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第一部 婚約破棄されました
幕間1:過ぎ去ったから過去という
しおりを挟む「雄輔ー!? あんた何で必修科目落としてんのー!?」
「かっ、叶恵!? 何で言う前にバレた!?」
「そりゃ掲示板にでかでかと貼られたリストに名前無かったら気付くわよ!?」
反射的に逃げようとした首根っこを掴む。
部屋に乗り込んでるのに逃げれると思うでか!
完全に不意を突いてやったためか、着回し過ぎて少しヨレた白シャツと黒ジャージというラフな出で立ちだ。こいつ外では爽やか青年気取ってお洒落とか頑張るのに、家の中だと途端にだらしなくなるのである。
そんなんだから狭い一人暮らしの男部屋という名のザ・汚部屋二歩手前になるんだぞ
積まれたビール缶に雄輔のお腹ぽちゃ具合と健康が少し心配になる。あと夏にビール缶放置は虫湧くからやめとくのじゃとあれほど
抜き打ちで来てもよく実家で勝手気ままに行き来しあってたから、お互い別段何か思うでもない。
ゴミの日は昨日だよ!とは思うが
被告に告げると、観念した雄輔は両手を上げて降参ポーズ。
「参りました」
「はい許す」
お互い演技で悲し気と厳めし気に言い合えば、長年来のお決まりのやり取りはリセットの合図。
小さな四角机の横、いつものお決まりの位置に座れば、雄輔はきまり悪そうに頬を掻いた。
「前日に鬼講師のレポートを意地でも仕上げて提出してやったら、そっちの方落とした」
「ばか! どこで意地張ってんのよ!? だからあの講師の授業は取るなって周りが言ってたのに」
雄輔が取った授業は別名レポート地獄と名高い講師が率いる授業なのである。実際授業内容は面白そうなものも多い。多い、が、生徒が三分の二脱落する程度には毎度の提出レポート文字数とテーマがえぐい。引用で稼ごうものなら躊躇なく落としてくる。そして最終試験は今までの総まとめも兼ねて、普段の三倍の文字数である。鬼か
というわけで、必修でもないし興味ある分野からは外れてたので私は全力で避けてたのだけれど…
こいつ二つも取っちゃったのよねぇ…
「まぁ俺も取ったの後悔しかけた。けど実際面白かったし勉強にはなったしなぁ」
「だからって必修の方落としてどうすんのよ」
「その通りだな」
目を輝かせて鬼講師の授業で面白かった話を語っていた雄輔だが、現実を思い出したらしい。思わず遠い目で天を仰ぐ雄輔を見て私も天を見上げる。点は降って湧いてはくれなかったが。
雄輔はカッコつけたがるし抜けてるとこもある。多々ある。そりゃ迷惑も多々被ることもある。だが長年付き合ってるとそんな所もかわいく思えるし、何より将来役に立つからと進んで色々学ぼうとする姿勢は尊敬する、というか格好いいと思う、なんて惚気だろうか
自分でも雄輔には甘いと思いつつ、落とした授業をスマホで調べる。
「雄輔くん朗報よ」
「何だ叶恵?」
「必修なのに落とした人も多かったから、今回は特別に集中講義扱いでもう一回チャンスあるって」
「マジか!!」
マジよとスマホの画面を見せてあげれば、ガッツポーズで喜んでいる。その大げさに喜ぶ様子につい笑みが零れていると、雄輔に急に抱きしめられた。
最近はあんまりなかったのでびっくりしてしまう。
「叶恵助かった! サンキュ!」
久しぶりに感じる雄輔の腕の中は、体温が高いせいかあったかくて頼もしい安心感がある。家族同然だから、何だか照れ臭い。煙草なんて家族の誰も吸わなかったから苦手なのに、香る七つ星の苦い香りでさえ、雄輔のだなぁとだけで不快にまでいかないのだからきっともう重症かもしれない。
「あ、暑いから離してってば」
「悪いわりぃ」
ギブギブと肩を叩けば、さっぱりした顔であっさり離れられる。照れ臭さから張ってしまった意地っぱり具合を後悔。雄輔のことこれじゃ笑えない
「何だ、物足り無さそうだな」
「目が腐ってる雄輔さんには、この過去問をあげませーん」
「参った!」
「許す!」
ニヤリとお互い笑い合う。
ついまた強がってしまったが、本当は気持ちを分かってくれて嬉しかった。中々口に出して言うのは恥ずかしいけれど、雄輔ならそんなことも分かってくれてるんだろうって思う。
気の置けないやり取りはいつも通りで楽しい。こんな風にずっと続けていくんだと思ってた。
信じてたんだ、疑うことなんてなくて
ばかみたいにさ
それは過ぎ去った、確かにあった、過去のお話
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