金、命、女などのありふれた対象から、書物の蒐集や旅や園芸など。中には大きな耳糞を取ることに恍惚を覚えるものだって」
その例えはどうかと思うが、まあわかる。人の趣味をどうこう言う権利など、神さまにだってありはしない。法律の範囲内なら。
「それ以来、物語を読むたびにいろんな人がいるものだと思っていたわれですが、最初の、その冒険の物語、友情を下敷きにしたものは別格です。読了した際は雷に打たれたようでした。そのような掛け値なしの、自分よりも相手を優先できるほどの、深い友人がほしい。その考えに支配されるようになったわけです」
彼女の友人への焦がれを想像するのは、私には難しかった。親友とまで呼べる友だちは私はいないように思うし(あるいはめぐみは親友と呼べるのかな? わからない)、とにかく彼女の言う「友人」は親友すらも超越した結びつきに聞こえる。何にしたって言葉の度合いが違うように思えてしまう。
「……たまや拓斗、ああ名前は違うんだったっけ。とにかくアレクシスには二人の弟子がいるじゃない。彼らは友人ではないの」
伺うように聞いてみれば、アレクシスはそれこそ話にならないというように眉を寄せた。寄せたのだと思う。小さい豆粒みたいだからよくわからない。
「彼らは弟子です。私との間にあるのは利害であって、友情ではありません」
なるほど。そういうものなのか。今の口調だと、信用はしているけどプライベートではありません、というような感じだった。どちらかというと職場仲間に近いのかもしれない。
「それに、われの求めるものが友情であるとも弟子たちには伝えていません」
「えっ、なんで?」
「なんでって」
間髪いれずに聞き返せば、アレクシスは困ったように口ごもった。それだけ欲しがっているなら口に出して言えばいいのにと思ったのだ。私のまわりの友だちだって、彼氏が欲しいだとかいい鞄が欲しいとか、気楽に言っていたし。
「……恥ずかしいではないですか」
アレクシスはそう言って顔を背けた。心から欲しいものを口に出すのが恥ずかしい?
私はこうしてアレクシスと会話をしながら、彼女がどういう人なのかを慎重に考えていた。拓斗は繊細だと言っていて、確かにそういうふしも感じられるけど、大切なのは対面したうえで私がどう感じるかのほうだから。今のところは、繊細でもあるかもしれないけど、やや偏屈な印象しかない。
「じゃあ、ずっとひっそりと友人を望み続けていたんだ」
それでその後は、と彼女の話を促してみる。気難しくも見える彼女が話をしてくれるというなら、まずは最後まで話してもらうのが先だ。
アレクシスはうなずいて、体育座りをしている足の先を見ながら言葉を続けた。
「望みながらも、われは友人を得るという実現への努力はできずにいました。店番は弟子たちに任せていたし、われは家から出なかった。昼間に睡眠をとり、夜に活動をし、そもそも人との接触を断っていたわけですからね。このままではよくないと思いつつも何かを変えることは怖かったから、そのままでいたのです。そうして夜に蝋燭の光で小説を読み重ねては、焦がれだけを募らせていました」
手に入らない何かへの憧れが強くなっていくというその気持ちはよくわかったので、私はうなずきながら続きを待った。アレクシスはまたひとつ息を吐いて、ゆっくりを目を伏せた。
「しかしある日、転機が訪れたのです。われは有頂天になりました。ずっと望み続けた存在を手に入れたと。愚かにも」
暗く沈んでいく彼女の小さな声を拾おうと、私はそっと目を閉じた。
アレクシスはフローリングの床の上で、私は天井のシーリングライトのそばで、それぞれ体育すわりをしている。彼女は床を見ていて、私は彼女を見ている。
「多くの人は魔力を魔法に編みかえることに手間取るらしいのですが、幸いわれはそれが得手でありました。ひとつ例えてみましょう。毛糸玉を魔力とし、それを使って衣服を編み上げることが魔法で、それを着ることを魔法を使う、というように。われは尽きぬ毛糸玉を保有しているし、手引書を見ずとも複雑なタペストリまで編み上げることができるというわけです。おわかりか?」
たまや拓斗が魔法についてときどき話してくれていたので、なんとかぼんやりと想像することはできる。音楽センスのある人が、何を教わらなくても作曲できて楽器を使えちゃうようなものかな。
「ですから生きていくには困りません。金銭を得て書物を購い、より高度な魔法へ近づく修練をしたりもできました。どの土地に住んでもしばらくすると、どこかの国の大使だとかいう者どもが訪れては熱心にわれを連れていこうとしたが、すべて断りました。スヌキシュではそういう組織だった目的をもつ者はわれの家へ近づけないとする魔法も編み上げることができましたので、生活はいよいよ落ち着いたものです」
確かにククルージャで私みたいな奴隷がアレクシスの噂を聞けるくらいだ。そうとう有名で力のある魔女なんだろう。だとしたら各国のお偉いさん方が手に入れたがるのも納得ですわ。
そういう輩が近づけない魔法っていうのはさすがだなあと思う。きっと複雑な魔法なのだろう。私はエクセルのif関数を思い出した。複雑な状況に対して反応するようにするには、それに見合った複雑な式が必要なのだ。
「気づけば弟子もできていました。この弟子らはそれぞれわれに膝を折る理由は違えど、下種な目的は持っていなく、純粋に魔法を極めたいという誠実さがありました。時おり訪れる客、店番や家事をする弟子たち、魔法に没頭できる日々。悪くないものでありました」
私は目を閉じて想像してみた。砂に覆われる小さな村、魔法を求めてぽつりぽつりと訪れる家。たまや拓斗が働く中、あの薄暗いレンガの部屋で書物を読むアレクシス。穏やかな日常。
「だが、われは満たされなかった」
そこまで話して、彼女は頭痛をこらえるように額を手で覆った。
「われの中には空洞があったのです。いつのころからそれがあったのか、覚えてはおりません。胃の奥あたりにあるような、空腹にも似たそれの正体をわれはずっと探し続けました。美味なものを食してもいくら睡眠をとっても高度な魔法を編み出せても魔法を客から感謝されても、そんなものは無価値でありました。そこにぽっかりと空間があるように、ときどき軋むように痛み、震えるように響いては、われに空洞があることを知らしめてくる。わかりますか」
その問いかけは問いかけではなかった。アレクシスは自分で、それが誰にも理解されないものだと知っている。そういう口調だった。
そしてやっぱり、私にはわからないのだ。
「そしてわれはある日その空洞の名を知ったのです」
「空洞の名前」
そう、とアレクシスは痺れをこらえるようにゆっくりとうなずく。
「ある書物の中に。われは書物を買いに出かけることはなく、一定の金を書物家に払い続けているので、書物家はわれのためにさまざまな種類と分野の書物を選び届けに来るのです。とはいえだいたいは魔術書、科学書、歴史書や占星術書などでした。しかしある日届けられた書物の山のなか、珍しいものがありました。きっと書物家が何かと取り違えたのでしょう。普段はまず目にしない、物語が紛れこんでいました。何の知恵にもならないので、普段であれば手に取らず、次回に返品をしたでしょう。でもその日は雨だったんです」
私は戸惑った。雨?
「あ、雨って、あの雨のこと? 空から水が降る」
そう、とうなずいて、アレクシスは神経質そうに眉を動かした。そんなことをいちいち聞くなという煩わしさが見て取れた。私はちょっと肩をすくめて悪びれるふりをした。あんたの話は、ときどき突拍子もないんですよと言いたくもなったけど、我慢する。
「スヌキシュでは珍しいことだもんね。それで?」
「そう、珍しいことなのです。あんた、わかっていませんね? 本当に珍しいんですから」
私はうなずいて話を促す。不思議なところで意固地になるふしもあるな、この魔女。
「……そのようにして、非常に珍しいことが起こったものですから、普段ならばしないのですが、われは気まぐれにその物語を手に取ったわけです」
ちょっと早口になった口調に、私は合点がいく。物語を読んだのは珍しいことが起こったせいで、読みたかったわけではないと強調したかったのだ。
なんか、ふだんビジネス書とかIT関連本ばっか読む人が、漫画を買うの恥ずかしいみたいな照れ隠し?
「雨が降ったからね」
「そう、雨が降ったから」
私はちょっと呆れながら合いの手を入れれば、すかさず乗っかってくる。気になるなら気になるでいいのに。へんなプライドもあるのかな。
「……そしてそれを読んでわれは震えました。ある冒険小説でありました」
「冒険小説?」
それはずいぶん場違いなものに思えた。トム・ソーヤとか、宝島とか、小学校高学年向けの青い文庫本を思い出させるカテゴリーだ。
「家族も兄弟もわからない。恋人など簡単に失われる。だが友人は違う。われが求めていたのは、損なわれることのない友情であったのですよ」
そう言って恋に敗れた乙女のように魔女は笑った。
※
「友人」
思わず脱力したふうに呟いてしまった私を、彼女は気分を害したように鋭い視線で見た。
言葉にこそしなかったが、それを渇望するというのを理解できない私の感情を、彼女は余すことなく汲み取ったのだ。私はしまったと思ったけど時はすでに遅く、アレクシスは不愉快そうに眉を寄せた。それでも話を最後まで続けようと思ったのか、先を話してくれた。
「強く憧れました。いや、憧れなどという言葉ではとうてい表せられない。一種の飢餓のようなものだったのです。われは現実で人間と関わりを持ったことはあまりなかったから、そのから人間どうしの機微を学びました。そして書物家に、届ける書物の中に物語も混ぜるよう言いつけました。われは雨が降るたびに、一冊読むことにしたのです。そしていろいろな物語を読んでわかったことには、人が何に固執するか、その対象というのは実に人それぞれだということです。金、命、女などのありふれた対象から、書物の蒐集や旅や園芸など。中には大きな耳糞を取ることに恍惚を覚えるものだって」
その例えはどうかと思うが、まあわかる。人の趣味をどうこう言う権利など、神さまにだってありはしない。法律の範囲内なら。
「それ以来、物語を読むたびにいろんな人がいるものだと思っていたわれですが、最初の、その冒険の物語、友情を下敷きにしたものは別格です。読了した際は雷に打たれたようでした。そのような掛け値なしの、自分よりも相手を優先できるほどの、深い友人がほしい。その考えに支配されるようになったわけです」
彼女の友人への焦がれを想像するのは、私には難しかった。親友とまで呼べる友だちは私はいないように思うし(あるいはめぐみは親友と呼べるのかな? わからない)、とにかく彼女の言う「友人」は親友すらも超越した結びつきに聞こえる。何にしたって言葉の度合いが違うように思えてしまう。
「……たまや拓斗、ああ名前は違うんだったっけ。とにかくアレクシスには二人の弟子がいるじゃない。彼らは友人ではないの」
伺うように聞いてみれば、アレクシスはそれこそ話にならないというように眉を寄せた。寄せたのだと思う。小さい豆粒みたいだからよくわからない。
「彼らは弟子です。私との間にあるのは利害であって、友情ではありません」
なるほど。そういうものなのか。今の口調だと、信用はしているけどプライベートではありません、というような感じだった。どちらかというと職場仲間に近いのかもしれない。
「それに、われの求めるものが友情であるとも弟子たちには伝えていません」
「えっ、なんで?」
「なんでって」
間髪いれずに聞き返せば、アレクシスは困ったように口ごもった。それだけ欲しがっているなら口に出して言えばいいのにと思ったのだ。私のまわりの友だちだって、彼氏が欲しいだとかいい鞄が欲しいとか、気楽に言っていたし。
「……恥ずかしいではないですか」
アレクシスはそう言って顔を背けた。心から欲しいものを口に出すのが恥ずかしい?
私はこうしてアレクシスと会話をしながら、彼女がどういう人なのかを慎重に考えていた。拓斗は繊細だと言っていて、確かにそういうふしも感じられるけど、大切なのは対面したうえで私がどう感じるかのほうだから。今のところは、繊細でもあるかもしれないけど、やや偏屈な印象しかない。
「じゃあ、ずっとひっそりと友人を望み続けていたんだ」
それでその後は、と彼女の話を促してみる。気難しくも見える彼女が話をしてくれるというなら、まずは最後まで話してもらうのが先だ。
アレクシスはうなずいて、体育座りをしている足の先を見ながら言葉を続けた。
「望みながらも、われは友人を得るという実現への努力はできずにいました。店番は弟子たちに任せていたし、われは家から出なかった。昼間に睡眠をとり、夜に活動をし、そもそも人との接触を断っていたわけですからね。このままではよくないと思いつつも何かを変えることは怖かったから、そのままでいたのです。そうして夜に蝋燭の光で小説を読み重ねては、焦がれだけを募らせていました」
手に入らない何かへの憧れが強くなっていくというその気持ちはよくわかったので、私はうなずきながら続きを待った。アレクシスはまたひとつ息を吐いて、ゆっくりを目を伏せた。
「しかしある日、転機が訪れたのです。われは有頂天になりました。ずっと望み続けた存在を手に入れたと。愚かにも」
暗く沈んでいく彼女の小さな声を拾おうと、私はそっと目を閉じた。
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