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第13章 温泉と薬草園
白銅くんは激おこモード
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「あの、は……白銅、くん? 天の……あ、アーネスト様は、いつもあんな感じなのかな?」
『あんな感じってどんな感じですか』
「えっ。え……っと……何というか、とてもその……見た目と中身の、落差が激しいというか……」
『どういう意味ですか!? アーネスト様は見た目も性格もどちらもこの上なく素晴らしい方ですよ! あなたはアーネスト様に助けてもらったくせに、アーネスト様を侮辱するのですか!』
「ち、違うよ、そういう意味じゃないんだ。気を悪くさせてしまってごめんね。そうじゃなくて……美しすぎて、近寄り難いような方だろう? なのに、ぼくみたいな小汚い人間を嫌がらず助けてくれて、湯浴みの手伝いまでしてくれようとしたし……」
『あなた小汚いどころじゃなく、たいそう汚かったです!』
「そ、そうだね、本当にそうだ。ごめんね。肥溜めに落ちたのがトドメだったんだ……」
『アーネスト様がとりなしてくださらなかったら、きっと青月殿下が改めて、肥溜めまで蹴り飛ばしていたでしょうよ!』
ボロボロの男性ことコーネルくんに休んでもらっている宿の部屋まで薬湯用の茶葉を届けに来ると、ミャアァ! と威嚇するような子猫の声が廊下まで聞こえてきた。
扉が開け放たれたままの出入り口から室内を見れば、寝台で上体を起こして薬膳スープを食べているコーネルくんと、寝台横の窓の額縁に陣取った白銅くんが、何やら会話を弾ませている。
様子を見てくるよう、白銅くんに頼んでおいたのだけど……早くも仲良くなったんだね。素敵なことだ。
けど、白銅くんはさっきまで、コーネルくんにものすごく腹を立てていたのに。
もうご機嫌が直ったのかな? と思ったら、
「こ、肥溜めにはもう落ちたくないよ……あそこから生還したとき、ぼくは天に『もう二度と肥溜めには落ちません』と誓ったんだ」
『それは誓いではなく単にあなたの願望でしょう。そんなことを誓われても、天も「気をつけて」としか言いようが無いのでは?』
「わあ、ありがとう! うん、気をつけるね!」
『フミャーッ! 心配してあげたわけじゃニャい! うぬぼれるニャーッ!』
「あわわわわ、ごめん、うぬぼれちゃった。ごめんね、ごめんね」
……やっぱりまだ怒っていたみたいだ。
実は白銅くん、また子猫の姿に戻っている。
今回は早めに人の姿に戻れたと喜んでいたのに……。
コーネルと名乗ったボロボロの男性を、青月の屋敷の使用人の皆さんが、悪臭に辟易しつつも担架に乗せて、宿まで運んでくれたのだけど。
宿の主人が仰天して、彼の汚れを落とさないうちは部屋を使わせられないと主張してきた。確かに、汚れはともかくニオイは一度しみつくとなかなか取れないから、気持ちはわかる。
しかし満足そうにうなずいた青月が、
「宿の主がこう言っているんだ。こいつは不法侵入罪で牢にぶち込もう」
と言い出したので、あわてて湯浴みをしてもらうことにした。
青月はなぜだかコーネルくんに対して、さらに苛立ちを増していたんだ。
「てめえなんぞモフモフじゃない。ベッタベタの泥っどろだ、クソが」
なんて言って。
やはり獣人的に不法侵入は、縄張りを荒らされたに等しい怒りが湧くのだろうか。
それはともかく、幸いコーネルくんは大きな怪我はしていないようなので、なるべく躰の負担にならないよう、数人で介助して手早く湯浴みをしてもらおうと提案した。
しかしコーネルくんの汚れ方が凄まじいせいか、それとも虎の王子が明らかにコーネルくんを厄介者扱いしているせいか、みんな尻込みしていたものだから、
「だったら……体力無いので自信が無いけど、僕でいいかな? できる限り頑張るよ!」
張り切って腕まくりしたら、突然、青月がキレた。
コーネルくんに。
「クソが……俺の嫁に指一本触れてみろ。八つ裂きにしてやる」
「ギャンッ!」
おろおろしていたコーネルくんは、青月のその言葉に悲鳴を上げて跳び上がったかと思うと、ちょうどそばにいた白銅くんにしがみついた。
べっとりと汚れたコーネルくんに、くっつかれた白銅くん。
次の瞬間、彼もまた宿中に響き渡る悲鳴を上げて――その拍子に、完全に獣化してしまったのだった。
……なんかもう、ほんと……たぶん僕が悪い。ごめんなさい。
……結局、コーネルくんの湯浴みは宿の従業員の方たちが手伝ってくれて、僕は子猫の湯浴み担当になったという、たいへんな幸運にありついてしまった。
白銅くんは恥ずかしがっていたけど、お湯にちゃぷちゃぷすると気持ちよさそうに目を細めて、ちょっと舌を出して寝オチもしていた。
その凶悪な愛らしさたるや。
何度胸の内で、ぎゃわいいぃーっ! と叫んだことか……。
ほんとごめんなさい。僕ばかり幸せで。
だが綺麗になっても、白銅くんの怒りは消えていなかったみたい。
僕が「お邪魔するよ」と声をかけて室内に入っていくと、コーネルくんがあわてて寝台の上から頭を下げたが、その頭頂部に向かって子猫がシャーッ! と威嚇した。
もはや何もかも気に入らないという感じ。
この反応の仕方、なんだか双子と似てるなあ。猫っぽい生きものにありがちな怒り方なのだろうか。
子猫にビクビクして、躰が弱っているせいか未だお耳も変容させたまま、しょんぼりしているコーネルくん。そんな彼に背中を丸める子猫。
大型モフモフ犬とぽわ毛子猫の図……コーネルくんも獣化してくれないかなぁ……。
ハッ。いかん。
先ほどコーネルくんに向かってモフモフ変質者を発動してしまったとき、かなり困惑した様子だった。病人を怯えさせてはいけない。
冷静に、僕よ。常に紳士であれ。
キリリと表情を改め、コーネルくんに体調について詳しく尋ねたのち、薬湯の内容や飲み方などを説明してから、改めて彼自身について訊いてみた。
「それでコーネルくん。えっと……コーネル何くん?」
「モスキースといいます。コーネル・モスキースです」
「コーネル・モフスキーくん」
「い、いえ、モスキースです」
申しわけなさげに訂正したコーネルくんに、白銅くんがフーッ! と毛を逆立てた。
『モフスキーでもいいじゃニャいですかっ!』
「ああっ。そ、そうだね、いいですそれで!」
……いいの?
『あんな感じってどんな感じですか』
「えっ。え……っと……何というか、とてもその……見た目と中身の、落差が激しいというか……」
『どういう意味ですか!? アーネスト様は見た目も性格もどちらもこの上なく素晴らしい方ですよ! あなたはアーネスト様に助けてもらったくせに、アーネスト様を侮辱するのですか!』
「ち、違うよ、そういう意味じゃないんだ。気を悪くさせてしまってごめんね。そうじゃなくて……美しすぎて、近寄り難いような方だろう? なのに、ぼくみたいな小汚い人間を嫌がらず助けてくれて、湯浴みの手伝いまでしてくれようとしたし……」
『あなた小汚いどころじゃなく、たいそう汚かったです!』
「そ、そうだね、本当にそうだ。ごめんね。肥溜めに落ちたのがトドメだったんだ……」
『アーネスト様がとりなしてくださらなかったら、きっと青月殿下が改めて、肥溜めまで蹴り飛ばしていたでしょうよ!』
ボロボロの男性ことコーネルくんに休んでもらっている宿の部屋まで薬湯用の茶葉を届けに来ると、ミャアァ! と威嚇するような子猫の声が廊下まで聞こえてきた。
扉が開け放たれたままの出入り口から室内を見れば、寝台で上体を起こして薬膳スープを食べているコーネルくんと、寝台横の窓の額縁に陣取った白銅くんが、何やら会話を弾ませている。
様子を見てくるよう、白銅くんに頼んでおいたのだけど……早くも仲良くなったんだね。素敵なことだ。
けど、白銅くんはさっきまで、コーネルくんにものすごく腹を立てていたのに。
もうご機嫌が直ったのかな? と思ったら、
「こ、肥溜めにはもう落ちたくないよ……あそこから生還したとき、ぼくは天に『もう二度と肥溜めには落ちません』と誓ったんだ」
『それは誓いではなく単にあなたの願望でしょう。そんなことを誓われても、天も「気をつけて」としか言いようが無いのでは?』
「わあ、ありがとう! うん、気をつけるね!」
『フミャーッ! 心配してあげたわけじゃニャい! うぬぼれるニャーッ!』
「あわわわわ、ごめん、うぬぼれちゃった。ごめんね、ごめんね」
……やっぱりまだ怒っていたみたいだ。
実は白銅くん、また子猫の姿に戻っている。
今回は早めに人の姿に戻れたと喜んでいたのに……。
コーネルと名乗ったボロボロの男性を、青月の屋敷の使用人の皆さんが、悪臭に辟易しつつも担架に乗せて、宿まで運んでくれたのだけど。
宿の主人が仰天して、彼の汚れを落とさないうちは部屋を使わせられないと主張してきた。確かに、汚れはともかくニオイは一度しみつくとなかなか取れないから、気持ちはわかる。
しかし満足そうにうなずいた青月が、
「宿の主がこう言っているんだ。こいつは不法侵入罪で牢にぶち込もう」
と言い出したので、あわてて湯浴みをしてもらうことにした。
青月はなぜだかコーネルくんに対して、さらに苛立ちを増していたんだ。
「てめえなんぞモフモフじゃない。ベッタベタの泥っどろだ、クソが」
なんて言って。
やはり獣人的に不法侵入は、縄張りを荒らされたに等しい怒りが湧くのだろうか。
それはともかく、幸いコーネルくんは大きな怪我はしていないようなので、なるべく躰の負担にならないよう、数人で介助して手早く湯浴みをしてもらおうと提案した。
しかしコーネルくんの汚れ方が凄まじいせいか、それとも虎の王子が明らかにコーネルくんを厄介者扱いしているせいか、みんな尻込みしていたものだから、
「だったら……体力無いので自信が無いけど、僕でいいかな? できる限り頑張るよ!」
張り切って腕まくりしたら、突然、青月がキレた。
コーネルくんに。
「クソが……俺の嫁に指一本触れてみろ。八つ裂きにしてやる」
「ギャンッ!」
おろおろしていたコーネルくんは、青月のその言葉に悲鳴を上げて跳び上がったかと思うと、ちょうどそばにいた白銅くんにしがみついた。
べっとりと汚れたコーネルくんに、くっつかれた白銅くん。
次の瞬間、彼もまた宿中に響き渡る悲鳴を上げて――その拍子に、完全に獣化してしまったのだった。
……なんかもう、ほんと……たぶん僕が悪い。ごめんなさい。
……結局、コーネルくんの湯浴みは宿の従業員の方たちが手伝ってくれて、僕は子猫の湯浴み担当になったという、たいへんな幸運にありついてしまった。
白銅くんは恥ずかしがっていたけど、お湯にちゃぷちゃぷすると気持ちよさそうに目を細めて、ちょっと舌を出して寝オチもしていた。
その凶悪な愛らしさたるや。
何度胸の内で、ぎゃわいいぃーっ! と叫んだことか……。
ほんとごめんなさい。僕ばかり幸せで。
だが綺麗になっても、白銅くんの怒りは消えていなかったみたい。
僕が「お邪魔するよ」と声をかけて室内に入っていくと、コーネルくんがあわてて寝台の上から頭を下げたが、その頭頂部に向かって子猫がシャーッ! と威嚇した。
もはや何もかも気に入らないという感じ。
この反応の仕方、なんだか双子と似てるなあ。猫っぽい生きものにありがちな怒り方なのだろうか。
子猫にビクビクして、躰が弱っているせいか未だお耳も変容させたまま、しょんぼりしているコーネルくん。そんな彼に背中を丸める子猫。
大型モフモフ犬とぽわ毛子猫の図……コーネルくんも獣化してくれないかなぁ……。
ハッ。いかん。
先ほどコーネルくんに向かってモフモフ変質者を発動してしまったとき、かなり困惑した様子だった。病人を怯えさせてはいけない。
冷静に、僕よ。常に紳士であれ。
キリリと表情を改め、コーネルくんに体調について詳しく尋ねたのち、薬湯の内容や飲み方などを説明してから、改めて彼自身について訊いてみた。
「それでコーネルくん。えっと……コーネル何くん?」
「モスキースといいます。コーネル・モスキースです」
「コーネル・モフスキーくん」
「い、いえ、モスキースです」
申しわけなさげに訂正したコーネルくんに、白銅くんがフーッ! と毛を逆立てた。
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「ああっ。そ、そうだね、いいですそれで!」
……いいの?
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