魔界食肉日和

トネリコ

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36、トカゲと鳥とペットリと

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 けぎょーけぎょーと上空をくるくると魔鳥が飛んでいた。
 そこらでよく見る真っ黒い鳥である。
 目が飛び出てるのがきもいが、味自体は不味いわけでもなく美味いわけでもない、つまり普通だ。
 というわけで地面を見渡した。
 これとか良さそうである。

 ふん! 

 思いっきり角のとんがった石をぶん投げてみた。

 けぎょぎょぎょー

「チッ、やっぱ無理か」

 流石に避けられた。
 地面を歩いてる馬鹿そうなのは捕まえたことあったのだが、そう上手くはいかないらしい。
 しかし未だに何が楽しいのかくるくる上空を回転している。

 こいつもあほそうだし捕まえれそうな気がすんだけどなー

 二連撃!

 とりあえず時間差でゴツい石を投げてみた。
 夜食となれ魔鳥よ!!

 げぎょぎょー

 しかし普通に高度を上げて躱された。
 何か段々おちょくられてる気がしてきた。
 その後何度か木々に隠れてからのフェイントアタックをしてみたりもしたが、如何せん上空はセコいと思う。

 結局掠りもしなかったので諦めて今日も地面を眺める。
 お、この野草食えたやつじゃね

「ちょ、トカゲさん何してくれるんすかー。酷いっすよー」
「あ? 鳥か? どっから湧いた」

 気分良く採集しているとぷんすかと言いたげな顔で鳥がやって来た。いや、ぷんすかって何だ?
 つか、鳥の肩にさっきのあほそうな魔鳥が舞い降りている。

 間近で見ると目ん玉の飛び出具合がやっぱキモイな
 いやそれよりも鳥そこを動くなよ!
 なんか同族フェロモンでも出てんのだろうか?
 まぁどうでもいい。とりあえず一発で仕留めよう

「うえ!? トカゲさんその石降ろして下さいよ!」
「おい逃げられるだろ! そこを動くんじゃねぇ、大丈夫、一撃だ」
「さっきから酷い! うちの子に何か恨みでもあるんすか!?」
「けぎょー」

 石のグリップを確かめ、風を読んでいざ投げようとしたら鳥がばっさばっさと羽を動かした。
 人型の方な。つか紛らわしいな

 ちょ、砂埃舞うからやめろ
 わかった聞いてやるから

「なんだ夜食、言ってみろ」
「全然聞く気ないじゃないすか! もー、この子うちのペットリなんで食べるのやめてくれますー?」
「お前こんなキモイのよく可愛がれんなー。つか一応魔鳥も見かけ鳥だろ? 違和感ねーの?」
「え、そんな似てるっすかー? トカゲさん目ぇ悪いっすねー」

 なんかむかつくわ
 魔鳥も鳥も鳥だわ

 石投げると躱された。
 殺意ポイントが増えた。

 それにしても魔界では同レベルに近い奴同士が契約で結びあったり、手下とか仕事としての使い魔とかはよく聞くが、ペットとかの愛玩系は珍しい。

 ペット?家族愛…?あい?へ?というぽかんとされるレベルの民族集団だし、ゴブリンやらで纏まって集落作ってるとこも多いが、基本的な部分は個人行動大好き軍団だしな

 魔族は本能的に強い奴には勝手に従うから、わざわざペットとかなぁってのもあるが、そもそもまず鳥にペットっつー情緒があったことに驚いたわ

「まぁこうやって偶に餌やるだけで下につく代わりにある程度可愛がってやってるっすしねー、それを言うならメリットもないのに同種族でペットにしあってる人間どうなるんすか~」
「あー、あの強い奴のが何故か従ってる系な。人間界じゃ見かけの階級や血筋に重き置いてんのは知ってんだろ?」
「そーなんすけど、血筋は普通力が伴うからっすし、ゴリラがもやしの言うこと聞いてたら変に思ったり下剋上して燃やそうとか思わないんすかねー?」

 けぎょーと鳥に合わせて小首を傾げる元夜食を見て腹が鳴る。
 いい加減腹減った。
 正直どーでもいいわ

「まあ誤差だからじゃね?」
「やっべ、今めっちゃ納得したっすわ!」

 けぎょぎょー!
 花をぶちぶちしつつしゃがみながら適当に言えば何故か感心された。

 魔鳥よ、むしろバカにされてる感あるから頭の上を飛ぶんじゃねえ
 解せん
 まぁいいか
 ゴリラともやしは雑魚にとってはでかい差だとは思うがな

 さてと、夜食の当てが外れたので目に付いた実を指差す。

「おい鳥、そこの木の上の実取ってくれ」

 あの”毒毒しくないやつ”の隣の隣な 
 言っとくがその変な色の方はまだ毒化前の貴重なやつだからな
 触っただけで周囲汚染するから絶対あの”無害そうな皮被ってるブツ”に近付くんじゃねーぞ?

 魔界だと地味そうな見た目の方が危険なことが多いのである。
 勿論見るからに危険な奴は見た目通り危険な場合もある。ほら、ワニとかな?な?
 魔界はいつもデンジャラスでヒャッハーである。

「トカゲさんレベルで俺をパシらそうとするなんて、やっぱトカゲさん大分イカレてるっすねー」
「どうせワニの威光があるしな。それに使える羽あんなら使わなきゃ損だろ」

 死んだらあのストーカーワニなら絶対報復行動出ること請け合いだしな
 鳥もここで死ぬ気はないだろうし、プライド刺激せん程度なら多少は使っても許されるだろ
 勿論即ガチ切れ系なら話し掛けすらせんが

 けらけら笑ってる鳥にあれなーと指差してると、それを同じように鳥が指差した。
 けぎょーと魔鳥が飛んでいく。
 なるほど、そういう使い方があんのな

「あの実でいいっすかー?」
「おー、それ……、じゃねえ!! ちょ、あほ鳥それ突つくなバカッ!!」

 ぶっしゅうううと緑の皮から黄色い胞子が霧の様に噴出される。
 話聞いとけよこのあほどりぃ!!
 目ん玉飛び出たどころかフライアウェイしてっぞああ
 フラグの回収が早すぎんだろ!!

 け――ぎょおおおおぉぉぉ……

 慌てて退避すると、実と一緒にぼとっと魔鳥も落ちた。
 哀れぴくぴくしている。
 あ、死んだ。

「と、鳥すまん…」

 鳥のペットを夜食に見ていたとはいえ、さすがにペットを奪う気はなかったので罪悪感マックスで鳥を見れずにいると、鳥が一歩踏み出した。
 首の一ちょんぱは覚悟していると、鳥がぱかっと嘴を開く。

「あー、まぁ知能低かったし仕方ないっすねー」
「お、怒らんのか?」
「へ? トカゲさん明らかあれの自業自得じゃないっすかー。ま、また適当に見つけとくっすよ~」

 いや、首ちょんぱないのは有難いが、しかしいいんだろうか。解せなさがはんぱないんだが
 ほら、気持ち昇天してる魔鳥も悲しそうじゃね?

「けど可愛がってたんだろ?」
「一週間だけっすしねー」
「短か!?」
「非常食にすらなんなかったのは誤算だったすね~。してやられたっす~」
「それはペットって言わねーわ」

 ふぁさふぁさと胞子を羽団扇で吹き飛ばす鳥はやはりクズを地でいっていた。
 何でもケガしてた迷い魔鳥をノリで助けたら懐かれてたんだと。
 思うにこの時からコイツは非常食に見てそうだよな。クズの優しさのピークはそこか

 言えば「そのリスクと庇護のメリットを見て自分で判断したんすよ~?」とのこと。
 別段追って取って食う気はないから上手いことやればいいと言ってるが…。まぁ数ある魔族の中で鳥の下に付く時点であれだしな、うん。
 魔鳥アーメン。

「んじゃそろそろ行くっす~」
「おー、まあペット減らしたのは悪かったわ」
「焼き鳥でいいっすよ~」

 おまっ、情緒面と経済面において諸々鬼か!?

「鳥の癖にこの鬼畜め!」
「ウケルっすねー」

 ケラケラ笑いながらばっさーと飛んで行かれた。
 なんかマジむかつくわー
 石をツッコミでぶん投げて見送った後、骨になってしまった魔鳥になんとなく近付く。

「…」

 鳴けもせず、見送られもせずは正直哀れだ。
 しかし魔界では日常茶飯事だし、哀れと思う方が少数派だ。

 正直自分も何れはこうなるんだろ
 ワニに喰われるのかはたまたマグマの穴に落っこちるのかは知らんが、雑魚の未来なんざ所詮どいつもこいつも同じだしな

 ひょいっと石を投げては掴む。
 見上げた木の上目がけて投擲した。
 予定よりも大分外れて隣の木にカーンと当たった。

「けっ、ばーかばーか」

 思わず今の自分の行動にか、石にか言葉を吐き捨て、ひょいっと投げては掴んでた石を木の上めがけて何度も投げる。
 辺りが平らになって肩で息する頃になってようやくぼとりと実が落ちた。

「あーっくそ、命の対価がこれかよなんつー苦情は聞かねーかんな。なんせ魔界だし」

 毒毒しい木の実を骨の前に置いて、ついでに一緒に落ちた石を地面に突き立てた。

 さっさと踵を返す。



 家路へと歩いてふと振り向いたら、毒毒しい木の実の芳香に誘われた小動物がしゃくしゃくと実を食っていた。

「やっぱ魔界クソってんなー」

 腹減ったと腹が鳴る。
 けっ、とまた歩を進めた。








後書き
 




魔界でもクズ度の高い鳥だが、それでも放置が大抵なのでトカゲの方が異端かも

ちなみに何十代めかのペットでした(覚えてない
ペットリは数度目かも(覚えてない
その内九割は食べちったそうな(気分によった

哀れ、トカゲは知らないが名前も付けられていなかったようである

でもトカゲが夜食にしようとしてた時に態々ではないが助けてたので、奉仕に見合う庇護はしてました。上手いこと共存関係を築いてる子もいるそうな

「ちゃんと自分なりに可愛がってるっすよ~?」

 残虐ではないがコイツも付き合っていくにはなかなか面倒な奴の一角である。
 あ、題名地味に遊びました(笑)


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