ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第19話 古代遺跡の真実

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禁断の森の最深部。
そこは、生き物の気配が一切絶えた、静寂という名の真空地帯だった。

(……なんだろう。この感じ。前世でデータセンターのサーバーラックの間に立っていた時のような、独特の無機質で冷たい空気……)

私は、震えるマリアちゃんを促しながら、青白い光の源へと足を踏み入れた。
巨木の根が複雑に絡み合い、天然の要塞のようになった空間。その中央に鎮座していたのは、乙女ゲームのファンタジーな世界観を根底から覆すような、異質な「構造物」だった。

石造りの祭壇? いいえ、違う。
それは、鈍い銀色の光沢を放つ、磨き抜かれた金属製の筐体。 等間隔に配置されたスリットからは、微かな駆動音と共に青い光が明滅している。
「これ、が……聖女の、証……?」
マリアちゃんが呆然と呟く。

(……いいえ、マリアちゃん。私の目には、それがどう見ても『メインフレーム(基幹システム)』のサーバーラックにしか見えないわよ)
私は、職業病のような高揚感を抑えきれず、その金属の塊に近づいた。

表面には、魔法文字ではなく、幾何学的なラインが彫り込まれている。 私がそっと指を触れると、何らかのセンサーが反応したのか、空中に半透明のウィンドウが立ち上がった。
「きゃっ!? な、何これ!? 魔法陣……じゃないわよね!?」
マリアちゃんが悲鳴を上げる。 だが、私の視線はそのウィンドウに表示された「文字」に釘付けになった。

『SYSTEM STATUS: REBOOTING...』 
『FILE SYSTEM: CHECKING...』
(……嘘でしょ。文字コード、これ……ASCII(アスキー)? いや、拡張版のUTF-8かしら)

「リゼット様、これ、何なんですの!? 攻略ノートには、ここに『女神の祈り』を捧げれば、首飾りが現れるって書いてあったのに……!」
マリアちゃんがパニックを起こしながら、ノートを振り回す。

私は、冷静に画面のログを解析した。 前世で、深夜二時に基幹システムの障害対応(デバッグ)をしていた時の、あの研ぎ澄まされた感覚が蘇る。
「マリア様、落ち着きなさい。……女神の祈りなんて、ただの『音声認証』か『パスワード入力』の比喩に過ぎないわ」
「ええっ!?」
「女神の正体は分からないけれど……。これは、この世界のバックエンドを支えていた、古代の『記録保持装置(ストレージ)』よ」

私は、ウィンドウの端に表示された「LOG VIEW」の項目を叩いた。 指先に伝わる、確かな触覚フィードバック。
画面には、膨大なデータがスクロールし始めた。

『Project "EDEN": Simulation Log』 
『Target: Rebuilding Civilization on the Planet 04...』
「……プロジェクト・エデン? シミュレーション?」
マリアちゃんが、掠れた声で読み上げる。

「リゼット様、どういうことですか? シミュレーションって……この世界は、偽物なんですか? 私たちが生きて、笑って、恋をしてきたこの世界は……ただの計算結果なの?」
マリアちゃんの瞳から、絶望の涙が溢れ出した。

(……あー、やっぱりそこに行くわよね。全財産を突っ込んだ株が、実は架空のペーパーカンパニーだったと知った時の投資家みたいな顔だわ)

私は、絶望に沈むマリアちゃんの肩を、あえて冷徹に叩いた。
「マリア様。……投資の世界にはね、『本質的価値(インビジブル・バリュー)』という考え方があるの」

「……え?」
「たとえこの世界が、大昔の誰かが作ったプログラムの成れの果てだとしても。今、あなたの心臓がバクバク鳴って、涙が温かくて、私がこうして隣にいる。……その事実は、どんなに高度な計算式でも『偽物』にはできないわ」

私は画面をさらにスクロールさせた。
そこには、シミュレーションが既に「自律運営モード(スタンドアローン)」に移行し、数千年にわたって独自の進化を遂げてきた記録が残されていた。
「いい? 現実はゲームじゃないけれど、プログラムでもない。……これは、一度動き出したら止めることのできない、壮大な『リアルタイム・マーケット』なのよ」

「……リアルタイム・マーケット……」
「女神様も、運営チーム(開発者)も、もうここにはいない。残されているのは、この不格好なレガシーシステムと、そこで必死に生きている私たちだけ。……だったら、私たちが自分の手で、この物語の『主導権(シェア)』を握るしかないじゃない」

マリアちゃんは、私の言葉を反芻するように何度も頷いた。 その瞳には、絶望の代わりに、新しい覚悟が宿り始めていた。
「……リゼット様。私、やっと分かりました」
「何を?」
「リゼット様は、この世界の真理を知っていたからこそ、あんなに強かったんですね。ゲームの筋書き(シナリオ)なんてどうでもいい、自分で自分の価値を決めるんだって……」

(……いや、そこまで高尚な話じゃないのよ。ただ隠居したいだけなのよ)

「私、聖女の証……首飾りなんて、もう欲しくありません。……だって、本物の聖女(賢者)は、今私の目の前にいるんですもの!」
マリアちゃんが、キラキラとした瞳で私を見つめてくる。

【解析:リゼットの現状】 
・マリア:重度の『リゼット教』信者へ完全進化。 
・古代遺跡:リゼットの『知的好奇心』を刺激するおもちゃ(サーバー)として確保。 
・隠居への距離:事実上、測定不能(無限遠)。

(……計算ミス。またしても。この世界が『プログラムの残骸』だなんて、余計な機密情報(内部データ)を拾っちゃったじゃないの!)

私は、システムをスリープモードに戻し、ウィンドウを閉じた。
「……さあ、帰りましょう。これ以上の調査は、私の労働基準(メンタル)が持ちませんわ」
「はい! リゼット様! 私、お供しますわ!」

明け方。
禁断の森の出口に辿り着いた私たちは、朝日の中で互いの泥だらけの姿を見て、笑い合った。 いや、笑ったのはマリアちゃんで、私はただの疲労困憊(シャットダウン寸前)だったけれど。

「リゼット様……。私、あなたに一生ついていきます」
「……一生は重いから、せめて半年単位の契約更新(アドバイザリー契約)にしてくださる?」
「ふふ、また冗談を!」

(……冗談じゃない。本気よ。契約書、今すぐ巻きたいくらいよ)
私は、昇る朝日を眩しそうに見つめた。
世界がシミュレーションだろうが、現実だろうが、関係ない。 私の目標は変わらない。

(……この複雑怪奇なシステムの中で、私は絶対に『不労所得』という名のセキュリティ・ホールを見つけ出してみせるわ)
隠居を夢見る不遇の天才、リゼット。 世界の真実という特大の「インサイダー情報」を手に入れた彼女の、波乱万丈なエグジット戦略は、ここからさらに加速していく。
 
次回予告
「お姉様! マリア様! お帰りなさい! ……え、二人で森にお泊まりを!?」 「(……誤解よ、シャルロットちゃん。ただの深夜のシステムメンテナンス(救出)よ)」 「二人の絆が深まったのですね! これで王家の安泰も間違いなしですわ!」 「(……安泰にしないで! 私をこのネットワーク(家族)から切り離して(デタッチ)!!)」
次回、第20話「敵だった二人の和解」
友情という名の『固定資産』、これ以上増やさないでいただけます!?
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