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始まりの塔編

第15話 ドラゴン

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 俺──レイは今、二十九階層目にいる。
 ディアニティーを倒してから、ここまで来るのにどれほどまで時間が経過しただろうか。

 何時間……いや、何十時間?
 もう時間など考えている暇がないほど、俺は疲労していた。

 たった四階層進んだだけだというのに、その間に魔物と出会った回数は軽く百回を超えている。

 しかも、どの魔物も俺が昔調べた情報によればBランクやAランク冒険者でも一人では倒せないような魔物ばかり。

 さすがにSランク指定の魔物は出てきていないが、それでも強敵と連戦し続けるのはさすがに骨が折れる。

 だが、おかげで分かったこともある。
 それは、俺をここまで強くしてくれた《殺奪》の効果だ。

 まず、スキルにはスキルレベルがある。
 そのスキルレベルを上げるには、例えば──《剣術》のスキルレベルを上げるならば、素振りなどだけでなく千匹以上もの魔物を倒す必要があると聞く。

 つまり、短期間でスキルレベルが一つや二つ上がることはまずありえないのだ。

 では話を戻して、俺の《殺奪》の効果を再認識しよう。

 まだ解析不能の部分も多いが、この《殺奪》はスキルを持つ者を倒すとそのスキルを取得することができるというものだ。

 例えば今俺が取得している《剣術》のスキルレベルが一から三に上昇したのも、俺が倒したダークブレイドという名の魔物が所持している《剣術》スキルのレベルが三だったからと言えるだろう。

 これはスキルレベルを上げる二つの方法の内の一つであり、一番スキルレベルを上げやすい理想的な方法だろう。

 そして、もう一つの方法。
 これは俺の推測でしかないのだが、スキルレベルが上がるということは、そのスキルごとに《経験値》という概念があるはずなのだ。

 例えば《剣術》のスキルレベルを一から二に上げるには、経験値が一万必要とする。

 そして、素振りによって得られる経験値が一ならば、一万回素振りをすればレベルが上がるということになる。実際はこんな単純ではないと思うが、あくまで俺が導き出した答えだ。

 そこで、本題に入る。
 どうやら既に所持しているスキルを持つ魔物などを倒すと、スキルレベルに応じて手に入るスキルの経験値というものが多くなるらしい。

 《剣術》のスキルレベル三の状態でスキルレベル一の《剣術》を持つ魔物を倒せば経験値が十。スキルレベル二の《剣術》を持つ魔物を倒せば経験値が百などなど──。

 ありえないと思うかもしれないが、そう考えてもいいほど──というより、そう考えないとおかしいほど、俺のスキルはどんどんレベルを上げていくのだ。

 これは《殺奪》ならではの効果だと言えるだろう。
 それを踏まえた上で、俺は改めてステータス画面に目をやった。


───────────────

レイ:剣士《光鳥を討ちし者》 男 21歳

ノーマルスキル
・身体能力強化Ⅲ ・腕力IV ・脚力Ⅲ
・刺突Ⅱ ・弓術Ⅲ ・剣術Ⅲ ・槍術Ⅱ
・鎌術Ⅱ ・短刀術Ⅱ ・盾術Ⅱ ・体術Ⅱ
・威嚇Ⅲ ・炎属性魔法Ⅱ ・氷属性魔法Ⅱ
・風属性魔法Ⅱ ・土属性魔法Ⅰ ・光属性魔法Ⅰ

パッシブスキル
・気配察知Ⅲ ・危険察知Ⅲ ・毒耐性 (微)
・温熱耐性(強) ・寒冷耐性(強) ・加速Ⅱ
・炎属性魔法耐性(中) ・氷属性魔法耐性(中)
・風属性魔法耐性(中) ・土属性魔法耐性(中)
・光属性魔法耐性(中) ・魔力操作Ⅱ
・魔力探知Ⅱ ・消費魔力削減Ⅱ ・判断力Ⅱ
・見切り ・先読み

スペシャルスキル
・鑑定眼Ⅰ ・火事場の馬鹿力
・熱線球生成・放出 ・氷の鎧
・風の障壁 ・錬成 光の翼

レジェンドスキル
・殺奪

───────────────


 と、このように自分でも自分が化け物だと思ってしまうほどのスキル数になってしまっていた。

 実を言うところ、二十六階層目から二十九階層目の間にはラストスパートと言わんばかりに魔物が沢山生息していて、もちろんそれに応じて俺のスキルはどんどん増えていくし、戦って勝てば勝つほどスキルレベルも上がっていく。

 《剣術》や《弓術》などの武器系統のスキルは六つに増え、スキルレベルも二や三が当たり前になってきた。

 それでいて魔法のスキルレベルも、あまり見かけない《土属性魔法》や《光属性魔法》以外のスキルレベルは二に上がっており、パッシブスキルに関しては強力なスキルの数々が増えていた。

 だがやはりレアリティの高いスペシャルスキルやレジェンドスキルを持つ魔物とはディアニティー以来一匹も出会ったおらず、これらのスキルがどれだけ希少であるかが分かるだろう。

「……正直、ここまで来ると俺でもスキルを全て有効活用できないくらいだしな。まさか、スキルが多くなりすぎて困ることになるなんて昔の俺に言ったら笑われるだろうな」

 ぎゅうぎゅうになったステータス画面を前に苦笑いを浮かべつつも、俺は休憩を終えておもむろに立ち上がる。

 今俺がいる場所は二十九階層目の最奥にある帰還用魔法陣と三十階層目への魔法陣がある正方形の部屋である。

 だがこの部屋にある魔法陣は少しだけ特殊であり、帰還用魔法陣はいつも通りなのだが、三十階層目への魔法陣に関してはなんと赤・青・緑・黄・白という五種類の色で刻まれているのだ。

 この五種類の色は今まで戦ってきたボス級の魔物の得意とする属性の色と同じであることから、つまりこの先に待ち構えているのは──

「もしかしたら、最終決戦になるかもしれない」

 腰に携えたダークブレイドから奪った刀身が赤黒い剣と、二十八階層目で出会ったホーリーナイトから奪った聖なる光が宿る白い剣の柄を軽く撫でながらも、俺は五色の魔法陣の上に立つ。

 そうすることで体を五色の光が包んでいくので、俺はゆっくりと瞼を閉ざす。

 そして最後に体が少し浮くような感覚を覚えてから目を見開くと、そこは白い床や壁、天井に囲まれたいつも通りの正方形の部屋──などではなかった。

 金と黒によって豪華に装飾された床や壁はキラキラと輝いており、天井は五色のステンドグラスによって埋め尽くされていた。

 そこから見える、太陽のような温かな光。
 だが俺はそんな光に照らされながらも、この部屋の真ん中に佇むある魔物を前に息を呑んでいた。

『…………』

 俺のことを静かに見下ろす魔物は、あの最強種族と名高い『ドラゴン』であった。

 全長は十メートルを超え、体を覆い尽くす漆黒の鱗は天井からステンドグラスを介して差し込む光によって輝き、謎の重厚感を放っている。

 頭部には二本の湾曲した角が生え、まるで動く大木のような太い尻尾には、ゾッとするほどの棘が生えていた。

 まさに『ラスボス』と表していいほどのオーラを放つドラゴンだが、不思議なことに俺の体は恐怖によって竦むだとかは一切なかった。

 別に、恐怖を感じていないわけではない。
 正直、恐ろしくて吐きそうなくらいである。

 だが慣れのおかげなのか、それとも強い恐怖によって麻痺しているかは不明だが、それでも俺の体はいつものコンディション通りに動いてくれる。

 なら、あとは俺の全てをぶつけるだけだ。
 こうして、俺と三十階層目のドラゴンによる最終決戦は、静まり返った豪勢な部屋の中で幕を開けた──
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