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第7唱 純粋な心
爆笑の騎士たちと、おめでたい話 2
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アスムスやディアナたちは、騎士たちの不穏な気配に気づく様子もなく、とても愉快そうだ。
「わたし、大魔法使いを巡礼の参加登録日に見たわ。麗しい青年にしか見えなかった」
「だから、だろ? まだまだ現役ってか?」
またもゲラゲラ笑っているが、やはり勘違いとは思えぬジークたちの殺気が気になり、ラピスはあわわと両者を交互に見た。
正直、アスムスたちの話の意図が理解できないので、ヘンリックまで額に青筋を浮かべて怒りの形相になっている理由がわからない。
「噂の尽きない人とはいえ、大魔法使い様だもの。ずーっと人嫌いで知られてきたのに、よほどの理由がない限りお近づきにはなれないはずよ」
「じゃあやっぱアレか。デキてるって噂」
「噂、なのかねぇ。火のない所に煙は立たぬと言うし?」
「そこに真実がある」
ディアナも一緒に大笑いしている。
同時に、ディードとヘンリックが前へ進み出たので、また何か投げつけるつもりかとあわてたそのとき、低い声がアスムスたちの会話を断ち切った。
「つまり……きみたちは、俺に向かって嫌味を言っているんだな?」
鞭打つごとき声が、アスムスたちを凍りつかせる。
笑顔から一転、驚愕と焦りを滲ませた面々が、ギクシャクとこちらを見た。
「あ、アシュクロフト団長……?」
「な、な、なぜですか? おれたちが団長に嫌味を言うわけないじゃありませんか」
「そうですわ! いやらしい噂の当事者は、そこの――」
ジークが首肯する。
「そこの騎士団長の、俺だろう? 現在、この国に大魔法使いはただひとり。その方と『デキてる』噂の相手といえば、この俺しかいない」
アスムスたちの顔から血の気が引いた。
ここに至るまで、すっかり失念していたようだ。ジークとクロヴィスが婚約しているという噂話を。
「ちちち違います! そんなわけありませんっ!」
いち早く、必死の形相で言い募ったのはディアナだ。
「あんなのはバカバカしい噂だって、絶対に真っ赤な嘘だって、わたしはちゃんとわかっています! だってアシュクロフト様はわたしと」
「そうですよ! おれたちはそんなつもりでは!」
「『火のない所に煙は立たぬ』『そこに真実がある』とも言っていたよねぇ」
ギュンターが楽しげに煽ると、騎士たちも「我らも証人です。しかと聞きました」とわざとらしくうなずく。
すごみのある微笑を浮かべたジークが、「そうだな」とディアナたちを睥睨した。
「つまりきみたちは、真実と認識した上で、俺の婚約者を侮辱したわけだ」
難癖だろうがなんだろうが、桁外れの剣の使い手として知られる第三騎士団団長とその部下たち(+騎士見習い二人)を怒らせたとあっては、温室育ちの子女らはひとたまりもない。
そろって震え上がる中、ただひとりディアナだけは、強靭な精神力で抗議したけれど……
「違いますでしょう、アシュクロフト様! 大魔法使いはあなたの婚約者なんかじゃありませんよね!?」
「婚約者だ」
☆ ☆ ☆
ラピスはわかっている。
ジークはアカデミー派の魔法使いたちを、手っ取り早く黙らせたかっただけだ。
リッターらには何か目的があって、そのためにここまで来たのだと知っているから、両者をきちんと話し合わせたかったのだろう。
その上で、話題の矛先をラピスから自分に移してくれた。
ジークの思惑通り、すっかり意気消沈したアカデミー派は、おとなしくうなだれている。リッターたちが何を話したいのかは、まだわからないが――
とりあえず、外に飛び出した騎士たちは、雪の中を転げ回って爆笑していた。
涙目になるほど笑いながら、口々に祝福を叫ぶ。
「おめでとうございます、団長!」
「『婚約者だ』宣言! カッコイー!」
ディードとヘンリックは、そんな大人たちに呆れ顔だ。
遠い目をするジークの手をラピスが両手でそっと握ると、「……また怒られるな……」と呟きが降ってきた。
ラピスはブンブンと首を横に振る。
「大丈夫ですよぅ! どうせ前からある噂ですもん、お師匠様なら気にしません!」
「……」
「元気出してください~。えっと、えっと、ほら! ご本人が噂は真実だと認めたので、よりいっそう、おめでたいお話になりましたし!」
「ラピス。それフォローになってない」
ヘンリックに袖をツンツン引っ張られ、「ほへ?」と振り向くと。
苦笑するディードのうしろで、ギュンターが腹を抱えて笑っていた。
「わたし、大魔法使いを巡礼の参加登録日に見たわ。麗しい青年にしか見えなかった」
「だから、だろ? まだまだ現役ってか?」
またもゲラゲラ笑っているが、やはり勘違いとは思えぬジークたちの殺気が気になり、ラピスはあわわと両者を交互に見た。
正直、アスムスたちの話の意図が理解できないので、ヘンリックまで額に青筋を浮かべて怒りの形相になっている理由がわからない。
「噂の尽きない人とはいえ、大魔法使い様だもの。ずーっと人嫌いで知られてきたのに、よほどの理由がない限りお近づきにはなれないはずよ」
「じゃあやっぱアレか。デキてるって噂」
「噂、なのかねぇ。火のない所に煙は立たぬと言うし?」
「そこに真実がある」
ディアナも一緒に大笑いしている。
同時に、ディードとヘンリックが前へ進み出たので、また何か投げつけるつもりかとあわてたそのとき、低い声がアスムスたちの会話を断ち切った。
「つまり……きみたちは、俺に向かって嫌味を言っているんだな?」
鞭打つごとき声が、アスムスたちを凍りつかせる。
笑顔から一転、驚愕と焦りを滲ませた面々が、ギクシャクとこちらを見た。
「あ、アシュクロフト団長……?」
「な、な、なぜですか? おれたちが団長に嫌味を言うわけないじゃありませんか」
「そうですわ! いやらしい噂の当事者は、そこの――」
ジークが首肯する。
「そこの騎士団長の、俺だろう? 現在、この国に大魔法使いはただひとり。その方と『デキてる』噂の相手といえば、この俺しかいない」
アスムスたちの顔から血の気が引いた。
ここに至るまで、すっかり失念していたようだ。ジークとクロヴィスが婚約しているという噂話を。
「ちちち違います! そんなわけありませんっ!」
いち早く、必死の形相で言い募ったのはディアナだ。
「あんなのはバカバカしい噂だって、絶対に真っ赤な嘘だって、わたしはちゃんとわかっています! だってアシュクロフト様はわたしと」
「そうですよ! おれたちはそんなつもりでは!」
「『火のない所に煙は立たぬ』『そこに真実がある』とも言っていたよねぇ」
ギュンターが楽しげに煽ると、騎士たちも「我らも証人です。しかと聞きました」とわざとらしくうなずく。
すごみのある微笑を浮かべたジークが、「そうだな」とディアナたちを睥睨した。
「つまりきみたちは、真実と認識した上で、俺の婚約者を侮辱したわけだ」
難癖だろうがなんだろうが、桁外れの剣の使い手として知られる第三騎士団団長とその部下たち(+騎士見習い二人)を怒らせたとあっては、温室育ちの子女らはひとたまりもない。
そろって震え上がる中、ただひとりディアナだけは、強靭な精神力で抗議したけれど……
「違いますでしょう、アシュクロフト様! 大魔法使いはあなたの婚約者なんかじゃありませんよね!?」
「婚約者だ」
☆ ☆ ☆
ラピスはわかっている。
ジークはアカデミー派の魔法使いたちを、手っ取り早く黙らせたかっただけだ。
リッターらには何か目的があって、そのためにここまで来たのだと知っているから、両者をきちんと話し合わせたかったのだろう。
その上で、話題の矛先をラピスから自分に移してくれた。
ジークの思惑通り、すっかり意気消沈したアカデミー派は、おとなしくうなだれている。リッターたちが何を話したいのかは、まだわからないが――
とりあえず、外に飛び出した騎士たちは、雪の中を転げ回って爆笑していた。
涙目になるほど笑いながら、口々に祝福を叫ぶ。
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ディードとヘンリックは、そんな大人たちに呆れ顔だ。
遠い目をするジークの手をラピスが両手でそっと握ると、「……また怒られるな……」と呟きが降ってきた。
ラピスはブンブンと首を横に振る。
「大丈夫ですよぅ! どうせ前からある噂ですもん、お師匠様なら気にしません!」
「……」
「元気出してください~。えっと、えっと、ほら! ご本人が噂は真実だと認めたので、よりいっそう、おめでたいお話になりましたし!」
「ラピス。それフォローになってない」
ヘンリックに袖をツンツン引っ張られ、「ほへ?」と振り向くと。
苦笑するディードのうしろで、ギュンターが腹を抱えて笑っていた。
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