10 / 51
10 思わぬ展開
しおりを挟む当たり前にやり返す。
お亡くなりになった騎士をカタリーナのベッドに入れる。
もちろん真っ裸にしておいたし、カタリーナの夜着も没収しておいた。
起こしにきた侍女が大変に困る光景だろうし、カタリーナもびっくりだろう。
この程度で済ますなんて俺って聖人だな。
政治的な配慮というものをしているから、この程度で済ませている。
というか、どれぐらいのことをしていいのかわからない。
やりすぎてソフィーやマックスが困るという事態になってはいけないと思っているから、この程度で済ませているのだが、実際のところはどうなのだろうか?
ソフィーがプンスカ怒っている。
彼女は怒ると剣を振る。
とはいえむちゃくちゃに振り回すのではなく、魔功を使い、剣の型を繰り返す。
流れに問題はない。
中庭で優美に剣舞を行うソフィーの姿に皆が見惚れている。
だが、その内心はプンスカだ。
原因は俺にある。
この間の熱病が原因で、俺を主役にしたお茶会が延期になったのだ。
俺も六歳。
貴族との付き合いを行い、友人作りをしないといけない年頃なのだそうだ。
友達なんて、一緒にいれば勝手にできているものだろうと思うが、貴族の間ではそういうものではないらしい。
特に王子である俺は、将来王になった時に、ともに政治を行う仲間となる者たちを見つけるという意味があるそうだ。
少しでも俺が社交を始める時期を遅らせて、エーリッヒの派閥を固めるつもりなのだと、ソフィーは考えているらしい。
普段は人の良さそうな顔で笑っているけれど、ソフィーも貴族の娘だ。
ここ最近の嫌がらせを独自に調査しているし、それがカタリーナからの可能性が強いことにも辿り着いているようだ。
「ふう……」
ひとしきり剣を振り終えて満足したのか、ソフィーが息を吐いて剣を下ろす。
そして俺が見ていることに気づいた。
「うわあああん、アル~~~~ごめんねぇ」
といきなり抱きついてくる。
「アルのお茶会がなくなっちゃったの」
「そうですか。僕は別にいいですよ」
「そんなことはないわ。アルのお友達を見つけないといけないのに」
「別に友達なんていりませんよ」
「ダメよ。アル。いつまでも私とだけ暮らすというわけにはいかないのだから」
「でも……」
「すぐに次のお茶会を用意するからね!」
「ええと……はい」
ほんとにいらないんだけどな。
ていうか、王位だって別にいらない。
この気持ちをどうやって伝えればいいのか。
いや、伝えていいものなのかどうか。
はぁ、困ったな。
だが結局、お茶会は開催されなかった。
国王フランツから命令が来たのだ。
「先日の高熱病による後遺症を陛下は案じております。第一王妃ソフィーと第一王子アルブレヒトにはエルホルザでの静養を命じる」
フランツからの使者は感情のない声でそう言うと、こちらの返事を聞く前に帰って行った。
俺が思うに……フランツは俺たちのことが嫌いなのかな?
しかし、エルホルザか。
この国の地図は勇者時代から見ているし、アルブレヒトとして勉強している時にも習っている。
エルホルザは王国直轄領の中でも北にある地名だ。
牧畜や軍馬の育成などが行われている土地だったか。
確かに街なんかもなくて静養には持ってこいかもしれないな。
しかも北だ。
故郷のアンハルト領からも遠い。
なんだ、あからさまな引き離しか?
さて、ソフィーはどうする気なのか?
彼女はしばらくあんぐりと使者のいた辺りを見つめていたかと思うと、「ふう」と長いため息を吐いた。
「ごめんね、アル」
諦めている顔だな。
「母様は悪くないですよ」
「ううん、でも、ここを出ていかなくちゃいけなくなったから」
「そうですね。それならいっそのことお祖父様のお家に行きませんか?」
「そうねぇ、それもいいかもしれないわね。でも……」
行く気にはならないか。
「母様は、父様のことが好きなんですか?」
こういうことを子供が聞くのはおかしいのかもしれない。
俺だって、かつての両親がお互いを好きか嫌いかなんて気にしたことはなかった。
だが、村人の夫婦と貴族の夫婦ではあり方が違う。
常に一緒にいるわけでもない。
いや、俺が俺として意識を持つようになってから、フランツがアンハルト宮殿に訪れた回数は非常に少ない。
他の宮殿にどれぐらいの頻度で通っているのか知らないが、あまりにも少ない。
その回数がそのまま、フランツの気持ちを代弁しているのではないか?
そう思うのだが……。
「そういう問題ではないのよ」
ソフィーは悲しそうにそう言った。
そういう問題にしてしまえばいいと思うが、そうはいかないのだろう。
難しい話だ。
腹立たしいから、フランツの部屋に行ってなにか取ってこよう。
城に忍び込むのもそれほど難しくはなかった。
勇者時代に謁見の間までは行ったことがあるので、玉座のあるところからさらに奥を目指してみる。
要所に立つ兵士の質が変わったのがすぐにわかった。
ここが城の奥。王の生活空間だろう。
どうしてここに王妃が住めないのか。
まぁ、そのことはいい。
フランツは一人で眠っていた。
三人の王妃にたくさんの愛人と聞いていたので、一人で寝る夜なんてないのだろうと思っていたが、そういうわけではなさそうだ。
寝ててもわかる陰気そうな顔。
ソフィーとは性格の相性が悪かったのかもしれない。
一般の夫婦でも離婚するのは大変だ。
王族や貴族ともなれば、それはもっと難しくなるだろうことはわかる。
だが、だからと言ってただ遠ざけて知らん顔をするだけで終わらされてはたまらない。
嫌がらせは、存分にやらせてもらう。
さて、なにか、取られて困る物はあるかな?
「ん?」
壁に掛けられている物に目がいった。
剣だ。
それなりの装飾がされた剣だ。
儀式用か?
それにしては刃が本物というか、切れ味が維持されている。
ああ、魔法でそういう状態が維持されているのか。
聖剣か魔剣の類だな。
そうだな。
魔族軍との戦いで俺が身につけていた装備一式は、周辺国家に分けて預けられているし、子供だということで武器を与えられていない。
こいつをもらっていくとするか。
この後、なにやら城では大きな騒動が起きたそうだが、なにが起きているのかを知らされてることなく、俺たちは王都を出てエルホルザの地へと向かうことになった。
55
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる