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第9話 会議は踊る、されど進まず
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魔界での初めての朝。
窓から差し込む薄紅色の光で目が覚める。
一瞬、どこにいるのかわからなかった。見慣れない天井、豪華なベッド、そして窓の外の二つの月。
「……ああ、そうか。魔界か」
現実だったのか。夢じゃなかった。
俺は魔王城にいる。本物の異世界に。
フィオナが朝食を部屋に運んできてくれた。
パン、スープ、果物。どれも地球では見たことのないものだが、美味しい。
「佐伯様、今日は午前中に緊急会議がございます」
「会議?」
「はい。イグニス様の件について、四天王の皆様と対策を練ることになっております」
「わかりました」
俺は魔王の衣装に着替え、会議室へ向かった。
魔王城の会議室。
長い黒檀のテーブルを囲んで、四天王、フィオナ、セバスチャン、そしてフラーラさんとメリーナさんが座っている。
俺は、少し戸惑いながらも、上座に座った。
みんなの視線が俺に集まる。
「では、緊急会議を始める」
カオスが立ち上がり、杖を一振りする。
空中に、複雑な魔法陣が浮かび上がった。その中に、文字や図が浮かんでいる。
「まず、現状の把握から。イグニス様の逃亡により、我々は深刻な状況に陥っている。具体的には、組織の秩序維持における情報エントロピーの増大、それに伴うシステム崩壊のリスク係数が……」
カオスの説明が続く。
俺は必死に理解しようとするが、専門用語が多すぎてついていけない。
「あの、すみません」
俺が手を上げる。
「エントロピーって、何ですか?」
「ああ、これは熱力学第二法則における無秩序度の指標であり……」
「いや、もっと簡単に……」
「つまり、複雑系における予測不可能性の増大により……」
「だから、わかりやすく!」
カオスが一瞬固まる。
それから、眼鏡を外して額を押さえた。
「……要するに、バレたらヤバいということだ」
「最初からそう言ってください……」
その時、アイアン・ガーディアンが拳をテーブルに叩きつけた。
ゴン!
重い音が響く。
「難しいことはどうでもいい! 大事なのは根性だ!」
「根性……」
「ああ! 魔王陛下に気づかれたら? その時は体を張って止める! それだけだ!」
「いや、それは最終手段では……」
「何を言う! 俺は根性で魔王軍の騎士団長まで上り詰めたんだぞ!」
ガーディアンが胸を張る。
「魔法も使えない、頭も良くない。でも、根性だけは誰にも負けなかった!」
「それはすごいですけど……今回は根性だけじゃ……」
「根性があればなんでもできる!」
俺は小さくため息をついた。
これ、前の会社の上司に似てるな。
精神論ばかり言って、具体的な対策は何も出さない。
そんな上司に、俺はイライラして、結局喧嘩して辞めた。
その時の自分を思い出す。
俺も、人の話を聞かずに、自分の意見ばかり押し通そうとしていた。
その時、ミス・シャドウが口を開いた。
「……それより……情報収集を……」
「え? 何?」
俺が聞き返す。
「……イグニス様の……行方を……SNSで……」
声が小さすぎて、ほとんど聞こえない。
「もっと大きな声で!」
カオスが叫ぶ。
「……すみません……でも、これが私の限界で……」
ミス・シャドウが申し訳なさそうに縮こまる。
「もう、シャドウはいつもそうだ」
ガーディアンがため息をつく。
「重要な情報を持っているのに、誰にも伝わらない」
「……ごめんなさい……」
俺は、ミス・シャドウを見て思った。
この人、多分すごく優秀なんだろう。
でも、声が小さいから、誰にも認めてもらえない。
前の会社にも、こういう人がいた。
静かで目立たないけど、仕事はできる人。
でも、声の大きい人に意見をかき消されて、結局評価されなかった。
俺も、そういう人の話を聞いてあげればよかったのかもしれない。
その時、フォン・マネーゼンが資料を広げた。
「それより深刻な問題がある。経費だ」
「経費?」
「ああ。最近、魔王城の運営費が急増している」
フォン・マネーゼンが電卓を叩く。
カチャカチャという音が、会議室に響く。
「具体的には、地球の食材の消費量が前月比で三倍。電気代も二倍。交通費は……」
「ちょっと待って」
カオスが遮る。
「今、イグニス様の捜索の話をしているんだ。経費の話は後で」
「いや、経費は最優先事項だ」
マネーゼンが冷たく言う。
「このままでは、半年後には資金が底をつく。異世界ランドを閉鎖せざるを得ない」
「だから、それは後で……」
「後では遅い! 今すぐ対策を!」
会議室が、混沌としてきた。
カオスは専門用語で持論を展開し。
ガーディアンは根性論を叫び。
シャドウは重要な情報を小声で呟き。
マネーゼンは経費削減を訴える。
全員が、自分の意見を主張するばかりで、誰も人の話を聞いていない。
俺は、その光景を見ながら思った。
ああ、これだ。
前の会社も、こうだった。
みんな、自分の意見を言うだけで、他人の話を聞かない。
会議は踊る、されど進まず。
そして、俺もその一人だった。
上司の話を聞かず、同僚の意見を無視して、自分の考えだけを押し通そうとした。
結果、誰とも協力できず、孤立して、辞めることになった。
「……これじゃ、何も決まらない」
俺は小さく呟く。
でも、今の俺は、あの時とは違う。
異世界ランドで、色々な人と働いて、学んだ。
フラーラさんから、森での迷子の時に助けてもらう大切さを。
グンナルさんから、人の意見を聞いて学ぶ姿勢を。
メリーナさんから、自分の弱さを認める勇気を。
そして、田中さんから、みんなで協力する楽しさを。
俺は、もう一度、あの時とは違う自分でやり直せる。
「あの、すみません」
俺が手を上げる。
会議室が静かになる。
「この会議、ちょっと進め方を変えませんか?」
「進め方?」
カオスが眉をひそめる。
「はい。今、みんな自分の意見を言ってますけど、誰も人の話を聞いてない気がします」
その言葉に、四天王たちが少し動揺する。
「まず、議題を明確にして、一つずつ解決していく。それと、専門用語は使わない。誰でもわかる言葉で話す」
カオスが腕を組む。
「それは……地球式の会議手法か?」
「まあ、大学で習ったことですけど」
カオスが少し考えてから、眼鏡を直して言った。
「……いいだろう。試してみよう」
ガーディアンが不満そうに言う。
「でも、根性があれば……」
「ガーディアン、まず佐伯の話を聞こう」
フラーラさんが優しく言う。
ガーディアンが渋々頷く。
俺は立ち上がり、魔法で作られたホワイトボードに議題を書き出した。
議題1:イグニス様の捜索
議題2:魔王陛下への対応
議題3:経費問題
「まず、議題を三つに整理しました」
みんなが、ボードを見る。
「一つずつ、順番に解決していきましょう。まず、議題1。イグニス様の捜索について」
俺はミス・シャドウに向き直る。
「シャドウさん、さっき何か情報があるって言ってましたよね?」
「……はい……SNSで……目撃情報が……」
「もう少し詳しく教えてもらえますか? ゆっくりでいいので」
ミス・シャドウが、少し驚いた顔をする。
それから、小さく頷いた。
「……昨夜……東京都内の……カラオケ店で……イグニス様と思われる人物が……」
俺は、彼女の話を遮らずに、最後まで聞く。
他の四天王たちも、静かに聞いている。
「……秋月佳奈さんと一緒に……いたそうです……」
「なるほど。東京都内のカラオケ店、ですね」
俺はボードにメモする。
「他にも情報はありますか?」
「……はい……SNSのアカウントを……追跡しています……」
「ありがとうございます。じゃあ、次の会議までに、もっと詳しい情報をまとめてください」
ミス・シャドウが、嬉しそうに頷く。
その表情を見て、俺は思った。
この人、ちゃんと話を聞いてもらえて、嬉しかったんだな。
「次に、議題2。魔王陛下への対応」
俺はカオスに向き直る。
「カオスさん、魔王陛下のスケジュールって、わかりますか?」
「ああ。陛下は規則正しい生活をされている。朝は執務室、昼は軍の訓練場、夜は書斎だ」
「ということは、そのスケジュールに合わせて、俺が別の場所にいればいいんですよね?」
「……なるほど」
カオスが眼鏡を光らせる。
「陛下の動きを把握して、佐伯くんが鉢合わせしないようにすればいい」
「はい。シャドウさん、陛下の動きも監視できますか?」
「……はい……任せてください……」
「じゃあ、お願いします」
「それと、もし万が一鉢合わせしそうになったら……」
俺はガーディアンに向き直る。
「ガーディアンさん、その時は護衛として、俺を別の場所に案内してもらえますか?」
「もちろんだ!」
ガーディアンが力強く頷く。
「この命に代えても、お前を守る!」
「いや、命まではいいですけど……でも、頼りにしてます」
ガーディアンが、少し照れたように笑う。
「任せろ」
俺は、ガーディアンを見て思った。
この人、根性論ばかり言うけど、本当は頼りになるんだな。
ただ、自分の得意なことを、みんなに認めてもらいたかっただけなんだ。
前の会社の上司も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
俺が、ちゃんと話を聞いてあげれば、もっと良い関係が築けたのかも。
「最後に、議題3。経費問題」
俺はマネーゼンに向き直る。
「マネーゼンさん、具体的にどれくらい赤字になりそうですか?」
「半年後には、約三千万円の赤字だ」
マネーゼンが電卓を叩く。
「原因は、地球の食材の消費増加と、交通費の増加だ」
「なるほど。じゃあ、支出を減らすか、収入を増やすか……」
俺は考える。
「あの、収入を増やす方法って、何かありませんか?」
「収入?」
カオスが聞く。
「はい。経費削減だけじゃなくて、他の収入源を作るとか」
マネーゼンが目を輝かせる。
「……多角経営か」
「例えば、魔界の特産品を地球で売るとか」
その言葉に、四天王たちが顔を見合わせる。
「魔界の特産品……」
カオスが腕を組む。
「魔界の鉱石、薬草、魔法道具。確かに、地球では珍しいものばかりだ」
「それを地球で売れば、利益になりますよね」
「ああ。だが、問題はどうやって売るかだ」
俺は、大学で習ったマーケティングの知識を思い出す。
「ネット通販とか、イベント出店とか……あと、異世界ランドの物販コーナーで売るとか」
「ネット通販……」
マネーゼンがメモを取る。
「それなら、初期投資も少なくて済む」
「物販コーナーも良いアイデアだ」
カオスが頷く。
「来場者は、異世界グッズを求めている。本物の魔界の商品なら、喜ばれるだろう」
「それに、物販の利益率は高い」
マネーゼンが計算を始める。
「もし月に五百万円売れれば……利益は約二百万円。十分に赤字を補える」
みんなが、前向きになってきた。
フラーラさんが微笑む。
「佐伯、やっぱりあなたはセンスがあるわ」
メリーナさんも拍手する。
「すごいです! 会議が、ちゃんと進んでる!」
カオスが眼鏡を直す。
「地球式の会議手法、効率的だ。我々も学ぶべきことが多い」
ガーディアンが豪快に笑う。
「ハハハ! やはり、お前には根性がある!」
「いや、これ根性じゃなくて……」
でも、ガーディアンの笑顔を見て、俺も笑った。
会議が終わる頃には、三つの議題全てに対策が決まっていた。
マネーゼンが満足そうに頷く。
「今日の会議は、これまでで一番効率的だった」
「ああ」
カオスが同意する。
「議題を整理し、全員の意見を聞き、具体的な対策を決める。シンプルだが、効果的だ」
「佐伯くん、君は本当に優秀だな」
その言葉に、俺は少し照れる。
「いや、大学で習ったことを使っただけですよ」
「でも、それを実践できる人は少ない」
フラーラさんが言う。
「あなたは、人の話を聞いて、みんなの意見をまとめることができる。それは、とても大切な能力よ」
俺は、フラーラさんの言葉に、少し驚いた。
人の話を聞いて、まとめる。
前の会社では、俺にはできなかったことだ。
でも、今日はできた。
みんなの意見を聞いて、それを一つにまとめて、解決策を見つけることができた。
なんだか、充実している。
これが、人と協力するということなのか。
会議が終わり、俺は部屋に戻る。
フィオナが案内してくれた、豪華な部屋。イグニス様の部屋だ。
「佐伯様、お疲れ様でした」
フィオナが言う。
「あ、ありがとう」
「あらあら、今日の会議、素晴らしかったですね」
「いや、そんな……」
「いえいえ、皆さん、佐伯様を褒めていらっしゃいましたよ」
フィオナがニコニコしている。
「セバスチャンも、『これぞ、王子の器だ』と申しておりました」
「王子の器……」
俺はベッドに倒れ込む。
疲れたけど、なんだか気持ちがいい。
前の会社では、会議はいつも苦痛だった。
誰も人の話を聞かず、自分の意見を押し通すだけ。
俺も、その一人だった。
でも、今日は違った。
みんなの意見を聞いて、それをまとめて、一つの答えを見つけることができた。
人と協力することの、充実感。
これが、俺が失っていたものだったのかもしれない。
窓の外を見ると、赤い空に二つの月が浮かんでいる。
美しい光景だった。
この異世界での生活。
もしかしたら、俺にとって、やり直すチャンスなのかもしれない。
前の自分とは違う、新しい自分になれるチャンス。
そう思うと、なんだかワクワクしてきた。
明日も、頑張ろう。
この異世界で。
窓から差し込む薄紅色の光で目が覚める。
一瞬、どこにいるのかわからなかった。見慣れない天井、豪華なベッド、そして窓の外の二つの月。
「……ああ、そうか。魔界か」
現実だったのか。夢じゃなかった。
俺は魔王城にいる。本物の異世界に。
フィオナが朝食を部屋に運んできてくれた。
パン、スープ、果物。どれも地球では見たことのないものだが、美味しい。
「佐伯様、今日は午前中に緊急会議がございます」
「会議?」
「はい。イグニス様の件について、四天王の皆様と対策を練ることになっております」
「わかりました」
俺は魔王の衣装に着替え、会議室へ向かった。
魔王城の会議室。
長い黒檀のテーブルを囲んで、四天王、フィオナ、セバスチャン、そしてフラーラさんとメリーナさんが座っている。
俺は、少し戸惑いながらも、上座に座った。
みんなの視線が俺に集まる。
「では、緊急会議を始める」
カオスが立ち上がり、杖を一振りする。
空中に、複雑な魔法陣が浮かび上がった。その中に、文字や図が浮かんでいる。
「まず、現状の把握から。イグニス様の逃亡により、我々は深刻な状況に陥っている。具体的には、組織の秩序維持における情報エントロピーの増大、それに伴うシステム崩壊のリスク係数が……」
カオスの説明が続く。
俺は必死に理解しようとするが、専門用語が多すぎてついていけない。
「あの、すみません」
俺が手を上げる。
「エントロピーって、何ですか?」
「ああ、これは熱力学第二法則における無秩序度の指標であり……」
「いや、もっと簡単に……」
「つまり、複雑系における予測不可能性の増大により……」
「だから、わかりやすく!」
カオスが一瞬固まる。
それから、眼鏡を外して額を押さえた。
「……要するに、バレたらヤバいということだ」
「最初からそう言ってください……」
その時、アイアン・ガーディアンが拳をテーブルに叩きつけた。
ゴン!
重い音が響く。
「難しいことはどうでもいい! 大事なのは根性だ!」
「根性……」
「ああ! 魔王陛下に気づかれたら? その時は体を張って止める! それだけだ!」
「いや、それは最終手段では……」
「何を言う! 俺は根性で魔王軍の騎士団長まで上り詰めたんだぞ!」
ガーディアンが胸を張る。
「魔法も使えない、頭も良くない。でも、根性だけは誰にも負けなかった!」
「それはすごいですけど……今回は根性だけじゃ……」
「根性があればなんでもできる!」
俺は小さくため息をついた。
これ、前の会社の上司に似てるな。
精神論ばかり言って、具体的な対策は何も出さない。
そんな上司に、俺はイライラして、結局喧嘩して辞めた。
その時の自分を思い出す。
俺も、人の話を聞かずに、自分の意見ばかり押し通そうとしていた。
その時、ミス・シャドウが口を開いた。
「……それより……情報収集を……」
「え? 何?」
俺が聞き返す。
「……イグニス様の……行方を……SNSで……」
声が小さすぎて、ほとんど聞こえない。
「もっと大きな声で!」
カオスが叫ぶ。
「……すみません……でも、これが私の限界で……」
ミス・シャドウが申し訳なさそうに縮こまる。
「もう、シャドウはいつもそうだ」
ガーディアンがため息をつく。
「重要な情報を持っているのに、誰にも伝わらない」
「……ごめんなさい……」
俺は、ミス・シャドウを見て思った。
この人、多分すごく優秀なんだろう。
でも、声が小さいから、誰にも認めてもらえない。
前の会社にも、こういう人がいた。
静かで目立たないけど、仕事はできる人。
でも、声の大きい人に意見をかき消されて、結局評価されなかった。
俺も、そういう人の話を聞いてあげればよかったのかもしれない。
その時、フォン・マネーゼンが資料を広げた。
「それより深刻な問題がある。経費だ」
「経費?」
「ああ。最近、魔王城の運営費が急増している」
フォン・マネーゼンが電卓を叩く。
カチャカチャという音が、会議室に響く。
「具体的には、地球の食材の消費量が前月比で三倍。電気代も二倍。交通費は……」
「ちょっと待って」
カオスが遮る。
「今、イグニス様の捜索の話をしているんだ。経費の話は後で」
「いや、経費は最優先事項だ」
マネーゼンが冷たく言う。
「このままでは、半年後には資金が底をつく。異世界ランドを閉鎖せざるを得ない」
「だから、それは後で……」
「後では遅い! 今すぐ対策を!」
会議室が、混沌としてきた。
カオスは専門用語で持論を展開し。
ガーディアンは根性論を叫び。
シャドウは重要な情報を小声で呟き。
マネーゼンは経費削減を訴える。
全員が、自分の意見を主張するばかりで、誰も人の話を聞いていない。
俺は、その光景を見ながら思った。
ああ、これだ。
前の会社も、こうだった。
みんな、自分の意見を言うだけで、他人の話を聞かない。
会議は踊る、されど進まず。
そして、俺もその一人だった。
上司の話を聞かず、同僚の意見を無視して、自分の考えだけを押し通そうとした。
結果、誰とも協力できず、孤立して、辞めることになった。
「……これじゃ、何も決まらない」
俺は小さく呟く。
でも、今の俺は、あの時とは違う。
異世界ランドで、色々な人と働いて、学んだ。
フラーラさんから、森での迷子の時に助けてもらう大切さを。
グンナルさんから、人の意見を聞いて学ぶ姿勢を。
メリーナさんから、自分の弱さを認める勇気を。
そして、田中さんから、みんなで協力する楽しさを。
俺は、もう一度、あの時とは違う自分でやり直せる。
「あの、すみません」
俺が手を上げる。
会議室が静かになる。
「この会議、ちょっと進め方を変えませんか?」
「進め方?」
カオスが眉をひそめる。
「はい。今、みんな自分の意見を言ってますけど、誰も人の話を聞いてない気がします」
その言葉に、四天王たちが少し動揺する。
「まず、議題を明確にして、一つずつ解決していく。それと、専門用語は使わない。誰でもわかる言葉で話す」
カオスが腕を組む。
「それは……地球式の会議手法か?」
「まあ、大学で習ったことですけど」
カオスが少し考えてから、眼鏡を直して言った。
「……いいだろう。試してみよう」
ガーディアンが不満そうに言う。
「でも、根性があれば……」
「ガーディアン、まず佐伯の話を聞こう」
フラーラさんが優しく言う。
ガーディアンが渋々頷く。
俺は立ち上がり、魔法で作られたホワイトボードに議題を書き出した。
議題1:イグニス様の捜索
議題2:魔王陛下への対応
議題3:経費問題
「まず、議題を三つに整理しました」
みんなが、ボードを見る。
「一つずつ、順番に解決していきましょう。まず、議題1。イグニス様の捜索について」
俺はミス・シャドウに向き直る。
「シャドウさん、さっき何か情報があるって言ってましたよね?」
「……はい……SNSで……目撃情報が……」
「もう少し詳しく教えてもらえますか? ゆっくりでいいので」
ミス・シャドウが、少し驚いた顔をする。
それから、小さく頷いた。
「……昨夜……東京都内の……カラオケ店で……イグニス様と思われる人物が……」
俺は、彼女の話を遮らずに、最後まで聞く。
他の四天王たちも、静かに聞いている。
「……秋月佳奈さんと一緒に……いたそうです……」
「なるほど。東京都内のカラオケ店、ですね」
俺はボードにメモする。
「他にも情報はありますか?」
「……はい……SNSのアカウントを……追跡しています……」
「ありがとうございます。じゃあ、次の会議までに、もっと詳しい情報をまとめてください」
ミス・シャドウが、嬉しそうに頷く。
その表情を見て、俺は思った。
この人、ちゃんと話を聞いてもらえて、嬉しかったんだな。
「次に、議題2。魔王陛下への対応」
俺はカオスに向き直る。
「カオスさん、魔王陛下のスケジュールって、わかりますか?」
「ああ。陛下は規則正しい生活をされている。朝は執務室、昼は軍の訓練場、夜は書斎だ」
「ということは、そのスケジュールに合わせて、俺が別の場所にいればいいんですよね?」
「……なるほど」
カオスが眼鏡を光らせる。
「陛下の動きを把握して、佐伯くんが鉢合わせしないようにすればいい」
「はい。シャドウさん、陛下の動きも監視できますか?」
「……はい……任せてください……」
「じゃあ、お願いします」
「それと、もし万が一鉢合わせしそうになったら……」
俺はガーディアンに向き直る。
「ガーディアンさん、その時は護衛として、俺を別の場所に案内してもらえますか?」
「もちろんだ!」
ガーディアンが力強く頷く。
「この命に代えても、お前を守る!」
「いや、命まではいいですけど……でも、頼りにしてます」
ガーディアンが、少し照れたように笑う。
「任せろ」
俺は、ガーディアンを見て思った。
この人、根性論ばかり言うけど、本当は頼りになるんだな。
ただ、自分の得意なことを、みんなに認めてもらいたかっただけなんだ。
前の会社の上司も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
俺が、ちゃんと話を聞いてあげれば、もっと良い関係が築けたのかも。
「最後に、議題3。経費問題」
俺はマネーゼンに向き直る。
「マネーゼンさん、具体的にどれくらい赤字になりそうですか?」
「半年後には、約三千万円の赤字だ」
マネーゼンが電卓を叩く。
「原因は、地球の食材の消費増加と、交通費の増加だ」
「なるほど。じゃあ、支出を減らすか、収入を増やすか……」
俺は考える。
「あの、収入を増やす方法って、何かありませんか?」
「収入?」
カオスが聞く。
「はい。経費削減だけじゃなくて、他の収入源を作るとか」
マネーゼンが目を輝かせる。
「……多角経営か」
「例えば、魔界の特産品を地球で売るとか」
その言葉に、四天王たちが顔を見合わせる。
「魔界の特産品……」
カオスが腕を組む。
「魔界の鉱石、薬草、魔法道具。確かに、地球では珍しいものばかりだ」
「それを地球で売れば、利益になりますよね」
「ああ。だが、問題はどうやって売るかだ」
俺は、大学で習ったマーケティングの知識を思い出す。
「ネット通販とか、イベント出店とか……あと、異世界ランドの物販コーナーで売るとか」
「ネット通販……」
マネーゼンがメモを取る。
「それなら、初期投資も少なくて済む」
「物販コーナーも良いアイデアだ」
カオスが頷く。
「来場者は、異世界グッズを求めている。本物の魔界の商品なら、喜ばれるだろう」
「それに、物販の利益率は高い」
マネーゼンが計算を始める。
「もし月に五百万円売れれば……利益は約二百万円。十分に赤字を補える」
みんなが、前向きになってきた。
フラーラさんが微笑む。
「佐伯、やっぱりあなたはセンスがあるわ」
メリーナさんも拍手する。
「すごいです! 会議が、ちゃんと進んでる!」
カオスが眼鏡を直す。
「地球式の会議手法、効率的だ。我々も学ぶべきことが多い」
ガーディアンが豪快に笑う。
「ハハハ! やはり、お前には根性がある!」
「いや、これ根性じゃなくて……」
でも、ガーディアンの笑顔を見て、俺も笑った。
会議が終わる頃には、三つの議題全てに対策が決まっていた。
マネーゼンが満足そうに頷く。
「今日の会議は、これまでで一番効率的だった」
「ああ」
カオスが同意する。
「議題を整理し、全員の意見を聞き、具体的な対策を決める。シンプルだが、効果的だ」
「佐伯くん、君は本当に優秀だな」
その言葉に、俺は少し照れる。
「いや、大学で習ったことを使っただけですよ」
「でも、それを実践できる人は少ない」
フラーラさんが言う。
「あなたは、人の話を聞いて、みんなの意見をまとめることができる。それは、とても大切な能力よ」
俺は、フラーラさんの言葉に、少し驚いた。
人の話を聞いて、まとめる。
前の会社では、俺にはできなかったことだ。
でも、今日はできた。
みんなの意見を聞いて、それを一つにまとめて、解決策を見つけることができた。
なんだか、充実している。
これが、人と協力するということなのか。
会議が終わり、俺は部屋に戻る。
フィオナが案内してくれた、豪華な部屋。イグニス様の部屋だ。
「佐伯様、お疲れ様でした」
フィオナが言う。
「あ、ありがとう」
「あらあら、今日の会議、素晴らしかったですね」
「いや、そんな……」
「いえいえ、皆さん、佐伯様を褒めていらっしゃいましたよ」
フィオナがニコニコしている。
「セバスチャンも、『これぞ、王子の器だ』と申しておりました」
「王子の器……」
俺はベッドに倒れ込む。
疲れたけど、なんだか気持ちがいい。
前の会社では、会議はいつも苦痛だった。
誰も人の話を聞かず、自分の意見を押し通すだけ。
俺も、その一人だった。
でも、今日は違った。
みんなの意見を聞いて、それをまとめて、一つの答えを見つけることができた。
人と協力することの、充実感。
これが、俺が失っていたものだったのかもしれない。
窓の外を見ると、赤い空に二つの月が浮かんでいる。
美しい光景だった。
この異世界での生活。
もしかしたら、俺にとって、やり直すチャンスなのかもしれない。
前の自分とは違う、新しい自分になれるチャンス。
そう思うと、なんだかワクワクしてきた。
明日も、頑張ろう。
この異世界で。
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
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