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第7唱 純粋な心
ジークムントの怒り
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馬車等の移動手段や宿泊施設が不足しているときには、必ずアカデミー派が優先された。
ゴルト街で古竜の歌を聴き、『ロックス町に救いの対象がある』と解いた中にはリッターも含まれていたけれど、手柄はすべてアカデミー派のものとされた。
ドラコニア・アカデミーは、学園の生徒から巡礼の“成功者”を出したいのだ。
国政の中枢に食い込む権力者たちが後見しているのだから、アカデミー派の傲慢な態度を責めても、逆に嘲笑されるだけ。
ベスター町長の家を借り切った件についても、同じような展開になった。
田舎町の宿屋に、全員を収容できる部屋数はない。ゆえに当然のごとくアカデミー派が優先されて、彼らはリッターたちにこう言い放ったという。
「買い物や町への使いといった下働きをするなら、倉庫に泊まらせてやる」
倉庫と言っても、宿に隣接する物置小屋だ。
宿を閉めて以来使われていないから、今にも雪の重みで屋根が落ちそうなほど劣化している。
それはつまり、リッターたちとは宿を共有しないという宣言だった。
廃屋同然の小屋で寝起きして、たとえ町へのお使いで感染したとしても、こちらの建物には入ってくるな。そういう意味だ。
これにはリッターたちも、堪忍袋の緒が切れた。
ならばアカデミー派の者たちだけで勝手にすればいい。従業員もいない宿を借り切ったところで、家事などろくにできないくせに、どうやって生活するのか見ものだと嘲笑し。
しかし泊まるあてがないのは変わらないから、その殆どが町人の支援活動へ回っていた護衛騎士たちと合流しようと決めた。
「今思えば、完全にキレていたというか自棄というか……」
「それは確かに、無謀だね」
苦笑するギュンターと目を合わせず、リッターたちはうなだれる。
「だから本当に、褒められるようなことではないんです……」
確かに、いくら立腹したとはいえ、何も疫病の蔓延する中に飛び込んで行かずともよかった。ほかに泊めてくれる家があったかもしれないし、案の定感染してしまったのだから、無謀には違いない。
けれどきっと、反省すべき点は、罹患して死ぬ思いをした彼らが一番よくわかっているのだ。
「自棄になっていたのに、自分のためでなく病人のために行動するなんて、なんて優しいんだろうって僕は思いました」
ラピスは本心からそう思ったので、にこにこ笑いながら言うと、魔法使いたちは「うっ」と涙目になった。
「ありがとう、ラピスくん……ほんと天使だぁ」
「なんだろう、このすさまじい癒し効果……」
よくわからないが、泣き笑いに変わった表情は明るい。ラピスはちょっと安心した。
そうこうするうち、件の町長の家に着いたのだが――
窓は真っ白に凍りつき、扉は雪に埋まって、またも雪かきとラピスの魔法で解凍せねばならなかった。
これでは閉じこもるまでもなく、出られなかっただろう。
そして扉がひらいた途端飛び出してきた青年は、開口一番、
「遅かったじゃないか! オレたちを放って何やってたんだ愚図!」
真っ赤な顔で怒鳴り散らし始めた。
次に出てきた少女も青年も、衣服はくたびれ、頭は脂でべったりとして、それにかなり臭っているが、それでも元気に声を荒らげた。
「ひどいじゃない! 死ぬとこだったのよ!? わたしたちになにかあったら、アカデミーが黙ってないんだからね! 護衛役なら早くどうにかしなさいよ! 薪も食べるものもないし湯浴みもできないし御手洗いも」
「感染者はいないのか」
ジークが進み出ると、言い募る口がぴたりと閉じた。
「あ、アシュクロフト団長……! なぜここに」
「ああ、助けに来てくださったんですね! こんな町もうイヤです、早く避難させてください!」
「護衛騎士たちの怠慢を厳しく罰してください、アシュクロフト団長!」
「感染者はいないのか」
☆ ☆ ☆
結果として、外部との接触を断っていたにも関わらず、アカデミー派の魔法使いたちの中にも感染者は出ていた。
しかも病人たちを二階の部屋に閉じ込めたまま、まったく面倒を見ず、感染を恐れるあまり水を差し入れることすら厭うて、かろうじて小さくひらいた窓から取った雪を皿に積み、飲み水として扉の外に「置いてやった」らしい。
その話を聞いて急いで二階に向かうと、そこにいた魔法使いたちは、星殿の患者たちより衰弱がひどかった。
これを知ったジークは、ラピスが彼と出会って以来初めて、雷のような怒声を上げた。
「馬鹿者! 冷えた部屋で病人に雪をそのまま食べさせるなど、殺す気か!」
雪は必ず解かしてから口にしないと、急激に体温を奪われるのだ。
ラピスも以前、クロヴィスから高山病や低体温症について教わったときに知った。
第三騎士団団長に本気で怒鳴られた魔法使いたちは、漏れなく号泣した。
治療と魔法に追われるラピスたちには、彼らの相手をする余裕はなかったが――ひときわ大声を上げて泣きじゃくる義姉ディアナを見つけたとき、ラピスは安堵の息を漏らした。
だが、いつも一緒にいたイーライの姿がないのは、なぜだろう……?
ゴルト街で古竜の歌を聴き、『ロックス町に救いの対象がある』と解いた中にはリッターも含まれていたけれど、手柄はすべてアカデミー派のものとされた。
ドラコニア・アカデミーは、学園の生徒から巡礼の“成功者”を出したいのだ。
国政の中枢に食い込む権力者たちが後見しているのだから、アカデミー派の傲慢な態度を責めても、逆に嘲笑されるだけ。
ベスター町長の家を借り切った件についても、同じような展開になった。
田舎町の宿屋に、全員を収容できる部屋数はない。ゆえに当然のごとくアカデミー派が優先されて、彼らはリッターたちにこう言い放ったという。
「買い物や町への使いといった下働きをするなら、倉庫に泊まらせてやる」
倉庫と言っても、宿に隣接する物置小屋だ。
宿を閉めて以来使われていないから、今にも雪の重みで屋根が落ちそうなほど劣化している。
それはつまり、リッターたちとは宿を共有しないという宣言だった。
廃屋同然の小屋で寝起きして、たとえ町へのお使いで感染したとしても、こちらの建物には入ってくるな。そういう意味だ。
これにはリッターたちも、堪忍袋の緒が切れた。
ならばアカデミー派の者たちだけで勝手にすればいい。従業員もいない宿を借り切ったところで、家事などろくにできないくせに、どうやって生活するのか見ものだと嘲笑し。
しかし泊まるあてがないのは変わらないから、その殆どが町人の支援活動へ回っていた護衛騎士たちと合流しようと決めた。
「今思えば、完全にキレていたというか自棄というか……」
「それは確かに、無謀だね」
苦笑するギュンターと目を合わせず、リッターたちはうなだれる。
「だから本当に、褒められるようなことではないんです……」
確かに、いくら立腹したとはいえ、何も疫病の蔓延する中に飛び込んで行かずともよかった。ほかに泊めてくれる家があったかもしれないし、案の定感染してしまったのだから、無謀には違いない。
けれどきっと、反省すべき点は、罹患して死ぬ思いをした彼らが一番よくわかっているのだ。
「自棄になっていたのに、自分のためでなく病人のために行動するなんて、なんて優しいんだろうって僕は思いました」
ラピスは本心からそう思ったので、にこにこ笑いながら言うと、魔法使いたちは「うっ」と涙目になった。
「ありがとう、ラピスくん……ほんと天使だぁ」
「なんだろう、このすさまじい癒し効果……」
よくわからないが、泣き笑いに変わった表情は明るい。ラピスはちょっと安心した。
そうこうするうち、件の町長の家に着いたのだが――
窓は真っ白に凍りつき、扉は雪に埋まって、またも雪かきとラピスの魔法で解凍せねばならなかった。
これでは閉じこもるまでもなく、出られなかっただろう。
そして扉がひらいた途端飛び出してきた青年は、開口一番、
「遅かったじゃないか! オレたちを放って何やってたんだ愚図!」
真っ赤な顔で怒鳴り散らし始めた。
次に出てきた少女も青年も、衣服はくたびれ、頭は脂でべったりとして、それにかなり臭っているが、それでも元気に声を荒らげた。
「ひどいじゃない! 死ぬとこだったのよ!? わたしたちになにかあったら、アカデミーが黙ってないんだからね! 護衛役なら早くどうにかしなさいよ! 薪も食べるものもないし湯浴みもできないし御手洗いも」
「感染者はいないのか」
ジークが進み出ると、言い募る口がぴたりと閉じた。
「あ、アシュクロフト団長……! なぜここに」
「ああ、助けに来てくださったんですね! こんな町もうイヤです、早く避難させてください!」
「護衛騎士たちの怠慢を厳しく罰してください、アシュクロフト団長!」
「感染者はいないのか」
☆ ☆ ☆
結果として、外部との接触を断っていたにも関わらず、アカデミー派の魔法使いたちの中にも感染者は出ていた。
しかも病人たちを二階の部屋に閉じ込めたまま、まったく面倒を見ず、感染を恐れるあまり水を差し入れることすら厭うて、かろうじて小さくひらいた窓から取った雪を皿に積み、飲み水として扉の外に「置いてやった」らしい。
その話を聞いて急いで二階に向かうと、そこにいた魔法使いたちは、星殿の患者たちより衰弱がひどかった。
これを知ったジークは、ラピスが彼と出会って以来初めて、雷のような怒声を上げた。
「馬鹿者! 冷えた部屋で病人に雪をそのまま食べさせるなど、殺す気か!」
雪は必ず解かしてから口にしないと、急激に体温を奪われるのだ。
ラピスも以前、クロヴィスから高山病や低体温症について教わったときに知った。
第三騎士団団長に本気で怒鳴られた魔法使いたちは、漏れなく号泣した。
治療と魔法に追われるラピスたちには、彼らの相手をする余裕はなかったが――ひときわ大声を上げて泣きじゃくる義姉ディアナを見つけたとき、ラピスは安堵の息を漏らした。
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