召し使い様の分際で

月齢

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第19章 勝敗と守銭奴ごころ

ダンスのお相手

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 繻子那嬢と話していると、彼女の向こうの席の壱香嬢が、おそるおそるというように首をのばして、会話に参加してきた。

「あの、ウォルドグレイブ伯爵。お尋ねしてもいいかしら」

 おや。
 繻子那嬢に続いて壱香嬢まで、やけに低姿勢。
 こういう場だから猫を被っているというのとも、ちょっと違うようだし……。
 かつて繻子那嬢と共に、この四人の中で真っ先に僕に嫌味を言いに来た二人が、どうしたことか。

「あなたも相当悪いものを食べ」
「「食べてないわよ?」」

 二人声を合わせて、食い気味に否定してきた。息ぴったり。

「繻子那様っ。この人、素で失礼ね!?」
「その通りよ、壱香様」

 仲良く僕を罵る二人を、久利緒嬢はぽかんと口をあけて見ているけれど。
 琅珠嬢は、口角だけ引き上げた笑みを顔に貼りつけたままだ。
 その目は、先刻、僕に向けられていた、例のカマキリのような目。
 油断なく何かを探るように繻子那嬢を注視するその目は、とても友人を見る目とは思えない。そう思ったら、ぞわっと肌が粟立った。

 見ていて気分の良いものではないので、「それで」と注意をこちらに向けて、繻子那嬢への視線を断ち切る。

「どういったご質問ですか? 壱香嬢」

「あなたはかなりの地方に住んでいたと聞いているけど、音楽やら会話術やらあれこれを、どこで学んだの? さぞ高名な教師を招いていたのでしょう?」

 壱香嬢も、どんどん素に戻っているなあ。
 僕は白銅くんにミルクプリンを取り分け、自分のカップに薬湯を注ぎながら、「とんでもない」と首を横に振った。

「『かなりの地方』の貧乏領主のところへなど、引く手あまたの高名な教師が来てくれるわけがありません。来てくださっても、お手当も払えませんし」
「嘘よ! じゃあどうしてそんなに何でもできるのよ!」
「執事が何でもできたので」
「へ?」
「執事?」

 またも息ぴったりに眉根を寄せた二人に、「執事から習ったのです」とうなずいたところで、進行の侍従さんの声が響いた。

「お待たせいたしました! 皆様、最後の項目『ダンス』の会場である大広間へ、ご移動をお願いいたします!」 

 僕はそのときまで、『大広間』とは今いるこの部屋のことだと思っていた。だが卓と椅子がずらりと設営されたこの部屋は、言わば続き間だったのだと、ようやく気づいた。

 巨大な緞帳みたいなタペストリーと、醍牙独特の精緻な文様が透かし彫りされた、これまた巨大な壁のような引き戸が、絡繰り仕掛けでゆっくりひらかれると。
 そこが、本物の大広間だった。

 皆がぞろぞろと移動していくのを見送って、僕は次の間からじっくりと大広間を観察した。

 第一印象は、広い。広すぎる。奥行きだけで遥か遠い。
 醍牙に来て講和会議に出たときの『灯華殿』も大きかったけど、あれ以上だ。

 ボックス席が五階まであって、歌劇場みたい。もしかして、そういう用途もあるのだろうか。
 豪奢なシャンデリアがいくつも眩くきらめいているのを見ていると、腕の中の白銅くんが、

『一万三千人ほどが踊れる広さだそうです』

 と教えてくれた。
 体格の良い醍牙人が一万三千人、くるくると大円舞できるとは凄い。

『僕も実際に入ったのは初めてなんです……おっきいにゃあ……すごいにゃあ……』

 見上げすぎて口があいてる愛らしい子猫に、僕は「ほんとだねぇ」と相槌を打った。本当に、なんて、なんて。

 なんて不経済なんだ……!

 寒冷地なのにこんな高い天井では、暖気がどんどん上に逃げていくではないか。
 おっきな暖炉も複数あるし、燭台も星空みたいにたくさん灯っているけれど、それらのひと冬の維持管理費だけで、ダースティンの領民全員が半年は遊んで暮らせそう。

 いや、わかるけども。ここはおそらく外交の場で、国の威信を見せつける重要な役割があるんだろうとはわかっているし、不経済とか言ってる場合ではないのだろうけども。
 でも、つい考えずにはいられないんだ。

 ……あのシャンデリアをひとつ、ブチッともいで売りに出したら、借金いっぱい返せるだろうなあ……!

 まったく夢も威信も無い発想をしていたら、白銅くんが心配そうに、

『こんにゃ広いところで踊ったら、疲れちゃいそうですよね。大丈夫ですか……?』

 僕が体力の心配をしていると思ったらしく、気遣ってくれた。

「大丈夫、ありがとう。白銅くんは本当に優しいねえ」
『えへへ~』

 ごめんよ。体力の心配じゃなく、シャンデリアの売却価格の見積もりをしていた僕を許しておくれ。

 そうこうするうち、ダンスのパートナーが現れた。
 壱香嬢のお相手は、入場したときと同じく、父親の蟹清カニスガ伯爵。
 白銅くんが今日も真顔で

『やっぱり頭に小さい巻きうんこが乗ってるみたいですね』

 と感想を述べたので、こらえきれずにちょっと吹き出したが。
 けど、ヘアスタイルはともかく、蟹清伯爵も双子ほどではないが背が高くて、壱香嬢と身長のバランスが良さそうだ。
 それにきっと彼も、ダンスには自信があるのだろう。

 僕のパートナーは……双子にお願いできればよかったけど、『公平な競い合い』ゆえ、僕だけ双子と踊るわけにもいかず。
 最初は、入場時と同じく刹淵さんにお願いして、了承してもらっていたのだけれど。
 話を聞きつけた別の人物が、「だったら自分が」と引き受けてくれた。

 父親と動きを確認していた壱香嬢が、そして蟹清伯爵も、僕のダンスパートナーに気づいてギョッと目を剥いた。

「……本気?」
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