ただの癖じゃ足りない者達へ

暦ちき

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第一章 穴

穴⑥ 初対面

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週末の夜19時。
今日はクマさんと会う日だ。
この日をどれだけ楽しみに待っていたことか。

会うお店は全てクマさんが決めてくれた。
ちなみにお店の場所は渋谷のイタリアンカフェだ。
個室で予約もしてくれたらしい。
完全クマさん任せにしてしまったが、
こういう時にリードしてくれる人の方が有難い。

クマさん、いったいどんな人なんだろう。
写真通りの太めの体型の人だろうか。
顔もどんなお顔なんだろう。
マッチングアプリだと、たまに他人の写真を使ってたなんて事もあるからな。

いや、顔なんかよりも指だ。
指がしっかり太めで、顔も生理的に無理じゃなくて、清潔感があればいい。

そして何より、何より1番重要なのは性癖がマッチする事だ。だって、これから2人っきりで飲んだら、おそらくそのままホテルの雰囲気になるだろう。

と、1人あれこれ考えていると、お店の前で熊みたいなガッチリ体型の男性がキョロキョロ周りを見渡していた。
もしかして、あの人がクマさん!?

「すみません、間違ってたらごめんなさい。もしかして…クマさんですか?」
恐る恐る尋ねる。もし間違えていたら恥ずかしい。
しかし、その男性は一瞬怪訝な表情をしたが、すぐに私を見て笑みを浮かべて言った。
「はい。クマです。キョウコさんですか?お待たせしてすみません。では、入りましょう」

良かった。遂に会えた!!!
クマさんだ。しかも写真通りのガッチリ体型に、
指もしっかり太い。顔もあまり印象には残らない薄めの普通の顔だった。

クマさんとお店に入ると、
「19時に予約してます。熊井です」と
クマさんが答える。
熊井だからクマなのか。
見た目にピッタリな名前じゃないか。

クマさんと一緒に個室の席に案内された。
お店の雰囲気は週末だからか、少し賑やかな声も聞こえつつ、お店の内装などはとてもお洒落で、デートなどにも使えそうな良い感じの所だった。
 
こういう遊び目的のマッチングアプリの時に、適当な大衆居酒屋やチェーン店を選択する男はダメだ。そういう人は大体、その後のホテルも安くて貧乏臭い、清潔感ない所を選ぶし、自分さえ気持ちよければ良いというような自己中心的な男が多い。
逆に高級でお洒落すぎる所も、周りが静かすぎて店員に話の内容を聞かれるし、下品な性癖のお話も出来ない。だから、やっぱりこういったカジュアルで安い所と高級な所の中間層がちょうどいい。

クマさんと席に着くと、クマさんもお酒を飲めるようなので2人でビールで乾杯をした。
そしてほっと一息着くと、お互い自己紹介をしようとなり、クマさんの方から自己紹介となった。

「はじめまして。クマです。熊井だからクマなんです。何でも好きに呼んでください」
 「ありがとうございます。キョウコです。クマさんって呼ばせていただきますね。私の方も何でも好きに呼んでください。気楽によろしくです」
クマさんは熊みたいな見た目で、大人しそうで寡黙な人なのかと思いきや、喋ると気さくな雰囲気だった。

 「ところでキョウコさんは、お仕事なにされてるんですか。私の方は霞ヶ関で国家公務員として働いてます。激務なので、毎日終電で帰る日々ですよ。職場と家の往復で休日は寝てばかりです」
クマさんはわぁっと欠伸をする。
でかい、歯がいっぱいの熊みたいな大きな口。

「私は化粧品会社で経理をやってます。化粧品会社なので、女社会と言いますか…大奥ですよ。休日は映画か友達とランチくらいですね」
 お互い普通のマッチングアプリのような、何気ない会話だ。特殊性癖同士のはずなのに。

「キョウコさんは彼氏とかいるんですか?私の方は結婚しておりませんし、彼女ももう2年いませんね。37のオッサンなのに中々…ね」
「私も結婚してませんし、彼氏もいませんよ。4ヶ月前に振っちゃいました。結婚生活興味無いとか言われて、ムカついちゃって」
クマさんがハハッと笑った。私も笑う。
すると、注文した料理が届いてそこからの会話は何気ない世間話になった。

・最近見たニュースの話
・お互いの仕事の話
・大学時代何をしていたか

何気ない普通の会話だ。だけど、そろそろ飲み始めて1時間以上経った頃、2人とも酔ってきたのかクマさんの方から、アッチの話を降ってきた。

「ところで、キョウコさんは鼻の穴が性癖って変わってますね」
クマさんは馬鹿にした態度ではなく、普通に疑問に思った事を口にしたような表情で言った。

「そうですよね。私もそう思います。今まで付き合った彼氏や、セフレにも変だ頭がおかしいとか言われてきました。でも、私はただの性行為じゃなくて、鼻の穴をいじられることが快楽で、それだけでいいんです」
ここの席は個室なので、セフレだとか性癖だとか、下品な話でも誰にも聞かれない。

「じゃあ、もしかしたら私と相性いいですね」
クマさんがふっと笑う。頬がほろ酔いなのか少し桃色に染まっていた。

「キョウコさん、私の性癖はアプリにも書きましたが、自分の指で女性を気持ちよく乱れさせる事なんです。自分の指で気持ちよくなっている姿を見るのが好きで、正直挿入はあっても無くてもって感じで。今まで女性器はもちろん、尻の穴や、耳の穴をたくさん攻めてきました。でも鼻の穴は初めてです。未経験なので自信はないですが、楽しみですよ」
クマさんがフフフと笑う。
クマさんは私より年上だし、経験値も多そうだし、なんだが余裕を感じる。

欲しい。早く、クマさんのその太い指が。
掻き乱して欲しい。

「キョウコさん、そんなに欲しいですか?私の指」
「え……??」
「だってさっきからずっと、私の指ばかり視線がいってますよ。バレバレです」

私とした事が。つい興奮して、目ではなく指先に目をやっていたようだ。
しかもそれをクマさんに指摘されるなんて。
恥ずかしい。でもちょっと……興奮する。

「そんなにすぐ欲しいですか?私の指」
クマさんはいじわるそうに、こちらの気持ちを見越して不敵に笑う。そして、指をピアノを弾くように軽く動かす。
「えぇ……とっても、欲しいです」
酔っているのと、興奮していて吐息混じりに答える私。個室で、今日初めて出会った人と、なんというエロい状況。

「いいですよ。少しだけ、あげます」
クマさんの太い人差し指が近づく。
あぁ、早く早く。この状況で欲しい。
クマさんのこちらを向けた指が、徐々にゆっくりと私の方へと近づいて。
そして……

「んん!!!!」
クマさんの太い指が私の口の中に入る。

「そんな!!クマさん、今の流れだったら鼻の穴でしょう。いじわる!!」
するとクマさんは、ハハハと高らかに大笑いをした。これも大人の余裕か。

「キョウコさん、そんな可愛いお顔で上目遣いをされたらいじわるもしたくなります。まぁ、そんな焦らずに。そろそろ、行きますか?」
ふと腕時計を見ると、気が付けば21時前になっていた。じゃあ、この後私は遂にクマさんと……。
心臓が弾けそうな気と、興奮で自ら鼻の穴が拡がった。



 

 





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