スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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ドワイラルク編

第14話 取引成立

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 しばらく時間が経ち、数分後。
 奥の部屋に消えたポッチョが、漆で塗られた受け皿の上に白金貨と金貨を乗せて部屋に戻ってくる。

 その光景は、まさに異質そのものであった。
 今、俺の目の前には白金貨三枚と、金貨が三十枚山積みされている。

 それだけの金があれば、散財しないかぎり死ぬまでちょっとした贅沢な暮らしができる額であった。

 それを、今俺は手にしようとしている。
 だが、確かにその金があれば楽しく一生を過ごせるかもしれない。

 しかし、それはあくまで一般人にかぎる話だ。

 俺みたいな冒険者は、武具を揃えたり生活必需品を整えたりするには多額の金が必要になるし、それだけでなく冒険するための馬車代や、宿代だって馬鹿にならない。

 正直、白金貨三枚なんていい武具を揃えたらすぐに無くなってしまうだろう。

 だからこそ、俺はポッチョがいない間にある物を用意させてもらったのだ。

「……レイさん。これは、いったい……?」

「実は……俺たちは冒険者兼トレジャーハンターをやっていてな。世界を転々と移動して、あらゆるダンジョンで宝を集めていたんだ」

「トレジャーハンター……ですか」

「あぁ。でもこれを売るにはそんじょそこらの店じゃ取り扱ってくれないからな。だから、あんたなら取り扱ってくれるんじゃないかと思って、用意したわけだ」

 そう、俺は秩序の塔内部にあったヴェルタニアの宝物庫で見つけた武具や道具類を、机の上に並べたのだ。

 と言っても、全てではない。
 使い道がない武具や、いくつかあるが一つで充分な道具など、俺は並べに並べた。

 だが持っている物を全て出しては変に疑われるかもしれないので、とりあえず俺は机の上に三つの物を置いたのだ。

 ちなみにトレジャーハンターというのはあくまで肩書きで、俺が貴重な武具や道具を持っていることを、変に疑われないための保険である。

「ふぅむ……どれも管理がよく、素晴らしい品ですね。少し触れても大丈夫ですかな?」

「それは自由にしてくれ。あと、確かに俺は魔法の袋を売ると言ったが……こっちでもいいよな?」

「どれどれ──って、これは二つ目の魔法の袋じゃないですかな!? しかも、レアリティはA……どうして、こんな貴重なものを二つも……」

「だから言っただろ? 俺たちはトレジャーハンターだって。俺があんたに魔法の袋を売るのは、金が欲しいだけじゃない。どうせ使わない予備の袋を、有効活用したいと思っただけだ」

 それを聞き、珍しくポッチョは汗を一筋垂れ流しながらどこか納得したように頷いていた。

 だが焦ってはいけないと咳払いをしており、少しだけ動揺の色が見えていた表情は、完全にポーカーフェイスになっていた。

「……なるほど。わたしがレイさんたちを試したように、レイさんたちもわたしを試していたのですね」

「まぁな。まず相手を疑う。それが取り引きってもんだろ?」

 アーラスのギルドにいたとき、依頼を終えたあとは大体アリサが担当していた受付カウンターの前でお茶を飲んでいたので、色々と世間話が耳に入ってくるのだ。

 その中の一つなのだが、ある日、とある男はなんてことのない魔物の素材が高値で売れて、調子に乗って酒を浴びるように飲んでいたことがあった。

 だがその後日、その男はギルドの中で悪態をついていたのだ。

 その内容も、前日に高値で売った魔物の素材は実は貴族が欲していたものであったらしく、その貴族の遣いが商人にありえない額の金を払って魔物の素材を買い取っていたことを、目の当たりにしたという内容であった。

 それこそ、高値で売れるというだけで有頂天になってしまい、後先考えずに売っぱらってしまった男が悪いのだが。

 それは、聞いている俺にとってはいい反面教師であった。

「では、わたしも隠していたことを明かしましょうかね」

「……なんだと?」

「わたしは過去に《鑑定眼》のスキルはないと言いました。しかし、これならあるのですよ」

 と言うと、ポッチョの右目が緑色に光りだす。
 それはまさに俺が《鑑定眼》を発動したときのようで、色が違うことから推察するに別の魔眼であることが理解できた。

「これは《鑑識眼》という、《鑑定眼》とはちょっと違った効果のある魔眼です。効果は、見た対象物の名前やレアリティの解析。そしてそれが本物であるか偽物であるかの判断。それと、その物の価値が分かるものです」

「全般的に見れば《鑑定眼》とは違うな。完全に物専用って感じだな。だが、そんな大事なことをペラペラと話してもいいのか?」

「えぇ。なぜなら、レイさんは大事なお得意様ですから」

 どうやら俺が貴重な武具等を出したおかげで、ポッチョの中では俺が「商売になるいい人材」であると認めてくれたのかもしれない。

 それとも、この情報が漏れたら俺が言い触らしたということになりますよという牽制なのか……真相は不明である。

「そうですね……どれもレアリティはAランク。しかも、どれも中々出回らない代物です。どうでしょう。ここは、オークションにかけてみませんか?」

「……オークション?」

 ここで、聞いたことのない単語が出てくる。
 オークション……よく分からないが、ポッチョが提案してくるということは悪い話ではないのだろう。

「それは、どういうものなんだ?」

「簡単な話ですよ。冒険者が見つけてきた魔物の素材や、武具等を大富豪たちが競りをかけるのです。普通なら金貨十枚で売れるものが、白金貨になったりなど──夢のあるものとは思いませんか?」

 確かに、ポッチョの話の通りことが進めば一気にお金持ちになるかもしれない。

 だが、そういう場はやはり闇の世界というか、裏の世界というかなんというか……とりあえず、ポッチョが俺の事を信用して誘ってくれてるなら嬉しいのだが、踏み入れてはいけない世界のような気がするのだ。

 この世には、奴隷制度がある。
 こんな大きな商会で、それも大富豪たちが集まるのなら、奴隷が競りに出されてもおかしくないわけで。

 正直、人を人が金を出して買う世界を、俺は見たくないしネアにも見せたくない。

 勝手にポッチョがやってくれるのなら話は別だが、極力そのような世界には関わりたくないというのが、本音である。

「あんたの言う通り、夢はあるな。俺だって、今後の生活を安定させるために金は欲しい」

「それなら──」

「でも、やめとくよ。俺はあんたを信用してるが、なにが起きるか分からない。そのオークションとやらに参加したことで、変な奴に目をつけられたら困るしな。それに、今俺にはネアがいるからさ」

 隣を見ると、ネアがいる。
 今は俺とポッチョの難しい話で眠くなったのか、ネアは俺の腕に体を預けながらすやすやと寝息を立てていた。

 そんなネアの頭を撫でてやると、ネアはほんの少しだけ口角を上げ、どこか気持ちよさそうな表情を浮かべていた。

「ネアはさ、特別なんだ。あ、いや。別に恋人だとか、婚約者だとかじゃないぞ? それでも、俺はネアと特別な出会いをしたんだ。だから、俺はネアを守ってやりたいんだよ」

「……そう、ですね。ネアさんはいつも無表情でなにを考えているのか分からない御方ですが、レイさんの隣にいると楽しそうに見えます。まぁ、あくまで客観的に見ただけですがね」

「そうか? ネアの表情が読み取れるなら、大した観察力だよ。じゃあ、オークションという話は無しで、精算を頼めるか?」

「分かりました。では、まずは魔法の袋と護衛等の報酬金を受け取ってもらえますか?」

 受け皿を差し出され、俺はその上に乗せられている白金貨三枚と金貨を三十枚受け取り、今度はなにも乗せられていない受け皿に予備の魔法の袋を乗せる。

 これで、取引成立である。
 そしてポッチョはまたまた奥の部屋に消え、今度は俺が宝物庫で見つけた三つの武具分のお金を運んでくる。

 そこには白金貨一枚と金貨五十枚乗せられており、それらも受け取った俺は、最後にポッチョと握手をした。

「ありがとうな。またあんたには──いや、ポッチョさんには色々と頼むことが多くなるかもしれない」

「レイさんなら大歓迎ですよ。ちなみに、これからレイさんはどうなさるつもりですかな?」

「うーん、そうだな……」

 欲を言えば、真実の塔に挑みたい。
 だがまずはこの国、ドワイラルクを観光したいし、ネアの武器を調達する意味でも腕のいい鍛冶師の工房を訪ねてみたい。

 それを伝えると、ポッチョは手元の手紙になにかを書き、俺に渡してきた。

 それは簡易的だがドワイラルクの地図であり、そこには俺がドワイラルクで迷わないように、様々な行き先についての詳細が書かれていた。

 まず、ポッチョ商会の場所。
 そしてギルドや塔の場所、それだけでなくオススメの宿やポッチョ一押しの工房などの情報が丁寧に書かれており、本当にポッチョには頭が上がらない。

 こんなどこの馬の骨かも分からない俺たちに、ポッチョはここまでしてくれる。それについては、本当に感謝であった。

「その工房にはわたしの古くからの友人であるバッツォという男がいます。これを見せれば、バッツォも快く対応してくれるでしょう」

 そういうポッチョは、俺にある物を手渡ししてくる。

 それは通行手形のような物で、そこにはポッチョ直筆のサインとポッチョ商会のハンコが押されていた。

「……これを見せればいいのか?」

「はい。それさえ見れば、バッツォもレイさんがわたしの客人であると気付いてくれるはずですよ」

 それなら。と、俺はポッチョからその通行手形らしき物を受け取り、感謝を伝える。

 するとポッチョは笑いながら「大丈夫ですよ」と言い、それからルーカスを呼んで今後の仕事の話をするため客室を出ていってしまった。

 その時、ポッチョは「困ったらいつでもここに立ち寄ってくださいね」と声をかけてくれた。

 今後、きっとこのポッチョ商会との関係は長く続いていくだろう。そして、今後の冒険を上手く進めるには、このポッチョ商会の協力を仰ぐときが来るかもしれない。

 そう考えたら、あのときの俺の行動は正しかったのだ。こうして素晴らしい人と知り合えるからこそ、人助けというものは素晴らしいものなのである。

「……よし、とりあえず……ネアが目を覚ますまで待機だな」

 客室ということで、ルーカスからはしばらくここにいてもいいと言われたので、俺はその言葉に甘えてネアが目を覚ますまで静かに過ごすことにする。

 そして、その数分後にネアが目を覚ましたので、俺はネアにネアが寝ている間になにがあったのかを伝え、とりあえず一旦ネアを連れて客室を出る。

 途中で使用人らしき人に客室を貸してくれたことについてのお礼と、ポッチョによろしく伝えておいてほしいと頼んだ俺は、ポッチョ商会を出て地図を頼りにバッツォの工房を目指すのであった。
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