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始まりの塔編

第14話 光の鳥

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 始まりの塔、二十五階層目にて。
 俺は光を纏う神聖な鳥、ディアニティーを見上げていた。

 ディアニティーは地上から数十メートルも離れた天井付近を優雅に飛んでいるためどこか小さく見えるのだが、翼を広げると数倍近く大きく見えるようになるため、その姿を前に俺は圧巻していた。

 しかし見蕩れているのも束の間。
 ディアニティーは自分が飛べることをいいことに、空中から《光属性魔法》を使用して遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 その魔法の威力はそこそこではあるが、ディアニティーは俺が飛べないことをいいことに容赦なく光の矢を雨のように飛ばしてくるので、さすがにうざったらしくて仕方がなかった。

 だがディアニティーにとっては、わざわざ自分が不利になる地上付近まで降りて相手に直接攻撃をするなど、そんなメリットのない行為をする必要性がない。

 それにディアニティーも自身に魔法が効かないことを理解しているのか、美しい音色のような声を上げながらも、俺の攻撃が届かない場所から一方的に魔法を放ち続けてくる。

 だが、俺だってなにもしないわけじゃない。

 《魔力操作》や《風の障壁》を上手く活用し、魔法を弾いたり軌道を逸らしたりなど、なんとか光の矢の雨をやり過ごしていた。

 しかしこのままでは埒が明かないのも事実。
 そのため、俺はこの塔の魔物に関する規則性について考えながらも、ステータス画面を見つめる。

「(おそらく、奴を……ディアニティーを倒すには、ゴーレオーガの力を使用する必要がある。さすがにここまで来て、攻略のパターンが変わるなんてことはないだろう。そう信じたい)」

 魔法が効かず、それでいて降りてくることはないため剣で切りかかることもできない。

 まさに、今まで《殺奪》によって取得したスキルを余すことなく使用しないと、まるで倒せないような魔物である。

 そして、俺はゴーレオーガから取得したスキルを再度確認していくことにした。

「(《魔力探知》に《土属性魔法》、そして《錬成》……さて、どう動くべきか)」

 一応頭の中では作戦が固まってきているのだが、それを実行するにはリスクを冒すことになる。

 しかし、どう考えてもこれらのスキルを駆使してディアニティーを倒すには、ある一つの方法しかなかった。

 そうと決まれば、あとは実行するまでだ。

「ゴーレオーガ……お前の真似をさせてもらうぞ。錬成ッ!」

 俺が《錬成》というスキル名を口にしながら手のひらで床を軽く触れると、俺の足元の地面は柱が伸びるように盛り上がっていき、俺を上へと運びながらグングンと伸びていく。

 そのまま俺は天井へと向かいながら壁際に寄るように床を操作し、部屋の壁に手をつけてからもう一度《錬成》を使用した。

 《錬成》の効果により、俺が触れた場所から半径十メートル範囲内の物体は思うように形を変えさせることが可能となり、俺は壁からいくつもの柱を生成し、上へと登るための階段を作る。

 その上を俺は全速力で駆け上がっていき、《錬成》の範囲外になったらすぐさま壁に触れ、ディアニティーが飛び回っている上空三十メートルの辺りにまでたどり着くことができた。

 もちろん、ディアニティーは俺の接近を止めるために魔法を放ってくるが、その魔法も《錬成》によって伸ばした足場を壁にすることで、簡単に防ぐことができる。

 ダンジョンの性質上、床や壁、天井はまず破壊できないように造られているのだろう。

 あのゴーレオーガが全力で殴ってもヒビが入らなかったのだから、間違いはない。

 つまり、そんな床や壁を自由自在に使えるのは強みであり、これを利用した防御壁は絶対に破壊することができない最強の壁へと変貌するのだ。

 しかし、もちろんこの《錬成》にもデメリットは存在する。

 それは所持者の魔力が触れていないと発動しないというものがあるのだが、他にも一度《錬成》の効果によって動かした物質は、しばらく時間が経過しない限り再度動かすことができなくなるのだ。

 一応《錬成》を解除すれば動かした物質はすぐに元に戻るため、自らの手で行く手を塞いでしまうということはまずないのだが、やはり便利なスキルにもこのような欠点は存在するということだ。

 それでいて常に錬成箇所を把握する必要があるなど、便利で強力な分、使い手への負担が激しいスキルだと言えるだろう。

 あとは好き放題錬成できるといっても錬成範囲内である半径十メートルの中だけなど、意外と制限が多いためかなりリスキーなスキルなのである。

 だが、それでも──

「ここで引いたら、奴に勝つことはできない!」

 俺は足場にしている柱の下からまた新たな柱を斜め上に生成するように《錬成》を発動させ、俺はその新たに生成した柱に飛び乗り、ディアニティーに向けて一気に距離を詰めていく。

 だが途中で《錬成》範囲外に出てしまうので、柱の動きが止まってしまう。が、俺はあえてそうすることで自分自身を砲弾のように飛ばすという荒業に出ていた。

『フィィィイッ!』

 俺に目がけてディアニティーが光の矢を降らせるが、その程度の魔法なら俺の《風の障壁》によって防ぐことができるため、俺は鞘から引き抜いた剣の剣先をディアニティーの額に向け、勢いを乗せた刺突を放った。

 しかしディアニティーも今までの魔物とは一味違い、そんな俺の攻撃を軽やかな身のこなしで簡単に躱してしまう。

 そしてディアニティーの上を取った俺は軽く天井に触れながらも、そのままゆっくりと重力に引かれながら地上へと落下していく。

 だが、これも俺の作戦の一部であった。

「錬成ッ!」

 俺の手の周りにバチバチッと魔力が纏ったと思えば、先ほど俺が触れた天井が《錬成》によって半径十メートルの巨大な柱となって突出し、無警戒でいるディアニティーの背中を強く叩き付ける。

『フィィイィイ!?』

 あまりに威力に、ディアニティーも俺と同じように地上へ向けて落下していく。おそらく、先ほどの一撃で翼をやられたのだろう。

 つまり、今は動くことができないということだ。
 そのため、俺は近くの壁に目がけて瞬時にアイスアローを放つ。

 なぜそんなことをしたのか。
 それは、《錬成》を使うにあたってのデメリットに当たる効果を、メリットとして発動させるためである。

 《錬成》は所持者の魔力が触れていないと発動しないと説明したが、厳密に言えばそれは『所持者の魔力さえ触れていればスキルを発動できる』ということに繋がる。

 つまり、俺の魔力によって生成されたアイスアローが触れた場所は《錬成》の条件を満たしたことになるのだ。

 そのため俺はすぐさま足場になるように柱を伸ばし、落下によって死亡という残念な結末を逃れることに成功した。

 だがそれでもかなりの距離を落下したため、痛いものは痛い。

 しかしここで痛みに苦しめば、また先ほどのような面倒な作業をもう一度しなくてはならなくなる。

 もうあんなのは御免だ。
 そのため、俺は今度は地上に向けて階段を生成し、生成した階段を駆け下りていく。

 そして地上から五メートルほどの距離で俺は空中に身を投げ出し、なんとか体勢を整えることに成功したディアニティーの背中に目掛けて俺は剣先を向けた。

「堕ちろっ!」

『──ッ!?』

 ディアニティーの背中に着地しながら剣を突き刺した俺は、そのまま全体重を乗せてディアニティーを地上へと落とす。

 いくらディアニティーがクッションになっているといっても、上空五メートルの距離から地上へと降り立つ行為はほぼ自殺行為に等しく、落下の衝撃が全身に伝わると共に頭が一瞬クラっとする。

 しかし意識は飛んでない。
 そう確認した俺はディアニティーの肉を抉るようにしてから剣を引き抜き、すぐさま両手で地面に触れて同時に二箇所《錬成》を発動させる。

 そして天井に向けて伸びた柱は途中で直角に曲がり、そこからさらに直角に曲がった柱はディアニティーの両翼を押し潰し、そこで俺はその柱への《錬成》をやめ、ディアニティーを床に固定させた。

 こうなってしまえば、《錬成》の効果により脱出が不可能となる。

 俺だって時間が経過しなければこの柱を動かすことは不可能だし、《錬成》を解除すれば柱を消すことは可能でも俺がそんな敵に塩を送るような行為をするメリットがない。

 実質翼を失ったことになったディアニティーは、もうどうすることもできない。

 いくらもがいても柱は動かないし、魔法を放っても俺の前には無力だ。

「さぁ、これで終わりにしよう」

 最後にディアニティーがバーニグモーラのように姿を変えてしまえば、厄介なことになる。

 一応《鑑定眼》ではそのようなことについては書かれていなかったが、念には念を、だ。

 そして、俺は剣に付着したディアニティーの血液を払い捨ててから、痛みに苦しむディアニティーの首を呆気なく切り落とした。

 それによりディアニティーは白い光の粒となって消え、俺の足元に帰還用魔法陣と魔法探知型転移魔法陣が現れて戦いは終末を迎えた。

 手強い相手ではあったものの、やはりスキルが充実しているせいか初心者殺しやバーニグモーラの方が強いと感じてしまう。

 おそらく今戦えばどちらも敵ではないかもしれないが、やはり地の利を生かしてくる敵ほど厄介な敵はいないのである。

「……スキル取得、か。まただ、この謎の虚無感は……いったいなんなんだ?」

 よく分からない感覚にため息を吐きつつも、俺は新たに手に入れたスキルを確認することにした。


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レイ:剣士《岩砕を討ちし者》 男 21歳

ノーマルスキル
・身体能力強化Ⅲ ・腕力IV ・脚力Ⅲ
・刺突Ⅰ ・弓術Ⅰ ・剣術Ⅲ ・体術Ⅰ
・威嚇Ⅲ ・炎属性魔法Ⅰ ・氷属性魔法Ⅰ
・風属性魔法Ⅰ ・土属性魔法Ⅰ ・光属性魔法Ⅰ

パッシブスキル
・気配察知Ⅰ ・危険察知Ⅰ ・毒耐性 (微)
・温熱耐性(強) ・寒冷耐性(強) ・加速Ⅰ
・炎属性魔法耐性(中) ・氷属性魔法耐性(中)
・風属性魔法耐性(中) ・土属性魔法耐性(中)
・光属性魔法耐性(中) ・夜目 ・魔力操作Ⅱ
・魔力探知Ⅱ ・消費魔力削減Ⅱ

スペシャルスキル
・鑑定眼Ⅰ ・火事場の馬鹿力
・熱線球生成・放出 ・氷の鎧
・風の障壁 ・錬成 光の翼

レジェンドスキル
・殺奪

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 毎回のように取得している魔法や魔法耐性は置いておいて、新たに手にした《消費魔力削減》のスキルはかなり有用なスキルであった。

 それは名前の通りの効果であり、魔法を使用するとき、魔力を消費するスキル──例えば《ファイヤボール》を使用するとき、消費する魔力量を減らすことができるというスキルだ。

 ちなみにスキルレベルが二だと二十パーセント削減できるらしいので、今の俺が《土属性魔法》を使用したとき、《岩砕を討ちし者》の称号効果と《消費魔力削減》が合わさって、なんと消費魔力を七十パーセントも抑えられるというわけだ。

 あまり目立った効果ではないものの、このスキルはかなり素晴らしい部類だと言えるだろう。

 そして、新たなスペシャルスキル。
 この効果も破格なのだが、使用条件がかなり厳しいものであった。

「えーと……《光の翼》は、背中に光の魔力を帯びた翼を生やして空を飛ぶことが可能になるスキルである。但し、使用するには《光属性魔法》のスキルレベルが四以上である必要がある。一応《光属性魔法》のスキルレベルが四でなくても使用することはできるが、一度使う度にスキル所持者の最大魔力の半分を消費することとなる──んー、これは……」

 魔力というものは少なくなっても魔法などが使えなくなるというだけなのだが、一気に減ってしまうと気分が悪くなったりしてしまうと聞く。

 空を飛ぶというスキルはまさに理想的なスキルではあるが、このスキルに関してはまさに非常用のスキルであると言えるだろう。

 一応、今の段階の話では──だ。

「まぁ、今のところ使わなくてもなんとかなるし、このスキルを使うのは本当に緊急事態のときだけだな」

 さて。と、俺は一言口にしてから立ち上がる。

 ちなみにディアニティーから得た称号は《光鳥こうちょうを討ちし者》であり、効果もいつも通りなので、このダンジョンの性質に則って称号を《光鳥を討ちし者》に変え、俺は白い魔法陣の上に立つ。

 そして、俺はまるで作業のように二十五階層目をあとにして、二十六階層目へ向かうのであった──
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