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始まりの塔編
第14.5話 ジークの心境
しおりを挟むこれは、レイがグレイルーフを討伐してから半日後、アーラスにあるギルドでの話である。
俺──ジークは、今フィリアと共にギルドの受付カウンターにて、まだうら若き受付嬢であるアリサちゃんにとある結果を告げていた。
結果とはなんだって?
そりゃ、例の少年──レイくんが見つかったか否かの話だ。
「……そう、ですか……レイさんは、もう…………」
「一応、念のために最上階である十階層目まで確認をしに行ったのだが……そこに、グレイシスウルフはいなかった。もしかしたら、レイくんがなんらかの方法で倒し、もうギルドに戻ってきているのではと思ったのだが……」
「レイさんは帰ってきていません……あれこれ、レイさんがギルドを出てから既に二日が経過してしまいます……」
「うぅむ……」
二日も帰ってこないとなると、最悪な事態を想定しなければならない。
ここは下手に希望を抱かせるよりも早めに真実を伝えるべきだろう。
だが、そうはさせないと、俺の隣で座っているフィリアがアイコンタクトで制してくる。
それは確かにその通りだ。
ここで真実を伝えてしまえば、アリサちゃんは心に一生癒えることのない傷を負ってしまい、立ち直れなくなってしまうかもしれない。
そして、いつかは──いや、これ以上考えるのはあまりよくないな。
「ねぇ、アリサちゃん。もう一度聞くけど、本当にギルドにはフレイムドモンキーやグレイシスウルフの討伐報告は来ていないの?」
「は、はい。始まりの塔に生息しているボス級の魔物の素材を持ち帰れないということは、御二方も知っていますよね? ですが、もし誰かが討伐したのなら、必ずその話題は私たちの耳にも届いてきます。しかし、ここ二日間そのような話題は一度も上がりませんでした」
「となると……やはり、おかしい点があるわ。始まりの塔は毎日夜の二十四時になると中身がリセットされるわ。それは、初心者殺しを除いて魔物が再配置されたりするという意味があるの。そして、ボス級の魔物は倒されたら翌日まで姿を見せないのよ」
「それって……つまり、どういうことなのですか?」
「つまりは、俺とフィリア以外にも始まりの塔に挑んでいる者がいて、立て続けにフレイムドモンキーやグレイシスウルフを討伐したってことになる。その挑んでいる者が、もしかしたら──って話だ」
可能性は低いが、ありえないと断定する話でもない。
少し前にアリサちゃんから聞いたのだが、レイくんは昔から《無能力者》と呼ばれ、何年間も毎日のように植物採集をしていたらしい。
それにアリサちゃんによれば、ギルド内にある資料室をよく利用し、調べ物等も欠かさなかったという。
勤勉でいて、それでいて無理をしない謙虚さ。
だが、彼は謙虚ではあるが勇気はあった。
初心者殺しは二つの魂があると言われていて、一度即死級の攻撃を受けたとしても、その後ほんのわずかだが動けるようになる特性を持つ魔物だ。
そんな大事なことを忘れて油断していた俺たちを、レイくんは勇敢にも恐ろしいはずの初心者殺しに立ち向かい、トドメを刺したのだ。
戦闘センスに関しては不明だが、彼の潜在能力は計り知れないものがあるはずだ。
それは、スキルにも言えることである。
もしかしたら、彼は自分が無能力者であると認めてしまっているが故に、実は自分の中に眠っているスキルに気付けていないのかもしれない。
もし、それが初心者殺しを倒したことで目覚めたのなら。
そして、そのスキルがフレイムドモンキーやグレイシスウルフを遥かに凌駕する力を持っていたとしたら。
「(……そう考えてみたりもしたが、やはり現実的ではない)」
では、もしレイくんがフレイムドモンキーとグレイシスウルフを倒せたとしよう。
ならば、今はどこにいる?
始まりの塔にいくら用事があったといっても、これほどまですれ違うはずがない。
じゃあ、十階層目以降に向かっている?
それもありえない。なぜなら、始まりの塔の見た目は天を貫く立派な塔だが、いくら十階層目で待つグレイシスウルフを倒しても、それ以上になにかを望めることはないからだ。
……いや、待てよ。
今まで疑問を抱くことはなかったが、実は始まりの塔には十階層目以降にも階層があって、レイくんがなんらかの方法で十一階層目以降への行き方を知っていたとしたら。
だが、これも現実的ではない。
しかしこう考えれば、フレイムドモンキーやグレイシスウルフがいない理由も、実はレイくんがその二匹を討伐し、始まりの塔の十階層目以降にいるかもしれないという繋がりにもなる。
実際こんな考えはただの夢物語で、本当はレイくんが三階層目に生息しているゴブリンアーチャーに殺されてしまったという可能性もある。
だがそれはないと、俺が、俺たちがこの目で確かめてきた。
むしろ、俺たちが手を下す必要がないほど道中にいるはずの魔物の数が少なすぎると感じたほどである。
「アリサちゃん」
「は、はい……?」
「レイくんは生きているさ。きっと、俺たちが想像しているよりも彼は強くて、どこかで元気に過ごしているのかもしれない」
「ジ、ジーク! どうしてそんな無責任なことを……!?」
「無責任ではないさ。これは、俺の直感だっ!」
「それが無責任だっていうのよ! はぁ……ま、私も内心ではこの国のどこかで野暮用を済ませてるだけかもしれないって思ってるし。アリサちゃんは、レイくんが帰ってきたら心配させた償いをさせるのよ? 遠慮することなくお尻を蹴っ飛ばしなさい」
「け、蹴っ飛ばすのはちょっと……ですが、戻ってきてくれると嬉しいですね」
可愛らしく、小首をコテンと傾けて微笑むアリサちゃん。
だがその表情にはどこか寂寥感が見え隠れしていた。おそらく、アリサちゃんの中では既にレイくんは二度と帰らぬ存在になってしまったと、諦めがついてしまっているのだろう。
まだ若いというのに、なんて強い女の子なんだ。
確かに俺たちが話したことは幻想に過ぎないことかもしれないが、可能性は絶対にゼロとは言えない話ばかりはず。
だが、俺たちがこれ以上動いても無駄になってしまうのも、また事実である。
「(レイくん。ここには俺も含め、キミの帰りを待っている者がいるのだ。絶対に帰ってくるんだぞ)」
最後に俺はアリサちゃんが用意してくれた水で喉を潤しつつも、フィリアと共にアリサちゃんを元気づけるために他愛のない話を続けることにした。
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