ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
131 / 228
第7唱 純粋な心

捨て切れぬ過去 2

しおりを挟む
「おい、まだか。いったい何をしにきたんだね。古竜の骨がどうかしたのか」

 扉のそばで待っているゾンネが、こわごわ様子を窺ってきた。
 クロヴィスの目的は気になるものの、関わり合いたくはないと見える。
 クロヴィスはちらりと、揺れる頬肉に目をやった。

「おい、この骨について知っているか」
「当たり前だろう。かつてきみが持ち込んだ古竜の骨だ」
「いつから失くなっていたんだ?」
「なんだって? 何が失くなったって?」

 ほかの呪具は別として、この古竜の骨を封印したのはクロヴィスだ。
『解呪しなければ』という魔法も自己流。
 そのことを誰に教えるかは、大祭司長と王で決めるよう、当時クラインミフェル大祭司長と話し合った。
 そして現在のアードラー大祭司長は、副祭司長にも魔法の内容を教えていないらしい。

(当然だな。持ち出す気なら、事実を教えるはずがない)

 アードラーが持ち出したと考えれば、すべて辻褄が合う。
 国王ならば、見えないはずの古竜の骨が見えていること自体には気づくだろうが、大祭司長がなんらかの理由をつけて「解呪しておきました」と言えばやり過ごせる。
 クロヴィスは王都を嫌って寄りつかなかったから、偽物を見る機会自体がなかった。
 よって簡単に持ち出せた。念入りに盗難防止をしたつもりが、逆手に取られた。

 ――そのせいで、ラピスを危険に晒した。

「……これを呪法に用いる方法を、知っているか」
「なんだと!? ままままさか、それが目的でここに来たのか!?」
「バーカ。んなわけあるか。まあ、どっちにせよ、お前らにゃ無理だな」
「当たり前だろう! きみがどれだけ我らを見下しているか知らんが、これでも聖職者であるぞ!」
「人一倍、欲と執着が強いくせに、聖職者ヅラなんぞするから見下してるんだ」
「なっ」

 ここにパウマンがいたらまたうるさく抗議されたろうが、一祭司の彼に入室の資格は無いので、少し離れて廊下で待機している。

 ゾンネのように俗欲にまみれた男は、手にした富と権力をみすみす失うような真似はしない。呪詛を企てる理由もない。
 ラピスの巡礼を妨害しようとしたのも、クロヴィスを出し抜きアカデミー派の者に手柄を立てさせたいという、浅はかな考えからだろう。

(だが、愚かなのは俺も同じ)

 今クロヴィスは、心底、痛感している。
 自分は己が思うほど賢い男ではなかったと。
 よくも堂々と、「呪われるとすれば、ラピスより自分だ」などと思い込めたものだ。

「なあ。アードラーというのは――か?」

「もちろん、その方だ」

 この場に来るまで、わかっていなかった。

(――いや、目を背けていたのか)

 いくつもある呪具の中で、自分が持ち込んだ古竜の骨が持ち出されたとは、クロヴィスは思っていなかった。もっと簡単に持ち出せる呪具はほかにあるから。
 これほど念入りに封印が施された呪具は古竜の骨これだけであり、持ち出せるのは三人しかいない以上、簡単に容疑者が特定される。
 なのに大祭司長はあえて、クロヴィスが封印したものを持ち出し、呪法に使った。

 その意図に気づいたとき、クロヴィスの中で、ようやくすべてのことがつながった。
 おそらく古竜の骨は、何年も前に持ち出されていたのだということも。 

 すべて、つながっていた。
 ずっと過去から。
 だから、ラピスが狙われた。

 もっと早くに気づいていれば。
 目を背け続けず、怒りに囚われず、向き合っていれば。
 地位も名も捨てたという大祭司長に、少しでも興味を向けていれば。
 そうしたら、すぐにわかったのに。

「コンラート……」

 かつて彼から向けられた激情が、眼帯の下の目を疼かせる。 
 考えただけで凍りつきそうな心に、可愛らしい笑い声が響いてきた。寒々と冷えていく心を引き留め陽だまりへ導く、愛らしい笑顔と共に。

(ラピんこに会いたい)

 あの純粋な心に。無邪気な笑顔に。
 今、心から会いたかった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...