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始まりの塔編
第31話 エピローグ
しおりを挟む翌日の昼頃。
俺はネアと共に、アーラスの南門へと訪れていた。
だがそこには俺とネアだけでなく、見送るためにわざわざやって来てくれたジークとフィリア、そしてアリサの姿があった。
「本当に、もう行っちゃうんですね」
「あぁ、俺には目標があるからな」
寂しそうに俯くアリサの頭を撫でながら、俺はそう口にする。
今の俺の目標は、アーラスから見て南方面にある『ドワイラルク』という名の国にたどり着くことだ。
だが、それはあくまで目標を達成するための通過点であり、本命はドワイラルクにてそびえ立つ一本の塔──真実の塔に訪れることであった。
アーラスにある秩序の塔を管理しているヴェルタニアが残した情報によると、どうやら真実の塔の最上階には『シュミラーク』という名の男がいるらしく、その男の元にたどり着くことができれば、この世界の真実というものを知ることができるらしい。
正直、この世界の真実と言われて、ピンと来るようなことはない。
むしろ、俺の中では「この世界の真実? お前はなにを言っているんだ?」という認識にすらなっている。
なぜなら、今俺が生きているこの時間こそが俺の知っている世界の真実であり、それ以上でもそれ以下でもないからだ。
それでも今俺がネアのことを知るには、真実の塔にいるシュミラークを尋ねる以外方法はない。
そのため、今はこうしてヴェルタニアの指示に従っているというわけである。
「はぁ……これから寂しくなるな。せっかく、心の通じ合う仲間ができたと思ったのに……」
「こら。今から見送るんだから、そういうことは言わないの。それよりも……二人とも、ちゃんと準備は済ませたの? 生活必需品は持った? 万が一のためのポーションや、魔物を撃退するための閃光爆弾とか──」
「あはは。フィリアさん、まるでレイさんやネアさんのお母さんみたいですね」
「うそ! 私そんな老けて見える!? これでも、まだ26歳なのになぁ……」
自分の頬に手を当てながら、フィリアは大きくため息を吐きながら項垂れてしまっていた。
そんなフィリアを前に、ジークが「……本当は27のくせに」と呟いたせいで、ジークの顔面にフィリアの鉄拳が飛んだのは言うまでもないだろう。
「はぁ、まったく…………そんなことより、レイくん。本当に徒歩で向かうの? ここからドワイラルクまで、歩いて行ったら余裕で十日はかかるわよ?」
「まぁ、確かに足への負担は大きいとは思うが……この先、なにが起きるか分からないからな。昨日稼いだ金も、馬車なんか借りたらすぐに尽きるから、節約しようかなと」
「それでも……ねぇ? ネアちゃんも、やっぱり疲れるのは嫌でしょ?」
『…………ネアは疲れない。だから、平気』
きっとフィリアは、ネアに音を上げさせて俺に御者を雇わせ、馬車を借りるよう促すつもりだったのだろう。
しかしネアは顔色変えることなく首を横に振るので、フィリアは額に手を当てながらため息を吐いていた。
これは憶測に過ぎないのだが、正直ネアが音を上げるよりも先に俺が音を上げ、道中の農村で馬車を借りる──なども、可能性としては捨てきれないのだ。
なぜなら、ネアは俺たち人間と違って卓越した能力を持っているからである。
鎖を簡単に引きちぎるほどの怪力。
腕にできた傷を、一瞬で治す再生能力。
あんなものを見たせいか、先ほどのネアの言葉は強がりなどではないのだと、俺は感じていた。
「よし……そろそろ行くか。今日中に『ベーラの森』は抜けたいからな」
「そうね。ベーラの森はあまり魔物は生息していないけれど、それでも夜は危険だから、その判断は正しいと思うわ」
「なら……ネア、早めに出発する──」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺がネアに声をかけたと同時に、俺の声を遮るようにアリサが声を上げ、俺の元へ歩み寄ってくる。
そして、アリサはポケットの中からある物を二つ取り出し、俺とネアに手渡ししてくれた。
「アリサ、これは?」
「これはミサンガの形をしたお守りです。無事に旅が終わりますようにと、祈りを込めました。このミサンガには小さな石が埋め込まれていますが、この石にはある効果があるのです」
「……効果?」
「はい。その赤い石は、持っていると病気にかからなくなる──と、言われている石です。実際はそのような効果などはないのですが、病は気からと言いますよね? ですから、手首に結んでくださると幸いです」
そう言われ、俺はアリサから受け取ったミサンガを右手首にしっかりと結んだ。
一方のネアはミサンガをどう結べばいいのか分からない様子だったが、それに気付いたアリサがネアの左手首にミサンガを結んであげていた。
そしてネアはミサンガが結ばれた左手を天に向けて掲げ、ミサンガに埋め込まれている赤い石を見つめながら、不思議そうに首を傾けていた。
「これで、私ができることは最後です。レイさん、ネアさん。本当に気を付けてくださいね? そしていつか、アーラスに帰ってきたら沢山の武勇伝を聞かせてください!」
「あぁ、そうする。じゃあ……行ってくる。ネア、行くぞ?」
『……ん』
ネアからの短い返答を聞き、俺はゆっくりと後ろを振り返って南門の下をくぐってアーラスを出る。
隣にはネアがいて、後ろからはジークやフィリア、アリサからの応援が聞こえてくるため、少し恥ずかしくはあった。
だがその応援のおかげで、俺は足を前へ前へと踏み出すことができていた。
「俺たちの冒険は、これから始まる──なんだか、不思議な気分だ」
『……ネアは冒険なんてしたことないからよく分からないけど……今のレイ。すごく楽しそう』
「そうか? はは、多分顔に出ちゃってるんだろうな。こうして本格的な冒険をするのは初めてだからさ。きっと、貴重な経験になるさ。それは俺にとってだが……ネアにとっても、な?」
『……うん、ネアも楽しみ』
無表情だがどこか表情が柔らかいネアと他愛のない会話を交えつつも、肩を並べて歩く俺とネアはアーラスの南側にある『ベーラの森』へと足を踏み入れていた。
そこは少し薄暗い森であったが、俺とネアの手首にはそんな薄暗い森の中を照らすように輝くミサンガが結ばれているので、俺は未知な土地を立ち止まることなく進むことができている。
こうして、俺とネアによる塔を巡る旅が、今始まるのであった──
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