78 / 97
第七章 異世界であろうと、夢は見るようです
6.刺繍の時間ですが、どうやら私には向かないようです
しおりを挟む
それからも夢は私の中に忍んでくる。
逃れられない私は少女の心情を共有しながら、ナラ・ガルさんの過去に触れる。
『嫌よ! なんであたしがナラ・ガルと婚姻しなければならないの?』
少女の憤りの感情が、望んでもいないのに押し寄せてくる。夢の中の私は彼女の感情という部屋の片隅に体育座りする状態なので、いやでも伝わってきてしまう。
目の前に座っている老婆はネハとは対照的に、まるで深い森の中にある一本の大木のように動じなかった。
『ネハ。もうすぐおまえも名を得るだろう。男と一緒になり、子を産みなさい』
『だからってなぜナラ・ガルなの。プリャだって知っているくせに。あたしはあいつが大嫌いなのよ』
こぶしを握って肩を震わせるネハという少女は、まえに夢で見たときよりも成長しているようだ。耳に届く声がいくぶん低い。プリャと呼ばれた老女は静かな瞳でネハを見つめている。ほんとうに? というように。ネハはその視線を受けて、ほとんど地団駄を踏む勢いで叫んだ。
『プリャは何もわかってない。あたしにはわかるのよ、あいつはただの亡霊なんだから。得体の知れない化け物だわ!』
言い捨ててネハは家の外へ飛び出した。あの重いマットの仕切りを引きちぎる勢いで出て行くと、薪をいくつか抱えたナラ・ガルさんとぶつかりそうになる。からん、と薪が落ちる乾いた音。
身長の伸び止まったネハとは対照的に、ナラ・ガルさんはすでに頭が天井に届く勢いだ。若木のように伸びやかな四肢。
ネハの言葉が聞こえていたのだろう、気後れしたように眉を下げる。
ネハの感情が揺らいだ。怒りから戸惑い、苛立ち、もどかしさへと――それから、悲しみ?
ナラ・ガルさんはただ申し訳なさそうに目を伏せて落ちた薪を拾おうとした。ネハの怒りの原因が自分であると知っているのだろう。
焦れったい気持ちが流れ込む。
いつもそうだ、と心の声がこだまする。こいつはいつも女というものを遠くから守るだけ守って、自分の気持ちを表に出さない。そんなのは生きたまま死んでいるようなものだ。もっと感じたままを言えばいいのに。
少女はそう思っている。
『あんたのそういうところが一番きらいよ。あんたは何もかもを、見ているようで見てなんかいないんだわ』
あたしが何を望んでいるかも、知ろうともせず。
はっとしたように顔を上げるナラ・ガルさんを置いて、ネハは暮れゆく草原を駆け登っていく。
場違いかもしれないが、私は彼女の視点で仮家の外に出てネハの視力の良さに驚いた。両目1.5の私だったが、山育ちのネハは世界が違う。はるか遠くの梢にとまる鳥の数までわかるようだった。
そして高原の中に一本だけある大木に抱きつくようにして頬を摺り寄せる。同時にネハの心がとたんに凪いでいくのを感じた。巫とはこういうふうに世界を感じるのだろうか。
木の根が水を吸い上げ、枝から葉の先までめぐる脈々とした音。よそ者である私には口では言い表せない不可思議な感覚に包まれる。
あるいはそれは山の奥、人の立ちいらない朽ち果てた神社に足を踏み入れたかのような。
たまが魔力が響きにくい、澄んだ場所だと言っていたが、あるいはそれはここの土地が持つ力のせいなのだろうか。
私はネハの感情の波に揺られ、苛立ちの原因がナラ・ガルさんであることはわかったけど、その奥深い理由は明確な形を持っていなくて理解することはできなかった。
結局ふたりはまったく歩み寄ることのないまま許婚となる。ネハが真名を手に入れたときに夫婦になると決められた。
しかし、その時は来なかった。
※
「後味が、悪い!」
私は目が覚めるたび、開口いちばんにため息をつく。
誰だって言いたくないこと、知られたくないことのひとつやふたつあるはずだ。きっと彼の心に眠るであろうそれを、私は目を塞ぐこともできずただ眺めている。
ナラ・ガルさんの私への態度も依然として堅いままだ。
私はのろのろと着替えながら、改めてナラ・ガルさんについて考えた。
これは私の予想だけど。
ユーリオットさんや月花とは違って、ナラ・ガルさんは成人した大人である。そのぶん、ひとりの時間もまた長かった。だからこそ余計に他人との距離を簡単に崩したくないのではないかと思うのだ。それは私が会社にいたときも同じだったからよくわかる。
たとえば休みの日に何してるのとか、個人的なことを聞かれてちょっとめんどくさいと感じるとする。その場合は普段から、そういうことを聞かないで下さいという雰囲気を出しておくのだ。そういう人だと一度見なされてしまえば、あとは誰も踏み込んでこない、決まった距離が出来上がるから。
ただ今回はそうはいかない。もちろん日本に帰りたい、拓斗ともふりたいという感情が先には立つけど、今の私はこの世界で出会い助けてももらった彼らにきちんと向き合って、できることなら前向きに過ごしてほしいと思っているのだ。
だから私はナラ・ガルさんが嫌な気持ちにならないような距離感を保ちつつ、でもどうせなら一緒に楽しく過ごしたくて、彼の好きなことに興味を持とうとしてみた。
残念ながらというか、彼の好きなことと言えば。
「……私もやってみようかな」
他にやることもないし、という言葉は飲み込んで、今日も今日とて刺繍に没頭するナラ・ガルさんの隣でそう呟けば、彼の金色の瞳がきらりと光った。
いそいそと彼の部屋へ行き、そんなにその部屋に収納できていたのかという信じられない量のはぎれの山を持ってきて、このときばかりは満面の喜色をのせて普段の距離もなんのその、あれこれと教えてくれた。人とは自分の好きなことを話すとき、こんなにいい顔になるのである。
「ひとくちに刺繍といってもいろんな刺し方があってね。人それぞれ得意は違うから、好きななやつをたくさんやるといいんだ。まずは初めて刺繍をするときの手習いの型から。これをまねしてやってみてごらん」
そう言って差し出されたのは、シンプルな一輪の花が縁取られたコースターくらいの見本の布だ。レベル1といったところか。
正方形の茶色い布に、緑色の葉と茎、それから花弁は水色っぽい水仙のような植物がすっきりと咲いている。
刺繍ってまじまじ見たことないけど、ひたすら糸を往復させたりくぐらせたりして模様を浮かび上がらせているんだ。
おそるおそる葉っぱから初めてみたが、布の表面から刺して裏から引き抜くのにも五秒くらいかかる。そしてまた裏から差し込む位置をずれないように確認して、表面へ戻ってくる。
これだけでかなりの時間がかかった。ようやく一目。肩もこったし首も目も疲れたんですけど。私は完成までの道のりを思いくらりとした。これで手習い?
「な、ナラ・ガルさん。これって慣れるまですごく疲れますね。ちょっと休みたいっていうか」
「あとで揉みほぐしてあげる。大丈夫、俺は上手に疲れを取れるよ」
「私にかまってばかりで、ご自分のができてないですね? 申し訳ないのでどうぞ進めてください」
「うん、だからあなたが一人でもできるようになったら俺は自分のを縫い始めるよ。さあ続けよう」
逃げ場なし。
私は腹をくくってひとつ深呼吸して、やったるわいと再び針を手に取った。
そのまましばらく、ちくちくと見よう見まねで進めてみる。沈黙の中でふたりして小さな布を覗き込み、私が間違うとナラ・ガルさんの巨体がぴくりと揺れる。私は慌てて針から糸を引き抜いて、反対側から糸を引きずり出す。間違いひとつ直すにもすさまじい労力が必要だ。
それをひたすら繰り返す。なんともいえない沈黙が横たわった。
ようやく葉の部分が出来上がった。見本はチューリップの葉っぱのように美しい平行脈なのに、私のは道路で干からびた業務用手袋みたいになっている。
「……ほら。さっきも言ったけど、得手不得手あるわけで。誰しも経験を積む必要があるわけだし」
ナラ・ガルさんは辛抱強く微笑んだが、できる気がしない。私は変な疲労でくたくたである。日本でもふとんカバーとかハンカチとか刺繍されてるものもあったけど、あれってすごい手間がかかっているんだなあ。いわんや着物をや。
まあ時間はあることだし、しょうがない、自分で言い出したことだ! と息巻いて私は取り組んだ。すごくまじめに取り組んだ。次の見本はレベル2の羽ばたく鳥。ピンクっぽい色でかわいい。
なんだ、さっきのより簡単そうではないか。一色だし。私は気安く考えて意気揚々と針を取る。
結果、ナラ・ガルさんなら数十分で終わるものに一日かかったうえ、出来上がったのは名のある抽象画家が口で描いたミジンコみたいになった。
ナラ・ガルさんは始終フォローをしてくれたが、頭の中の「この子どうしよう」感はごまかせていなかった。
得手不得手と彼は言うが、私の得手はどこにある。
※
そんなふうに日々は過ぎていった。
打ち解けるというよりは、どちらかというと馴染むように過ごすことができているかもしれない。
多くを言わなくても何をしたいかわかるだとか、こういうことを考えているのかなだとか。少しずつだけど彼の表情も和らいでいっているようにも見えた。
だけど楽しそうに表情を崩した次の瞬間には、彼ははっとしたように表情を凍らせて、また殻にこもるように私を遠ざける。まるで自分が楽しむことに罪悪感でも覚えているように。
そして彼は毎日欠かさず、朝と夕方に仮家を上った先にある大木のふもとの石へ足を運ぶ。黄色い花を持って。
その石が何なのかを聞けば、今の彼は話してくれるのかもしれないけど、私は聞かないでいる。
彼が自分から話したいと思わなければ、何も変わらないのだ。
「次はね、これ。この模様が大事。どの図案にも入れられるやつでね」
「……」
私の刺繍の腕も、あまり変わらないんだけど。
逃れられない私は少女の心情を共有しながら、ナラ・ガルさんの過去に触れる。
『嫌よ! なんであたしがナラ・ガルと婚姻しなければならないの?』
少女の憤りの感情が、望んでもいないのに押し寄せてくる。夢の中の私は彼女の感情という部屋の片隅に体育座りする状態なので、いやでも伝わってきてしまう。
目の前に座っている老婆はネハとは対照的に、まるで深い森の中にある一本の大木のように動じなかった。
『ネハ。もうすぐおまえも名を得るだろう。男と一緒になり、子を産みなさい』
『だからってなぜナラ・ガルなの。プリャだって知っているくせに。あたしはあいつが大嫌いなのよ』
こぶしを握って肩を震わせるネハという少女は、まえに夢で見たときよりも成長しているようだ。耳に届く声がいくぶん低い。プリャと呼ばれた老女は静かな瞳でネハを見つめている。ほんとうに? というように。ネハはその視線を受けて、ほとんど地団駄を踏む勢いで叫んだ。
『プリャは何もわかってない。あたしにはわかるのよ、あいつはただの亡霊なんだから。得体の知れない化け物だわ!』
言い捨ててネハは家の外へ飛び出した。あの重いマットの仕切りを引きちぎる勢いで出て行くと、薪をいくつか抱えたナラ・ガルさんとぶつかりそうになる。からん、と薪が落ちる乾いた音。
身長の伸び止まったネハとは対照的に、ナラ・ガルさんはすでに頭が天井に届く勢いだ。若木のように伸びやかな四肢。
ネハの言葉が聞こえていたのだろう、気後れしたように眉を下げる。
ネハの感情が揺らいだ。怒りから戸惑い、苛立ち、もどかしさへと――それから、悲しみ?
ナラ・ガルさんはただ申し訳なさそうに目を伏せて落ちた薪を拾おうとした。ネハの怒りの原因が自分であると知っているのだろう。
焦れったい気持ちが流れ込む。
いつもそうだ、と心の声がこだまする。こいつはいつも女というものを遠くから守るだけ守って、自分の気持ちを表に出さない。そんなのは生きたまま死んでいるようなものだ。もっと感じたままを言えばいいのに。
少女はそう思っている。
『あんたのそういうところが一番きらいよ。あんたは何もかもを、見ているようで見てなんかいないんだわ』
あたしが何を望んでいるかも、知ろうともせず。
はっとしたように顔を上げるナラ・ガルさんを置いて、ネハは暮れゆく草原を駆け登っていく。
場違いかもしれないが、私は彼女の視点で仮家の外に出てネハの視力の良さに驚いた。両目1.5の私だったが、山育ちのネハは世界が違う。はるか遠くの梢にとまる鳥の数までわかるようだった。
そして高原の中に一本だけある大木に抱きつくようにして頬を摺り寄せる。同時にネハの心がとたんに凪いでいくのを感じた。巫とはこういうふうに世界を感じるのだろうか。
木の根が水を吸い上げ、枝から葉の先までめぐる脈々とした音。よそ者である私には口では言い表せない不可思議な感覚に包まれる。
あるいはそれは山の奥、人の立ちいらない朽ち果てた神社に足を踏み入れたかのような。
たまが魔力が響きにくい、澄んだ場所だと言っていたが、あるいはそれはここの土地が持つ力のせいなのだろうか。
私はネハの感情の波に揺られ、苛立ちの原因がナラ・ガルさんであることはわかったけど、その奥深い理由は明確な形を持っていなくて理解することはできなかった。
結局ふたりはまったく歩み寄ることのないまま許婚となる。ネハが真名を手に入れたときに夫婦になると決められた。
しかし、その時は来なかった。
※
「後味が、悪い!」
私は目が覚めるたび、開口いちばんにため息をつく。
誰だって言いたくないこと、知られたくないことのひとつやふたつあるはずだ。きっと彼の心に眠るであろうそれを、私は目を塞ぐこともできずただ眺めている。
ナラ・ガルさんの私への態度も依然として堅いままだ。
私はのろのろと着替えながら、改めてナラ・ガルさんについて考えた。
これは私の予想だけど。
ユーリオットさんや月花とは違って、ナラ・ガルさんは成人した大人である。そのぶん、ひとりの時間もまた長かった。だからこそ余計に他人との距離を簡単に崩したくないのではないかと思うのだ。それは私が会社にいたときも同じだったからよくわかる。
たとえば休みの日に何してるのとか、個人的なことを聞かれてちょっとめんどくさいと感じるとする。その場合は普段から、そういうことを聞かないで下さいという雰囲気を出しておくのだ。そういう人だと一度見なされてしまえば、あとは誰も踏み込んでこない、決まった距離が出来上がるから。
ただ今回はそうはいかない。もちろん日本に帰りたい、拓斗ともふりたいという感情が先には立つけど、今の私はこの世界で出会い助けてももらった彼らにきちんと向き合って、できることなら前向きに過ごしてほしいと思っているのだ。
だから私はナラ・ガルさんが嫌な気持ちにならないような距離感を保ちつつ、でもどうせなら一緒に楽しく過ごしたくて、彼の好きなことに興味を持とうとしてみた。
残念ながらというか、彼の好きなことと言えば。
「……私もやってみようかな」
他にやることもないし、という言葉は飲み込んで、今日も今日とて刺繍に没頭するナラ・ガルさんの隣でそう呟けば、彼の金色の瞳がきらりと光った。
いそいそと彼の部屋へ行き、そんなにその部屋に収納できていたのかという信じられない量のはぎれの山を持ってきて、このときばかりは満面の喜色をのせて普段の距離もなんのその、あれこれと教えてくれた。人とは自分の好きなことを話すとき、こんなにいい顔になるのである。
「ひとくちに刺繍といってもいろんな刺し方があってね。人それぞれ得意は違うから、好きななやつをたくさんやるといいんだ。まずは初めて刺繍をするときの手習いの型から。これをまねしてやってみてごらん」
そう言って差し出されたのは、シンプルな一輪の花が縁取られたコースターくらいの見本の布だ。レベル1といったところか。
正方形の茶色い布に、緑色の葉と茎、それから花弁は水色っぽい水仙のような植物がすっきりと咲いている。
刺繍ってまじまじ見たことないけど、ひたすら糸を往復させたりくぐらせたりして模様を浮かび上がらせているんだ。
おそるおそる葉っぱから初めてみたが、布の表面から刺して裏から引き抜くのにも五秒くらいかかる。そしてまた裏から差し込む位置をずれないように確認して、表面へ戻ってくる。
これだけでかなりの時間がかかった。ようやく一目。肩もこったし首も目も疲れたんですけど。私は完成までの道のりを思いくらりとした。これで手習い?
「な、ナラ・ガルさん。これって慣れるまですごく疲れますね。ちょっと休みたいっていうか」
「あとで揉みほぐしてあげる。大丈夫、俺は上手に疲れを取れるよ」
「私にかまってばかりで、ご自分のができてないですね? 申し訳ないのでどうぞ進めてください」
「うん、だからあなたが一人でもできるようになったら俺は自分のを縫い始めるよ。さあ続けよう」
逃げ場なし。
私は腹をくくってひとつ深呼吸して、やったるわいと再び針を手に取った。
そのまましばらく、ちくちくと見よう見まねで進めてみる。沈黙の中でふたりして小さな布を覗き込み、私が間違うとナラ・ガルさんの巨体がぴくりと揺れる。私は慌てて針から糸を引き抜いて、反対側から糸を引きずり出す。間違いひとつ直すにもすさまじい労力が必要だ。
それをひたすら繰り返す。なんともいえない沈黙が横たわった。
ようやく葉の部分が出来上がった。見本はチューリップの葉っぱのように美しい平行脈なのに、私のは道路で干からびた業務用手袋みたいになっている。
「……ほら。さっきも言ったけど、得手不得手あるわけで。誰しも経験を積む必要があるわけだし」
ナラ・ガルさんは辛抱強く微笑んだが、できる気がしない。私は変な疲労でくたくたである。日本でもふとんカバーとかハンカチとか刺繍されてるものもあったけど、あれってすごい手間がかかっているんだなあ。いわんや着物をや。
まあ時間はあることだし、しょうがない、自分で言い出したことだ! と息巻いて私は取り組んだ。すごくまじめに取り組んだ。次の見本はレベル2の羽ばたく鳥。ピンクっぽい色でかわいい。
なんだ、さっきのより簡単そうではないか。一色だし。私は気安く考えて意気揚々と針を取る。
結果、ナラ・ガルさんなら数十分で終わるものに一日かかったうえ、出来上がったのは名のある抽象画家が口で描いたミジンコみたいになった。
ナラ・ガルさんは始終フォローをしてくれたが、頭の中の「この子どうしよう」感はごまかせていなかった。
得手不得手と彼は言うが、私の得手はどこにある。
※
そんなふうに日々は過ぎていった。
打ち解けるというよりは、どちらかというと馴染むように過ごすことができているかもしれない。
多くを言わなくても何をしたいかわかるだとか、こういうことを考えているのかなだとか。少しずつだけど彼の表情も和らいでいっているようにも見えた。
だけど楽しそうに表情を崩した次の瞬間には、彼ははっとしたように表情を凍らせて、また殻にこもるように私を遠ざける。まるで自分が楽しむことに罪悪感でも覚えているように。
そして彼は毎日欠かさず、朝と夕方に仮家を上った先にある大木のふもとの石へ足を運ぶ。黄色い花を持って。
その石が何なのかを聞けば、今の彼は話してくれるのかもしれないけど、私は聞かないでいる。
彼が自分から話したいと思わなければ、何も変わらないのだ。
「次はね、これ。この模様が大事。どの図案にも入れられるやつでね」
「……」
私の刺繍の腕も、あまり変わらないんだけど。
0
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【美醜逆転】ポジティブおばけヒナの勘違い家政婦生活(住み込み)
猫田
恋愛
『ここ、どこよ』
突然始まった宿なし、職なし、戸籍なし!?の異世界迷子生活!!
無いものじゃなく、有るものに目を向けるポジティブ地味子が選んだ生き方はーーーーまさかの、娼婦!?
ひょんなことから知り合ったハイスペお兄さんに狙いを定め……なんだかんだで最終的に、家政婦として(夜のお世話アリという名目で)、ちゃっかり住み込む事に成功☆
ヤル気があれば何でもできる!!を地で行く前向き女子と文句無しのハイスペ醜男(異世界基準)との、思い込み、勘違い山盛りの異文化交流が今、始まる……
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる