Ωの受けが旅行先で抑制剤をなくしてしまい、その夜ヒートをおこして親友であるαの攻めに襲われてしまう話

シメノ

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「わあ、すごい。めちゃくちゃいい部屋じゃないか!」

足を踏み入れたその部屋は、ふたりで泊まるには勿体ないくらいの広さだった。
なかなかお高そうな旅館に恭哉きょうやはテンションだだ上がりだったが、それと同時に些か恐縮していた。

「……にしても、ほんといいのか?こんないいとこに、俺なんかと……」
「気にするなって言ってるだろ。俺は正真正銘、お前と来たかったんだから」

荷物を部屋の隅に置き、親友である獅郎しろうが苦笑しながら寄り添ってきた。
高校からの付き合いでαである獅郎は、その第二性らしく容姿端麗で何でもそつなくこなす才色兼備だった。当然家柄もよく、なかなかの金持ちである。
今回のこの旅行も、親が知り合いからペアチケットを貰ったのだが忙しくて行く暇がないからと譲り受けたものだった。誘いを受けた時、恭哉は恐れ多くて断ったのだが、どうしてもお前と行きたいと獅郎に押し切られた。
いくら親友といえど、こんないいところ、もっと他に行くべき相手がいるのでは……?恭哉はそう思ったが、こうまでして獅郎が自分を選んでくれたことが、密かにとても嬉しかった。

「って、ここ部屋に露天風呂までついてるじゃん。しかもでっか!」
「うん。あとで一緒に、ゆっくり入ろうな。……と、その前に」
「え?なに……?っ、ちょ……っ!」

獅郎は突っ立っている恭哉を、無理矢理座布団の上に座らせる。そして恭哉の太ももを枕にして、寝っ転がった。

「おい、獅郎、なにを……」
「疲れたから、ちょっとこうやって休ませてくれ」
「だったらベッドに行けばいいだろ。そっちの方が休まるだろうし」
「やだ。俺は、恭哉に甘やかして欲しいんだよ。それに、最近会えなくて寂しかったし」

そう駄々を捏ねて顔を擦り付けてくる獅郎に、恭哉は不覚にもきゅんとしてしまった。
こう見えて獅郎は、意外と甘えん坊である。
くっついてくるのはいつもの事だったが、こうしたふたりっきりの空間でとなると、変にドキドキしてしまう。

「っ、ぁ……っ!?」

突如獅郎が、恭哉の下腹の辺りを撫でてきた。どこか思い詰めたような表情で、子宮の入っているそこをさわさわ撫でる。
一体何のつもりなんだと、恭哉は更に心臓をバクつかせる。服越しに、普通に触られているだけなのに、なんだか妙な気持ちになってきてしまう。
撫でられるそこが切なげに疼いた瞬間、襖越しに落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

「失礼します。旅館の説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい!どうぞ!」

大いにビクついた恭哉は慌てて獅郎を引き剥がし、襖に向き直って応答する。あのままだと自分がどうにかなってしまいそうだったので、恭哉は内心ほっとする。
その背後で、獅郎は不服そうに顔を顰めていた。








「はぁ~~美味しかった……全部食べきれないかと思ったけど、普通に平らげてしまった……」
「はは、満足してくれて嬉しいよ」
「海鮮やばかった……明日の朝ごはんも今から楽しみだな」

にこやかにお茶を啜る恭哉を、獅郎は慈愛に満ちた目で見つめる。
それからしばらく他愛のない話をして食休みをすると、恭哉は部屋の隅にある自分の荷物の元に向かった。

「抑制剤、飲まないと……」

恭哉はカバンを開け、その中から抑制剤の入ったピルケースを探す。
αである獅郎と旅行するのだから、絶対に忘れてはいけないものだ。今朝家を出るまでに、何度も確認した。
それなのに、なぜかいくら探しても見つからなかった。

「……えっ!?うそ、なんで……!?」

おかしい。絶対に忘れていないはずなのに。まさかの事態に、恭哉の背筋が凍りつく。
もしかして、どこかで落としたか……?
それにしても、無くさないよう奥の方にしまっていたのに。恭哉はパニックになりながら、ひたすらカバンの中を漁り続けた。

「っ、そ、そんな……どうしよう……」
「恭哉、どうかしたか?」
「……っ!」

ふいに獅郎に声をかけられ、恭哉はビクッとして振り返る。こんな自分のヘマのせいでヒートが来てしまったら、せっかくの旅行が台無しになってしまう。せっかく獅郎が、自分なんかを誘ってくれたのに。
ショックのあまり、恭哉の顔から血の気が引いていく。

「し、獅郎……ごめん、俺……」
「っ、どうした恭哉?顔色ものすごいことになってるけど」
「お、俺……抑制剤、無くしちゃって……」

この世の終わりのような顔で、恭哉が衝撃の事実を告げる。獅郎はそれにぎょっとしたが、とりあえずパニック状態の恭哉を抱きしめて落ち着かせた。

「落ち着け、恭哉。たった一日飲まなくても大丈夫だろ。病院……はもう閉まっちゃってるだろうから、明日朝一で貰いに行こう」
「で、でも……もしそれまでに、ヒートが来ちゃったら……」
「……っ、その時は、俺がトイレにでも閉じこもるから大丈夫だ。お前に手を出すようなことは絶対にしない」

獅郎が背中を撫でながら、芯の通った声で断言する。恭哉はそれにほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちだった。

(そっか……獅郎は、やっぱり俺と番になる気はないのか……)

普段の獅郎の振る舞いからほんの少しだけ期待してしまっていた自分に、恭哉は喝を入れる。
完璧超人で女子にもΩにもモテモテで選び放題な獅郎が、こんな平凡な男のΩなど番に選ぶわけがないのだ。
恭哉は今一度その事を強く胸に刻んだ。

「……っ、ほんとにごめん、獅郎……せっかく連れてきてくれたのに、こんなことになっちゃって……」
「気にするな。俺は、今日お前と一緒に過ごせただけで充分楽しかったよ」
「……」

またそうやって勘違いさせるようなことを……と恭哉はモヤッとしつつ、獅郎の腕の中から抜け出した。こうなってしまった以上、あまりくっついているのは良くないだろう。

「よし恭哉、気を取り直して一緒に風呂入ろう」
「っ、はぁ!?そんな、ダメだろっ!この状態で一緒に入るのは……」
「大丈夫だって。気にしすぎると、逆に起こりやすくなっちゃうかもしんないぞ?」
「う……で、でも……」
「ほら、早く。連れてきてやった俺命令」
「……っ!」

ずるい。そんなことを言われてしまったら従わざるを得ない。恭哉は強引に腕を引かれ、渋々獅郎について行った。
やけに楽観的な獅郎が、恭哉は不可解だった。


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