異世界ランドへようこそ

来栖とむ

文字の大きさ
25 / 25

第25話 最終話 異世界ランドへようこそ

しおりを挟む
魔族寮での初めての朝。
俺は、柔らかい光で目が覚めた。
隣で、フラーラさんが安らかに眠っている。
金色の髪が、枕に広がっている。
その寝顔を見て、俺は幸せを噛みしめる。
本当に、一緒にいられるんだ。

静かにベッドから起き上がり、リビングへ向かう。
コーヒーを淹れていると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「だから、お前の部屋は二階だと言っているだろう!」
カオスの声だ。
「でも、フラーラ様のお世話を……」
メリーナの声。
どうやら、昨夜の続きらしい。
ドアを開けると、カオスとアイアン・ガーディアンが、メリーナを挟んで立っていた。

「おはようございます」
「ああ、佐伯くん。すまない、うるさくして」
カオスが、疲れた顔をする。
「メリーナが、どうしてもお前たちの部屋に住むと言って聞かないんだ」
「フラーラ様の近くにいたいんです!」
メリーナが、必死に訴える。
「気持ちはわかるが、新婚さんの邪魔をするな」
ガーディアンが、メリーナの荷物を持ち上げる。
「さあ、二階へ行くぞ」
「ちょ、ちょっと!」
メリーナが抵抗するが、ガーディアンの力には勝てない。
そのまま、二階へ連れて行かれる。
「きゃあああ!」
メリーナの叫び声が、廊下に響く。
俺とカオスは、顔を見合わせて笑った。
「相変わらずですね、メリーナさん」
「ああ。でも、それが彼女らしい」

その日、異世界ランドが再開した。
一ヶ月ぶりの開園。
ゲート前には、長蛇の列ができていた。
「すごい……」
田中さんが、驚いたように呟く。
「こんなに待ってくれていたんですね」
「ああ。みんな、異世界ランドを楽しみにしてくれていたんだ」
俺も、嬉しくなる。

午前十時、開園のアナウンスが流れる。
「本日も、奥多摩異世界ランドをお楽しみください」
ゲートが開き、来場者が続々と入ってくる。
エルフの森エリアの入口で、俺とフラーラさんが並んで立つ。
俺は魔王の衣装、フラーラさんはエルフの衣装。
「異世界ランドへようこそ!」
二人で声を揃えて言う。
来場者たちが、目を輝かせる。
「うわ、魔王とエルフだ!」
「本物みたい!」
「写真撮っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
フラーラさんが、優雅に微笑む。
来場者たちと、次々と写真を撮る。

その光景を、カメラが記録している。
「異世界通信チャンネル」の撮影だ。
スタンピードイベント以降、始めた公式動画チャンネル。
すでに登録者数は、五十万人を超えている。
「今日は、異世界ランド再開の特別な日です!」
カメラに向かって、俺が説明する。
「新しいアトラクションも、たくさん増えました!」
「まず、こちらをご覧ください!」
フラーラさんが、森の奥を指差す。
「ワイバーンライド!」
巨大なワイバーン(翼竜)の像が、森の上空に設置されている。
来場者は、ワイバーンに吊るされたゴンドラに乗って、森の上を滑空できる。
もちろん、安全装置は完備。
でも、その迫力は本物だ。
「うわあああ!」
子どもたちが、大興奮で乗っている。

「次は、ドワーフ鉱山トロッコ!」
グンナルが、誇らしげに案内する。
「本物のトロッコに乗って、鉱山の中を探検できるぞ!」
トロッコが、ガタゴトと音を立てて走っていく。
中には、光る鉱石や、ドワーフの作業風景が再現されている。
「すごい! 本当に鉱山みたい!」
来場者たちが、感動している。

「そして、地球と魔界の文化交流館!」
新しく建設された建物。
中には、魔界の工芸品、魔法道具、歴史の展示がある。
それに、地球の文化を紹介するコーナーも。
「魔界と地球、両方の文化を学べるんですね」
来場者の一人が、感心したように言う。
「はい。これが、私たちの目指す未来です」
俺が答える。
「人も魔も、共に学び、共に生きる世界」
フラーラさんも続ける。
「それを、ここから始めたいんです」

カメラが、二人を映す。
その映像は、後日「異世界通信チャンネル」で公開される。
コメント欄は、すぐに盛り上がった。
「このカップル、本当に素敵」
「魔王とエルフの恋、尊い」
「異世界ランド、絶対行く!」

午後、魔王城エリアでは「魔王城ツアー・リターンズ」が開催されていた。
俺とフラーラさんが、来場者を案内する。
「こちらが、魔王の間です」
広間に入ると、来場者たちが息を呑む。
「すごい……本格的……」
「ここで、魔王は重要な決定を下すんです」
俺が、玉座に座る。
「そして、こちらがエルフの森の守護者、フラーラです」
フラーラさんが、優雅に一礼する。
「ようこそ、魔王城へ」
その所作が、あまりにも本物らしい。
「本当にエルフみたい……」
来場者の一人が、感動したように呟く。
「ええ。私は、エルフですから」
フラーラさんが、微笑む。
もちろん、来場者は冗談だと思っている。
でも、俺たちは本気だ。
その微妙な空気が、不思議な魅力を生み出している。

ツアーが終わり、来場者たちが満足そうに去っていく。
「また来ます!」
「ありがとうございました!」
俺とフラーラさんは、手を振って見送る。
ギルドエリアでは、受付嬢が今日も笑顔で対応していた。
新しい受付嬢も増えて、三人体制になっている。
「冒険者登録、ありがとうございます」
彼女たちの笑顔が、来場者を癒す。
「可愛い……」
「また来よう……」
来場者たちが、満足そうに去っていく。

田中さんも、冒険者役として活躍していた。
「やあ、旅の方! ギルドはこちらですよ!」
明るい声で案内する。
彼の周りには、いつも人だかりができている。
「田中さん、人気者ですね」
「ああ。彼は、この仕事に向いてるんだ」
カオスが、満足そうに頷く。

エルフの森では、メリーナが案内役をしていた。
「こちらが、エルフの森です! 美しいでしょう?」
白い聖女の衣装で、優雅に歩く。
来場者たちが、感心したように見ている。
「本当に綺麗……」
その時。
どたっ!
メリーナが、衣装の裾を踏んで転んだ。
「きゃあ!」
来場者たちが、驚く。
でも、すぐに笑い声に変わる。

「あはは、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい……私、ドジで……」
メリーナが、照れくさそうに笑う。
来場者たちも、一緒に笑う。
その光景が、温かい。
「メリーナさん、可愛い!」
「このドジっ子感、たまらない!」
SNSにも、すぐに投稿される。
「#ドジっ子聖女」がトレンド入り。
メリーナの人気が、急上昇していく。
「まったく……」
フラーラさんが、呆れたように笑う。
でも、その表情は優しい。
「でも、それがメリーナなのよね」

午後三時、休憩時間。
俺とフラーラさんは、エルフの森のベンチに座っていた。
「疲れた?」
「少しね。でも、楽しいわ」
フラーラさんが、微笑む。
「こうやって、あなたと一緒に働けるなんて」
「俺も、嬉しいです」
俺は、フラーラさんの手を握る。
「これからも、ずっと一緒ですね」
「ええ。ずっと」
フラーラさんが、俺にもたれかかる。
二人で、しばらく静かに過ごす。
木々のざわめき、鳥の声、遠くから聞こえる来場者たちの笑い声。
全てが、心地よい。

「佐伯」
「はい?」
「ありがとう」
「え?」
「あなたのおかげで、私……こんなに幸せになれた」
フラーラさんが、涙ぐむ。
「四百年間、孤独だった私に……新しい人生をくれた」
「フラーラさん……」
「愛してる」
「俺も、愛してます」
周りを見渡し、誰もいないことを確認して、こっそり二人で、キスをする。

午後六時、閉園。
来場者が去り、スタッフたちが片付けを始める。
俺とフラーラさんは、ゲートの前で夕日を見ていた。
オレンジ色の空。
一つの太陽が、ゆっくりと沈んでいく。

「綺麗ね……」
「はい……」
俺は、フラーラさんの手を握る。
「今日も、お疲れ様でした」
「ええ。あなたもお疲れ様」
フラーラさんが、微笑む。
「明日も、頑張りましょう」
「はい」

二人で、魔族寮へ向かう。
手を繋いだまま、歩く。
その後ろ姿を、田中さんが見ていた。
「いいなあ……」
田中さんが、羨ましそうに呟く。
「お前も、頑張れよ」
カオスが、肩を叩く。
「え?」
「ギルドの受付嬢の一人、お前のこと気にしてるぞ」
「え、マジですか!?」
田中さんが、顔を赤らめる。

魔族寮に戻ると、メリーナが待っていた。
「フラーラ様、佐伯さん、お帰りなさい!」
「ただいま、メリーナ」
「今日のご飯、私が作りました!」
メリーナが、誇らしげに言う。
「本当? ありがとう」
三人で、食堂へ向かう。
他の魔族スタッフたちも、集まっている。
「いただきます」
全員で、食事を始める。
メリーナの料理は、意外と美味しい。
「メリーナ、料理上手いんだな」
グンナルが、感心する。
「えへへ、ありがとうございます」
メリーナが、嬉しそうに笑う。
和やかな食事の時間。
まるで、大きな家族のようだ。

食事が終わり、俺とフラーラさんは部屋に戻る。
ソファに座り、テレビをつける。
ニュースで、異世界ランドの再開が取り上げられていた。
「本日、奥多摩異世界ランドが一ヶ月ぶりに再開しました」
キャスターが、笑顔で言う。
「新アトラクションも加わり、来場者たちは大興奮でした」
映像には、ワイバーンライドや、ドワーフ鉱山トロッコの様子が映っている。
そして、俺とフラーラさんが案内している場面も。
「このカップル、話題になってますね」
「ええ。異世界ランドの顔ですから」
キャスターたちが、楽しそうに話している。

「俺たち、有名人ですね」
「ふふ、そうね」
フラーラさんが、俺にもたれかかる。
「でも、私は有名になりたいわけじゃないの」
「え?」
「ただ、あなたと一緒にいられれば、それでいいの」
フラーラさんが、俺を見つめる。
「俺も、同じです」
俺は、フラーラさんを抱きしめる。
二人で、しばらくソファで過ごす。
窓の外を見ると、星が輝いている。
地球の星空。
魔界の星空とは、また違う美しさ。
「佐伯」
「はい?」
「明日も、一緒ね」
「はい。明日も、明後日も、ずっと」
「ええ。ずっと」
二人で微笑み合う。

翌朝。
新しい一日が始まる。
俺は、魔王の衣装を着る。
フラーラさんは、エルフの衣装を着る。
二人で、魔族寮を出て、異世界ランドへ向かう。
朝日が、二人を照らす。
「さあ、行きましょう」
「はい」

ゲートの前で、俺たちは並んで立つ。
開園時間。
来場者たちが、列を作って待っている。
午前十時。
ゲートが開く。
来場者たちが、続々と入ってくる。
俺とフラーラさんは、笑顔で迎える。
「異世界ランドへようこそ!」
二人で声を揃えて言う。
来場者たちが、笑顔で応える。
「ありがとうございます!」
「楽しみにしてました!」
今日も、異世界ランドは賑やかだ。
人も魔も、共に働き、共に笑う。
異世界と現実のあいだで。
今日も俺たちは、働いている。

新しい日々。
新しい未来。
全ては、ここから始まる。
異世界ランドで。
俺とフラーラさんの、物語は続く。
これからも、ずっと。
手をとりあって、共に歩んでいく。
今日も、明日も、その先も。
(完)

エピローグ それから
数年後。
異世界ランドは、さらに拡大していた。
新しいエリアが増え、来場者数も倍増。
世界中から、観光客が訪れるようになった。

イグニスは、立派な魔王として成長していた。
佳奈と結婚し、二人で魔界と地球を行き来している。
「父上の期待に応えられるよう、頑張ります」
イグニスが、凛とした顔で言う。
「うむ。お前は立派になった」
ゼノギアスさんが、満足そうに頷く。
彼は今、地球で温泉巡りを楽しんでいる。
「温泉、最高だな」

カオスは、地球と魔界の文化交流プロジェクトのリーダーとなった。
「いずれ、公式に両世界が交流できる日が来る」
彼の夢は、着実に近づいている。

四天王たちも、それぞれの分野で活躍している。
メリーナは、相変わらず転んでいるが、誰からも愛されている。
そして、俺とフラーラさん。

俺たちは、今も異世界ランドで働いている。
統括マネージャーとして、エルフの代表として。
そして、夫婦として。
「今日も、頑張りましょう」
「ええ」
二人で、ゲートの前に立つと、笑顔で来場者を迎える。

「異世界ランドへようこそ!」

【完】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...