Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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新米大賢者の私は、小さな過去の夢を見る《前編》

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 深く、暗い謎の空間。

 ここはいったいどこなのだろう。

 記憶が正しければ、私はレンと一緒にスレイヴスネークと戦っていたはず。

 そうだ。思い出した。
 確か戦闘の最中にレンがスレイヴスネークを倒すための作戦を提案してきたんだった。

 それから……それからどうなったんだっけ。

 レンの声は聞こえたような気はしたけど、なんて言ってたかは聞き取れなかったな。そうだ、きっと私は疲れてしまって寝ているのだろう。

 きっとそうに違いない。そうでなきゃ、こんな暗くてなにも無い場所に居るはずがないんだから。

 そう言えば、レンは私が《大賢者》のスキルを所有してることをまだ完全に信じてくれてなかったな。

 私のお腹にある紋章を見せればいいんだけど、場所が場所だから恥ずかしいし……。

 …あれ? ていうか、そもそもなんで私は《大賢者》のスキルを取得したんだっけ──?





───────────





 カーテンの隙間から日差しが差し込み、暗い部屋を明るく照らしていく。その部屋には1人の少女がフカフカな布団に包まって幸せそうにヨダレを垂らしながら静かに寝息を立てていた。

 時間で言うと8時を超えているだろう。大人達が仕事をし、子供たちは学校に通って勉学に励む中、その少女はいつまで経っても布団から出ようとせず、いつまでも夢の世界を冒険していた。

「こら、リルネスタ。起きなさい! 今何時だと思ってるの!?」

「ん~……あと少しだけ寝かせて……」

「はぁ、あんたの少しは1時間を超えるでしょ!? ほら、早く朝ごはんを食べないと冷めて美味しく無くなっちゃうわよ?」

「むぅ、ご飯……?」

 リルネスタはボサボサになった髪をかき分けて適当に髪留めを留めた後、目を擦りながら階段を下りて1回の居間へと向かう。

 そんなリルネスタを見てリルネスタの母親シェスカは呆れ半分のため息を吐きつつも、リルネスタのご飯を盛るためその丸まった背中を追い、階段を下りていく。

「ねぇお母さん。今日も魔法の稽古する?」

「当たり前でしょ。リルネスタは魔法の腕もセンスもあるんだから。それに、あんたは将来私のように冒険者になりたいんでしょ? だったら毎日のように頑張って私を超えて見せなさい。はい、ご飯よ」

 シェスカからご飯の盛られた茶碗を受け取ったリルネスタは眠たそうな声でお礼を言い、箸を使って口に運んでいく。

 そして茶碗を起き、今度は白い湯気の立つ味噌汁が入った茶碗を手に取り、口の中に残ったお米ごとお腹の中へ流し込んだ。

「もう、そんなに急いで食べたら喉に詰まらせるわよ?」

「だって、早くお母さんよりもすごい魔法使いになりたいんだもん! ……それより、今日もお父さんはギルドの仕事?」

「えぇ、そうよ。今日はAランクに上がれるかもしれないって言って朝から意気揚々と家を出てったわ。もうすぐ冒険者になって10年目だし、そろそろAランクには行きたいって言ってたわ」

「ふーん、そっか。お父さんも大変なんだね」

 リルネスタの父親であるフェイデルはリルネスタの住む村にある冒険者ギルドで働き続ける立派な冒険者であった。

 冒険者ギルドといっても数十人程度しか冒険者がいない小規模なギルドであったが、フェイデルはその中でBランク冒険者というかなり熟練の冒険者として、前線に出たり新人に冒険者としてのイロハを教えるなどしていた。

 ちなみにシェスカはこの小さな街──通称 《ルーテイク》で生まれ育った身で、フェイデルとはクエスト先で出会ったのである。

 最初は会話という会話はなかったものの、フェイデルが敵に肉薄して注目を集め、シェスカがその隙を突いて魔法を放つなどの連携をしてる内に惹かれ合い、今に至るのである。

「そういえばお母さんも昔は冒険者だったんでしょ? なんで引退しちゃったの?」

「そりゃ、あんたが生まれたからよ。最初はあんたを友達の家に預けて冒険者稼業を続けようとしたんだけどあの人フェイデルが許してくれなかったのよ」

「へ~、お母さんのこと心配してたんだね」

「まぁ、それを知ったのは少し前なんだけどね。って、そんな話はいいでしょ。早くご飯を食べなさい。私は裏庭で待ってるから、ちゃんと着替えてくるのよ」

 早めに朝食を食べ終えたシェスカは自室へと戻り、魔法の稽古をするために準備を始めていた。

 一方のリルネスタは未だに美味しい料理を呑気に頬張っていた。よっぽどシェスカの料理が美味しいのだろう。リルネスタは1口食べる度に幸せそうな表情を浮かべ、悦に浸っていた。

「ごちそうさまでした。よーし、今日も頑張るぞ!」

 食べ終えた皿を流し台に運び、気合を入れたリルネスタは軽い足取りで2階の自室へ向かい、魔法の訓練をするために服を着替える。

 パジャマを脱ぎ、ベッドの上に畳み、リルネスタは動きやすい服を着てその上からシェスカのおさがりである黒い魔法のローブを羽織る。

 そして毎日手入れをし、部屋の隅に立てかけておいた先端に赤い球体の付いた黒い木の杖を掴み、鼻歌を歌いながら1階へ降り、玄関を開けて裏庭まで駆け足で向かう。

「やっと来たわね。うん、ちゃんと様になってる。じゃあ早速始めるわよ」

「うん、よろしくお願いします。お母さん」

 そしてリルネスタとシェスカによる魔法の稽古は始まった。



△▼△▼△▼△▼△



 魔法の稽古が始まり早2時間。
 リルネスタはシェスカのお題に沿って魔法を展開するなどをし、魔法の正確性と展開速度上昇の練習を真面目に行っていた。

 やはりまだ荒削りではあるものの、リルネスタは出されたお題を全てクリアし、おまけにシェスカが展開した氷の的に魔法を的確に当てたりと、その素晴らしい才能をシェスカに見せつけていた。

「やっぱり、あんたは天才かもね。私が長い月日をかけて覚えた魔法も、一番頭を悩ませた魔法の制御も完璧。これは普通にすごいことよ」

「えへへ、いや~……それほどでもないよ~」

「でも、体力が少ないからまだ冒険者に向かないわ。走りながら魔法を撃てるようにならないと、ただのお荷物になるからね」

「むぅ……でも、難しいんだもん」

 リルネスタは魔法の腕は良いものの、体を動かすことに関してはダメダメであった。

 走りながら魔法を撃つということができず、必ずどちらかが疎かになってしまう。本人も努力はしてるのだが、こればかりは苦手なのかいつまで経っても成長できずにいた。

「確かに最初は難しいわ。でもできるようになったらきっと有名になるくらい強くなるかもね。それに私はあんたに私を超えてほしいの。だから頑張りなさいよ。今日はもう終わりだから体を休めなさい」

「は、はいっ! ありがとうございました!」

 シェスカは母親だが、一応先生でもあるので丁寧に頭を下げて礼を言う。

 その後、リルネスタは母親の期待が込められたメッセージを噛みしめながら自室でストレッチと様々な魔法の詠唱を繰り返していた。



───────────



 翌日の朝。まだ太陽が昇りきっていない時間にリルネスタは目を覚ます。カーテンを開けると外には誰もいない。こんな時間に目を覚ましたことにリルネスタは疑問を浮かべていた。

 なんだ目が覚めちゃったんだろう。と、リルネスタは首を傾け、ベッドから降りようとすると──

「う、うわっ!」

 ベッドから足を降ろし、立とうとするとバランスを崩してしまい、ベッドへ倒れ込んでしまう。

 確かにまだ少しだけ眠気があり、頭が重いような気がするが、さすがにこれはおかしい。そう感じたリルネスタは足に意識を集中させて立ち上がり、階段を下りて1階へと向かうことにする。

 そして居間に向かうと、ほんのりとだが美味しそうな香りが漂っていた。その香りを辿ると、そこには穏やかな表情や朝食を作るシェスカの姿があった。

「おはよう、お母さん」

「あら、おはようリルネスタ──って、あんたどうしたの!? もしかして風邪でも引いちゃった!?」

「ううん、気持ち悪くないから大丈夫だよ。でも少しだけ体が重いというか、なんか違和感があるかも」

「本当にそれだけなのね……? 心配させたくないからって嘘言ってない?」

 そんな心配症な母に「大丈夫だって」と笑いながら答え、リルネスタは近くの椅子に座って水を飲む。

 だがシェスカは本当に心配したのか、額に浮かび上がった汗をタオルで拭き、一息ついていた。

「ねぇ、お母さん。今日ももちろん魔法の稽古するよね?」

「そのつもりだけど……本当に大丈夫なの? 無理してない?」

「だから大丈夫だってば。これは強がりじゃなくて本当だよ?」

「それならいいわ。なら今日は早めにご飯を食べちゃいましょ。あの人は今日の夜に帰ってくるから、私も気合入れてご飯作らないと」

 そんなシェスカが見せた笑顔を見て、本当に私のお母さんはお父さんのことが好きなんだと分かり自然に笑みがこぼれてしまう。

 将来私もこんな幸せな生活を過ごしたいなと思いつつ、いつの間にか並べられていた朝食をシェスカと共に口へ運ぶ。

 その姿は微笑ましいもので、まさに仲睦まじいものであった。

 だがリルネスタは自分の体に起きている異変は気付けずにいた。この後、あんなことが起きるとは露知らず──



△▼△▼△▼△▼△▼△



 朝食を食べ終えた2人は早速稽古する用の服に着替え、昨日と同じく裏庭で稽古の準備を始める。

 まずはストレッチから始まり、次に滑舌練習。最後に魔法の詠唱を一通り確認し、顔を見合わせて稽古を始めた。

「よろしくお願いします!」

「はい。じゃあ早速だけどまだ暗いから光魔法のライトをお願いできるかしら?」

「うん、任せて! 光よ、闇夜を照らせ。ライト!」

 声高らかに《ライト》の魔言を詠唱し、杖を空に向かって掲げるが、なぜか魔法は不発。

 それにはリルネスタどころかシェスカも驚いてる様子で、2人ともただ呆然とその場で立ち尽くしていた。

「あ、あれ……? おかしいな。ちゃんとやったつもりなんだけど……」

「もしかしたら魔言を間違えたのかもしれないわね。もう一回、落ち着いてやってみて」

「う、うん。分かった、やってみる。でもライトの魔言なんて間違えるはずないんだけどなぁ……」

 魔言とは、魔法を展開するにあたって必要な詠唱文である。

 例えば《ライト》なら『闇夜を照らせ』と唱える必要があるのだ。この魔言を間違えたり唱えずに魔法を使うと大体が不発で終わってしまう。

 よっぽどのベテランなら魔言を唱えなくても魔法を使えたりするのだが、それはかなり難しいことなのだ。

 しかも最悪の場合魔力が暴走し、大事故を巻き起こしてしまうため、よほどのことがないかぎり魔言は唱えた方がいいのである。

「光よ、闇夜を照らせ。ライト! ……え、なんでできないの!?」

「ほ、他よ。他の魔法を使ってみなさい!」

「火よ、敵を燃やせ。ファイア! 氷の槍よ、敵を穿て。アイスランス! 雷鳴よ! 荒れ狂う嵐となり、全てを消し飛ばせ! ライトニングストームッ!!」

 だが結果は全て同じ。
 魔力は消費されるものの、魔法は決して展開されることはなかった。

「あ、あんた! 発動しなかったからいいものの、こんな場所でライトニングストームなんて唱えたら……って、ちょっと! あんたいきなりどうしたのよ! リルネスタ!?」

 シェスカがその場で立ち尽くすリルネスタの肩を揺するが、返答どころか反応すらない。

 その時点で、リルネスタの耳にはなにも届いてなかった。

 自分の震える手の平を見つめていると、次第に視界が歪んでいき、前を見るのが困難になっていく。

「わ、私……魔法が使えなくなっちゃった……?」

 雨も降ってないのに、リルネスタの手には無数の雫が落ちては弾け、消えてなくなっていた。

 そしてリルネスタの悲痛な泣き声が響き渡る。

 それからだろう。
 私の日常生活が徐々に変わってしまったのは──
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