召し使い様の分際で

月齢

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第13章 温泉と薬草園

ローリング・アーネスト

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 机に置かれた箱の中に鎮座する親マルムを見下ろし、「うーむ」と呻いた。
 いや、正確には見ていたのは箱の隣に置いた紙なのだが、机の面積の八割を箱が占めているものだから、ついつい視線が親マルムに吸い寄せられる。
 しかし僕がいま考えるべきは、マルムのことではない。

「あと三千四百九十九億キューズ。と、栴木センボクさんから出された課題の五千万キューズ」

 栴木さんから出された課題のうちのひとつが、双子と王家と国に利益をもたらす存在であると示すため、『五千万キューズの資金を一年以内に得て、知力と財力による支援が可能であると証明すること』だった。
 そのうち二千万キューズは、王女の乗馬服の受注競争を手伝った礼金としていただいているから、この課題に限っていえば、必要なのはあと三千万キューズ。

「細々とした入金のあてはあるけど……どこから手を付ければ一番効率が良いかなあ」

 考えを整理すべく、『計画表』を書こうと先ほどから机に向かっているのだが、あれこれ気が散って考えがまとまらない。
 なぜ気が散るかといえば、その主な理由は当然……

「もぎゃーっ!」

 頭を抱えて、机にガンガンおでこを打ち付けた。
 ……痛い。バカなことをした。

 三人で桃マルムを食べてアレを致したのは、もう三日前のことになるけれど……未だ思い出しては恥ずかしさにのたうち、奇声を発してしまう。

 白銅くんにはとても見せられない姿だ。
 彼は幸い(僕にとってはちょっぴり残念だが)、獣化が解けて人の姿に戻っている。が、本日は家令のハグマイヤーさんの手伝いに駆り出されていた。
 なんでも、物置の隙間にハリネズミが入り込み、動けなくなっているらしく。躰の小さな白銅くんなら、その隙間に入れるかも? ということらしい。
 僕もぜひ応援しに行きたかったが、白銅くんから

「今日はすっごく冷えてますから、物置なんか行ったらアーネスト様が凍ってしまいます! 暖炉のあるところ以外に行ってはいけません!」

 そう言い聞かせられてしまった。
 もはやどちらが大人だかわからない。

 それはともかく。
 ジェームズの言葉通り、『桃マルムの底力』は凄まじかった。
 僕は……もうずっと失神していたいくらいの痴態を演じた。もう……ほんとイヤ。
 双子は未だに、

「あのときのアーネストを思い出すだけで、一生ズリネタには不自由しねえな!」

 などと言って、上機嫌だ。くうっ。

 それにしても、あれほど体力を消耗する行動をしておきながら、僕の躰はピンピンしている。
 以前、温泉で致したあとも、マルムのおかげで元気だったけど……あのときよりもっと、体力に余裕がある感じ。
 さすがに翌日はあそこの違和感が残っていたが、あれほど激しく致せば仕方な……い……。

「うああぁぁぁぁ!」

 こらえきれず、椅子から頽れて床に転がった。
 双子が敷いてくれたフカフカの絨毯の上でゴロゴロ転がる。
 僕は自分のスケベな本性を知らなかった。あんなにエッチいのか僕は! もうイヤ!

 最もいたたまれないのは、双子は桃マルムを食べてもたいして変わらず、僕ばかりが乱れていたという事実だ。
 双子はそれについて、
 
「俺たちは絶倫が標準装備だからなぁ」
「毒の類に耐性があることと、関係があるのかもしれないな」

 なんて言っていた。
 マルムは毒ではないけど、異物が躰に影響を及ぼすという点では一緒か。
 しかし絶倫が標準装備って。天は何を考えて、そんな装備を与え給うか。
 その上、もっと恐ろしいことを言っていた。

「けどなー、繁殖期になるとさすがに余裕ねえかも」
「そうだな……それこそ桃マルムでもないと、アーネストとは一緒にいられない」
「それな。繁殖期にアーネストに近寄られたら、三日三晩ヤり続けちまうわ」
「危険だから、俺たちが繁殖期に入ったら、決して近づかないでくれ」

 うん。ぜったい近づかない。
 三日三晩なんて、桃マルムがあっても無理。

 繁殖期について書かれた本に、『猛獣の場合は、強い性衝動が昼夜を問わず数日続くことが珍しくありません。ゆえに、特に注意が必要です』とあったけど。
 実際、そういうものなんだな……。
 あの快楽が三日三晩。ずっと、朝も昼も夜も双子と……

「ギャーッ! 想像するな僕よ!」

 我ながらうるさい。どうかしてる。
 しかし僕の羞恥がこれほど長引いているのには、もうひとつ理由があった。
 ジェームズの手紙に書かれていた重大な言葉を、翌日、思い出したのだ。

『ユージーン様は桃色のマルム茸が現れるたびに、いま述べた方法で致したそうです。その結果こそが、他の方に無い、マルム茸のみが起こした特別な奇跡です』

 現れるたびに。
 つまり桃マルムはまた現れる。
 どんな周期で何度出現するやらわからないが、桃マルムが出てきたら、またあの夜のように……

「のおおぉぉ」

 しばらく頭を抱えたのち、ガバッと起き上がった。

「金だ! お金のことを考えろ! 金、金、金!」

 さっきからこの繰り返しだ。
 建設的に羞恥心を振り払うべく、借金の返済計画を練ろうとしているのだけど、気づけば挙動不審者と化して転げ回っている。
  と、そのとき、扉がノックされた。この叩き方は!
 僕は急いで立ち上がり、髪を撫でつけた。

「ど、どうぞ!」

 顔を覗かせたのは、やはり青月。
 怖いほど端整な顔に、怪訝な表情を浮かべていた。

「『金、金、金!』と廊下まで聞こえていたが……」
「え。そ、そうだすよ、返済計画を練っていたのだからして」
「そうだすよ?」

 そういうとこに気づかないでくれ……。

「それより、ずいぶん早く帰ってきたね」
「ああ、そうだった」 

 青月はうなずき、優しい微笑みを浮かべた。

「返済計画を練っていたならちょうどいい。アーネスト。また碧雲ヘキウン町に行かないか? 温泉と薬草園の視察をしてほしい」
「え」
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