召し使い様の分際で

月齢

文字の大きさ
119 / 259
第16章 王子妃の座をかけて

モテモテアーネスト

しおりを挟む
「何が『ひどい』だ! ちっとは自分たち以外の人間を心配できんのか!? お前たちからはひと言も、弟たちの体調を気遣う言葉が出てこない! 何が『王子妃になるための努力』だ、そんなもんケツを拭く役にも立たぬわ! お前たちなんぞに王子妃の資格は無い、ケツ毛抜いて寝てろ!」

 途端、聴衆が「ケツ毛……あんな綺麗なお嬢さんたちでも、生えてるのか……」とざわついた。
 令嬢たちが眦を吊り上げて「「「生えてないわよ!」」」と真っ赤な顔で怒鳴りつけ、口元をひくつかせた琅珠ロウジュ嬢が、王女に物申した。

「畏れながら殿下。わたくしたちはすでに何度も、弟君様たちへの面会を申し出ております。直接お見舞いに伺い、お詫び申し上げたいからです。その都度却下されておりますけれど、この身が張り裂けそうなほど、青月様と寒月様のことが案じられてなりません」

「そのわりに楽しそうに遊び歩いているじゃないか」

 獰猛な笑みを浮かべた王女に、琅珠嬢はすかさず反論した。

「たまたまですわ。わたくしたちはずっと自宅で身を慎み、自室から出ることもせず殿下方のご無事を祈っておりました。けれどあまりに胸が塞いで、気の病になりそうだったのです。ですから、今日一日だけは、と」

「そうです、その通りです!」
「わたくしたちを悪女に仕立て上げようとするのはおやめくださいまし!」

 ほかの令嬢たちもここぞとばかり言い募ったところへ、

「もしー! 蟹清カニスガ伯爵様のお嬢様ですよねーっ!」

 遠くのほうから、野太い声が呼ばわった。
 見れば大通りの向こうから、エプロンをした男性が、太い腕を振りながらこちらへ走ってくる。
 彼は人垣を割ってすぐさま僕らの目の前に到達し、軽く息を乱しながら、「ああ、よかった!」と破顔して、手にした紙と壱香嬢を交互に見た。

「一昨日のご来店時にご注文いただいた、ご自宅パーティー用の特注巨大ケーキなんですがね。プレートの文字のご確認をお願いします。
『打倒妖精! 妃になるのはわたくしたちよ! ~壱香♡繻子那♡久利緒▽琅珠♡~』こちら、ひとつだけ♡ではなく▽になっているのですが、このままで大丈夫ですか?」

「ばっ! お黙りなさい!」

 壱香嬢があわてて遮ったけれども、裸族四人衆以外の周囲の者は、しらーっとした半笑いを浮かべて彼女たちを見ている。
 王女ですらツッコむことも疲れたというように、額に手をあてていた。

 僕はといえば、女性陣の迫力に圧倒されて、ぽかんと口をあけて見ていたが、いきなり現れて令嬢たちから怒られているケーキ店の店員らしきその男性と目が合うと、彼は満面の笑顔になって、

「ご無沙汰しております、ウォルドグレイブ伯爵様!」

 弾んだ声を上げた。
 ……ん?
 このお顔は見たことがあるぞ。

「その節はお世話になりました! あのとき、滝のような下痢を嘘みたいにすっきり治していただいて以来、おかげさまで何食っても腹を壊すことなく元気にやってます!」

「ああ、やっぱりそうだぁ」

 皓月王子が不完全な処方の薬湯を飲ませてしまった患者さんのうちのひとりだ。いつも奥さんが付き添ってきていて、仲良し夫婦だなぁと思ったのをおぼえている。

「あのときは大変でしたね、蛹さん」
「うおっ! 名前をおぼえていてくださってる!」
「サナギさんって、可愛らしいお名前だから印象深かったのです」

 蛹さんの顔が、トマトみたいに真っ赤になった。

「感動です……!」
「お元気そうでよかった」
「それもこれも、伯爵様のおかげです!」
「ありがとうございます。蛹さんは、お菓子職人さんだったのですね」
「いやあ、おれは大工なんですわ。女房の父親がそこの菓子屋の店主で、ちょうど手伝わされてたんですよ」
「器用なんですねえ。奥さまもお変わりありませんか?」
「ありませんとも! 相変わらず尻に敷かれてまさあ」

 周囲の人々から、どっと笑い声が上がる。
 王女の一喝で避難していた人たちも戻って来て、この会話に興味深げな視線を向けていた。すると蛹さんが、取り囲む人々に向かって、

「おれが皓月殿下の薬湯で腹を下したとき、ウォルドグレイブ伯爵様が丁寧に処方してくださった薬湯のおかげで、大助かりだったんだ! 未だ女房が『伯爵様にまたお目にかかりたいわ~』と騒ぐ後遺症が出てるけどな!」

 爆笑した人々の中から、「お前もだろ!」と声が上がると、蛹さんが「なんで知ってるんだ!?」と驚いてみせたので、さらなる笑いにつつまれた。
 と、人垣の中から、「あのっ」と女性が進み出てきた。

「あのう、わたしもです! わたしもあのとき、伯爵様にお世話になりました」
「ああ、ベアケルさん。その後、発疹は再発していませんか?」
「きゃーっ! やだあ、わたしなんぞのことまで、おぼえていてくださったあ!」

 最近のことだし、当然だと思うのだけど……
 ベアケルさんにつられて周りの皆もキャーキャーはしゃぎ出し、見おぼえのある娘さんが「母さん、うらやましいっ」と叫んでいる。

「皇子のご身分だった方なのに、ちっとも偉ぶったところが無いね」
「なんて気さくで優しいお方だろう」
「そうだよ! 美しいのは見た目だけじゃない。わたしらはよく知ってる。ね、蛹さん!」
「おうよベアケルさん!」

 名前をおぼていただけで何故そこまで喜ばれるのか、よくわからないが。
 元気に過ごせている元患者さんに会えたことは、素直に嬉しい。

 にこにこ笑っていると、蛹さんたちが「破壊力も変わらない……!」と呻きながら頽れた。……本当に全快しているのだろうか。
 心配になって声をかけようとしたとき、背後から王女たちの声が聞こえた。

「見ろ。民はすでに、自分たちが望む王子妃を選択済みだと思わないか?」
「お……思いません!」
「病人に薬をタダで配れば、そりゃあ感謝されるでしょう! けれどそれでは買収と一緒では!?」
「周到な人気取りという見方もできますわね」
「王子妃の座に就くのは、それに相応しい能力を持った者だけです!」

 振り返ると、王女の綺麗な額に青筋が浮かんでおり、「よーくわかった」と大きな声を上げた。

「だったらお前ら、アーネストと勝負しろ!」
しおりを挟む
感想 843

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。