作者は異世界にて最強

さくら

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二十四話

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その後、紗奈が雪音に魔力を渡して、雪音の魔力欠乏は回復した
尚、影月が言うようにその夜はだったようだが
「...で今どういう状況だっけ?」
「読み直せ」
「メタいよ」
矢矧の中で久遠は紅零と話していた
場所は艦橋。矢矧は魔王が住む魔王城の前に停泊していた
明日魔王との謁見があるものの、久遠は何かを用意するつもりはない
「...ったく、想定外のトラブルで飛んだ時間を食ったぜ」
「なんかごめん。そういえば、魔王ってどんな人なの?」
「お前が引きこもってる間にあったが、なんというか俺そのものみたいな性格してたな。口調が同じだから間違われそうだ、読者に」
「メタい話しなきゃ死んじゃうのか君は」
久遠はそう言ってソファーから立ち上がった
久遠の左手の薬指には、銀色に輝く指輪がつけられている
「...指輪、ね。シルバーは婚約指輪に見えんこともないな。デザイン的には結婚指輪か?」
「まぁそのつもりで渡したからねー。雪音が気づいてるかはわかんないけど」
その指輪は、離れていても魔力供給ができるようにするための経路パスの役目を持っている
久遠が作り、雪音に渡したのだが、久遠的には結婚したい欲望の現れでもあったようだ
「気づいてるってよりは、多分舞い上がってるだろ。「見てください椎名さん!主様から結婚指輪もらいましたよ!」とか言ってんじゃね?」
「あはは...ありえないって断言できないなぁ」
久遠はそう言って窓から見える阿賀野に目をやった

同じ頃の阿賀野艦橋
「見てください椎名さん!主様から結婚指輪もらいましたよ!」
「よかったわね。向こうがそのつもりあるかはわからないけど」
「もらえたという事実を元に妄想するから大丈夫です!」
「それはだいじょばないって言うのよ」
椎名はため息をついて雪音に向き合った
雪音は先程の久遠と同じように、壁に沿うように配置された長いソファーに座っている
尚、とてつもなくテンションが高い
「渡されたの昨日よね?」
「もはや今日でしたよ?」
「深夜なのね。また夜伽したのかしら?」
「...そ、そうですけど......?」
「なんで急に顔を赤らめて俯くのよ。久遠の前でやりなさいよ」
椎名はそう言ってカメラを取り出し写真を撮った
すぐに印刷された写真を、換気のために開けられた窓から投げる
真っ直ぐ矢矧に向かって飛んでいき、同じく換気のために開けられた窓から久遠の太ももに刺さった
悲鳴をあげてのたうち回る久遠を見て、やっと心に平穏が訪れた椎名だった

桜音はというと、天羅と愚痴を言い合っていた
桜音は久遠の、天羅は紅零の愚痴だ
「...おか、しい...私の、彼氏なのに...」
「同意。私の主は、私を放置し過ぎだと思う」
「...抗議、する...」
「タイミングが重要。今言っても恐らく魔王謁見を前に流される」
桜音は冷静に返し、酒匂のかなり広い医務室をぐるりと歩いた
天羅は何も言わずに見ている
「...私は雪音と比較してここまで体格が幼い。身体基準は約十五歳の女子中学生。だから誘惑の武器も幼い」
「ん...けど、桜音...可愛いよ...?」
「同意。主が作るものは可愛くて当たり前。けど、人は見た目だけでは人を判断しない。特に主はそう」
「...?性格も、可愛い...。献身的なのは、男の子に好かれやすい...」
「...そう。私は顕現してから数ヶ月しか経っていない。だから、人間の常識を知らない」
桜音はそう言って天羅の隣に座り直した
医務室のベッドは質素だが、桜音でも座りやすい高さだ
「だから、天羅が教えて。無知な私に、雪音に勝てる知識を与えて欲しい。代わりに何が与えられるかはわからない。けど可能な限りやるから」
「...わかった...、私もやる...!桜音は、私を観測しててね」
天羅は桜音に微笑みかけた

夜刀神と黒鉄、そして由香
「チクショー暇だぜ」
「そうですね。ならもう一回やりますか?」
「そういう話ここでしないでー」
「チェスをやるんですけど...」
「何を妄想したんだ、変態付喪神」
「貴方らのこと嫌いになりそうだわ!」
黒鉄は笑って大和の甲板で横になった
夜刀神は近くに座り、黒鉄のために日陰を作る
「...夜刀神、こんな暑い時に何してる」
「暑いからこそ、黒鉄のためにこうしてあげてるんですよ」
「それだと貴様が辛いだろうが」
「黒鉄のためならどうということはありません」
「貴方らの愛が熱くて私は熱中症だよ全く...。艦橋にいるから何かあったら呼んでー」
由香は艦橋に戻り、計器類の調整を始めた
黒鉄は夜刀神にちらりと目を向け、すぐに目を閉じた
(...無関心ですか)
「...異能力《時喰ときはみの城》」
「...!?」
黒鉄がぼそっと呟いた直後、黒鉄の影が二人を取り囲むように広がり、やがて見えなくなった
そして夜刀神の肌をジリジリと焦がしていた日差しが、暑さを失っている
「これは...」
「《時喰みの城》っていう、《暴喰者グラトニー》の応用だ。今は25度に保つよう熱を喰らわせている。《時喰みの城》は展開時以外見えねぇが、今もそこにあるぜ」
「じゃあ傍から見たら、暑い中全く汗をかかない変態に見えるわけですね」
「ああ。ま、今の俺らは誰にも見えねぇよ。中から外への光を食わせてるからな」
「...では、中で何をしても」
「誰にもバレねぇよ」
黒鉄はそう言って目を開けて、噴き出した
「な、何故服を脱ぐ!」
「見えないようにしたということは、これがお望みでしょう?」
クスリと笑う夜刀神を見て、否定しない黒鉄
それを肯定ととったのか、夜刀神は黒鉄に迫っていく
「たまには黒鉄がリードしてくれてもいいと思うんですけど...?」
「...神格についてこれるほど屈強には見えねぇがな」
「神格が何かわかりませんが、貴方にならどこまででもついていきますよ」
黒鉄は夜刀神を下に覆いかぶさった
「その覚悟、しかと受け取ったぜ」
「あ、あのその......」
「なんだよ?」
「や、優しくしてください...ね...?」
黒鉄は夜刀神の動作を見る度、より一層夜刀神に惚れていく
夜刀神もまた、黒鉄を日に日に好きになる
なんだかんだで理想のカップル像なのかもしれない
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