ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第6唱 竜王の呪い

今度こそロックス町へ

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 残る問題は、この薬をロックス町に持ち込めるのがラピスのみということだ。
 ラピスは古竜から、町に入るため必要な魔法をひと通り教わっている。だから当然、自分ひとりで町に入るつもりだと言うと、皆に猛反対されてしまった。

「護衛役として、断じて離れるつもりはない」
「そうだよ! 俺も絶対行く!」
「ラピスに何かあったら、天災より先にグレゴワール様が世界を破壊しかねないからなあ」
「ラピスはぼくがついていないと危なっかしいんだから」

 ジーク、ディード、ギュンター、ヘンリックが畳みかけてきたのはもちろん、ほかの騎士たちからも次々止められてしまった。

「もう、自分たちにもわかります。この巡礼で成果を挙げられるのは、ラピスくん以外にいません」
「きみは竜たちから愛されている。何かあれば、彼らもどれほど悲しむか」

 皆の心配と気遣いは、素直に嬉しい。けれど大勢いた魔法使いたちはロックス町に先行したまま行方知れずだし、必要な魔法を使えるのも今のところラピスしかいないのだから、ラピスが行くしかないのだ。

「僕、行きたいです。早く病気の人たちを助けたいです。無理をするつもりではなくて、防御の方法も古竜さんが教えてくれたから、大丈夫だって信じてます」

 古竜は、ロックス町が『呪いの支配下にある』と言った。
 ということは、母と同様、呪いの穢れが疫病として表れたのだとラピスは思う。不自然な天候もそのためかもしれない。
 ならばなおさら、解決法を伝授されたラピスが行くのが、最も確実で安全だろう。

 母にも、助かるすべがあったのかもしれない。
 竜からこうした薬の作り方を教わったことも、あったかもしれない。
 けれど聴き手であることを隠し、ひとり秘密を抱え込んでいた母には――まして躰が弱かった母には、希少な材料を求めて旅をすることなどできなかったろう。
 それに何より、ラピスがいたから。

(僕を置いて行くことも、一緒に連れて行くことも、選べなかったのかも)

 古竜が見せてくれた夢の中、母はラピスに呪詛が及ぶことを恐れていた。
 呪術師の存在に怯えていたならなおのこと、母ならば己のことより子供を守ることを優先したに違いない。ラピスの能力を注意深く隠していた裏には、そうした事情もあったのかもしれない。
 それを思えば、いっそう切ない。

(もう少し長生きしてくれたら、母様の助けになれたかもしれないなぁ……)

 大切にしてくれた母に、恩返しがしたかった。その時間が欲しかった。
 あまりに早い別れだったのだと、ときが経つほど身にしみて、心にぽっかりひらいた空隙くうげきに気づく。
 ラピスは心の穴を塞ぐように胸に手を当ててから、頭をブンブン振って思考を切り替えた。

(母様にしてあげられなかったぶんも、みんなに!)

 そう心に決めたラピスの言葉と、ジークのみ共に町に入るという条件で、なんとかみんなも納得してくれた。
 それというのも対疫病用の防御魔法を試してみると、もうひとりくらいなら一緒に覆えそうだとわかったので、ジークも同行するならということになったのだ。

 だがなんと言っても騎士たちを同意させた決め手は、「いざとなったら、お師匠様を呼びますから!」のひと言だった気もする。
 今どこにいるかすらわからぬクロヴィスだが、ラピスの危機となれば駆けつけてくれる。それはもう、経験済みなのである。


☆ ☆ ☆


 翌日、せめて町までは一緒に行くと言って譲らぬ騎士たちと、五台の馬橇を連ねて出発した。
 穏やかな曇り空だったが、ロックス町のそばに至るや一転 、雪煙に視界を塞がれ始めた。報告通りだ。視界の効かぬ雪つぶてに顔をしかめて、ギュンターが呟いた。

「このまま突き進むと、入ったまま出られなくなるわけか」
「ここから先は二人で行く。あとは頼むぞ」

 ジークの言葉に、整列した騎士たちが一糸乱れぬ敬礼で応えた。
 だがディードとヘンリックはすぐにそこから走り出てきて、雪によろめきながら、ラピスを抱きしめた。ディードが雪に負けぬよう声を張り上げる。

「絶対無理はするなよ? 連絡くれたら、すぐ行くからな!」

 心配のためか寒さのためか涙目のヘンリックは、怒ったように黙ったままだ。
「大丈夫だよ~」とラピスも二人を抱き返したが、三人とも着膨れているので、あまり腕が回らない。
 皆には安全なところで待機してもらい、取り決めておいた刻限になっても二人から連絡がなければ、次の行動に移ることになっている。

 方向を確認したジークがラピスを担ぎ上げた。
 その腰には命綱。たった今、目の前の大木と繋いで縛ったものだ。計算上は充分町に入れるはずの長さがあり、もしものときもこれを辿れば、方向がわからずとも町から出られるはずだという。――理論上は。
 だが呪いが関わる以上、理屈が通るという期待はしないほうがいいかもしれない。

 皆に見送られ、いよいよ町へと歩を進めた。歩いているのはジークのみで、ラピスは抱き上げられたままだが。
 ここからどのくらいの距離なのか……ジークは「すぐだ」と言うが、白い嵐の中、時間感覚も方向感覚もすぐに消え失せた。地元の人たちから教わった目印となる大木がなければ、立ち往生していたかもしれない。

 それでも、雪と暴風が二人を直接打ちつけることはない。
 ラピスが防御の魔法を使い始めたからだ。
 さらに、適度な保温の魔法も。

 魔力を一気に使い過ぎるとダウンすると身をもって学んだので、今回はここまで魔法を温存していた。

「これは助かるな」
「えへへ~」
「だが無理はしないでほしい」
「だいじょぶですよ! ジークさんこそ、疲れたら言ってくださいね。僕おりて歩きますから」
「俺も大丈夫だ」

 魔法の防御壁を、雪が殴りつけてくる。
 馬車道とおぼしき道を歩いてきたが、積雪が長身のジークの腰まであって、ジークは当然のように躰で雪を押し分け歩いているが、これは大変な重労働だ。加えてラピスと荷物まで担いでいる。

「そうだ……!」

 ラピスは一旦おろしてもらった。
 ジークが漕いできた細い雪道に立つと、小柄なラピスはすぐにも雪に埋もれそうだ。暴風が威嚇するように音をたてる中、目を閉じて集中する。

(古竜さんは、『聖魔法と風魔法で町に入る』と言ってた)

 ラピスはそれを、「町の入り口に着いたら魔法を使いなさい」という意味だと思い込んでいたのだが……
 誰でも町に入ることはできたのだから、単に「入るため」でなく、に踏み込む時点で使うことに意味があるのかもしれない。

 早速、教わったイメージ通りに竜氣を操る。
 すると唐突に雪がやみ、視界がひらけた。
 急に天候が変わったせいかぐにゃりと視界が歪み、ラピスはごしごしと目を擦る。しかしその目をあけると、なぜかすぐ目の前に町の家並みがあった。
 二人は一帯を埋め尽くす雪の中にいたはずなのに。

「……ありり?」

 首をかしげてジークを見上げると、ジークも青い目を瞠り、ラピスと家並みを交互に見ている。
 何が起こったかよくわからぬまま――どうやら、ロックス町に到着したようだ。
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