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第7唱 純粋な心
浄化の魔法
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「僕は浄化の魔法をかけなくちゃ」
ディードがうなずき、食事につられて町長のほうへ歩み寄っていたヘンリックの耳を引っ張って引き戻した。
二人がまたも喧嘩を始めるあいだに、ラピスは古竜から授かった教えを、できる限り詳細に思い描いた。
火の魔法で穢れを灼き払い、水の魔法で清める浄化の魔法。
けれど実際に火や水を出現させるわけではない。
これまで魔法を使うときは、頭の中で強くイメージしたことを竜氣で顕現させてきた。つまり実際に存在する水を増やしたり、服をあたためたり。
しかし今回は、イメージはするが実物の顕現は無しという魔法だ。
(古竜さんが見せてくれたイメージ上では、火も水も意思があるみたいに動いてたけど……)
火と水を、頭の中だけで顕現させる。それでいて実際に浄化の効果がある。
(そんなこと、できる?)
思った瞬間、怖気づいた。できなかったらどうしよう。
雪の中にぽつんと取り残されたような心地になり、「お師匠様……」と呟く。
だが思わず漏らしたその言葉が、翳りかけた心に、優しい声を灯してくれた。
『ラピス。お前ならできるから。いろんなことができるから』
誰より信頼する師は、いいかげんなことは言わない。
クロヴィスができると言ってくれるなら、できるのだ。
いつのまにかぶ厚い雪雲は去っている。
凍てつく青空に向かってひとつ深呼吸し、目を閉じた。
(町中の呪いの穢れを灼く)
優しい炎が穢れを追い払ってくれるよう祈りながら、竜氣を放出した。
と、何かがふわりと頬に触れる。
目をあけると、手乗りサイズの小っちゃな竜が、ラピスを覗き込んでいた。
「ほえ!?」
驚いて瞬きする間に、竜はその身と同じ赤い光の尾を引いて、ひらりと舞い上がる。そこには、気づけばラピスを取り囲む、獣型のチビ飛竜たちの群れがあった。
赤、橙、黄、青。色とりどりに揺らめき光るその躰は皆、よく見ると透けている。
竜越しに、目を丸くしたジークが見えた。そろってあんぐりと口をあけるディードとヘンリックも。
ラピスも事態を飲み込めず、ボーッとしたまま一番近くの黄色いチビ竜の鼻先に触れると、ひんやりするような熱っぽいような、不思議な温感があった。
同時に、『炎竜』という言葉が頭に浮かぶ。
「えんりゅう、さん?」
うなずくようにチビ竜は、くるんと宙で一回転。
それが合図のように、一斉に町中へ飛び出した。
チビ飛竜の大群は、まさに炎が燃え盛るよう。鮮やかな光の尾を引いて、四方八方へ駆け巡る。
――これが浄化の魔法なのだ。
彼らが町中を巡り穢れを祓ってくれるのだと、ラピスは突然、理解できた。
「なるほど~!」
古竜のイメージを見せてもらったとき、意思があるみたいに動いていると感じたのはこういうことかと得心がいった。
この魔法はつまり、火そのものではなく、火に属する何かを――それを精霊と呼ぶのか幻獣と呼ぶのか、ラピスにはわからないが――そうした浄化の力を持つ存在を召喚する魔法、ということなのだろう。
ヘンリックがとっても何か言いたげな顔をして、ディードに口を押さえられている。それを横目に、ラピスは間を置かず水の魔法に取りかかった。
こちらの魔法もチビ竜軍団が出てくるのかと思いきや、今度は足もとから、ゴボゴボと水そのもののように透明な流れが湧き出てきた。
それは蛇型の竜だった。水の躰を持つ竜。こちらも本物の水ではないけれど。
空へと伸び上がったその姿は成竜ほどの大きさだが、何体かが寄り集まっているようにも見える。形状が流動的で、「こう」と断言できないのだ。しかし蛇型の竜だということは確かだった。
『泉竜』
そう教えてくれた。
文字通り、雪の町に豊かに湧出した泉竜は、水が流れるように町中を巡りながら、小さな炎竜たちが焼き払った穢れの塵すら残さぬというように、清め流していった。
ディードがうなずき、食事につられて町長のほうへ歩み寄っていたヘンリックの耳を引っ張って引き戻した。
二人がまたも喧嘩を始めるあいだに、ラピスは古竜から授かった教えを、できる限り詳細に思い描いた。
火の魔法で穢れを灼き払い、水の魔法で清める浄化の魔法。
けれど実際に火や水を出現させるわけではない。
これまで魔法を使うときは、頭の中で強くイメージしたことを竜氣で顕現させてきた。つまり実際に存在する水を増やしたり、服をあたためたり。
しかし今回は、イメージはするが実物の顕現は無しという魔法だ。
(古竜さんが見せてくれたイメージ上では、火も水も意思があるみたいに動いてたけど……)
火と水を、頭の中だけで顕現させる。それでいて実際に浄化の効果がある。
(そんなこと、できる?)
思った瞬間、怖気づいた。できなかったらどうしよう。
雪の中にぽつんと取り残されたような心地になり、「お師匠様……」と呟く。
だが思わず漏らしたその言葉が、翳りかけた心に、優しい声を灯してくれた。
『ラピス。お前ならできるから。いろんなことができるから』
誰より信頼する師は、いいかげんなことは言わない。
クロヴィスができると言ってくれるなら、できるのだ。
いつのまにかぶ厚い雪雲は去っている。
凍てつく青空に向かってひとつ深呼吸し、目を閉じた。
(町中の呪いの穢れを灼く)
優しい炎が穢れを追い払ってくれるよう祈りながら、竜氣を放出した。
と、何かがふわりと頬に触れる。
目をあけると、手乗りサイズの小っちゃな竜が、ラピスを覗き込んでいた。
「ほえ!?」
驚いて瞬きする間に、竜はその身と同じ赤い光の尾を引いて、ひらりと舞い上がる。そこには、気づけばラピスを取り囲む、獣型のチビ飛竜たちの群れがあった。
赤、橙、黄、青。色とりどりに揺らめき光るその躰は皆、よく見ると透けている。
竜越しに、目を丸くしたジークが見えた。そろってあんぐりと口をあけるディードとヘンリックも。
ラピスも事態を飲み込めず、ボーッとしたまま一番近くの黄色いチビ竜の鼻先に触れると、ひんやりするような熱っぽいような、不思議な温感があった。
同時に、『炎竜』という言葉が頭に浮かぶ。
「えんりゅう、さん?」
うなずくようにチビ竜は、くるんと宙で一回転。
それが合図のように、一斉に町中へ飛び出した。
チビ飛竜の大群は、まさに炎が燃え盛るよう。鮮やかな光の尾を引いて、四方八方へ駆け巡る。
――これが浄化の魔法なのだ。
彼らが町中を巡り穢れを祓ってくれるのだと、ラピスは突然、理解できた。
「なるほど~!」
古竜のイメージを見せてもらったとき、意思があるみたいに動いていると感じたのはこういうことかと得心がいった。
この魔法はつまり、火そのものではなく、火に属する何かを――それを精霊と呼ぶのか幻獣と呼ぶのか、ラピスにはわからないが――そうした浄化の力を持つ存在を召喚する魔法、ということなのだろう。
ヘンリックがとっても何か言いたげな顔をして、ディードに口を押さえられている。それを横目に、ラピスは間を置かず水の魔法に取りかかった。
こちらの魔法もチビ竜軍団が出てくるのかと思いきや、今度は足もとから、ゴボゴボと水そのもののように透明な流れが湧き出てきた。
それは蛇型の竜だった。水の躰を持つ竜。こちらも本物の水ではないけれど。
空へと伸び上がったその姿は成竜ほどの大きさだが、何体かが寄り集まっているようにも見える。形状が流動的で、「こう」と断言できないのだ。しかし蛇型の竜だということは確かだった。
『泉竜』
そう教えてくれた。
文字通り、雪の町に豊かに湧出した泉竜は、水が流れるように町中を巡りながら、小さな炎竜たちが焼き払った穢れの塵すら残さぬというように、清め流していった。
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