アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 ナリアの皇都ルクナーダに残った六人は、宿の一室に集まって作戦を練っていた。
「なんとか皇宮に入る方法はないだろうか」
 クロストロフが地図を広げながら言った。
「正面から行けば、すぐに捕まります」
 久世が窓の外を見ながら答えた。
「武装した兵士が常に巡回しています。プロネス族と、地球の軍服を着た者たちです」
「秘密の入口とか、そういうものはないのでしょうか」
 瀬崎が尋ねた。
 その言葉に、ユリナスがふと顔を上げた。
「もしかしたら……入れるかもしれません」
「本当ですか?」
 サミアが驚いて尋ねた。
「実は、僕は昔からこの皇宮でよく遊んでいたんです」
 ユリナスが懐かしそうに微笑んだ。
「もっとも、二百年くらい前の話ですが……」
「二百年……」
 瀬崎が呟いた。ナリアの民の寿命の長さを、改めて実感する。
「この宮殿は石造りですが、神木が大きくなるにつれて、その根や幹によって崩れることが多いんです」
 ユリナスが説明を続けた。
「そのため、崩れるたびに修繕を繰り返し、一部は迷路のようになっています。僕は子供の頃、よくその迷路を面白がって探検したものです」
「それは頼もしい」
 ヨルンヘルムが頷いた。
「また、皇帝しか知らない秘密の抜け道もあります」
 ユリナスが声を潜めた。
「その一つを、僕もこっそり使っていたので、よく覚えています。壊されていなければ、使えるはずです」
「どこにあるんですか?」
 久世が身を乗り出した。
「裏通りに、古いパン屋があります。その地下から抜け道が伸びているはずです」

 六人は、プロネス族や地球の兵士に怪しまれないよう、現地の人の格好に着替えた。商人や職人に見えるような服装で、自然に振る舞いながら裏通りへと向かう。
 狭い路地を進むと、古びたパン屋が見えてきた。石造りの建物で、看板には素朴なパンの絵が描かれている。
「ここです」
 ユリナスが扉を開けて中に入った。
 店内には、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂っている。カウンターの奥から、白髪の老人が顔を出した。
「いらっしゃい……」
 老人の言葉が途切れた。ユリナスの顔を見て、目を見開いたのだ。
「ユ、ユリナス様……!」
 老人が感極まった声を上げた。
「お久しぶりです、バルト」
 ユリナスが優しく微笑んだ。
「ああ、ユリナス様。ご無事で……本当に良かった」
 バルトと呼ばれた老人の目に涙が浮かんだ。
「元気な姿を見せてくださって、こんな嬉しいことはありません」
 しかし、その表情はすぐに曇った。
「しかし……皇帝陛下たちが捕まっている今の状況……」
 バルトが拳を握りしめた。
「悔しくてなりません。私たちには何もできず……」
「バルト、話があります」
 ユリナスが真剣な表情で言った。
「奥で話せますか?」
「もちろんです。ちょうど、紹介したい方々もいらっしゃいます。どうぞこちらへ」
 バルトが一行を店の奥へと案内した。
 奥の部屋に入ると、そこには三人のプロネス族がいた。
「彼らは……」
 クロストロフが警戒した。
「大丈夫です」
 バルトが手を上げた。
「この方々は、戦闘に反対していたプロネスの貴族の方とその従者です。過激派に襲われたところを、私が匿っているのです」
「過激派のプロネスは全体のほんの一部なのですよ」
 バルトが説明した。
「多くのプロネスは、この戦闘行為に反対しています。しかし、武力で脅されて……」
「わかりました」
 ユリナスが頷いた。
「まず、彼らに話を聞かせていただけますか」

 パン屋の奥、小麦が積まれた倉庫で、六人はプロネスの貴族たちと対面した。
 その瞬間、六人は息を呑んだ。
 プロネス族の肌の色が、想像以上に灰色だったからだ。青白いというより、まるで石のような色をしている。
 また、耳がユリナスやサミアよりも明らかに尖っており、目は大きく黒い。久世と瀬崎には、物語で伝えられるドラキュラの姿そのものに見えた。
「驚かせてしまったようですね」
 プロネスの貴族の一人が、疲れた表情で微笑んだ。
「普段は、日焼けを防止するための薬を塗っているので、もう少し明るい色に見えるのですが」
 貴族が自分の腕を見た。
「今はそれがほとんど持ち出せていないので、塗っていません。我々プロネスの肌は、皆こんな色なのです」
「失礼なことをいたしました。申し訳ありません」
 ユリナスが頭を下げた。
「いえ、気にしないでください」
 貴族が手を振った。
「むしろ、こうして話を聞いてくださる方がいることが、嬉しいのです」
 貴族の表情には疲労が色濃く出ていたが、大きな怪我はなさそうだった。
「我々プロネスも、こんな争いは望んでいないものが多いのです」
 貴族が静かに語り始めた。
「ただ、不満を持っているのは事実です。長年、我々は日の当たらない場所で暮らすことを余儀なくされてきました。それは、もともと我々が望んだことであり、我々の体質にも合っているとはいえ、近年では社会的には不利な立場に置かれることも多かったのです」
「その不満は理解できます」
 ユリナスが頷いた。
「その解決策は見つけないといけません。しかし、今は……皇帝たちや宮殿の中がどうなっているか知りたいのです。そして、あの金色の砲身が何なのか」
「皇帝陛下や貴族たちは、後宮に閉じ込められています」
 貴族が答えた。
「監視が非常に厳しく、近づくことも困難でしょう」
「宮殿全体は?」
「過激派が占拠しています」
 別のプロネスが続けた。
「彼らは、地球から来たという武装集団と協力しています」
「金色の機械については?」
「宝物庫の奥から運び出されたようです」
 貴族が眉をひそめた。
「しかし、複雑すぎて扱いがわからず、彼らも困っているらしいです」
「それと」
 貴族が思い出したように付け加えた。
「彼らの一部が、オリハルコンを待っているとも言っていました」
「オリハルコン?」
 サミアが驚いた。
「宮殿にもオリハルコンを使った装飾品などはあります。しかし、それではダメだと言っていたようです」
「もっと大量の、純度の高いオリハルコンが必要だということでしょうか」
 ヨルンヘルムが推測した。
「そこまではわかりませんが、おそらく」
 貴族が頷いた。
「それと、穏健派も多く残っています。皇都近くの貴族の中にも、我々と同じ考えの者がいます」
「わかりました」
 ユリナスが貴族の手を取った。
「必ず、あなたたちをその貴族のもとへ連れて行きます。そして、この状況を終わらせましょう」
「ありがとうございます」
 貴族の目に涙が浮かんだ。
 六人は一旦パン屋を後にした。次の行動を考えるために。
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