78 / 84
78
しおりを挟む
一行は門をくぐった。
光に包まれ、一瞬で世界が変わった。
潮の匂いのする空気、湿った匂い、そして――祭壇のような場所に置かれた見慣れたビニール袋に入ったお菓子とガラス容器に入ったお酒。
そこは、確かに地球だった。
「地球だ……」
久世が呟いた。
「地球に、戻ってきた」
振り返ると、門は徐々に光を失い始めていた。
「門が……」
サミアが言った。
やがて、門の光は完全に消えた。
二度と開くことのない門。
しかし、その代償で、ユリナスを地球に連れてくることができた。
「急ぎましょう」
瀬崎が言った。
「一刻も早く、医療施設に」
「はい」
一行は洞窟を抜けて、外に出た。
そこには、青い空と青い海が広がっていた。強い日差しが、目に眩しい。
しかし、予想していた自衛隊の姿はなかった。
「おかしいですね……」
久世が周囲を見回した。
「どの門にも誰かが待機しているはずなんですが」
その時、茂みの向こうから人の気配がした。
「あれ?誰かいるさー?」
沖縄弁の声が聞こえた。
五十代くらいの日焼けした男性が現れた。地元の漁師のような姿をしている。
「あんたら……」
男が一行を見て、目を丸くした。
「門を通ってきたのかー?」
男は驚いた様子だったが、どこか慣れているようにも見えた。
「ええ、そうです」
久世が頷いた。
「あの……」
「やっぱりねー」
男が頷いた。
「たまーに、門から人が出てくるんだよねー。最近は見なかったけど」
「え……」
瀬崎が驚いた。
「ご存知なんですか?」
「まあねー。昔からこの島に住んでるからさー」
男が言った。
その時、男がユリナスを乗せた担架に気づいた。
「おや、怪我人がいるのー?」
「はい!」
サミアが前に出た。
「重傷なんです。すぐに病院に行かないと……」
「それは大変だー」
男がすぐに携帯電話を取り出した。
「ちょっと待っててねー。今、連絡するからー」
男が誰かに電話をかけ始めた。沖縄弁で早口に話している。
「はいはい、門からさー。うん、怪我人もいるよー。急いでー」
電話を切った男が、一行に言った。
「すぐに迎えが来るからー。ここで少し待っててねー」
「ありがとうございます」
久世が頭を下げた。
「あの、あなたは一体……」
「俺?俺は島の者さー」
男が笑った。
「門のことは、島の年寄りはみんな知ってるよー。昔からあるからねー」
クロストロフとヨルンヘルムは、地球の一般的な人間と初めて会った。二人とも、不思議そうに男を見ている。
「地球の人は、みんなこんなに親切なのか?」
ヨルンヘルムが小声で久世に尋ねた。
「いえ、これは沖縄の人の特徴かもしれません」
久世が苦笑いした。
二十分ほど待つと、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
「来たよー」
男が指差した。
やがて、数台の車が姿を現した。その中には、自衛隊の車両も混じっている。
車が止まり、鮎川が飛び出してきた。
「久世さん!瀬崎さん!」
鮎川が駆け寄ってきた。
「無事でしたか!」
「はい。私たちは」
久世が頷いた。
「ただ、ユリナスが酷い怪我を、早く病院に」
「えっ」
鮎川の表情が変わった。
「わかりました。医療チーム!」
鮎川が医療チームに指示を出した。
白衣を着た医師たちが、すぐにユリナスの状態を確認し始めた。
「仮死状態……」
一人の医師が呟いた。
「しかし、まだ生命反応があります。急いで搬送を」
ユリナスが車両に運び込まれた。
サミアも乗り込もうとしたが、鮎川が止めた。
「サミアさん、あなたはこちらの車で私たちと一緒に来てください」
「はい」
サミアが頷いた。
クロストロフとヨルンヘルムも同じ車に乗り込んだ。
「私たちも行きます」
李教授たちは、別の車両に案内された。
「李教授たちは、検疫のため別施設に」
鮎川が説明した。
「ご協力をお願いします」
「わかりました」
李教授が頷いた。
車両が動き出す前に、久世が島の男のもとに戻った。
「本当にありがとうございました」
「いいのいいのー」
男が手を振った。
「困った時はお互い様さー。それに、門から来た人を助けるのは、島の掟みたいなもんだからねー」
「島の掟……」
「そうそう。昔からそうなってるのさー。俺も陰陽だかんねー」
男が笑った。
「気をつけて行ってねー」
久世が深々と頭を下げ、車に乗り込んだ。
車両が走り出した。
島の男は、車が見えなくなるまで手を振り続けていた。
長い旅が、ついに終わった。
しかし、本当の戦いは、これからだった。
地球の医学は、アークの力が残留する傷を治すことができるのか。
そして、ユリナスは目覚めることができるのか。
すべては、これからの数時間にかかっていた。
光に包まれ、一瞬で世界が変わった。
潮の匂いのする空気、湿った匂い、そして――祭壇のような場所に置かれた見慣れたビニール袋に入ったお菓子とガラス容器に入ったお酒。
そこは、確かに地球だった。
「地球だ……」
久世が呟いた。
「地球に、戻ってきた」
振り返ると、門は徐々に光を失い始めていた。
「門が……」
サミアが言った。
やがて、門の光は完全に消えた。
二度と開くことのない門。
しかし、その代償で、ユリナスを地球に連れてくることができた。
「急ぎましょう」
瀬崎が言った。
「一刻も早く、医療施設に」
「はい」
一行は洞窟を抜けて、外に出た。
そこには、青い空と青い海が広がっていた。強い日差しが、目に眩しい。
しかし、予想していた自衛隊の姿はなかった。
「おかしいですね……」
久世が周囲を見回した。
「どの門にも誰かが待機しているはずなんですが」
その時、茂みの向こうから人の気配がした。
「あれ?誰かいるさー?」
沖縄弁の声が聞こえた。
五十代くらいの日焼けした男性が現れた。地元の漁師のような姿をしている。
「あんたら……」
男が一行を見て、目を丸くした。
「門を通ってきたのかー?」
男は驚いた様子だったが、どこか慣れているようにも見えた。
「ええ、そうです」
久世が頷いた。
「あの……」
「やっぱりねー」
男が頷いた。
「たまーに、門から人が出てくるんだよねー。最近は見なかったけど」
「え……」
瀬崎が驚いた。
「ご存知なんですか?」
「まあねー。昔からこの島に住んでるからさー」
男が言った。
その時、男がユリナスを乗せた担架に気づいた。
「おや、怪我人がいるのー?」
「はい!」
サミアが前に出た。
「重傷なんです。すぐに病院に行かないと……」
「それは大変だー」
男がすぐに携帯電話を取り出した。
「ちょっと待っててねー。今、連絡するからー」
男が誰かに電話をかけ始めた。沖縄弁で早口に話している。
「はいはい、門からさー。うん、怪我人もいるよー。急いでー」
電話を切った男が、一行に言った。
「すぐに迎えが来るからー。ここで少し待っててねー」
「ありがとうございます」
久世が頭を下げた。
「あの、あなたは一体……」
「俺?俺は島の者さー」
男が笑った。
「門のことは、島の年寄りはみんな知ってるよー。昔からあるからねー」
クロストロフとヨルンヘルムは、地球の一般的な人間と初めて会った。二人とも、不思議そうに男を見ている。
「地球の人は、みんなこんなに親切なのか?」
ヨルンヘルムが小声で久世に尋ねた。
「いえ、これは沖縄の人の特徴かもしれません」
久世が苦笑いした。
二十分ほど待つと、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
「来たよー」
男が指差した。
やがて、数台の車が姿を現した。その中には、自衛隊の車両も混じっている。
車が止まり、鮎川が飛び出してきた。
「久世さん!瀬崎さん!」
鮎川が駆け寄ってきた。
「無事でしたか!」
「はい。私たちは」
久世が頷いた。
「ただ、ユリナスが酷い怪我を、早く病院に」
「えっ」
鮎川の表情が変わった。
「わかりました。医療チーム!」
鮎川が医療チームに指示を出した。
白衣を着た医師たちが、すぐにユリナスの状態を確認し始めた。
「仮死状態……」
一人の医師が呟いた。
「しかし、まだ生命反応があります。急いで搬送を」
ユリナスが車両に運び込まれた。
サミアも乗り込もうとしたが、鮎川が止めた。
「サミアさん、あなたはこちらの車で私たちと一緒に来てください」
「はい」
サミアが頷いた。
クロストロフとヨルンヘルムも同じ車に乗り込んだ。
「私たちも行きます」
李教授たちは、別の車両に案内された。
「李教授たちは、検疫のため別施設に」
鮎川が説明した。
「ご協力をお願いします」
「わかりました」
李教授が頷いた。
車両が動き出す前に、久世が島の男のもとに戻った。
「本当にありがとうございました」
「いいのいいのー」
男が手を振った。
「困った時はお互い様さー。それに、門から来た人を助けるのは、島の掟みたいなもんだからねー」
「島の掟……」
「そうそう。昔からそうなってるのさー。俺も陰陽だかんねー」
男が笑った。
「気をつけて行ってねー」
久世が深々と頭を下げ、車に乗り込んだ。
車両が走り出した。
島の男は、車が見えなくなるまで手を振り続けていた。
長い旅が、ついに終わった。
しかし、本当の戦いは、これからだった。
地球の医学は、アークの力が残留する傷を治すことができるのか。
そして、ユリナスは目覚めることができるのか。
すべては、これからの数時間にかかっていた。
10
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する
エルリア
SF
35歳バツイチ。
長年勤めていた清掃会社をクビになり、その日のうちに家族にも見放され。
更にはしがない辺境のボロ商店を運営していた親が急に亡くなり、急遽その船を引き継ぐことに。
そんな中、船の奥を片づけていると倉庫の奥にヒューマノイドを発見。
それが実はアーティファクトと呼ばれる超文明の遺産だと判明したその時から彼の新たな目標が決定した。
そうだ、自分だけの星を買おう。
そこで静かに余生を過ごすんだ、そうだそうしよう。
かくして、壮大すぎる夢に向かって万能美少女ヒューマノイドとの旅が始まったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる