異世界モノつめあわせセット

銀狐

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5.勇者を育てた俺、次は何を育てる?

5-11

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 翌朝、俺は町へ行くために準備をしていた。
 一緒に行くのはフラウだけだ。
 メリーを誘おうと思ったが、疲れているため休んでもらっている。
 ネストとイトナ、それにサシャは行きたいと駄々をこねたが、3人を連れて行くと人の町だと騒ぎになりかねない。
 他種族がいるにはいるが、人によっては受け入れない人がいるからな。

 というわけで、フラウなら花飾りをしていると言えるから選ばれたのだ。
 最後まで文句を言っていたけど、これに関しては仕方がない。
 代わりと言っては何だが、家を守っていてくれと言ったら嬉しそうに返事をしていた。
 面倒くさいところはあるけど、コロコロと表情が変わるのは面白い。

 俺たちは町へ向かい、歩き始めた。

*

「それで、話は本当だったんですか?」
「冒険者の話、であっているよな。それはまだ分からない」

 場所はヨルム王国。
 20の町を持つ大きな王国で、城が建てられているのはその中心である場所。
 その城の中で会議が行われていた。

「まだ分からないということは、調査隊を送らなかったんですか?」
「そこまでしたら大事になるだろう、ユージル班長」

 ユージル・バトラス。
 ヨルム王国の第二班班長で権力も持っている。
 その裏ではこうした問題になることを早く見つけ、対処することで成績を上げていた。

 そしてそのユージルの話し相手はエドラス・アンダーソン。
 ユージルが率いる第二班副班長であり、そしてユージルの腹心でもある。
 こういった話は二人だけで話し合っているのだ。

「大事に、ですか。これ以上の大事にならなければいいのですが」
「もちろん調査隊を用意したんだが、何しろAランククエストであるゴブリンの王国を潰した連中なんだ。少数だと生きて戻ってくるか分からない」

 ヨルム王国ではクエスト、つまり冒険者に用意された仕事はランク付けされている。
 Dから始まり、C、B、A、Sと上がっていく。
 最後はマスターというのがあるが、現在それほどのクエストはたった一つしか存在しない。

「その通りです。でしたらそれ相応の人に行ってもらったらどうですか?」
「そんなやついたっけかなあ……」
「………」
「もしかして、俺が行けと?」
「そうですよ。適任ではありませんか」

 もちろん捨て駒にする気はない。
 エドラスは強い、そう分かっているからこそ頼めるお願いなのだ。

「しょうがない、分かったよ。だけど無理そうならすぐに逃げるぞ?」
「ええ、エドラスを失うのはもったいないですから」
「よく言うわ……。そんじゃ行ってくる。みんなには適当に言っておいてくれ」
「分かりました。気を付けて行って下さい」

 エドラスが部屋を出ていくと、ユージルはすぐに机に向かった。
 机には地図、そして報告があった紙が置いてある。

「報告があったのはこの7の町の近くの森。ここはたしか…勇者が出てきた森のはず。でもなんでそんなところに強い魔物が……」

 勇者が近くにいたら討伐されていてもおかしくはない。
 魔物は進化をするが、これほど強いとなると何年も前から存在しているはず。

「報告をしてきたのはAランク冒険者のデトラー。確か単独でAランクまで上り詰めた秀才でしたね。その秀才が『手を出したら殺される』とまで言ったほどですから……」

 もしその魔物を討伐となるとSランク、もしくはマスターほどのクエストになるだろう。
 いや、マスタークエストになると、それは人類の危機が増えることになる。
 マスタークエストにある唯一のクエストは魔王討伐、何年何十年も前から設定されている。

 もしこれでマスタークエストになれば、報告に合った魔物は魔王レベルとなる。
 ただでさえ1体の魔王に苦戦しているのに、悩みの種を増やしたくはない。
 Sランクならエドラスに加え、自分も出れば何とか対処は出来る。
 マスターにならないように祈るしかない、ユージルはそう考えた。

「でも不思議なものですね。なぜ魔物が同じ魔物であるゴブリンを……。住む場所を襲われたから?食料を奪われたから?謎ですね……」

 考え事をしていると、ドアがノックされた。

「ユージル、今いいか?」
「いいですよ。どうぞ」
「失礼する」

 ドアを開けて入ってきたのはユリ・パーカー。
 このヨルム王国第一班班長であり、ユージルの上司でもある。
 そして何より、女性でありながら戦力は単体でマスターと言われているほどと言われているほど強い。

 もちろんユージルも強いが、ユリには見えない壁があるほど戦闘の差がある。
 努力しても届かない、才能があっても追いつけない、そう言えるほど圧倒的な差があるのだ。

「今日はエドラスがいないのだな」
「ええ。彼にはいつも頼っていますからね。今は休憩をしてもらっています」
「そうか。部下思いだな」

 本当は嫌な仕事を頼んでいるため、部下思いとは言えないだろう。
 だが、ここで表情を崩してしまったらバレてしまう。
 ユリが作戦に加われば成績は全て持っていかれてしまうのだ。
 だから知られるわけにはいかない、そのためさっそく話を切り替えた。

「それでどうしたんですか?わざわざ私のところまで来るとは」
「ああ、勇者の件だ」
「何度も言いましたが、調査はしません。あの人が要らないと言ったのですから」
「だが!」
「だが、と言われても答えは変わりません。彼が旅立ってまだ数ヵ月、心配し過ぎです」

 ブラッドは旅立つ時、一度この国へ訪れている。
 ヨルム王国はブラッドの生まれ故郷であり、レオに会うまではここで暮らしていた。

「気持ちは分かります。何せ勇者ブラッドは貴方の――」
「それ以上は何も言うな……!」
「っ!?」

 ユリはユージルを睨むと、ユージルは固まってしまった。
 先ほどまで笑顔を保っていたが、睨まれた瞬間崩れていってしまう。
 ようやく動けるようになると、話を再開した。

「私からは『大人しく待つ』としか言えません。彼は必ず生きて戻ってくると思いますので」
「…そうか、邪魔したな」
「一つ、情報を入手しました」
「何の情報だ?」
「詳細は分かり次第言いますので少し待っていてください」
「…なるほど、エドラスがいない原因はそうか。無理はさせるなよ」
「ええ、分かっていますよ」

 ユリは部屋から出ていった。
 静かになった部屋になると、ユージルはようやく楽な体勢へ変えることが出来た。

(私もまだ甘いですね。彼女ユリ勇者ブラッドのことについて話していると、どうも手助けをしてあげたくなる)

 断っているものの、本心は手伝えることがあるなら手伝ってあげたい。
 だが、ブラッドは現在魔王討伐のために旅をしている。
 そうなると、生存確認ですら危険が伴う。
 だから手伝いをするために兵を寄越そうにも、無事に辿り着くかも分からない。

「それにしても勇者が修行をした森に異変とは、どうにも気になる」

 ユージルは再び机に向かい考え始めた。

 廊下、ユリは自分の部屋へ戻るために歩いていた。
 その足はいつもとは違い、速足になっている。
 走るように部屋へと戻ると、ベッドに寝っ転がった。

 ベッドの上には物を置くスペースがあり、そこにある指輪を手に取った。
 そして指輪を大切そうに握ると、体を丸めた。

「ブラッド……。なんで私を置いて行ったの……?あなたのために強くなったのに。あなたと一緒にいるために頑張ったのに」

 ユリの目から涙が溢れ出てきた。
 静かに泣きながらも、微かな声でこうつぶやいた。

「私の大好きなブラッド……。無事に帰ってきて……!」

*

「師匠、やっぱり駄目だった」
「マジかぁ……」

 森の近くにある町、7の町は比較的平和である。
 中心にあるヨルム王国に所属しているため、近くに他国があれば戦場となる。
 だが、この町は隣国がなくて森しかないため、こうして平和なのだ。

 だがその平和のせいか、町の人達は俺たち同様自給自足に慣れている。
 というより、平和でいたいがため、この町で自給自足を覚えてしまったのだ。
 だからお金やお店はあるが、冒険者や俺たちみたいな別々に暮らしている者たちにしか使われない。

 それにしても参ったなあ。
 ある程度予想していたけど、一人も確保できなかったとは不甲斐ない。
 このままではメリーに顔向けできないなあ。

「師匠、あれ何?」
「あれは教会だな。なんかの神様を崇めているみたいだが……」
「知らないの?」
「知らないな。興味もなかったし、入ったこともなかったから」

 フラウは興味津々に教会を見つめている。
 こうして手伝ってくれているのもあるし、ちょっとだけ教会によることにした。

 俺は何回かこの町に来たことがあるため、俺を知っている人が何人かいる。
 声をかけられたが、特に勧誘とかはなく、気が住むまで見ていってくれとのこと。
 俺とフラウは教会を見て回った。

 やはり一番目立つのは大きな像があることだ。
 大きさは5メートルにも及び、周りにはいろいろな花が咲いている。
 見た目は天使で、手には光の槍を持っていた。

「ねえ、師匠」
「あ、ああ。これって…サシャだよな?」
「うん、そっくり」

 そっくりどころか瓜二つ。
 本人を見て像をつくったかのように、事細かに出来上がっている。
 まさかあの光の槍までつくられているとはな。

 でもなんでサシャの像がこんなところに?
 あのスキル『神罰執行者』のせいで知られているのか?
 元々どこか旅をしていて、その時に知られたのだろう。
 何かたまたま助けた人がサシャを信仰するようになった、そんな感じがする。

 と、予想を立てていると、横でフラウが本を読んでいた。
 俺も横から覗くと、そこにはサシャについて書かれていた。
 予想通り昔助けてくれたから進行しているようだ。

 というより、その話が約50年も前になる。
 サシャは一体いくつなんだよ……。
 それはいいとして、それよりも気になることが書かれていた。

「『神は二頭のドラゴン、白竜ウァイスと黒竜シュラーツに罰を与えるために旅立った』って、この世界にはドラゴンがいるのか?」
「いるよ。二頭だけ」
「二頭だけ?随分と少ないんだな」
「ドラゴンに似たドラゴネットというのもいるけど、戦力は天と地の差。でも人間たちにとっては天敵」
「まるでサシャと同じ神様みたいなやつらだな」

 二頭だけだったら関わることもないだろう。
 他にドラゴネットというのもいるみたいだけど、人間相手でも簡単に勝てる弟子たちがいるから大丈夫なはず。

 横目でフラウを見た。
 先ほどまで本を読んでいたのに、今はずっと花に耳を近づけている。
 何か花から音でもするのか?

「どうした?」
「イトナから連絡。家に誰か来たみたい」
「…そんな便利な魔法を覚えているなら教えてくれよ」

 恐らく『自然操作』の応用で遠くの植物と話せるようにしているのだろう。
 まったく、新しく便利な魔法を覚えるのはうれしいけど教えて欲しい。
 もしもの時が起きた時連絡を出来たら、なんてずっと考えていたのに。

「それはともあれ、家に誰か来たって誰が?」
「ヨルム王国第二班副班長っていう人が来たみたい。長い名前」
「名前じゃなくて職業だと思うぞ」
「むっ、それぐらいわかっている」

 ヨルム王国の第二班って相当お偉いさんなんじゃないかな。
 第三班までは実戦経験豊富な強い奴らが固まっているはず。
 何でそんな人が俺の家へやってきたのか。

「今回は一旦帰ろう。みんなが心配だ」
「わかった」

 俺とフラウは教会を出て、急いで家へと向かった。
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