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第8章 不穏な影
王女の激励
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薬湯がすり替えられていたことが判明し、双子はすぐさま調査に乗り出した。
だが『審問会』は明日ひらかれるとのことなので、それまでに犯人を捕らえて身の潔白を証明するというわけにはいかないだろう。
発熱の症状が出た子らは、すでに回復している子もいれば、微熱や躰の痛みが長引いている子もいる。こんなときこそ薬湯を処方してあげたいけど、今の僕の立場では差し障りがあるのが悲しい。
嘔吐した子も複数いたらしく、それはやはりロウセンツヅラの作用と思われた。
本来は躰の害になるものを吐かせる目的で使われる薬草だ。
大事に至らなかったからよいものの、必要も無いのにそんなものを服用させるなんて……人としても薬草オタクとしても許せない。
調査に燃える双子は急に多忙になったので、僕を城に送りとどけたのちは別行動となった。
僕は一旦、私室へ戻ることにした。
相変わらず……というか、よりいっそうマルム茸に傾倒している白銅くんが、『親マルム』と碧雲町で採った大量のマルム茸に囲まれて、僕の部屋にいる。マルムたちを観察する任務を、熱心に継続中なのだ。
商店街の屋台で買った、揚げたてホカホカの焼き菓子を差し入れすべく急いで廊下を歩いていると。
何やら、ドドドドと地鳴りのような音が近づいてきた。
何だろうと振り返れば、廊下の向こうから大きな声。
「アーネストーッ!」
おや? この声は。
思ったと同時に、曲がり角から王女が飛び出してきて、ぐっと足を踏ん張って急停止するや、凄い勢いでこちらへ向き直った。
そこから僕の目の前まで突進してきて、ピタリと止まる。素晴らしい躰のキレ。
「アーネスト! 探したぞ!」
「王女殿下、こんにちは~。ご機嫌うるわしゅう」
「おう、こんにち……だあっ! 呑気に挨拶してる場合ではない! 勝った、勝ったぞアーネスト!」
「狩ったゾウ?」
「狩らねーわ。そうではない! 乗馬服の受注数だ! ついさっき、結果が出たのだ! お前が助言してくれた乗馬服が、みごと一位になった!」
「お……おおおお」
すっかり忘れてた。
驚いてのけぞった僕の手をガシッと握った王女は、「うおおお!」と雄叫びを上げた。あ。なんか虎の吠える声っぽい。かっこいい。
「やりましたね、殿下」
「おう、お前のおかげだ!」
「いいえ。殿下の熱意の勝利です」
「いや、『エルバータの貴族もぜひ手に入れたいと願った幻のデザイン』として売り出したら、注文が殺到したのだ。お前の功績だ。今や受注を停止せねばならぬほど大評判なのだ! 実際、私も試着してみたが、見た目が良い上に実用的なのが最高だな」
「殿下……」
あんなにエルバータ嫌いだったのに、エルバータ貴族という言葉を使って宣伝してくれたのか。
僕とジェームズが保養地に履いていったズボンの話を、だいぶ綺麗に脚色したようだが……。
商売のためであっても、とても嬉しい。
感動して見つめていると、王女は顔を赤くして「しょ、正直なところ」と声を裏返した。
「期限が迫っていて厳しいかとも思ったが。終盤でアルデンホフの服の受注がピタリと止まって、解約者も急増したのだ。そこからうちの店に乗り換えた客も多い」
「そうなのですか? なぜでしょう」
王女は不敵にニヤリと笑った。
「それもある意味、お前の手柄だな」
「僕の?」
「奴が金をばらまいて受注数を上げているという情報は、老舗店の組合の中では知れた話だった。恥知らずだが、そういう戦法は昔からよくあること。そして証拠を掴めぬ以上、こちらは何もできない。
我らは上質な商品を適正な価格で売りたいだけだ。だがアルデンホフの財力に対抗できるほど、集客力のある品を生み出せなかったのが実情だった。そこへ、お前のアイディアだ」
「はあ」
「気の抜けた相槌だな。わかってるのか? 老舗の頑固な店主たちが認めるほど、お前の案は優秀だった。だからこそ、お前の企画参加が王の御前で正式に決まった。店主たちの後押しがあってこそだ。そして自動的に、王子二人が後ろ盾になることも確定した。
王族が目を光らせていると改めて警告したのだから、その話が広まればアルデンホフには痛手だし、身に覚えのある者たちは手を引くことになる」
「ほーう」
「……ったく……この呑気者めが。まあいい。お前がもっと喜ぶ話がほかにある。
約束通り、アドバイザーへ礼金を支払った。とりあえず二千万キューズ、両替商の輪塗に預けたからな。奴に言えば好きなときに使えるぞ」
「にっ……二千万キューズーッ!?」
「お前……反応が違いすぎるだろう」
王女が吹き出した。
「国と取引できるなら、そのくらい安いものだ。それとは別に、ダースティンのキターノ羊毛の輸入交渉もお前に任せたい。そうしたら、その手当てなども当然支払うからな」
「やりますとも! お任せください!」
「ほんとに、さっきまでとえらい違いだな」
「でも……」
「ん?」
「まことにおこがましいのですが……もしも僕の二千万キューズをお返ししたら、ほかの老舗店さんたちも、国との取引に関われる、とか……できませんか?」
王女の眉がピクリと吊り上がった。
「仕事を分け合えということか」
「はい……。僕が正式に参加できるよう、後押ししてくれたとのことですし……その、ほんのちょっぴりでも」
「いいぞ」
「えっ」
王女はニカッと綺麗な歯列を見せて、さも愉快そうに笑った。
「最初からそのつもりだった」
「そうだったんですね! さすが殿下です!」
「そうとも。私はアルデンホフとは違う。義理人情大事!」
「大事!」
一緒になってこぶしをグッと握ってうなずくと、「だから」と王女が付け加えた。
「遠慮なく、報酬は受け取れ。そしてお前の言う『ウハウハ』であと三千万稼いで、雑音もねじ伏せて、栴木叔父に目にもの見せてやれ」
だが『審問会』は明日ひらかれるとのことなので、それまでに犯人を捕らえて身の潔白を証明するというわけにはいかないだろう。
発熱の症状が出た子らは、すでに回復している子もいれば、微熱や躰の痛みが長引いている子もいる。こんなときこそ薬湯を処方してあげたいけど、今の僕の立場では差し障りがあるのが悲しい。
嘔吐した子も複数いたらしく、それはやはりロウセンツヅラの作用と思われた。
本来は躰の害になるものを吐かせる目的で使われる薬草だ。
大事に至らなかったからよいものの、必要も無いのにそんなものを服用させるなんて……人としても薬草オタクとしても許せない。
調査に燃える双子は急に多忙になったので、僕を城に送りとどけたのちは別行動となった。
僕は一旦、私室へ戻ることにした。
相変わらず……というか、よりいっそうマルム茸に傾倒している白銅くんが、『親マルム』と碧雲町で採った大量のマルム茸に囲まれて、僕の部屋にいる。マルムたちを観察する任務を、熱心に継続中なのだ。
商店街の屋台で買った、揚げたてホカホカの焼き菓子を差し入れすべく急いで廊下を歩いていると。
何やら、ドドドドと地鳴りのような音が近づいてきた。
何だろうと振り返れば、廊下の向こうから大きな声。
「アーネストーッ!」
おや? この声は。
思ったと同時に、曲がり角から王女が飛び出してきて、ぐっと足を踏ん張って急停止するや、凄い勢いでこちらへ向き直った。
そこから僕の目の前まで突進してきて、ピタリと止まる。素晴らしい躰のキレ。
「アーネスト! 探したぞ!」
「王女殿下、こんにちは~。ご機嫌うるわしゅう」
「おう、こんにち……だあっ! 呑気に挨拶してる場合ではない! 勝った、勝ったぞアーネスト!」
「狩ったゾウ?」
「狩らねーわ。そうではない! 乗馬服の受注数だ! ついさっき、結果が出たのだ! お前が助言してくれた乗馬服が、みごと一位になった!」
「お……おおおお」
すっかり忘れてた。
驚いてのけぞった僕の手をガシッと握った王女は、「うおおお!」と雄叫びを上げた。あ。なんか虎の吠える声っぽい。かっこいい。
「やりましたね、殿下」
「おう、お前のおかげだ!」
「いいえ。殿下の熱意の勝利です」
「いや、『エルバータの貴族もぜひ手に入れたいと願った幻のデザイン』として売り出したら、注文が殺到したのだ。お前の功績だ。今や受注を停止せねばならぬほど大評判なのだ! 実際、私も試着してみたが、見た目が良い上に実用的なのが最高だな」
「殿下……」
あんなにエルバータ嫌いだったのに、エルバータ貴族という言葉を使って宣伝してくれたのか。
僕とジェームズが保養地に履いていったズボンの話を、だいぶ綺麗に脚色したようだが……。
商売のためであっても、とても嬉しい。
感動して見つめていると、王女は顔を赤くして「しょ、正直なところ」と声を裏返した。
「期限が迫っていて厳しいかとも思ったが。終盤でアルデンホフの服の受注がピタリと止まって、解約者も急増したのだ。そこからうちの店に乗り換えた客も多い」
「そうなのですか? なぜでしょう」
王女は不敵にニヤリと笑った。
「それもある意味、お前の手柄だな」
「僕の?」
「奴が金をばらまいて受注数を上げているという情報は、老舗店の組合の中では知れた話だった。恥知らずだが、そういう戦法は昔からよくあること。そして証拠を掴めぬ以上、こちらは何もできない。
我らは上質な商品を適正な価格で売りたいだけだ。だがアルデンホフの財力に対抗できるほど、集客力のある品を生み出せなかったのが実情だった。そこへ、お前のアイディアだ」
「はあ」
「気の抜けた相槌だな。わかってるのか? 老舗の頑固な店主たちが認めるほど、お前の案は優秀だった。だからこそ、お前の企画参加が王の御前で正式に決まった。店主たちの後押しがあってこそだ。そして自動的に、王子二人が後ろ盾になることも確定した。
王族が目を光らせていると改めて警告したのだから、その話が広まればアルデンホフには痛手だし、身に覚えのある者たちは手を引くことになる」
「ほーう」
「……ったく……この呑気者めが。まあいい。お前がもっと喜ぶ話がほかにある。
約束通り、アドバイザーへ礼金を支払った。とりあえず二千万キューズ、両替商の輪塗に預けたからな。奴に言えば好きなときに使えるぞ」
「にっ……二千万キューズーッ!?」
「お前……反応が違いすぎるだろう」
王女が吹き出した。
「国と取引できるなら、そのくらい安いものだ。それとは別に、ダースティンのキターノ羊毛の輸入交渉もお前に任せたい。そうしたら、その手当てなども当然支払うからな」
「やりますとも! お任せください!」
「ほんとに、さっきまでとえらい違いだな」
「でも……」
「ん?」
「まことにおこがましいのですが……もしも僕の二千万キューズをお返ししたら、ほかの老舗店さんたちも、国との取引に関われる、とか……できませんか?」
王女の眉がピクリと吊り上がった。
「仕事を分け合えということか」
「はい……。僕が正式に参加できるよう、後押ししてくれたとのことですし……その、ほんのちょっぴりでも」
「いいぞ」
「えっ」
王女はニカッと綺麗な歯列を見せて、さも愉快そうに笑った。
「最初からそのつもりだった」
「そうだったんですね! さすが殿下です!」
「そうとも。私はアルデンホフとは違う。義理人情大事!」
「大事!」
一緒になってこぶしをグッと握ってうなずくと、「だから」と王女が付け加えた。
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