醜く美しいものたちはただの女の傍でこそ憩う

ふぁんたず

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第一章 認めたくないが、異世界です

13.目指すは奴隷からの開放! そして慣れゆく異世界生活

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 結論から言うと、私の提案は全面的に受け入れられた。

 つまりは、こうだ。

・私は炊事、洗濯、料理、その他の家事を担う。
・働きぶりに応じて、私の奴隷購入金額から差し引いていく。その購入額がゼロになれば、自由。
・いつかは四人それぞれに抱かれる。

 一つ目は、まあなんとかなると思う。
 いちおう一人暮らし暦も長いし、人並み程度にはこなせる。裁縫以外なら。

 二つ目が、聞くところ遠い道のりだ。
 私のお値段は、ずばり三百デナルイ銀貨。
 何言ってるの? となるので、簡単に言うと、この世界にも、10000円、500円、100円、50円、それぞれに当たる硬貨がある。
 それぞれ、デナルイ銀貨、アサリオン硬貨、プルタ硬貨、レプタ硬貨だ。
 正確に言うなら、タラントン金貨もあるらしいが、たぶん一枚500万以上だから、記憶から消去することにした。誰が使うっていうんだ。

 でもって、一日の日雇い労働者がもらう金額はおよそ1デナルイ銀貨。つまり日給1万円だ。そこそこだろうか。
 大事なのは、私が三百デナルイ銀貨したということ。
 三百かけるいちまん……つまり、日本円で三百万円!!

 安いの? 高いの? まあ、私の貨幣換算が間違っている可能性もあるのだが。
 幸か不幸か、労働基準法はない。毎日フルで働いて、一年以内に返済できるかな。

 なんにしろ、こういう目安がわかるとすごく安心する。
 どんなときでも自分の立ち位置と目的地がわかれば、いろいろ見えてくるものなんだなあ。学校とか会社で、「今期の目標」なるものはいつも持たされたが、それがこういう場面で役立つなんて。当時は意味もわからず適当にやり過ごしていたので、とても皮肉なことである。

 さて、問題は三つ目だ。
 なかなかにシビアだ。でも無理やりはしない、とも言ってくれた。こちらは、働きながらおいおい考えよう……。

 そういうわけで、私の異世界労働生活は始まった。







 そして私は、現代日本の恩恵を、ひしひしと感じることになる。

 ます水道のありがたさ!
 すごいよね、すごすぎるよね。きゅっとひねってどばっと水が出るのって。

 ここではもちろん水道なんてものはない。この城塞都市のなかに、いくつか井戸ポイントがあって、汲んでこなければならない。
 井戸の汲み上げも、最初は「よく映画とかでみる……」と楽しんだけど、二杯目からは手のひらに食い込む縄が痛いのなんの。水ってこんなに重かったか、こ泣きじじいが桶に入ってる、というくらいである。
 それを手持ちの水甕に移しいれ、家まで持っていく。水瓶も持ちづらいったらない。これを数回やるだけで、へとへとになる。

 それから当然、ガスコンロもない。すごく厄介だ。
 かまどで火をおこすのも一苦労だけど、(幸い、マッチのようなものはあるので、それは使える)それを消さないように常に意識しておく必要がある。

 強火、弱火の調節とか、素人にできるわけないです……。

 調理器具も、まあ材料がこびりつくこと。
 そのこびりつきを落とすために洗うにも、たわしみたいなものも質が悪くて、ぜんぜん落ちない。

 料理ひとつするのにも、ものすごく時間と手間がかかる。ユーリオットさんが外食するときにろくなものを出されないと言っていたので、自炊すればいいのにと軽々しく思ったことを反省した。
 傭兵のお仕事しながら、こんなに手間のかかることってできないに決まっている。

 この家そのものは、ギルドが融通する物件で、生活に必要なものはそろっていたのはありがたい。
 レオハレスみたいなものかな?
 阿止里(あとり)さんたちは、この都市に入ろうとしてくる魔獣を追い払うという仕事で、ここに来ていたようだ。
 昼間から夜にかけて、彼らは仕事に出る。
 その間、私は一人でもろもろの家事だ。
 電化製品に頼れないため、ひとつのことを完遂するのに恐ろしく時間がかかる。ああ、洗濯機がほしい。二層式のでいいからほしい。
 なんなら手回しのでもいいからほしい。(歴史の教科書に載ってた、三種の神器ってやつだ)

 トイレだって、トイレットペーパーはない。
 普通なら、植物の葉っぱとか使えるかなと思うが、ここは砂漠のど真ん中の交易都市だ。緑豊かとは程遠い。
 みなまでいうな。棒をつかうよ……。

 歯磨きは、乾燥させたラグイの毛(カピバラみたいな家畜だ)を束ね、貝殻を砕いた粉末をつけて磨くのが主流。理科でならった、重曹みたいなやつかな。アルカリ性独特の苦味がある。

 水浴びは、そもそもみんなあまりしないみたい。ぬらして絞った布で拭く程度だ。
 水の国日本で育った私には、とうてい我慢できないので、二日に一度はたらいにがんばって水を張り、済ませている。
 ああ、暖かいお風呂って天国だったんだ……。

 そのようにして、私は少しずつ――拓斗が私の家の生活に慣れていくように――この世界を受け入れていった。

 トイレのとき、”つぼ”に用を足して捨てに行くのだけは、受け入れ難いけどね!


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