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第11章 守銭奴アーネスト
いいかげんにしなさいよ
新たに用意された広間には円卓は無く、ひとり掛けの椅子のみが円を描いて置かれていた。
王様はすでに中央の席に着いていて、大臣らも揃っている。ドーソン氏や御形氏たちは壁際に立たされていた。
僕はまた当然のように双子に挟まれて、王様の右側に腰を下ろしたのだが。
直後にやって来た弓庭後侯と王妃、そして皓月王子を見て、思わず「うわあ」と呟いた。
だって弓庭後侯は肋骨部分と左脚に包帯を巻いて杖をつき、長い髭はブチブチふぞろいに千切れて頭髪もクシャクシャ、別人のようにげっそりしているし。
王妃は右目のまぶたがポッコリ腫れて、唇も元の二倍ほどの厚さに膨れ上がり、右腕は包帯で吊っていた。
王様は「僕たちは頑丈」と言っていたけど、やっぱり怪我は免れないんだね……当たり前か。
大臣たち、ゴクリと唾を飲み込んでいる。
二人は苦痛の呻きを漏らし、皓月王子や従僕たちの手を借りながら、ゆっくり座った。皓月王子も目が腫れているけど、あれは泣き過ぎたせいだと思われる。
それにしても弓庭後兄妹は逞しい。
未だ憎々しげに僕らを睨みつけてくる気力があるのだから。
みんなの前で双子にボコボコにされたのに、まだ次の対戦に備えているような表情だ。
一方、涙目で王妃にすがりつきながら、
「父上に怒られたままだなんて困るよ母上ぇ。もしも王子の称号剥奪なんてことになったらどうしよう、そんな格好悪い目に遭いたくないよぉ、どうにかしてよおぉ」
包帯をぐるぐる巻かれた肉親を前に、自分の心配ばかりしている皓月王子も、ある意味ブレない、頑丈な精神を持つ男と言えよう。
そんな息子を頬杖をつきながら眺めていた王様だったが、「さて」と座り直すと、一同を見回した。
「そもそも今日は、アーちゃんに大迷惑をかけた皓月と、それに加担した医師及び薬師たちが、アーちゃんに和解してほしくて集まったはずだよね。なんだかいろいろあり過ぎて、もう遠い昔のように感じるけども。
なのに弓庭ちゃんと泉果ちゃんが、またしてもアーちゃんを盗人に仕立てようとしたわけだ。おかげで肝心の議題がさっぱり進んでない」
「陛下! なぜ決めつけるのです!? 陛下の忠実なしもべである兄と、妃のわたくしより、エルバータの元皇族の小細工を信じるのですか!?」
王妃が腫れた唇で叫ぶと、弓庭後侯も、つらそうに胸元を手で庇いながら訴えた。
「言いがかりです! どうかこの場ですべてを見ていた皆の意見を聞いてください、公平に多数決で問うべきです!」
おや。ここに来て『多数決』を言い出すとは。
またしても裏工作で、この場の複数人を仲間に引き入れていたらしい。
皓月王子もここぞとばかり張り切って、「そうですとも!」と目を輝かせたけど……。
王様はにっこり笑って、一段低い声で言った。
「いいかげんにしなさいよ」
王妃の肩がビクッと震える。
王様は笑顔のままだが、凄まじい圧が王様から放たれていて、一瞬にして空気が変わった。
「あれだけ証拠を見せられても『言いがかり』で済むなら、罪を犯した者はみんな『言いがかり』のひと言で無罪放免だよ。
逆に訊くけど、きみたちがあれほど堂々とアーちゃんを盗人と決めつけた証拠は何? 状況証拠と証人? 言っとくけどあの証人……メトーくんと言ったっけ。きみたちを待っているあいだに彼に直接確認したら、『嘘をつきました』と白状したからね」
「……っ!」
弓庭後侯、さすがに顔色が変わった。
王様は「よし」と口角を上げて、
「じゃあ、ご希望通り多数決にしよっかあ。それで決めれば納得するんだよね?」
「おい、親父!」
「そいつらまた金でもばら撒いたに決まってる!」
双子が気色ばんだが、王様の笑顔は変わらない。
「父上と呼んでと言ってるでしょ、まったくもう。それはともかく、僕はみんなの意見を聞きたいよ。この一連の出来事を実際に見てきて、弓庭ちゃんと泉果ちゃんをどう思うかな?」
いつものように明るく皆に語りかける王様だけど、確かな圧が放たれている。
大臣たちも顔が引きつってるし……。
この圧を気に留めていないのは、まだ「親父め」と怒っている双子と、ずーっと微笑んでいる刹淵さんくらいのものだ。
どうなることかと思っていたら、おずおずと挙手した大臣のひとりが口火を切った。
「陛下。わたしはウォルドグレイブ伯爵が提示された証拠を信じます。対して弓庭後侯爵と妃陛下は、伯爵に罠を仕掛けたとしか思えません」
「きさま……!」
弓庭後侯が凄まじい形相で睨みつけたが、別の大臣たちも次々声を上げた。
「弓庭後侯ともあろうお方が、姑息な言いわけをするなど。恥の上塗りですぞ」
「そもそも皓月殿下が、ウォルドグレイブ伯爵を陥れようとしたのが始まり。なのに償うどころか、またも罪を着せようとするなんて。伯爵がこれほど博識でなければどうなっていたことか」
「卑劣すぎる」
「我らもいつ罠にかけられるか知れたものではない!」
「弓庭後家門の皆様は、ウォルドグレイブ伯爵に償うべきです」
「同意します!」
おお……予想外の展開。
弓庭後兄妹、顔を真っ赤にして震えている。皓月王子は逆に顔面蒼白だけど。
ほぼ意見が出尽くしたところで、笑みを深めた王様が問うた。
「じゃあ多数決とるね~。弓庭ちゃんと泉果ちゃんが、アーちゃんを盗人に仕立て上げたと思う人~」
ビシッと真っ先に双子が両手を上げた。
……寒月……。バキバキの腹筋を使って両脚まで上げなくても、殆どの人が手を上げてるよ。
王様が、満足そうに笑って僕を見た。
――お膳立てしてくださって、ありがとうございます、王様。
これでずいぶん、ぶんどりやすくなりました!
王様はすでに中央の席に着いていて、大臣らも揃っている。ドーソン氏や御形氏たちは壁際に立たされていた。
僕はまた当然のように双子に挟まれて、王様の右側に腰を下ろしたのだが。
直後にやって来た弓庭後侯と王妃、そして皓月王子を見て、思わず「うわあ」と呟いた。
だって弓庭後侯は肋骨部分と左脚に包帯を巻いて杖をつき、長い髭はブチブチふぞろいに千切れて頭髪もクシャクシャ、別人のようにげっそりしているし。
王妃は右目のまぶたがポッコリ腫れて、唇も元の二倍ほどの厚さに膨れ上がり、右腕は包帯で吊っていた。
王様は「僕たちは頑丈」と言っていたけど、やっぱり怪我は免れないんだね……当たり前か。
大臣たち、ゴクリと唾を飲み込んでいる。
二人は苦痛の呻きを漏らし、皓月王子や従僕たちの手を借りながら、ゆっくり座った。皓月王子も目が腫れているけど、あれは泣き過ぎたせいだと思われる。
それにしても弓庭後兄妹は逞しい。
未だ憎々しげに僕らを睨みつけてくる気力があるのだから。
みんなの前で双子にボコボコにされたのに、まだ次の対戦に備えているような表情だ。
一方、涙目で王妃にすがりつきながら、
「父上に怒られたままだなんて困るよ母上ぇ。もしも王子の称号剥奪なんてことになったらどうしよう、そんな格好悪い目に遭いたくないよぉ、どうにかしてよおぉ」
包帯をぐるぐる巻かれた肉親を前に、自分の心配ばかりしている皓月王子も、ある意味ブレない、頑丈な精神を持つ男と言えよう。
そんな息子を頬杖をつきながら眺めていた王様だったが、「さて」と座り直すと、一同を見回した。
「そもそも今日は、アーちゃんに大迷惑をかけた皓月と、それに加担した医師及び薬師たちが、アーちゃんに和解してほしくて集まったはずだよね。なんだかいろいろあり過ぎて、もう遠い昔のように感じるけども。
なのに弓庭ちゃんと泉果ちゃんが、またしてもアーちゃんを盗人に仕立てようとしたわけだ。おかげで肝心の議題がさっぱり進んでない」
「陛下! なぜ決めつけるのです!? 陛下の忠実なしもべである兄と、妃のわたくしより、エルバータの元皇族の小細工を信じるのですか!?」
王妃が腫れた唇で叫ぶと、弓庭後侯も、つらそうに胸元を手で庇いながら訴えた。
「言いがかりです! どうかこの場ですべてを見ていた皆の意見を聞いてください、公平に多数決で問うべきです!」
おや。ここに来て『多数決』を言い出すとは。
またしても裏工作で、この場の複数人を仲間に引き入れていたらしい。
皓月王子もここぞとばかり張り切って、「そうですとも!」と目を輝かせたけど……。
王様はにっこり笑って、一段低い声で言った。
「いいかげんにしなさいよ」
王妃の肩がビクッと震える。
王様は笑顔のままだが、凄まじい圧が王様から放たれていて、一瞬にして空気が変わった。
「あれだけ証拠を見せられても『言いがかり』で済むなら、罪を犯した者はみんな『言いがかり』のひと言で無罪放免だよ。
逆に訊くけど、きみたちがあれほど堂々とアーちゃんを盗人と決めつけた証拠は何? 状況証拠と証人? 言っとくけどあの証人……メトーくんと言ったっけ。きみたちを待っているあいだに彼に直接確認したら、『嘘をつきました』と白状したからね」
「……っ!」
弓庭後侯、さすがに顔色が変わった。
王様は「よし」と口角を上げて、
「じゃあ、ご希望通り多数決にしよっかあ。それで決めれば納得するんだよね?」
「おい、親父!」
「そいつらまた金でもばら撒いたに決まってる!」
双子が気色ばんだが、王様の笑顔は変わらない。
「父上と呼んでと言ってるでしょ、まったくもう。それはともかく、僕はみんなの意見を聞きたいよ。この一連の出来事を実際に見てきて、弓庭ちゃんと泉果ちゃんをどう思うかな?」
いつものように明るく皆に語りかける王様だけど、確かな圧が放たれている。
大臣たちも顔が引きつってるし……。
この圧を気に留めていないのは、まだ「親父め」と怒っている双子と、ずーっと微笑んでいる刹淵さんくらいのものだ。
どうなることかと思っていたら、おずおずと挙手した大臣のひとりが口火を切った。
「陛下。わたしはウォルドグレイブ伯爵が提示された証拠を信じます。対して弓庭後侯爵と妃陛下は、伯爵に罠を仕掛けたとしか思えません」
「きさま……!」
弓庭後侯が凄まじい形相で睨みつけたが、別の大臣たちも次々声を上げた。
「弓庭後侯ともあろうお方が、姑息な言いわけをするなど。恥の上塗りですぞ」
「そもそも皓月殿下が、ウォルドグレイブ伯爵を陥れようとしたのが始まり。なのに償うどころか、またも罪を着せようとするなんて。伯爵がこれほど博識でなければどうなっていたことか」
「卑劣すぎる」
「我らもいつ罠にかけられるか知れたものではない!」
「弓庭後家門の皆様は、ウォルドグレイブ伯爵に償うべきです」
「同意します!」
おお……予想外の展開。
弓庭後兄妹、顔を真っ赤にして震えている。皓月王子は逆に顔面蒼白だけど。
ほぼ意見が出尽くしたところで、笑みを深めた王様が問うた。
「じゃあ多数決とるね~。弓庭ちゃんと泉果ちゃんが、アーちゃんを盗人に仕立て上げたと思う人~」
ビシッと真っ先に双子が両手を上げた。
……寒月……。バキバキの腹筋を使って両脚まで上げなくても、殆どの人が手を上げてるよ。
王様が、満足そうに笑って僕を見た。
――お膳立てしてくださって、ありがとうございます、王様。
これでずいぶん、ぶんどりやすくなりました!
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