スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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ドワイラルク編

第8話 巣の破壊

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 太陽が真上に登る、正午の時間帯。
 俺とネアは、メンクの村にてイズンや数人の村の人からコアマンティスの巣やネチャクの森についての情報を得て、今はネチャクの森へと訪れていた。

 人は夜に寝て、主に活動する時間帯は昼である。
 では夜に活動するコアマンティスが睡眠をとるだろう時間を考えたとき、昼前や昼過ぎ辺りが一番熟睡している時間だと言えるだろう。

 だから、俺は──いや、俺たちはこの時間帯にネチャクの森に訪れた。コアマンティスの巣を、俺たちが最も有利な状況で潰すためにだ。

「ネチャクの森……イズンさんたちに言われた通りの場所だな」

『……うん。ぐちゃぐちゃしてる』

 ネチャクの森。
 どうやらそこは土壌が悪い森らしく、雨が降ってから二週間立っても地面の土が乾かないほど、水捌けの悪い土地らしい。

 その証拠に、歩くだけで少しだけ足が地面に沈むような感触がある。

 そして空気もどこか湿っており、ネアは長い髪が頬や首筋に当たるのが嫌そうであったので、今は耳の前にある髪を髪留めで留め、後ろ髪は一束にまとめられて俗に言うポニーテールになっていた。

 といっても、ネアの髪をこうしてやったのは俺であり、少しだけ不格好ではあるもののネアはその髪型に満足している様子であった。

『……レイ。コアマンティスって、どんな魔物なの?』

「コアマンティスはカマキリが何十倍にも大きくなったような魔物だ。というか、ネアはカマキリを知ってるのか?」

『……ううん、分からない』

「うーん、そうだな……腕に鎌を持った虫とでも思ってくれ。だが、コアマンティスの鎌はまるでボールキャタピラーを切り刻むために生えたような形をしている」

『なら、早く倒さないと』

 試しにあえてボールキャタピラーを使って過剰に表現してみたのだが、それはどうやら効果絶大だったみたいで、ネアは顔を見上げてどこかやる気に満ちた目をしていた。

 まぁ、無表情なのは変わりないのだが。

「(……なんというか、見た目に比べて中身は結構幼いんだよな)」

 まるで、物心を覚えたばかりの子供のようである。

 だがその分素直ということになるため、動かしやすくはある──というところだろうか。

「それよりも、今は早くコアマンティスの巣へと目指さないとな」

『……巣って、どこにあるの?』

「イズンさんたちの話を聞いてなかったのか? コアマンティスの巣は、ネチャクの森の中央にある山の地下にある。そこだけはネチャクの森の中でも水捌けのいい土地だから、水が苦手なコアマンティスが住むにはちょうどいい場所だって、イズンさんたちが教えてくれただろ?」

『…………そうだった』

 絶対忘れていただけだと思うが、今ここでネアを問い詰める必要はないため、俺は首の後ろ辺りを掻きながらも、歩きづらい森の中を歩き進めていく。

 そして、ネチャクの森に入ってから二十分ほどで、俺たちはネチャクの森の中央にそびえ立つ山の麓へとたどり着いていた。

 その山はまるで一つの岩の塊のようであり、表面には植物などは生えておらず、ただ本当に巨大な岩が山となってそこにあるようなものであった。

 だが、いったいどこから湧き出ているのかは不明だが山の頂上からは滝が流れ出ており、少し遠くにはその滝が行き着く大きめな池が広がっていた。

 おそらく、あの滝と池があるせいで森全体に絶え間なく水が行き渡り、このような土壌になってしまっているのだろう。

 しかし綺麗なものは綺麗なので、潰すには勿体ない光景ではあった。

「それで……コアマンティスの巣は……」

『…………あれ、怪しい』

「あれって、あれか? ……確かに、あからさまだな」

 ネアが指をさした先には、一見洞窟のようではあるものの、明らかに自然生成ではなく掘られたような洞窟の入口があった。

 その下を見るとコアマンティスの足跡のようなものがあり、そこから少し離れた場所には糞らしきものが一箇所にまとめられていた。

「……一応《気配察知》で確認しているが、俺たちの足元に反応がじゃうじゃあるな。といっても、まだ寝てはいるから安全だが」

『…………でも、こんなに大きな巣を潰すのは難しい。どうやるの?』

「言っただろ? 地の利を活かすって。今から俺が──いや、ネアにはあることをしてもらう。それは、コアマンティスを根絶やしにするだけでなく、この土地にコアマンティスの巣を作らせなくするための作戦だ」

『……私がやるの?』

 ネアが自分に向けて指をさしながら小首を傾げるので、俺は強く頷いてみせる。

 そしてネアにその作戦を伝えるのだが、さすがのネアも俺の考えた作戦の強引さが理解できるのか、どこか嫌そうな顔をしていた。

 だがこれはボールキャタピラーのためだと伝えると、ネアは『頑張る』とやる気を見せてくれ、早速作業に取り掛かってくれた。

 そして現在、ネアは滝が行き着く池の中で《ゲート》を展開し、池の水を大量に《ゲート》の中に流し込んでいる最中だ。

 俺が考えた作戦は強引で非道な作戦ではあるものの、この方法は最も有効な手であり、それでいて地の利を活かした最良の手であった。

 だがそれを成すには、大量の水が必要となる。
 そして、それにはネアの《ゲート》がもってこいなのである。

 俺の持っている魔法の袋よりも容量がある《ゲート》だからこそ、これはできる芸当だ。

 できる芸当、なのだが──

「……なぁ、その《ゲート》って、中にどれだけのものが入るんだ?」

『……よく分からないけど、無限?』

「む、無限!?」

 まさかの返答に、俺は声を荒らげてしまう。
 今、ネアは池の水を《ゲート》の中に流し込んでいるのだが、ものの数分で池の水が半分以上なくなっているのだ。

 山から流れ出ている滝があってもなお、池は水かさを増やすことなく、それどころかむしろ水かさはぐんぐん下がっていっていた。

「……その無限って、表現的な意味か? それとも、量的な意味か?」

『…………この《ゲート》を使ってると、中にどれだけ物が入ってるかが分かる。感覚的に、まだこれくらい』

 と言いながら、ネアは人差し指と親指で数ミリ程度の幅を作ってみせる。

 それが本当なら、やはりネアの持っている《ゲート》というスキルはまさに魔法の袋の完全上位互換であり、スペシャルスキル──いや、レジェンドスキル並の価値があるスキルだと言えるだろう。

 そうこうしている内に、池の水は九割ほど抜けてしまっていたので、俺はネアにもう充分であると伝え、一旦《ゲート》を閉じてもらう。

 予期せぬ出来事はあったものの、これで必要なものは余分に集まったので、俺たちは早速作戦を決行することにした。

「よし、ネア。行けるか?」

『……うん。いつでもいける』

「じゃあ……遠慮なく頼む」

『…………ん』

 ネアは短い返事をした後、コアマンティスの巣の入口だと思われる穴に向けて《ゲート》を展開し、一気に池から抜いた水を流し込む。

 その勢いは滝すらも凌駕しており、巻き込まれてしまえば簡単にポックリ逝ってしまいそうなものであった。

『……これ、いつまでやるの?』

「そうだな……とりあえず、俺がもういいって言うまでやってくれ」

『……分かった』

 《ゲート》を展開したまま、ジッと洞窟の中を見つめるネアを横目に、俺は腕を組んだまま《気配察知》を発動させていた。

 まず、俺たちの足元にいるコアマンティスだろう反応が一つ消えた。それを追うように、二つ三つと消えていく。

「(作戦通り──最高だ)」

 考えた作戦が上手く行き過ぎて、つい笑みを零してしまう。

 今回俺が考えた作戦は、コアマンティスの巣を潰すだけでなく、その巣の中に生息するコアマンティスを一掃し、それでいてこの土地に一生コアマンティスの巣ができなくするための、一石三鳥の作戦であった。

 この作戦の名前は、安直だが『水責め』である。

 水が嫌いなコアマンティスを弱らせ、溺死に追い込む作戦だ。

 それだけでなく、コアマンティスの巣は地下に伸びているらしいので、大量の水が流し込まれればいくら水捌けがよくても水は溜まっていき、コアマンティスたちは脱出を余儀なくされる。

 しかし、この水圧の前では巣を登ることも不可能だろう。

 そして、水捌けがよい山の地下も、大量の水で埋めつくしてしまえば水が捌けることはなくなるし、深い池となったコアマンティスの巣が完全に乾くことは、おそらくだが当分ないだろう。

 だがそれよりも、この作戦ならばコアマンティスを一網打尽できるので、一匹も逃がすことなく一掃できるのである。

「(イズンさんたちの情報によると、昼間コアマンティスは絶対に巣からはでない。それは、ぐちゃぐちゃな土を嫌ってるからだ。それでも、夜になれば腹を空かせるから外に出てくる。そんなの、昼間を狙ってくれと言ってるもんだよな)」

 俺の《気配察知》範囲内の反応がすべて消え、とりあえずコアマンティスの半分以上は溺死しただろう。

 あとは、しばらく水を流し込みつつも、コアマンティスが出てきてもいいようにここで見張っていれば──

「っ! 危ねぇ!?」

『え──』

 突如として俺の《気配察知》の範囲内に一つの反応ができたと思えば、その反応は今までの反応とは違って地面の下から垂直に駆け上がってきたため、俺はすぐさまネアを抱きかかえてその場から離脱する。

 するとネアの立っていた地面に亀裂が入り、俺がネアをそっと地面に下ろしたと同時に地面の中から大きなカマキリが姿を見せた。

 だがそのカマキリはコアマンティスよりも大きく、それでいて皮膚は緑色をしておらず、真っ赤であった。

「……まさか、コアマンティスの親玉ってのはコアマンティスの上位種なのか……? だが、これは好都合だ。こいつが出てきたということは、こいつさえ倒してしまえばこの巣は完全に潰れたことになる」

『ギィィ!! ギィイィイイィィ!!』

 巣を潰され、仲間たちを残酷に殺されて激昴している赤いコアマンティスは、片腕に二本ずつ生えた鎌を振り回しながら、奇声を発する。

 だが俺はそんなコアマンティスを前に臆することなく、むしろ腰に携えた鞘から白い剣を抜き、一歩前に足を踏み出した。

「ネアは下がっててくれ。ここからは、俺の仕事だ」

『……分かった』

 ネアが安全圏まで下がったことを確認してから、俺は剣の柄を強く握りしめてから腰を低くし、剣を構える。

 ジメッとした森の中。
 俺と、ネチャクの森の主と呼んでも過言ではない赤いコアマンティスとの火蓋が、たった今切られた。
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