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元Sランクの俺、クエストメンバーを誘う

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 ユークとシスティと再会し、今現在レン達は賑やかなギルドの中でも比較的静かなギルド職員の休憩室付近にある机を四人で囲っていた。

 だがまず最初に腹ごしらえを済ませたいらしく、ユークとシスティは通りかかったギルド職員を捕まえて料理の注文をする。

 その流れに乗ってレンとリルネスタも別々の料理を注文し、結果、本題に入る前にちょっとした食事会のようなものが始まってしまう。

 そしていつ話題を切り出そうかとレンが頭を悩ませていると、まるでそんなレンの意思を汲み取ったかのようにユークはスプーンを持つ手を止め、口を拭いてからレンに向き直った。

「で、用事と言ったがいったいどんな用事にゃん?」

「…………それ、本当に続けてるのか」

「帰っていいかにゃん?」

 真面目な顔して語尾に『にゃん』を付けるユークにツッコミを入れると、呆れたようなため息を吐いてユークは荷物を持って椅子から立とうとする。

 だがレンが慌てて止めようとすると、ユークはしてやったりと笑って『冗談だにゃん』と若干楽しそうに呟いていた。

「……とりあえず、本題に入ろうと思う。これはユークだけじゃなくてシスティさんも関係あるからしっかり聞いてほしい」

「そうなんですか? あっ、私のことはシスティとお呼びください」

「分かった、じゃあ遠慮なく呼ばせていただく。それで、今回ユークとシスティを呼んだのはとあるクエストを手伝ってほしいからだ」

 クエストという単語を聞き、その場の空気が和やかなものから張り詰めたものに変わる。

 冒険者にとって、クエストに関しての話は真面目に聞かないと痛い目を見るのは常識であり、たった一つなにかを聞き逃したことで命を落とすことがあるからこそ、このようにお互い真剣になるのだ。

「こういうのはあまり言いたくないのだが……僕より強いレンがこの僕とシスティに頼むことなんてあるのか?」

「そう言うと思ってちゃんとクエスト用紙は持ってきた。ちなみに、これは指名依頼だ」

「……なるほど、つまりただのEランククエストじゃないということか」

 下顎に指を置き、正しい考察するユークであったが、途中で自分に課せられた罰を思い出し、どこか悔しそうにしてレンに銀貨を二枚差し出す。

 そんな律儀な行動に苦笑いを浮かべつつも、レンは銀貨とクエスト用紙を交換するようにユークに差し出し、置かれた銀貨二枚をポケットに突っ込んでいた。

「ヴァーナライト鉱石の納品だけど、実質オールイーターを討伐、もしくは捕獲する必要があるのか。いや、問題は人数を最大の四人にしろってところかにゃん」

「さすがだ。そう、確かにオールイーターは脅威だが、問題はこのクエストは四人で向かわなきゃいけないというところだ。つまり、言いたいことは分かるだろ?」

「あぁ、つまり僕達の協力を仰ぎたいんだにゃん?」

「ご名答、そのとおりだ」

 やはりBランク冒険者なだけあって、話が早い。

 クエスト用紙をパッと見て討伐すべきモンスターをすぐに理解できる知識。そしてなぜ自分達に頼ってきたのか、話の根本をすぐさま見つけ出す判断力。

 どれをとってもユークには既にAランクに匹敵するほどの実力や経験が兼ね備えられていた。

「システィ、これを見てどう思う?」

「私? そうね……確かに難しそうだけど、報酬が金貨5枚って魅力的よね。でも割に合わないくらい高いからちょっと警戒しちゃうかも」

「だ、そうだ。レンが良ければ依頼主を教えてくれないかにゃん?」

 そう言い、ユークは銀貨を一枚レンに差し出して話を続ける。

 きっとシスティと会話するときは語尾に『にゃん』を付けたくないのだろう。裏ではちゃんと言ってるか確認しようがないので判断出来ないが、レンはツッコミを入れることなく素直に受け取る。

 そしてレンがカラリアの名前を出し、信用できる人物であると簡易的に説明し終えると、ユークとシスティは顔を見合わせて首を縦に振っていた。

「僕達はこのクエストに喜んで協力させてもらうにゃん」

「ほ、本当か!? 助かった、ありがとう」

「ユークさん、システィさん、ありがとうございますっ!」

 レンが頭を下げてお礼を言い、それを見て少し遅れてリルネスタも頭を下げてお礼を言う。

「ははっ、頭を上げてほしいな。むしろ感謝したいのはこっちの方だにゃん」

「そうですね。金貨5枚……と言っても、分けるので実際はそれより少なくなりますが、5枚で銀貨500枚分の報酬があるので、これは受けるべきですね」

「そうか、なら良かった。ちなみに報酬は俺達が3枚、そっちが2枚にするつもりなのだが……異論はあるか?」

 そう伝えると、システィが真っ先に手を挙げる。
 そしてレンに告げられた異論は、驚くことに『それだと多すぎる』という不満であった。

 今回のように、別々のパーティが組んでクエストに向かうことは珍しくない。

 その場合、大体クエストを見つけた者がいるパーティが報酬のうち三分の二を受け取り、もう片方が残りを貰うというのが普通である。

 だが、システィはそれに対し不満を抱いた。
 しかしいったいなにが不満なのか、レンには理解出来なかった。

「今回のクエストは前もってチームを組んだわけではありませんし、しかも指名依頼です。なので報酬はそちらが金貨4、私達が金貨1枚の方が妥当だと思います」

「そうだな、システィの言うとおりだ」

 レンに銀貨を差し出しつつ、ユークはシスティの意見を肯定する。

 だがそれをすぐに否定するのはレンではなく、なんとリルネスタであった。

「これはユークさんとシスティさんがいないとダメなんです! ということは、協力してくれなかったら金貨5枚を受け取ることはできないんです! えーと、だから……っ」

「このクエストを受けるには、ユークとシスティの協力が必要になる。だから協力がないとクエストを受けられないから、そもそも達成出来ずに報酬を貰えない。だろ?」

「そう! レン、ありがと! だから報酬はちゃんと半分に分けた方が良いと思います!」

 まとまっていないリルネスタの意見をレンが代弁し、その後リルネスタが自分の考えた結論を出す。

「だとしても、クエストを持ってきてくれたからこその報酬なのでそんなに貰えません!」

 リルネスタの意見に対し、システィは真正面から反論する。

「そんなの関係ありません! お互い危険なクエストに向かうんですから、報酬は平等であるべきですっ!」

 だが珍しくリルネスタは自分の意見を曲げることなく主張し、負けじと反論してくるシスティに対抗する。

 こう見えて、意外とリルネスタは頑固なのだ。なのでレンが諦めた様子で眺めていると、どうやら頑固なのはシスティも同じらしく、ユークもレンと同じ表情をしていた。

「よし、分かった。報酬の件はいったん終わりにしよう。クエストが終わってからゆっくり話し合うとしよう。なっ?」

「レンの言うとおりだな。二人共、とりあえず落ち着こうか」

 レンが間に入って流れをぶった切り、ユークが二人を宥めることで報酬の話は保留になる。

 そしてレンは自分の目の前にいつの間にか置かれていた銀貨を見て、少しばかり引き気味な顔を浮かべる。

 一応確認をするためユークの方を向くが、ユークは無言で頷いてグッドサインを見せてくるだけでなにも言葉を発することはなかった。

「……えーと、そうだな。ユークとシスティは空いてる時間とかあるか? その時間に合わせて俺達も時間を調節してこのクエストに赴きたいのだが」

「そうだな。ヴァーナライト鉱石は重いから、とりあえず馬車が必要になる。そしてその馬車を停泊するために近くの村を通る必要がある。それに僕達も色々準備があるから……とりあえず、6日後またここで話さないか? 実はこれからクエストに行くんだ」

 そう言い、ユークはレンにクエスト用紙を見せる。

 そこには場所の指定はなく、ただCランク指定の《ディアマントベアー》から取れる毛皮を二匹分納品するという内容が書かれていた。

「ディアマントベアーは遠い地に生息してね、今日の夜向かうつもりなんだが、帰ってくるのは5日後なんだ。さすがに連日は厳しいから、1日は休ませてほしい」

「なるほどな。じゃあ馬車の手配は俺が済ませておく。その間、別にクエストを受注してもいいんだよな?」

「あぁ、それは構わない。とりあえず6日後ここに集合してくれれば文句はない。システィはどうだ?」

「私は構わないですが……それ、なにしてるんですか?」

「ん? あぁ、真面目な話してるのに語尾に『にゃん』を付けるのは失礼だから、言わなかった分銀貨を渡してるんだ」

「それは分かるのですが……いえ、なんでもないです」

 きっとシスティが気になったのは銀貨の渡し方だろう。

 最初は素直に銀貨を差し出していたのに、段々と慣れてきたのか気付かれないように差し出すようになった。

 そして今は三枚の銀貨を指で弾き、レンのポーチの上に落とすという謎の技を披露していた。

「その、気になるんだが……俺が言うのもあれだが、そんなに銀貨を渡して大丈夫なのか? 正直持てなくなってきてるんだが」

「大丈夫、ギルドには金貨をたくさん預けてあるし、銀貨も腐るほどある。だから気にしなくていいんだ」

 と言いつつも、ユークは銀貨を指で弾き、ポーチの上に乗った銀貨の上に銀貨を落とすという神業を見せる。

 それにはレンだけでなく、リルネスタもシスティもどこか微妙な表情をしながら得意気にしているユークを見つめていた。

「まぁ、そういうことだ。じゃあ僕達は準備があるから行くにゃん」

「あ、あぁ。分かった。わざわざありがとな」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。レンさん、リルネスタさん。また今度」

「うんっ! またね! ユークさん、システィさん!」

 軽く手を振り、レンとリルネスタはユーク達と別れる。

 そしてリルネスタと共にギルドカウンターに向かい、ティエリナに食事代を払い終えた後、二人は適当なクエストを選んでクエストに向かうことにした。
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