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第9唱 クロヴィスとコンラート
美しいもの 1
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ゴルト街から南西に向かって、騎馬で二日ほど。
レプシウス山脈の連なりを見渡す丘に、かつてシタークと呼ばれた廃村がある。
風葬のごとく朽ちゆく石壁の建物は、原形を残さず巨大なアリ塚のようになったものもあれば、外観だけはかろうじて、在りし日の姿を保っているものもある。
中でも神殿は、職人の魂が宿ったものか、飾り細工の天窓や漆喰の壁に描かれた『創世図』が、奇跡のように保たれていた。
中に入ることのできる唯一の建物だが、風が吹くだけで天井からバラバラと砂礫が落ちてくるのは、『そろそろ限界だ』と告げる星殿の悲鳴かもしれない。
訪う者が消えた今も、夕日はおごそかに祭壇を照らす。
信徒を待つようにそこに立っていた老人は、灰色の外套と相俟って、亡霊そのものに見えた。
彼はクロヴィスが足を踏み入れると目を細め、満足そうに両腕を広げた。
「ようこそ兄上。必ずいらっしゃると思っていました」
クロヴィスは無言でかつての双子の弟を見た。
金髪が灰をかぶったような白になったのは、単に老化現象だろう。
だが澄んだ青灰色の瞳がひどく穢れた灰色になったのは、加齢や病のためでなく、呪法のせいだ。
聴き手の体内に竜氣がたまるように、呪術師の身の内には呪いという穢れが溜まる。身の内にあるものは、必ず表面に表れる。
「……どうですか? この村、この星殿は。美しいでしょう? 僕の気に入りの場所なのです。この地は僕にとっての『始まりの場所』ですから。家を出て、神学校に入り、修道のため各地を巡りました。ひとり荒れ地で露宿し、星のひとつも見えぬ空を見上げては、『こんなとき竜の歌を聴けたなら、どんなに慰められることか』と何度も思いましたよ。そんな才能はないと思い知っていたのに、諦めの悪いことです」
僻みや当てこすりというふうでもなく、普通の家族の会話のように、コンラートは話し続ける。
クロヴィスはやはり黙したまま、濁った瞳を見つめていた。
「その旅の中で、シタークに足を運んだのです。すでに廃村であることは知っていましたが、行かねばならないという気になって。兄上やあの子ならば、こう言うのでしょう? 『竜のお導き』と。そうそう、あの子は本当に面白い子ですね! 兄上が誰かと暮らすなどとは夢にも思いませんでしたが……実際に会ってみて、なるほどと思いました。利発で、これ以上ないほど竜に愛されて。まるで昔の兄上だ。性格はまるで正反対ですが。だからこそ気に入ったのでしょう? 名は確か、ラピ」
「その穢れた舌に、我が弟子の名を乗せるな」
コンラートの顔に、皺深く苦笑いが浮かんだ。
「やっと喋ってくれたと思ったら、弟に向かってひどいことを」
「俺に弟はいない。父も母も。俺の家族はラピスだけだ」
灰色の目がスッと細くなった。
が、すぐに肩をすくめて、「世は無常ですからね」とまたも語り出す。
「この地もしかり。どれほど愛そうと、魂込めて創ろうと、生まれた瞬間から滅びが始まる。それがこの世の理です。私はこの廃村に出会ったおかげで気づくことができました。これぞ私が求めていたものだと。――人のいない世界。すべて崩壊する地。それがこんなにも美しいものだと、初めて知ったのです」
「人が嫌なら、お前だけ勝手に死ね」
「本当にひどいな。昔の兄上なら、絶対にそんなことは言いませんでした」
「ラピスを呪詛した奴が何をほざきやがる」
「おやおや」
先を促す灰色の瞳に、クロヴィスが「てめえは」と侮蔑を投げつけた。
「あの男に本当によく似た醜悪な汚物だ。思い通りにならないときは八つ当たり。奴は息子を壊そうとし、てめえは世界を壊している」
コンラートの顔に喜悦の色が滲んだ。
レプシウス山脈の連なりを見渡す丘に、かつてシタークと呼ばれた廃村がある。
風葬のごとく朽ちゆく石壁の建物は、原形を残さず巨大なアリ塚のようになったものもあれば、外観だけはかろうじて、在りし日の姿を保っているものもある。
中でも神殿は、職人の魂が宿ったものか、飾り細工の天窓や漆喰の壁に描かれた『創世図』が、奇跡のように保たれていた。
中に入ることのできる唯一の建物だが、風が吹くだけで天井からバラバラと砂礫が落ちてくるのは、『そろそろ限界だ』と告げる星殿の悲鳴かもしれない。
訪う者が消えた今も、夕日はおごそかに祭壇を照らす。
信徒を待つようにそこに立っていた老人は、灰色の外套と相俟って、亡霊そのものに見えた。
彼はクロヴィスが足を踏み入れると目を細め、満足そうに両腕を広げた。
「ようこそ兄上。必ずいらっしゃると思っていました」
クロヴィスは無言でかつての双子の弟を見た。
金髪が灰をかぶったような白になったのは、単に老化現象だろう。
だが澄んだ青灰色の瞳がひどく穢れた灰色になったのは、加齢や病のためでなく、呪法のせいだ。
聴き手の体内に竜氣がたまるように、呪術師の身の内には呪いという穢れが溜まる。身の内にあるものは、必ず表面に表れる。
「……どうですか? この村、この星殿は。美しいでしょう? 僕の気に入りの場所なのです。この地は僕にとっての『始まりの場所』ですから。家を出て、神学校に入り、修道のため各地を巡りました。ひとり荒れ地で露宿し、星のひとつも見えぬ空を見上げては、『こんなとき竜の歌を聴けたなら、どんなに慰められることか』と何度も思いましたよ。そんな才能はないと思い知っていたのに、諦めの悪いことです」
僻みや当てこすりというふうでもなく、普通の家族の会話のように、コンラートは話し続ける。
クロヴィスはやはり黙したまま、濁った瞳を見つめていた。
「その旅の中で、シタークに足を運んだのです。すでに廃村であることは知っていましたが、行かねばならないという気になって。兄上やあの子ならば、こう言うのでしょう? 『竜のお導き』と。そうそう、あの子は本当に面白い子ですね! 兄上が誰かと暮らすなどとは夢にも思いませんでしたが……実際に会ってみて、なるほどと思いました。利発で、これ以上ないほど竜に愛されて。まるで昔の兄上だ。性格はまるで正反対ですが。だからこそ気に入ったのでしょう? 名は確か、ラピ」
「その穢れた舌に、我が弟子の名を乗せるな」
コンラートの顔に、皺深く苦笑いが浮かんだ。
「やっと喋ってくれたと思ったら、弟に向かってひどいことを」
「俺に弟はいない。父も母も。俺の家族はラピスだけだ」
灰色の目がスッと細くなった。
が、すぐに肩をすくめて、「世は無常ですからね」とまたも語り出す。
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「本当にひどいな。昔の兄上なら、絶対にそんなことは言いませんでした」
「ラピスを呪詛した奴が何をほざきやがる」
「おやおや」
先を促す灰色の瞳に、クロヴィスが「てめえは」と侮蔑を投げつけた。
「あの男に本当によく似た醜悪な汚物だ。思い通りにならないときは八つ当たり。奴は息子を壊そうとし、てめえは世界を壊している」
コンラートの顔に喜悦の色が滲んだ。
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