アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 王が立ち上がった。
「ところでな、皆にもう一つ知らせておくことがある」
「何でしょうか?」
「実は、地球から来た者たちが、この城におるのだ」
 王が言った。
「彼らも、一緒に帰還させようと考えておる」
「地球から?」
 久世が驚いた。
「うむ。C国の学者と言っておるな」
 王が顎を上げると、扉が静かに開いた。

 そこには、李教授と張研究員、そして三名の作業員が立っていた。
「あなたたちは……」
 久世が驚いた。
「皆さんは、地球の方達なのですか?」
 李教授が英語で聞いてきた。
「ええ、日本から来ました。あなた方は?」
「私たちは、偶然この世界に迷い込んでしまいました」
「そうだったのですか」
 瀬崎が頷いた。
「無事で何よりです」
「テンジーク王に配慮いただき、保護していただいていました」
 張研究員が感謝の意を表した。
「そして今、一緒に帰れると聞いて……」
「ええ」
 久世が頷いた。
「一緒に帰りましょう」
 李教授たちの目に、涙が浮かんだ。
「ありがとうございます……」

 その日の午後、門のある地下神殿に、人々が集まった。
 獣の被り物をした技師たちが、古代の装置を操作している。
 鷹の被り物をした技師が、複雑な文字が刻まれた石板を調整している。
 狼の被り物をした技師が、マナの流れを確認している。
 そして、黒猫の被り物をした女性が、全体を統括していた。
「準備はどうだ」
 テンジーク王が尋ねた。
「あと一時間ほどで完了します」
 黒猫の女性が答えた。
「地下に蓄えられたマナを、全て門に注ぎ込みます」
「そうか」
 王が門を見上げた。
 そこには、巨大な石造りの門が立っていた。今は閉じているが、やがて開かれる。

「この門は、何千年も前に作られました」
 王が説明した。
「我々の祖先が、地球と行き来するために」
「何千年も……」
 サミアが呟いた。
「そして今、最後の役割を果たすのです」
 王が静かに言った。
「英雄を救うために」
 技師たちが作業を続けている。
 やがて、黒猫の女性が報告した。
「準備が完了しました」
「では、始めよ」
 王が命じた。

 技師たちが一斉に詠唱を始めた。
 古代の言葉が、神殿に響き渡る。
 門が、微かに光り始めた。
 その光は徐々に強くなり、やがて門全体を包み込んだ。
 轟音とともに、門が開いた。
 その向こうには、暗い洞窟が見えた。
「成功しました!」
 黒猫の女性が叫んだ。
「門の先は、地球の沖縄という場所のはずです!」
「沖縄……」
 久世が呟いた。
「沖縄に門があったなんて……」
「とにかく、急ぎましょう」
 瀬崎がユリナスを乗せた担架を持ち上げた。
 サミア、クロストロフ、ヨルンヘルムも準備を整えた。
「では、行きます」
 久世がテンジーク王に頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「いや」
 王が微笑んだ。
「英雄を救えるというのなら、この門を失うことなど惜しくはない」
 李教授たちも、王に深々と頭を下げた。
「お世話になりました」
「無事に帰れることを祈る」
 王が答えた。
「そして、そちらの世界で、幸多き人生を営むが良い」

 一行が門に向かって歩き出した。
 サミアが最後に振り返り、テンジーク王に手を振った。
「ありがとうございました!」
 それに応えるように、王も軽く手を挙げた。
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