13 / 23
第一部 婚約破棄されました
9、叶恵さんと、整理:中
しおりを挟む「さて、とりあえずヤバそうなのは粗方仕舞えたわね」
指が6本あるガラスケース入りの謎のヒレの化石も、何故かどれだけ踏ん張っても巻物が一切開かない謎の地図も、様々なバリエーションの死神しか描かれていないタロットカードも、人面にしか見えない干からびた植物の根っこもとりあえず全部ダンボールに封印して奥へと押し込んだ。
ふう、やりきったな叶恵選手! 田中さんが世界中から集めてきた恐怖の物達を無事闇の世界へと還したのだ!
化石を入れたケースを思いっきり壁にぶつけたわ力入れすぎて地図から何か変な音が聞こえた気がしたわタロットーカードを入れていたケースを落としてカードばら撒いたわなんか根っこの手の部分ちょっと欠けさせちゃったわと、何かやらかしまくった気もするが無事やりきったのだ! 異論は認めない!
途中から恐怖度Bね、ふっ、まだまだよと仕分けの際に強がって格付けまでしていたが、仕舞う分の最後のダンボールを押し入れの奥へと押しやった瞬間、おじさんみたいにはぁっと一息吐いてへたり込んでしまった。まぁ今更取り繕っても仕方ないので、そりゃもう達成感と安堵感で。
田中くんは疲れた様子も見せずこぽこぽとお茶を注いでいる。有難いことに私分も用意してくれてるのでそれを受け取り、田中くんと一緒に改めて掃除後の室内をくるりと見回した。
そうして田中くんにバレないように、私は今度は別の意味のため息を吐いてしまった。
薄々気づいてはいたのだ。
これだけは絶対に出しとけと厳命されて仕舞うに仕舞えないらしい、魔除けグッズと言う名の洋風ミニマムお人形ーズが机に並んでいるのはまぁいい。いや、変だが。田中くんは先に除霊に行った方がいいのか逆に心配になるが、まぁいい。
それに隅に積まれた赤青黄のボールの上に逆立ちさせた不気味なピエロを置いてその足の上に花瓶を置いているのもまぁいい。いや、最早悪魔の儀式にしか見えなくて良くないが。田中さん作の芸術的バランスの作品に一度服の裾でも触ったら悲惨な結末が見えているので触れないだけなんだが。
まぁそっち方面はいいのだ。だがこれは田中さんでなくても心配になる。
「田中くん、買い足すものはない? 何が焼けたの?」
「買い換えたのは炊飯器くらいですね。部屋も以前と変わらない広さなので、もう買い足す予定はありませんが」
どうかされましたか?と言いたげなご様子。うーんん、ということは、あの残り1つのダンボールに私物が入っているということか。もう家電は配置されているし、焼けたものもなく買い足す予定もなく、つまりはこれが完成形の部屋だよなぁ。
無難というか、シンプル過ぎる部屋。
最初に入った時あれほど物が多くごちゃごちゃした印象だった部屋は、不気味な物を粗方仕舞えば全くと言っていいほど物が無かった。まぁ入った時から家具と不気味グッズの違和感が凄かったのだけれど。だから余計に散らかった印象があったのかもしれない。
一応家電製品はある。衣食住をこなせる最低限のものはありそうだ。だけど、逆に言えばそれぐらいだ。何というか、この部屋は生きるのに必要最低限だけという印象が強い。こう、無駄がないというか…。レベルで言うと、コップが2つあったのが逆に驚くレベルと言ったら伝わるだろうか。
これは引越し2日目で部屋に馴染んでいないからだろうかと考えたが、使われてきた筈の物からも何処か真新しいよそよそしさを感じて、ごちゃごちゃした田中さんとのお土産との差が何だか浮き立つ気がした。
うーん…、もう一回田中さんの闇グッズを飾った方がむしろ健全なんじゃないだろうか…
お守り代わり以外にも物を飾ってやりたかったんだろう田中さんの気持ちが少し分かる。一応友達が出来るお守りやらも何個かあったのだが、部屋に呼んだ瞬間引かれること間違いなしですぜ旦那?と田中さんに言いたくなるレベルだったので大人しく闇の世界へと封印したのである。
それでもどことなく落ち着かない部屋の様子に、思わずちらりと闇の世界に還した物達INダンボールに血迷った視線を投げていると、田中くんが私物入りと思われる最後のダンボールのガムテープを外す。音と好奇心に釣られ、私もつい視線がいってしまう。
「まだ食材を買っていないので、今日は外で食べましょうか。今日のお礼に何処か行きたい店があれば連れていきます。後はこれだけなんで、小林さんはそのまま休んでいて下さい」
「いや、最後だし手伝うわよ。見られたくないとかなら先に出とくし」
本当に隠したいほど大事な物があるなら外で待つのもいい。気にはなるし今更の提案だけれど、逆に追い出された方がいいかも。もうここでいっそバーンと萌え萌えきゅんきゅんのポスターやらが出てきた方がそれはそれで何処かほっとしそうだ。この部屋の綺麗さというかよそよそしいまでの生活感の無さは、田中くんがいついなくなってもいいように自分で身辺整理しているみたいに思えて不安になる。田中くんは思いつめてというタイプでも無さそうだが、田中さんの様に偶にしか会えないならそりゃ不安に思うだろう。
「いえ、大丈夫です。書類をつめるだけなんで」
「…書類かぁ…」
しかし私のそんな心配はどこ吹く風
普通にためらいもなく出てきたのは書類で。エロ本どころか一般本やらCDとかも一切なく。ましてやポスターやらもなく。
キビキビと手際良く片付けてダンボールを潰し、あいたダンボールを纏めて紐で括って最後にさっと曰く付きの箒でゴミを拾い、何食わぬ顔でやって来た田中くん。
「お待たせしました。…小林さん?」
…うん、何だか心配になるのも仕方なくないだろうか
あーでもこれ過干渉かもだし、お節介なだけの気がするしなぁ、うーん…
それにそれとなく本当に無趣味か聞いてからだけどうーむむ、まぁ田中くんなら嫌ならはっきり言うか
レンズ越しの少し色素の薄い瞳は、やっぱり見ても何を考えているのか分からない。勝手に私が推測しているだけなのだから。
それでも納得した様にこっくり頷いた不審な上司に対して、結局何も言わずに上着を取ったりコップやらを洗って卒なく待っていてくれたのは田中くんなりの気遣いなんじゃないかと思うわけで
まぁそれすらも推測だけれど、迷っていたのを押すには十分じゃないかな。
うん、先輩として可愛い後輩達は可愛がっちゃてもいいでしょ。どうせ後数年しか上司ヅラも出来ないんだろうし、お節介は勝手に焼くからこそお節介なのだしね。
よし、こうなったら田中くんの趣味らしい趣味探しの計画を立てるぞ。
少年よ、煙草と仕事以外の趣味は如何だい?
まぁ腹が減っては戦はできぬので、それもおいおいだけれども。
私は労う様に田中君の肩を叩いた。
「虫ですか」
「違うわ」
全く伝わらなかったが
◇
「車出しありがと。さて、何がいいかしらね、田中くん朝食べた? お腹の空き具合はどう?」
「食べてますが結構入りそうです」
「私もよ、じゃあがっつり系でいきましょうか。といってもゴーグルさん頼りだけど」
大通りに出るまでに店を探そうと、携帯に「がっつり」と入力してピロンと出てくる候補を眺めてく。でも、画面を見てから自分のミスに気付いた。思わず下唇を噛む。
あー…、どうせならもっと早く気付いときなさいよばーか…。しかも改めてみると何て偏った履歴だろう。
つらつらと最新のオススメのお店に出てくるのは二人で行ったところばかりで。何処を切り取っても想い出ばかりが出るのだから痛いものだ。まだ慣れていないから、ここは美味しかったからまた行きたかったと折角思い出したのに当分行けなさそうだと思ったり。
不意打ちは痛い。忘れるよう意識してるから、意識してることを意識させられると痛いものだ。
最近の検索履歴を除外して除外して――指先をスライドしてページをめくる。最近の機械は気を利かせ過ぎて気が利かないねなんて思ったり
最近と過去という言葉の時間の重さは違う癖に、所詮最近は過去に縛られてまして。過去は過去と流せないまま女々しくまだ縛られてるわけでして
ああほんと馬鹿
ふとした時に痛感させられるソレに苦笑。けど変に思われないようすぐに隠して、変な感傷のせいで待たせるのもダメだしと適当な店を決めにかかっていると、隣りの田中くんが確認の意味でか問いかけてきた。
「何処でも大丈夫ですよ」
そのタイミングの良さに少し驚く。横目で顔を伺うが、やはりいつものクールな無表情で何を考えているか分からない。最近は少しコツを掴んで読めてた気がしたけど、どうやら田中さんが作ってた動揺パワーも切れてしまったようである。
まぁ何てことはない、折角車出すんだから遠慮すんなっていう優しい後輩の気遣いだろう。不甲斐ない上司なのに有難いことである。……それとも副音声で早く決めろや!かもしれない。
若干その可能性もあるなと心臓に冷や汗をかいていると、ゴーグルさんが一番近い店をピコンと出した。咄嗟に「そこ左で」と声が出る。
はい、という返事と共に出たウインカー音を聞いて、まぁもういっかと何だか気が抜けた。
◇
「駐車場空いてるわね」
「停められてよかったです」
普通混む日曜のお昼じゃなければ諸手を挙げて私も喜んでたんだけどね! 先に謝っとく、ごめん田中くん! 何だかやばい気配しか感じないよこのお店! 結果的にチョイスしたの私だけどね!!
ずももももぉという漫画ばりの重低音がしそうな重苦しい外観。ゴーグル先生がラーメンの欄で紹介してなかったらラーメン屋とは認識出来なかったレベルの真っ黒なプレハブ小屋(大)。何故麗らかな日曜のしかもお昼の背景をここまで暗くさせれるのか? ここは異界との境界か? もしや今頃田中さんの闇グッズの力が発動したのか?
今日はやけにかく冷や汗を拭いつつ、田中くんと一緒にドアの前に立つ。
よく見ればドア横の影に隠れる様にして木製の看板が立てかけてあった。
ラーメン 乙女氣
…うむ、引き返すなら今である。幸い世界を救わなくてもよいのだし。勇者は別の者に任せようぞ
私は果てしなく漂う地雷臭から逃げようと戦略的撤退を提案しようとした。
「田中くん、ここは一度」
ガラッ――ガタッタンッ
…おおう、新世界への扉が
「開いちゃったね」
「どうやら途中が錆びてたようです」
なら何故頑張って開けた!?力持ちか!?がんばり屋さんか!?
ツッコミつつ女叶恵、いら゛っしゃいませっという野太い声が聞こえるとこまで来たらもう後戻りは出来ない。田中くんの先頭に立ち店内へと進む。
さあ何でも来いや!今日はそういう日なんでしょ!?
看板の乙女氣とはこういう意味かと、応援されてる気がした。
末期かもしれない
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる