スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第2話 初心者殺し

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 ギルドから出て数分後に、俺は始まりの塔の根元にたどり着いていた。

 ここは人通りが少なければ、立ち寄る人も少ない。
 もし始まりの塔の中に金銀財宝が眠っていようものならば、毎日のように人集りができていたはずだ。

 だがこれほどまで人がいないということは、この塔に挑むことがいかに無利益であるかを物語っていた。

「一応魔物の素材も売れるらしいがここの塔に潜む魔物の素材は安いって有名だし、五階層に立ちはだかる魔物は無駄に強いって聞くし、本当に価値がないんだな」

 始まりの塔にどこか親近感が湧きつつも、俺は始まりの塔の側面に浮び上がる魔法陣の真ん中に手を当て、瞼を瞑る。

 すると次第に俺の体は白い光りの粒によって包まれていき、一度体がふわっと浮かんだと思いきや、瞼を開くとそこは真っ白な床、壁、天井に囲まれた部屋に繋がっていた。

「ここが始まりの塔の内部……噂には聞いていたが、本当になにもないんだな」

 始まりの塔の内部は迷路型のダンジョンらしく、毎日中の構造が変わるらしい。

 だが今俺が立っている正方形の部屋だけは変わることがないらしく、この部屋からは四つの道のうち一つを選択して進めるようになっていた。

 そして足元には魔法陣。
 これは帰還用の魔法陣で、中に入る手順と同じような手順を踏めば外に出られるという、至って単純なものであった。

「さて……向かうか」

 アリサの情報だと頭に赤傘草を生やしている可能性のあるフラワーフロッピは始まりの塔三階層にいるらしいので、俺は正面から見て右側の通路へ向かって歩いていく。

 もちろん、いつ魔物と出会ってもいいように剣は抜刀済みだ。

 いくら道幅が細い通路でも、充分に動き回って剣を振り回せるほどの広さはあるので、俺が持っている刀身が少し長めの剣でも魔物と戦うことはできるだろう。

 ただ、俺の実力が始まりの塔に生息している魔物に通用するかは、また別の話だ。

 そもそもなんで俺がこんなに用心深いのかというと、俺が始まりの塔に足を踏み入れたのは今回が初めてだからである。

 普通は冒険者登録したときにここで力試しをするのだが、俺は知ってのとおりスキルを持たない無能力者なので、まず魔物がうじゃうじゃ生息しているこの場所に挑むのは自殺行為にも等しいのである。

 そのため安全を第一に今まで始まりの塔には挑もうとしなかったのだが、アレクたちに誘われてパーティーに入ったとき、俺はまず「始まりの塔に行ってみたい」と口にしたのだ。

 だがアレクたちには「あんなところ行っても無駄」「今の私たちに行く必要性なんてない」とあっさりと切り捨てられ、俺は三年もの間始まりの塔に訪れることができなかったのである。

 しかし今こうして始まりの塔に訪れることができたのも、アリサが背中を押してくれたからだろう。俺はアリサに感謝をしつつも、ゆっくりと前へ進む。

「…………?」

 だがそこで、俺はとある違和感を抱いた。

 それはあくまで気がするだけなのだが、全然魔物の気配がないのである。

 まだ一階層目だからという理由もあるのだが、それにしてはやけに静かで、今はむしろ魔物が出てくるかもしれないという恐怖よりも俺の足音と呼吸音しか聞こえないという静寂が、なによりも恐ろしかった。

「……俺が知らないだけで、あまり魔物っていないものなのか?」

 小首を傾げながらも、俺はゆっくりと前へ前へと進んでいく。

 すると運がいいことに始まりの塔に挑んでから二十分ほどで二階層目への階段を見つけ、俺は警戒を緩めることなく階段を上がっていく。

 そして一階層目と全く変わらない風景の二階層目にたどり着いた俺は、やはり魔物の影どころか気配がこれっぽっちもないことに気付く。

 始まりの塔に挑んだら必ずと言っていいほどゴブリンと遭遇するらしいのだが、まだ俺はゴブリンどころか生き物の姿すら見つけていない。

 まさか、俺が無能力者だから挑戦すらさせてもらえないのか? と、無駄に卑屈な考えになりつつも、俺は首を横に振って前へと歩みを続ける。

 そして三階層目への階段をあっさりと見つけ、警戒しながら階段を上がると、俺は異様な光景を目の当たりにした。

 確かに、三階層目にはフラワーフロッピの姿があった。

 だがどれも息を引き取っており、顔や腹がズタズタに引き裂かれて脳や腸が引っ掻き出されていた。

 そのせいかフラワーフロッピの頭に生えているはずの花も踏み潰されており、三階層目の通路には二階層目への階段の辺りまで真っ赤な血の池ができていた。

「うっぷ……な、なんて惨い光景なんだ……」

 フラワーフロッピの傷口はなにかに切り裂かれたような跡ができていたが、捕食されたようなわけではなかった。

 まるで暇潰しの延長戦で殺されたように悲惨で、血の池には人のものとは思えないほど大きな足跡が残っていた。

「この足跡は……獣、だな。だが、こんなところにこれほどまで大きな足跡を残す魔物がいるのか……?」

 顔を上げるとフラワーフロッピの亡骸が少なくとも八体ほど無造作に転がされており、フラワーフロッピの血液だと思われる赤い液体は天井にも飛び散っていた。

 この異様とも呼べる光景を観察している俺だが、突然得体の知れない寒気に襲われ、無意識のうちに一歩後ろに引き下がってしまう。

 気付くと正面には全身が真っ黒な虎型の魔物がヨダレを垂らしながらこちらを見つめており、その威圧感はゴブリンやフラワーフロッピなどでは比べものにならないほどであった。

「も、もしかして、あいつは……」

 少しだけ聞いたことがある。
 始まりの塔には、ごく稀に一階層目から四階層目までの魔物を手当り次第に殺し回る黒い魔物がいるということを。

 確か冒険者たちはこう言っていたはずだ。

「初心者殺し……!」

 なにも知らずにこの塔に挑んだ新米冒険者が、この初心者殺しとも呼ばれている魔物にどれほどの数を葬られてきたかは、言うまでもないだろう。

 だからこそ初心者殺しと呼ばれているのだが、こういう謎の遭遇があるからこそ、この塔には人気がないのだなと俺は結論づけていた。

 しかし俺がそんな無駄なことについて考えていると、三十メートルほど遠くでこちらを観察していたはずの初心者殺しは俺の元へと駆け出していた。

 ──逃げないと殺される。
 俺は瞬時にそう判断し、初心者殺しに背を向けて二階層目への階段を一気に飛び降りる。

 その直後、後方から『ガァアァアアァア!!』と心臓に悪い咆哮が聞こえてくるので、俺はなにも考えることなく走り出した。

 そして、これから俺と初心者殺しによる地獄の鬼ごっこがスタートした。
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