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43 怪盗に会う
しおりを挟む俺の外出届は簡単に済んだ。
ソフィーに「ちょっとお出かけしたい」と言うと、即座に「いいわよ」と帰ってきた。
そもそも王から放置されている王子だ。
ちょっと出かけるぐらいなんてこともないのだろう。
「とはいえ、変装ぐらいはしましょうね」
というわけで、ソフィーの手によって街のガキンチョ風に変装させられた。
それっぽい服を着て帽子を被っただけだけれど、これでいいのか?
まぁ、王子から小金持ちの息子ぐらいにはなったかもしれない。
イーファの方も聖女長の格好から、小金を稼いでいる奥様みたいな格好になった。
「少年を買う奥様の図」
「黙れ」
馬車の中でそう言ってみると、ガチ目に怒られた。
今日はなんとかマナナを引き剥がすのに成功した。
あいつも日々成長しているようで嬉しい。
帰ってきてからの反動がすごそうで怖いが。
「それで、どこに向かうんだ?」
「王都の裏通り」
「なんだ、そんな近くにいるのか」
もっと遠出になるのかと思った。
なら、マナナの反動はそこまでひどいことにはならないか。
「思ったよりね。まぁ、だからこそ、あるいはあんたの記憶が交渉の鍵になるんじゃないかと思ってるんだけど?」
どういうことだ。
詳しく聞こうとしても、教えてはくれなかった。
「まぁ、いまのところはただの女の勘だから。外れてるかもしれないし」
「ああ、お前の勘は当てにならなそうだからな」
「うるさいわね」
いや、本気で当てにならないんだよ。
大迷宮っていう場所がかつてあってな、そこに入った時なんて、こいつの勘のせいでどんどん悪い方向に行ったしな。
あの時は「これは修行」の精神にならないと辛かった。
馬車は街の中に入ってそこそこ進んだところで止まり、俺たちは降りた。
「これなら夜に忍び出た方が良かった」
それならクナイも持ち出せたのに。
この格好だとどこにも隠せないんだよな。
「相手がこの時間を指定してきたんだから仕方ないでしょ」
「ふうん」
怪盗なのになぁ。
日がある時間に裏通りを歩くと、ただ薄汚い狭い道という感じになる。
何人か、通りの端に腰掛けているような暇な若者がいたけれど、誰も俺たちの前を遮ることはしなかった。
いや、邪魔をしようとはしたんだ。
「ねぇ、おばちゃん。おこづ……」
「ああ⁉︎」
「……すいません」
みたいなことが何度かあった。
何度だったかは言わないでおこう。
目的地の扉は特に看板などはなかった。
ただ、分厚そうではあった。
イーファがノッカーを叩くと、覗き窓が開いて誰かがこちらを確認し、それから鍵があいた音がした。
その後がないので、こちらで開けろということなのだろう。
扉を開けると、そこには誰もいなかった。
狭い廊下が奥へと続いている。
進んでいると、背後で扉に鍵のかかる音がした。
だが、振り返っても誰もいない。
「ふうん」
ヴィジョーネ……幻らしい演出だな。
さらに進んでいくと、物が溢れた一室にたどり着いた。
「ようこそ、ヴィジョーネのねぐらに。御用は?」
部屋の中央に机があり、その向こうに占い師のようにベールで顔を隠している女がいる。
見た感じ、若いか。
二十代の後半というところか。
いや、そんなことより。
「違うな」
「違うわね」
俺とイーファの意見は同じだった。
「あなたは私たちの探しているヴィジョーネではない。本物を今すぐに出すか、偽物であることを認めるか、どちらかにしなさい」
目の前の女は声をひそめて笑った。
「あら、幻に本物を求めるなんて愚かなことを」
「あなたの言い分はどうでもいい。どうするの? 私たちを暴れさせたいの? それはそれでもかまわないわよ。最近ちょっと鬱憤が溜まっているから、あなたたちで晴らさせてちょうだい」
『たち』と言ったことに女が反応した。
女の後ろに別の部屋に通じる扉があるんだが、そこに複数人が控えているのはわかっている。
「わかったわ。それなら……」
女が立ち上がると、後ろの扉が開き、そこから五人の女たちが部屋に入ってきた。
年齢も容姿もまるで違う女たちが並ぶ。
「この中から、あなたが用のあるヴィジョーネを選びなさい」
その言葉にはいろんな意味が含まれていそうだ。
ヴィジョーネが一人を指す言葉ではない、という意味。
あるいは、本物を見極められないなら誰から話を聞いても同じ、という意味。
そもそも真面目に話を聞く気がない、という意味もあるかもしれない。
「アル」
しばらく女たちを眺めたイーファが俺に声をかけてきた。
もう降参かよ。
「勘はどうした?」
「うるさいわね。あんたはどうなの?」
「ヴィジョーネの本物かどうかはわからんが」
俺は一人の女性を指した。
一番ふくよかな女性だ。
「あっちの女には覚えがある」
「そうなの?」
「ああ。魔王城によく食料を運んでくれていた」
俺が魔王城で監視兼修行をしている間、その生活は西部諸国で支えるということになっていた。
実際にどういう順番になっていたのかはわからないが、毎月、水と食料や日用品を運んできてくれるようになっていた。
あのおばちゃんは、その中の一人としてよくいた。
いろんな姿で俺のところにやってきた。
「姿は変わっていてもスッゲェ話しかけてくるからな、バレバレだ」
「なっ、うあっ……」
俺の言葉におばちゃんに他の女性陣の視線が集まる。
当のおばちゃんも狼狽している。
「な、なんの話だい? そもそも、あんたみたいな子供が魔王城のことなんて」
なにかを必死に言い繕っているようだが、俺はそれを無視しておばちゃんに近づくと、その額に指を弾かせた。
デコピンというやつだ。
おばちゃんは吹っ飛び、部屋に詰まっていたいろんな物に受け止められる。
飛び出していたおばちゃんの太い足が消え、その後に肉感的な長い足が姿を現した。
「この痛みを忘れたって言うなら、何度でも叩き込んでやるぞ。お邪魔虫ちゃん」
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