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第7唱 純粋な心
古竜の骨問題 2
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ラピスの頭の中で、ようやく情報が整理されてきた。
そう。あれは、巡礼に参加してみるかと師から提案された夜。
――竜を呪詛する輩もいてな。大図書館の『竜の本』には、呪詛や呪具の記録も残ってるよ。一般には閲覧禁止だが、当時、俺が見つけた呪具も保管されてるはず――
クロヴィスはそう言っていた。
「ということは、この辺に……あ、あったぁ!」
雑記帳の中のたくさんの情報に埋もれている、『古竜の骨』と書かれた頁を、ようやく見つけた。
巡礼に出ると決めたあと、呪具についてもう少しだけ踏み込んで教わりメモしていたのだ。
「何があったの?」と興味津々のディードに、「これ!」とその頁を見せる。
「お師匠様によると、『古竜の骨は、強い魔力が残存しているのに持ち主がいない。よって、善くも悪くも用いることが可能。ただし過去の例によれば、多くは呪詛に利用された』」
「呪詛……」
ディードが眉根を寄せた。ジークとギュンターの表情も厳しくなる。
ヘンリックだけはいつのまにか眠っていて、流れた沈黙の中にスヤスヤと寝息が聞こえてきた。
「……ゴルト街でラピスを呪詛した呪術師は、ドロシア・アリスンだったかもしれないんですよね」
ディードの問いに、ジークがうなずく。
「あの少女が強力な呪法を扱えるとは考え難い。呪術師はほかにいて、それに加担している確率のほうが高いように思うが」
「でも加護魔法をかいくぐって呪詛されたのは事実だし、ドロシア・アリスンが古竜の骨について話していたということは、それが呪詛に利用されたということで確定なのでは!?」
まくしたてるディードに、ギュンターが「うーん」と困り顔になった。
「団長。俺は今、すごく嫌な考えに至ったのだけど」
「俺もだ」
きょとんとするラピスと怪訝そうなディードを、ギュンターが見つめる。
「つまりね。グレゴワール様の加護魔法をすり抜けるほどの呪詛を発動するためには、古竜の骨が必要だったとする」
「はい」
ラピスとディード、そろってうなずく。
「だがあれは、封印したグレゴワール様以外は、父上か大祭司長しか、解呪の呪文を知らないんだ。つまりその三人しか持ち出せない」
「と、いうことは……グレゴワール様や父上はあり得ないから」
「持ち出すとしたら、大祭司長しか考えられない」
「……大祭司長ならば、閲覧禁止の呪詛の記録を研究する時間も、充分にあったな……」
呟いたジークに、「ただ」とギュンターが顔をしかめた。
「ヘンリックと巡礼に飛び入り参加するちょっと前、俺はたまたま、その古竜の骨を見てるんだよ」
「えっ。なぜですか兄上」
「ほら、もうすぐアロイスの誕辰の儀だから、祭具の打ち合わせで……って、アロイスっていうのは、うちの次男なんだけどね」
ラピスに向かって説明してくれたが、王家の家族紹介と思えぬほどノリが軽い。
ディードが「アロイス兄上は真面目だから、いつもギュンター兄上に振り回されてるんだ」と付け加えた。
「王太子が城を留守にしてる今、どれほど苦労していることか……」
「大丈夫。そんなの慣れてるさ、あいつは。それはともかく大祭司長は、俺より先に王都を出てた。レプシウスの祭壇で竜王に祈祷するためにね。途中途中の星殿でも祈祷するのが慣例だし、年寄りだから日程に余裕をもたせて早々に出立したんだろう。俺が骨を見たのはそのあとだから、奴が骨を持ち出す機会はなかったはずだ」
「でも骨を持ち出せるのは三人だけだというなら、アードラーしかいない!」
「うーん」
またも沈黙の落ちた室内に、すこやかなヘンリックの寝息と薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。
だが雑記帳を目で追っていたラピスは、あることに気がついた。
「ギュンターさん。その古竜の骨を見たのですよね?」
「ああ、そうだよ。あれは封印用の小箱に入れた上で封印結界の柵で囲ってあるんだけど、わざと蓋を外してあるから、無くなればすぐ気づく。ちなみに解呪せず結界を超えると、雷に打たれるらしいよ」
「ひょええ」
恐ろしいが、雷を落とすというのはある意味クロヴィスらしい。
またぞろ恋しくなってしまったが、今はそんな場合ではない。
「でも、ギュンターさんが見たなら、その骨は偽物かもしれません」
「「うあ?」」
王族兄弟の口から、そろって変な声が出た。
そう。あれは、巡礼に参加してみるかと師から提案された夜。
――竜を呪詛する輩もいてな。大図書館の『竜の本』には、呪詛や呪具の記録も残ってるよ。一般には閲覧禁止だが、当時、俺が見つけた呪具も保管されてるはず――
クロヴィスはそう言っていた。
「ということは、この辺に……あ、あったぁ!」
雑記帳の中のたくさんの情報に埋もれている、『古竜の骨』と書かれた頁を、ようやく見つけた。
巡礼に出ると決めたあと、呪具についてもう少しだけ踏み込んで教わりメモしていたのだ。
「何があったの?」と興味津々のディードに、「これ!」とその頁を見せる。
「お師匠様によると、『古竜の骨は、強い魔力が残存しているのに持ち主がいない。よって、善くも悪くも用いることが可能。ただし過去の例によれば、多くは呪詛に利用された』」
「呪詛……」
ディードが眉根を寄せた。ジークとギュンターの表情も厳しくなる。
ヘンリックだけはいつのまにか眠っていて、流れた沈黙の中にスヤスヤと寝息が聞こえてきた。
「……ゴルト街でラピスを呪詛した呪術師は、ドロシア・アリスンだったかもしれないんですよね」
ディードの問いに、ジークがうなずく。
「あの少女が強力な呪法を扱えるとは考え難い。呪術師はほかにいて、それに加担している確率のほうが高いように思うが」
「でも加護魔法をかいくぐって呪詛されたのは事実だし、ドロシア・アリスンが古竜の骨について話していたということは、それが呪詛に利用されたということで確定なのでは!?」
まくしたてるディードに、ギュンターが「うーん」と困り顔になった。
「団長。俺は今、すごく嫌な考えに至ったのだけど」
「俺もだ」
きょとんとするラピスと怪訝そうなディードを、ギュンターが見つめる。
「つまりね。グレゴワール様の加護魔法をすり抜けるほどの呪詛を発動するためには、古竜の骨が必要だったとする」
「はい」
ラピスとディード、そろってうなずく。
「だがあれは、封印したグレゴワール様以外は、父上か大祭司長しか、解呪の呪文を知らないんだ。つまりその三人しか持ち出せない」
「と、いうことは……グレゴワール様や父上はあり得ないから」
「持ち出すとしたら、大祭司長しか考えられない」
「……大祭司長ならば、閲覧禁止の呪詛の記録を研究する時間も、充分にあったな……」
呟いたジークに、「ただ」とギュンターが顔をしかめた。
「ヘンリックと巡礼に飛び入り参加するちょっと前、俺はたまたま、その古竜の骨を見てるんだよ」
「えっ。なぜですか兄上」
「ほら、もうすぐアロイスの誕辰の儀だから、祭具の打ち合わせで……って、アロイスっていうのは、うちの次男なんだけどね」
ラピスに向かって説明してくれたが、王家の家族紹介と思えぬほどノリが軽い。
ディードが「アロイス兄上は真面目だから、いつもギュンター兄上に振り回されてるんだ」と付け加えた。
「王太子が城を留守にしてる今、どれほど苦労していることか……」
「大丈夫。そんなの慣れてるさ、あいつは。それはともかく大祭司長は、俺より先に王都を出てた。レプシウスの祭壇で竜王に祈祷するためにね。途中途中の星殿でも祈祷するのが慣例だし、年寄りだから日程に余裕をもたせて早々に出立したんだろう。俺が骨を見たのはそのあとだから、奴が骨を持ち出す機会はなかったはずだ」
「でも骨を持ち出せるのは三人だけだというなら、アードラーしかいない!」
「うーん」
またも沈黙の落ちた室内に、すこやかなヘンリックの寝息と薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。
だが雑記帳を目で追っていたラピスは、あることに気がついた。
「ギュンターさん。その古竜の骨を見たのですよね?」
「ああ、そうだよ。あれは封印用の小箱に入れた上で封印結界の柵で囲ってあるんだけど、わざと蓋を外してあるから、無くなればすぐ気づく。ちなみに解呪せず結界を超えると、雷に打たれるらしいよ」
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「「うあ?」」
王族兄弟の口から、そろって変な声が出た。
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